登録日:2015/06/18 Thu 20:01:35
更新日:2025/04/22 Tue 13:52:05
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このアーカイブ情報は参照専用です。現在、SCP-8900-EXに対しての封じ込め手段は講じられておりません。
SCPナンバーの後に「-EX」と付けられるこのExplainedクラスは「現在の主流科学で説明できる /虚偽や錯誤によるもの/公に流布され、最早収容不可能なほどに広まった」という条件に該当する、副次的かつ特殊なクラス。
このオブジェクトは財団史上初の、そして唯一とも言える、財団の敗北宣言である。
概要
SCP-8900は、視覚的な影響を恒常かつ永続的に与える現象系オブジェクト。
生物は、物体にぶつかって反射してきた光を目で受け取り、それによって色を認識するが、このオブジェクトは、可視スペクトルに永続的な変調をもたらす。オブジェクトの影響を受けた物体は、自身にぶつかり反射する光の波長が不可逆に変化し、眼球に届いて脳が認識する光の波長を変え…………、要はその物体を認識する色が変わってしまうのだ。
その影響範囲、影響を受けた何かとの接触で広がる性質により事実上収容不可能と判断され、当初はKeterへと分類された。
財団の敗北
このオブジェクトが確認された1800年代当時は、我々が現在知るものとは全く別の色が世界に存在していた。
最初こそ写真乾板などの一部媒体にのみ表れていたが、コダック社が発明したカラー写真技術の副産物によって1935年前後から急速に拡散。
財団は収容しようと試みたが、「感染」とも形容されるこの下品な色彩の流布は次第に人類を侵蝕し始め………やがて全人類に及ぶころ、本来あるべき「美しい」色彩は失われ、次第に世界は「下品な」色彩に塗りつぶされてしまった。
そして「元の色彩」を与えなおす試みが失敗に終わり、もはや打つ手を失くした財団はアンニュイ・プロトコルを実施する。
世界中に微細な記憶喪失を引き起こさせる化学物質を散布し、「世界が元の色彩から変化した」という認識を「世界は元からこの色彩だった」と書き換えたのだ。
人々は突然の
記憶操作に混乱したが、直ぐに順応していく。
「元々世界には色彩が溢れ、空は元からこのような色だったのだ」と。
その後に残ったのは、下品な緑に包まれた山々・可笑しい色を見せ続ける海・空色で構成された空。
何も知らず「世界は元々そうだったのだ」と思い込まされているとも知らぬ無辜の人々。そして、何も出来なかったと悔み続ける財団だった。
補遺
ここに、O5の権限によってのみ閲覧可能な、一つのメモがある。
時のO5-8が記した、敗北宣言である。
諸君、我々は失敗した。
SCP-8900の影響はあまりにも広く拡散し、ありふれたものになってしまった。空の自然な青は下品で不自然な色合いに変わり、木々の緑は等しく汚された。SCP-8900は全ての可視スペクトルに荒廃をもたらし、我々は覆い尽くされた。
正反対の影響を及ぼす「感染症」を作り出すという我々の試みは失敗した。我々は被験体に対して自然な色彩を復元させることに成功したが、この処置は被験体を無音にしてしまうようだ。
その上、今しがた使者がオフィスに到着し、我々のささやかな試みが収容違反を起こしたことを伝えてくれた。未来のエージェントはその性質から、これをSCPオブジェクトとして扱わなくてはならないかもしれないな。
我々にはたった一つの選択肢が残されたのだ、諸君。私は財団の最終フェイルセーフ手段、アンニュイ・プロトコルを実行する。
このメッセージが、受領を許可された君達に届いたことが確認され次第、世界中の財団が総力を挙げ、微細な記憶喪失を引き起こす化合物ENUI-5を大量散布する。
世界中のこのような恐怖を味わうべきでない男女が、立ち止まり、困惑し、自らの生活に戻るだろう、この現象が常に存在していたと確信し、何を失ったかを決して知らないまま。
ただ一つ、SCP-8900の影響を受けていない写真のみが真実を伝えていくことだろう。
私は残念でならない、諸君。本当に残念だよ。
これはやり遂げられねばならない。
― O5-8
確保。収容。保護。
議論
ところで、このSCPオブジェクトは「元の世界の色」について未だに議論が絶えないことで知られている。
論点は「元の世界の色は白黒だったのか? 我々に認識できない別の色だったのか?」
これをざっくりまとめると、
- 「世界は元々白黒で、SCP-8900によって色彩という概念が生まれた」
- 「世界は元々白黒だが、色彩の概念自体はあり、SCP-8900によって現在の我々が知る色になった」
- 「世界は元々我々の知るものとは別の色で満ちていたが、SCP-8900によって現在の我々が知る色になった。これに伴い元々の色は現在の我々では認識できなくなり、モノクロにしか見えない」
+
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ちなみに著者のtunedtoadeadchannel氏の構想は二番目。 |
※Discussionより一部抜粋して引用
2010年12月19日
They had a "blue", but it wasn't what we now see as blue; I couldn't write "everything went from black and white to color" because in-universe that's not what happened.
↓
彼らは「青」の概念を持っていましたが、私達にそれは「青」とは見えません。私は「すべての物がモノクロからカラーになった」とは書きませんでした、宇宙で起こった事はそうではないからです。
2011年9月14日
A color photo of a black and white object is visually identical to a black and white photo.
When you go to color an illustration of, say, something blue, you reach for ink that is the shade you perceive as the shade of blue you want.
When things were black and white, people still perceived blue as a separate color from red. If they wanted to illustrate something colored greythatwouldlaterbeblue, they used greythatwouldlaterbeblue ink. Because the ink was that color, when the SCP altered the visual spectrum, it remained that color; grey that became blue.
In this article, photographs have always been in color. That is, photographs have always percieved color the way humans do post exposure. The things they were photographing haven't.
↓
黒と白の物体のカラー写真は、モノクロ写真と視覚的に同じです。
あなたが例えばイラストに「青」を使おうとする時、あなたは自分が「青」と知覚するインクを使うでしょう。
物事が「白」と「黒」であった時もやはり、人々は「青」と「赤」を区別していました。もし彼らがイラストに「(後に青となる)灰色」を使おうとするなら、当然「(後に青となる)灰色」を使います。
SCP-8900-EXが可視スペクトルを変調させてもインクの色自体が変化する訳ではないため、曝露後の人々には「(後に青となる)灰色」が「青」に変化したように認識されます。
この記事(SCP-8900-EXが存在する世界)においては、写真は常にカラー写真です。つまり、写真が人に見せてくれるのはSCP曝露後の色であり、「撮影した時、それがどのような色に見えていたか」ではないのです。
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tunedtoadeadchannel氏のDiscussionに
「たとえば彼らが青い色のついた何かを例示する場合、後に青となる灰色のインクを使った」
とあるので、このSCPオブジェクトは「白と黒のコントラストで存在していた色彩」を歪めてしまったのだろう。
つまり、
- 白と黒の濃淡のみによる色彩が存在していた
- このオブジェクトによる可視スペクトルの変調によって、それは現在我々が知る色となった
- 財団はこれを元の白黒のコントラストに戻そうとしたが、逆効果だった
- 大半に広まりきってどうにもならなくなったSCP-8900に歪められた色彩を「正常」と位置付けた
- 打つ手がなくなってