柑橘類

登録日:2025/08/15 Fri 19:29:02
更新日:2025/08/15 Fri 22:08:44NEW!
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柑橘類とは、いわゆる「ミカン」の仲間である植物の総称である。




概要

冒頭でも述べたように、「柑橘類」とはミカン科ミカン属(Citrus.sp)に属する植物の総称である。
この属に属する植物の果実はたいていが食用(生食や調理など)や薬用になり、ほぼ一年を通して利用される。


常緑果樹であり、実生から成木になるまで10年ほどかかる。これは、果樹の中でも相当遅い部類で、古いことわざに「柚子の大馬鹿十八年」があるが、このことわざはあながち間違いでもないのである。
果実自体は苗木の植え付けから3~4年程でなるものの、この時点では基本的に品質は良くない。
とはいえ、他の果樹より寿命が長く、上手く育てれば30年は超える。実際、山口県のナツミカンの古木など、各地に江戸時代からの古木が各地に残っているほどである。
しかし、隔年で欠果するため、ある年に多く果実が実ることがあっても、翌年は前年と同様の収量が得られるというわけではない。
実がなりすぎると養分が十分にいきわたらずに小玉化するため、夏から秋にかけて摘果が必要になる。




柑橘類の歴史

柑橘類は、東南アジアを中心とした熱帯から亜熱帯地域に起源を持つといわれる。
紀元前4世紀頃、中国ではミカンやユズと近いと思われる品種がすでに記録に残っており、『詩経』や『楚辞』にもその名が見える。
インドではサンスクリット文献にレモンやライムの特徴に近い香酸柑橘類が登場し、宗教儀礼や薬用に供された。シルクロードの交易が盛んになると、柑橘類は西方へと広がり、アラビア半島や地中海沿岸に到達した。
我が国においては、大和時代に官僚・田道間守(たじまもり)が垂仁天皇から常世の国に赴き、「非時香菓(ときじくのかぐのこのみ)」なる妙薬を持ち帰るよう命ぜられた際、「非時香菓(ときじくのかぐのこのみ);」を「是今橘也(これいまのたちばななり)」と説明しているのが最古であるといわれている。
大和朝廷時代の日本において橘が珍重されたのは、常緑樹のために葉が一年中落ちないこととが不老長寿の象徴とされたためではないかと言われる。


地中海世界においては、「シトロン」の品種群が珍重された。これは柑橘類の中では大きく、レモンやオレンジ類とは異なり、果肉よりもむしろ果皮を利用するものであった。
なお、この「シトロン」のたぐいは、わが国においては中国経由で仏手柑(ブッシュカン)という品種が江戸時代に導入されている。
中世に入ると、アラブ商人によってレモンやビターオレンジ(わが国でいうところの「橙」)が伝わり、イスラム圏の農業技術と灌漑施設によって栽培が拡大した。
十字軍の往来や大航海時代の海上交易が、柑橘類の品種をさらに多様化させた。
なお、我が国の奈良時代から平安時代においては「橘」はもちろん「橙」や「柑子(こうじ)」が多く栽培され、食材として利用されるようになった。橙は食酢の代わりとして、柑子は冬の果物として利用されていた。
鎌倉時代にはクネンボやキシュウミカンが伝わり、柑橘類がそれまでの「観賞用樹木」という立場から、果樹としての位置を確立しつつあった。


室町時代から江戸時代にかけてはキシュウミカンの栽培が進められた。現在は創作とする見方が強いが、江戸前期に豪商の紀伊国屋文左衛門が「みかん舟」で財をなしたという逸話はかなり有名である。
江戸時代も中期になると、中国経由で渡来したザボンやウンシュウミカンの栽培も始まった。ザボンは徐々に受け入れられていったが、ウンシュウミカンに関しては、当時は種子がないことが「お家断絶」を連想させるとして嫌われ、広く栽培されるようになったのは明治以降になり、「お家」の感覚がほとんど消滅して以降の事である。
江戸後期には長崎経由でレモンやオレンジなどの西洋の柑橘類が渡来したが、これも本格的な栽培は明治以降になってからの事である。


現代、柑橘類は我が国を含めた世界各地で品種改良が進み、甘味・酸味・香り・耐病性に優れた多様な品種が流通している。その歴史は、人類の移動と交易の歴史と密接に結びついており、果実そのものが文化や経済の交流を象徴する存在である。




柑橘類カタログ

ウンシュウミカン(Citrus unsiu)

現在、「みかん」と聞くと真っ先に思い浮かべられる品種である。
果実は偏球形で、果皮は薄く、果肉は多汁で種子がなく食べやすい。
夏から秋にかけて販売される「早生種」の系統は果皮が緑がかっているのが特徴である。
我が国を代表的する果物で、素手で容易に果皮をむいて食べることができるため、冬になれば炬燵の上にこの「みかん」が乗っているという光景が一般家庭に多く見られる。
江戸時代中期に中国から渡来したが、当時は種子がないことが嫌われ、広く普及するのは明治以降の事である。
DNAの解析結果から、クネンボとキシュウミカンを交配したものが突然変異を起こし、タネ無しになったものであると判明している。
果肉を食用とする以外にも、果皮をカラカラに乾燥させたものを「陳皮」と呼んで漢方薬として用いる。


キシュウミカン(Citrus kinokuni)

中国が原産とされ、我が国には鎌倉時代に渡来したといわれている。
江戸時代の豪商・紀伊国屋文左衛門の「みかん舟」の逸話で知られ、明治中期までは単に「みかん」と言えば本種を指した。
果肉は多汁で甘味が強いが、ウンシュウミカンと比較して果実が小さく、やや扁平である。また、種子もあってやや食べにくい。
現在は、年末に鏡餅の上にのせる小さな「葉付きミカン」や庭木としてわずかに出回る程度である。
鹿児島県で江戸時代から栽培されている「桜島小みかん」も、植物学上は本種とほぼ同一であるという。


イヨカン(Citrus iyo)

明治時代に山口県で発見され、愛媛県に導入されてから各地に普及した柑橘類である。
果実は扁平で、200gから300gほどとなる。生食やゼリー、マーマレードに調理する。
より詳しい解説は個別項目にて。


カボス (Citrus sphaerocarpa)

大分県が主な産地で、同県臼杵市や竹田市で特産品として知られる。起源は定かでないが、江戸時代にはすでに大分で栽培されていた記録がある。
果実はやや扁球形で、未熟果は鮮やかな緑色を呈し、熟すと黄色になる。果汁は爽やかな酸味とほのかな苦味を併せ持ち、焼き魚、鍋物、酢の物などの薬味として利用される。果皮の香気成分はさわやかで、近年は果汁飲料や調味料としての加工品も多い。
スダチと混同されることがあるが、カボスの方が果実は大きく、香味もやや柔らかである。


清見(きよみ)(Citrus 'kiyomi')

ウンシュウミカンの「宮川早生」という品種にトロビタオレンジを交配した「タンゴール」(Tangor)の一品種である。
「タンゴール」とはミカン類(Tangerine)とオレンジ類(Orange)の種間雑種の総称である。
果実はやや扁平な球形で、果実の重さは200g程度である。果肉は柔らかく多汁があり、甘みがあっておいしい。
オレンジの香りがあり、果皮はむきにくいので、ナイフで皮をむいてから食す。


不知火(しらぬい)(Citrus 'Shiranui')

キヨミにポンカンを交配して育成された柑橘である。果実頂部が大きく盛り上がるのが特徴で、この特徴から、一般的には「デコポン」という名称で知られている。
ただし、植物学上の正式な和名は「シラヌイ」で、「デコポン」は熊本県で出荷するときの商標登録された名称である。
愛媛県や広島県でも栽培されており、それぞれ「ヒメポン」「キヨポン」の名称で呼ばれる。
これにさらに改良を加え、甘みが一層強くなり、さらに果皮の赤みが増したものが「大将季(だいまさき)」である。
「シラヌイ」も「大将季」も強い甘みがあり、果皮は手でむけるほど柔らかく、袋ごと食することができる。


キンカン(Citrus japonica)

中国の長江流域が原産で、わが国には江戸時代初期に長崎を経由して渡来している。
一口にキンカンと言っても、現在市場で売られるのは「寧波金柑(ニンポウキンカン)」という品種で、ほかに「キンカン」と呼ばれる果樹は、果実が長い楕円形になる「ナガキンカン」、果実が大ぶりで下膨れの形状になる「フクシュウキンカン(福州金柑)」などがある。
果実は砂糖漬けや甘露煮、あるいは生食する。
一時期は柑橘類の分類が見直され、本種の系統は「キンカン属」として独立したが、現在は再びミカン属に組み込まれている。


クネンボ(Citrus reticulata)

東南アジアが原産である。わが国には室町時代に琉球を介して入ってきたといわれている。
秋から冬にやや扁平な球形の果実をつける。表面はややざらつき、松脂のような独特のにおいがあってやや凹凸がある。
果皮はネーブルオレンジよりも分厚く、果肉と離れにくい。果肉は生食でき、芳香と甘みはあるが酸味が強めである。また、果実一個につき十粒ほどの種子がある。このため、次第にウンシュウミカンにとって代わられるようになった。
現在は鹿児島県や沖縄県で多く栽培され、日本各地に古い木が残るばかりとなっている。


グレープフルーツ(Citrus paradisi)

18世紀に西インド諸島のバルバドス島で発見され、ザボンとオレンジのたぐいが自然交雑してできた種であるとされる。
果実はやや偏平な球形で、果皮は黄色である。果肉はやや黄色がかった白や、赤みの強いオレンジ色などがある。
1本の枝に実が密集する様子をブドウが実る様子に例え、「グレープフルーツ」という名称がつけられたといわれる。
アメリカやイスラエルで多く生産されているが、本種は高温を好むのでわが国での生産は難しく、ほとんどを輸入に頼っている。
冬になると「スウィーティー」や「メロゴールド」という緑がかったグレープフルーツのような果物が市場で販売されるが、これらはグレープフルーツとザボンを交配したものであるという。
普通に食べたり飲み物としての材料にしたりする分には何も問題ないが、グレープフルーツの中に含まれる成分には一部の薬の効果が無くなったり、逆に作用を強め過ぎて副作用が起こりやすくなってしまうという危険なものがある。この為、定期的に薬を服用している人にグレープフルーツを摂取させるのはなるべく控えた方が良いとされている。


ケラジ(Citrus keraji)

鹿児島県徳之島原産とされる香酸柑橘。果実はやや扁平な球形となる。果皮は橙黄色ないしは黄緑色で薄く、果汁は酸味が強いが、すっきりした後味がある。果実や皮にはポリメトキシフラボノイドやビタミンCが大量に含まれ、ガン抑制効果がある健康食品として、近年では高値ながらもインターネット上のオンラインショップで取引される。台風や塩害にも強く、南西諸島の在来種として保存価値が高い。
和名は、徳之島の「花良治(けらじ)」という集落にちなんでいる。
変種に、「カーブチー」という名の沖縄県で栽培される香酸柑橘があり、利用法はケラジと同じである。
これは、「皮が分厚い」という意味で、実際に果皮はケラジのそれとは異なり、厚みと凹凸がある。果皮に厚みがあるため果肉との間に隙間ができてむきやすくなるが、食用になる果肉部分は小さくなり、果実の大きさに対して歩留まりが悪いという。


柑子(こうじ)(Citrus leiocarpa)

古くから西日本の沿岸部で栽培されてきた小型の在来ミカンで、室町時代以前の記録にも登場する。果実は小さくてやや扁平な形状で、甘味よりも酸味が強めだが、香味に優れる。
皮はやや厚いが剥きやすく、正月や祭礼時に供え物として用いられた歴史を持つ。
現在はウンシュウミカンの台頭で栽培が減少し、わずかに庭木として栽培される程度である。


コブミカン(Citrus hystrix)

東南アジアが原産の柑橘類である。本種は葉の形状が一風変わっていることで有名である。葉柄が広がった独特の形状になり、2枚の葉がくっついたような見た目になっているのである。
タイやマレーシアなどの東南アジア地域ではこの葉を香味料として用い、特にタイ料理にはプリッキーヌー(キダチトウガラシ)やレモングラス、ガランガー(生姜に似た塊茎を利用する香辛料)とともに欠かすことのできない食材である。
果実は球形でライムに似ているが、かなりでこぼこしている。果汁を食酢の代わりに利用するほか、熟したものは酸味が和らいで甘味が出てくるので、その果皮を剥いて生食することもある。



ザボン(Citrus maxima)

柑橘類の中で最も大きい果実をつけるグループで、種小名のmaximaの由来となっている。「ブンタン」や「ボンタン」という名称でも有名である。
印度が原産で、我が国には中国を経由して桃山時代から江戸時代初期に渡来したといわれている。
「晩白柚」や「安政柑」など多くの品種があるが、果肉は淡い黄色や淡い紅色で、特に淡い紅色のものは「ウチムラサキ」という名称で知られる。
我が国で流通するものは偏球形のものがほとんどだが、台湾や中国・東南アジアで栽培され、流通するのは洋ナシ形のものであることが多い。
本種の品種やより詳しい解説は個別項目を参考に。


シークヮーサー(Citrus depressa)

沖縄県や台湾に自生する小型の香酸柑橘類で、在来の野生種として古くから利用されてきた。
果実は直径3~4cmで未熟果は緑色、熟すと黄色~オレンジ色になる。
果汁は酸味が強く、香りは爽やかで、酢の代わりや飲料、調味料として使われる。沖縄料理には欠かせない存在で、近年は健康成分「ノビレチン」を含む果汁としても注目されている。
和名は果汁の酸味から、「酢食わし」と呼んでいたものが訛ったものであるといわれる。


シシユズ(Citrus pseudogulgul)

我が国の各地で庭木として栽培されることが多いが、晩秋にまれにデパートなどに出回る。
果実は直径15㎝以上と大きく、表面はでこぼこしている。果皮が分厚く、果肉は淡い黄色の半透明なもので、未熟なものは酸味が強いが、熟すと酸味こそ抜けるものの甘味があまり出ないので、ぼけた風味となる。
このため、果皮を砂糖漬けにするほか、もっぱらは観賞用とする。
名前に「ユズ」とあるが、実際はザボンに近い系統である。
果実のでこぼことした形状から「シシユズ」と呼ばれ、また果実の大きさから「オニユズ」とも呼ばれる。


ジャバラ(Citrus jabara)

和歌山県北山村の山中で発見された香酸柑橘。ユズとクネンボの自然交雑と考えられる。
香気と酸味がユズ以上に強く、現在は花粉症予防に効果がある可能性の高い成分が発見され、その成分を抽出したサプリメントや飴玉、生の果実が健康食品として流通する。
和名は「蛇腹」ではなく「邪払」という字を当て、「邪気を払ってくれるほど体に良い」という意味である。


スダチ(Citrus sudachi)

徳島県原産の香酸柑橘類で、古くから同地で栽培されてきた。名称は「酢橘(すたちばな)」に由来し、果汁の酸味を酢として利用することを示している。
果実は直径4cm前後の小型で、未熟なうちは鮮やかな緑色を呈する。果汁は酸味が強く、香りは清涼で、焼き松茸や秋刀魚などの秋の味覚に添えられることが多い。
熟すと黄色になるが、香りがやや薄れるため、未熟果を利用するのが一般的である。徳島県では「スダチ酒」や果汁入り飲料、ポン酢などの加工品としても出回る。


ダイダイ(Citrus aurantium)

中国原産で、奈良時代以前に日本に渡来したとされる、「ビターオレンジ」の系統の品種である。果実が木に長く残ることから「代々」と呼ばれ、家の繁栄を願う縁起物として正月飾りに用いられる。
果実はやや赤みの強い橙色で酸味が非常に強く、生食には向かない。果皮や果汁はマーマレードや薬味、酢の代用にされるほか、漢方薬にも利用される。
本種の果実は収穫せずに枝に実らせたままにしておくと、果皮が緑色になる習性がある。これを回青(かいせい)と呼ぶ。
蔕付近が平たいものは「臭橙(カブス)」と呼び、蔕付近が盛り上がって「座」のようになるものを「座橙(ザダイダイ)」と呼んで区別するが、利用方法は同じである。


(たちばな)(Citrus tachibana)

日本固有の野生柑橘で、『古事記』や『万葉集』にも名前がみられ、古代日本で珍重されてきた。奈良時代には宮廷や貴族の庭園に植えられ、不老長寿や常緑を象徴する縁起木とされた。
果実は熟すと黄色くなり、小型な偏球形で酸味が強く、生食には向かないが、酢の代わりや観賞用に利用された。
明治時代になると、植物学者・牧野富太郎が本種の自生品を高知県佐川町川の内の石灰岩地にて発見し、「ニッポンタチバナ」と命名して本種の詳細を精密な図とともに「植物研究雑誌」に記載した。
遺伝子を解析したところ、ヒュウガナツやシークワーサーなどの先祖にあたる種であることが明らかになっている。


タンカン(Citrus tankan)

中国福建省原産とされ、台湾を経て奄美群島や沖縄県に伝わった。ポンカンとオレンジの自然交雑種と考えられている。
果実は中型で果皮は橙赤色、果肉は甘味が強く、香り高い。主に2月から3月にかけて出回り、南西諸島の冬を代表する果物として知られる。耐寒性はやや弱く、温暖な地域でのみ栽培可能である。
未熟な果実の果汁を調味料として利用するほか、熟果は果物として生食する。奄美大島では、郷土料理「鶏飯(けいはん)*1の味変アイテムとして古くから欠かせないものであった。
和名は「桶柑」と表記し、行商人が本種の果実を桶に入れて売り歩いたことによる。


直七(なおしち)(Citrus naoshichi)

高知県宿毛市で利用される香酸柑橘である。
広島県尾道市田熊にて発見され、当時は「田熊酢橘(たくますだち)」と呼ばれた。その後は高知県宿毛市に持ち込まれ、同地で栽培されるようになったという。香酸柑橘のなかでも酸味がまろやかで、たっぷりと果汁を含んでいる。また、香りが上品で、酢の代わりに魚料理や酢の物に用いられる。
「直七」という名称は、魚屋の直七が、刺身を食べる際に本種を利用するとよいと宣伝したことに由来するという。


ナツミカン(Citrus natsudaidai)

名前の通り春から初夏にかけて出回る柑橘類である。
朱欒の血を引く自然雑種とみなされており、江戸時代中期に現在の山口県に該当する地域で発見され、山口県には現在も本種の古木が残っている。
古くは「ナツダイダイ」と呼ばれ「夏橙」「夏代々」の表記で流通していたが、明治時代になって山口県から大阪方面に出荷する際、「代々」が訓読みで「よよ」と読むことができ、これが関西弁で「中風(脳卒中)」を意味するため、縁起が悪いとして「ナツミカン」と名称が変更されることとなった。
果実は偏球形で、酸味が強く、爽快な風味がある。かつては酸味の強い在来種の系統が多く流通していたが、次第にこの在来種系統は減少し、現在は大分県で発見された枝変わり品種で、酸味が弱まって甘味が強くなった「甘夏」(カワノナツダイダイ)という品種が主流となっている。
果樹としてはかなり強健で、庭木としても植えられている。


ネーブルオレンジ(Citrus sinensis ‘Navel’)

ブラジルで発見された「スイートオレンジ*2」の枝変わり品種である。普通「オレンジ」というと本種と後述するバレンシアオレンジを指すことが多い。
果頂部に小さな窪みが形成され、それが「へそ(navel)」のように見えることからこの名がある。
19世紀後半にアメリカへ導入され、カリフォルニア州での栽培が盛んになった。わが国には明治時代に導入され、「鵜久森ネーブル」などの品種が作出されている。
果実は大ぶりで、果皮は橙色、果肉は甘味が強く、ほとんど種子を含まない。生食に向き、果汁の香りも良い。輸入品が多く、冬から春にかけて市場に出回る。国産品は温暖な瀬戸内海沿岸や和歌山県などでわずかに生産されている。


バレンシアオレンジ(Citrus sinensis ‘Valencia’)

前述のネーブルオレンジ同様、「スイートオレンジ」の一品種である。スペインの地名の一つである「バレンシア」を冠しているが、実際にはアメリカで選抜・普及された品種である。果汁が豊富で香りが良く、ジュース用オレンジとして世界的に栽培されている。
果実は球形で、果皮は薄く鮮やかな橙色を呈し、夏から初秋にかけて出回る。生食よりも搾汁用途が主で、わが国でも「オレンジジュース」といえば大半が本種由来の果汁である。高温でないと栽培が難しいので、輸入品が大半を占める。


ハッサク(Citrus hassaku)

江戸時代末期に広島県因島で発見された、ザボンの一品種である「安政柑」が起源ではないかとされている。
名前は発見時期が旧暦8月20日(八朔)であったことに由来しており、そのころに熟するからというわけではない。
果実は偏球形で大ぶり、果皮は黄色で厚く、剥きやすい。果肉はやや固く、甘味と酸味、ほろ苦味を兼ね備えた独特の風味がある。
主に生食されるが、近年はマーマレードやゼリーなど加工品にも用いられる。


ヒュウガナツ(Citrus tamurana)

江戸時代に、日向国(宮崎県)で偶発実生として発見された品種。本種はユズとザボンの種間雑種であるとされている。
果実はコロンとした球形である。果皮は黄色でやや厚く、果肉は淡い黄色。独特の爽やかな香りと甘酸っぱい味が特徴で、
果実はウンシュウミカンより一回り大きく、ナツミカンより小さいことから、「コナツミカン」の名称でも呼ばれる。
現在は本種の偶発実生である「はるか」という品種も栽培されている。これは、果実の表面はユズのように凹凸があり、果頂部にはリングがあるのが特徴である。
ユズに似た見た目なので、一見すると酸味が強そうだが、実際は酸味は弱く、むしろ甘味がかなり強い。


フィンガーライム(Citrus australasica)

オーストラリアが原産の柑橘類で、柑橘類には珍しく、ソーセージのような長い楕円形の果実をつける。果皮色は緑色や赤、黒紫色など多彩。果肉、いわゆる砂じょうはプチプチとした食感で、その食感から「森のキャビア」「キャビアライム」という別名がある。砂じょうはピリッとした風味があって、生食やジュースにするほか、マーマレードやピクルスを作る。
かつてはミカン属に分類されていたが、アメリカの植物学者のウォルター・テニソン・スウィングル(1871~1952)によりミカン属が細かく分類され、本種は一時的にミクロシトラス属に分類された。現在は分類方法を見直し、スウィングル以前の分類方法に従い、ミカン属に戻されている。


ブッシュカン(Citrus medica var. sarcodactylis)

中国・インドシナ半島原産とされ、古くから中国や日本で観賞用や香料用として栽培されてきた。名称は「仏手柑」と表記し、果実の先端が多数に裂け、仏像の手のように見えることに由来する。日本へは室町時代頃に渡来したとされ、特に京都や長崎で珍重された。
果実は細長く裂けたような珍しい形状で、果皮は鮮やかな黄色で芳香が非常に強い。
果肉はほとんどなく、酸味も弱いため生食には適さない。果皮や果汁は砂糖漬け、菓子、香り付け、正月飾りや仏前供物として利用される。
中国では邪気を払う縁起物とされ、香袋や部屋の芳香材としても用いられる。


平兵衛酢(へべす)(Citrus heibei hort. ex. hatano)

宮崎県日向市特産の香酸柑橘で、江戸時代末期に富高村西川内の名主・長曾我部平兵衛によって発見されたのが最初の記録である。
果実は小型で皮は鮮やかな緑色、酸味は穏やかで香り高い。酢の物・刺身・焼き魚などの薬味として利用される。


ポンカン (Citrus reticulata var. poonensis)

インド北部からミャンマーにかけての地域が原産とされ、中国南部を経て19世紀末頃に日本へ導入された。わが国では明治30年代に旧薩摩藩士で、当時台湾総督を務めていた樺山資紀(かばやますけのり)が台湾から苗を持ち帰って鹿児島県や熊本県で試験栽培を始めたのが最古の記録で、その後、九州南部や四国南部を中心に広まった。
果実は中〜小型で、扁球形からやや縦長。果皮は橙黄色で薄く、手で容易に剥くことができる。香りが豊かで甘味が強く、酸味は穏やかで食味に優れる。
熟期は早生から中生で、冬から初春にかけて出回る。果汁が多く、家庭用・贈答用のいずれにも適するため、日本ではウンシュウミカンと並び高い人気を持つ。
和名は、原産地のインドの都市名である「プーナ(Poona)」に由来するという。


マルブシュカン(シトロン、Citrus medica)

インド北部・ヒマラヤ山麓原産とされ、古代から地中海沿岸地域に伝わり、ユダヤ教の宗教儀式(スコットの祭り)やローマ時代の料理・香料として利用されてきた。日本へは江戸時代に渡来したとされ、『本草図譜』に名前と彩色図版がみられる。
果実は一見するとレモンに似ているが、それより大型で、楕円形からやや球形になる。果皮は厚く黄色で、芳香が強い。果肉は酸味が強く種子が多く、果汁は少ないため生食には向かないが、果皮を砂糖漬けやジャム、菓子、リキュールの香味付けに用いる。
ブッシュカンと同じく観賞用・香料用としても価値が高い。


ミネオラ(Citrus × tangelo‘Minneola’)

アメリカ・フロリダ州でダンカン・タンジェリンとグレープフルーツを交配して作出されたタンジェロ(Tangelo)の一種。
「タンジェロ」とは、タンジェリン類(Tangerine)とグレープフルーツないしはザボン(Pomelo)を交配した品種群の総称である。
わが国には1970年代に導入され、現在はほとんどを輸入品に頼っている。
果実は中型で首がやや突出し、デコポンに似た形状であるが、それよりは一回り小さい。果皮は橙赤色で薄く、果肉は甘酸のバランスが良いので、生食やジュースに適する。


ユズ (Citrus junos)

中国揚子江上流域が原産で、奈良時代以前に朝鮮半島を経てわが国に渡来したとされる。耐寒性が高く、全国の山間部でも栽培が可能である。
果実は扁球形で果皮は若干でこぼこしており、果皮色は最初は濃い緑色だが、熟すと黄色になる。
果皮は強い芳香を持ち、果汁は酸味が強く、「青ユズ」も「黄ユズ」も香酸柑橘類として料理や菓子、調味料に用いられる。冬至の日に湯船に浮かべる「柚子湯」の風習は、無病息災を祈る民間習俗として広く知られる。
種子が多く、また酸味と苦味があって生食には適さないが、日本料理や和菓子には欠かせない柑橘類である。


ライム(Citrus aurantiifolia/Citrus latifolia)

ライムは主に「メキシカンライム(C. aurantiifolia)」と「ペルシャライム(C. latifolia)」の2系統に分かれる。
メキシカンライム(C. aurantiifolia)は東南アジア原産とされ、アラブ商人によって地中海・アフリカ・アメリカへ広がった。ペルシャライム(C. latifolia)はメキシカンライムとレモンの交雑により生じたとされ、大型で酸味が柔らかく種子が少ない。
果実は小型で球形からやや楕円形。果皮は緑色から黄色に変わるが、熟す前の緑色の状態で収穫されることが多い。香りは爽快で酸味は鋭く、料理・飲料・菓子の香味付けやカクテルの必需品である。ビタミンC含有量が高く、19世紀のイギリス海軍では壊血病予防にライム果汁を利用したことから、英国水兵は「ライミー(ライム野郎)」とややからかいの意味で呼ばれた。
  • だが、ライムは重量あたりのビタミンC含有量がレモンの半分ていど(オレンジの方が上)。あんなに酸っぱいのに 大航海時代~近代までヨーロッパの船乗りは入手性の良さからもっぱらライムを食べていたわけだが、壊血病予防としての効率は実はあまり良くなかった。


レモン (Citrus limon)

原産地はインド北部からヒマラヤ西部にかけての地域であるとされ、紀元前後には中東を経て地中海沿岸に広まった。中世にはアラブ人の手によってヨーロッパ各地に伝えられた。
わが国には江戸時代に長崎に導入されたが、当時はあまり普及しなかった。江戸時代初期に本草学者・貝原益軒の著した生物百科事典『大和本草』に「リマン」という名前で記されているのが最古の記録であるとされる。
本格的には明治時代初期に導入され、広島県瀬戸田(現在の尾道市瀬戸田町)など瀬戸内海沿岸で盛んに栽培されている。
果実は楕円形で先端がやや突き出し、果皮は黄色く芳香を放つ。果汁は強い酸味と爽快な香りを持ち、料理や飲料の香味付け、菓子類、漬物など多岐にわたって利用される。ビタミンCを豊富に含むことで知られ、航海時代には壊血病予防のため重要な果実とされた。
近年では輸入品が多く流通しているが、国産レモンは農薬の使用量が少ない。農薬を使わない分、果実の形状がやや乱れたり、果皮に青みが残ったりすることがあるが、風味は輸入品と比較しても遜色なく、果皮ごと利用されることが多い。
園芸品種に、黄色地に緑の縦じま模様が入って果肉が薄いピンク色になるものや、果実が全長15㎝~20㎝程の大きさとなる「ポンデローザ」が知られている。


マイヤーレモン(Citrus meyeri)

中国が原産とされ、レモンとオレンジまたはマンダリンの交雑種と考えられている。
米国農務省の探検家フランク・マイヤーが20世紀初頭に紹介したことから、この名がある。わが国には戦後になって高碕達之助により持ち込まれ、昭和三十年代から果樹として栽培されるようになった。
果実は楕円形で、レモンのように蔕部分と花落ち部分が尖ることはあまりない。酸味が穏やかで香りが甘く、果皮は橙色を帯びる。料理や菓子、飲料に幅広く利用される。
八丈島や小笠原諸島では「菊池レモン」の名称で生産される。




カラタチ(Poncirus trifoliata=Citrus trifoliata)

中国原産で、奈良時代以前に日本へ渡来した。和名は「中国産の橘」という意味で「唐橘(からたちばな)」と呼んでいたのが訛ったのではないかといわれる。
ミカン属に近縁だが、「カラタチ属」という別属*3である。利用法がミカン属の果樹のそれと近いので、便宜上このページに収録することとした。
耐寒性が高く、枝は黒緑色で、鋭いトゲを持つ。
果実は球形となり、鮮やかな山吹色で、熟したものは芳香を放つ。ただし、強い酸味と苦味があり、生食には適さないが、果皮を香料として用いるほか、果実を乾燥させたものを「枳実(キジツ)」あるいは「枳殻(キコク)」の名称で、健胃作用や利尿作用、虚痰をもたらす漢方薬として利用される。
樹木の中では強健なので、主に柑橘類の接ぎ木台木として用いられる。園芸品種の「飛竜」や「香の煙」は枝や棘がねじれ、観賞価値が高い。
また、枝の鋭い棘を生かして防風・防獣垣として利用される。
北原白秋が作詞、山田耕筰が作曲を手掛けた童謡「からたちの花」で有名である。




追記・修正は柑橘類の新品種を世に出してからお願いします。



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最終更新:2025年08月15日 22:08

*1 いわゆる炊き込みご飯の「とりめし」ではなく、ご飯の上に鶏肉や野菜を載せ、鶏で取った出汁をベースとしたスープをかけて食べるお茶漬けのような料理

*2 起源は中国の華南である

*3 ただし近年では、「カラタチ属」を廃止して本種をミカン属に含める動きもある。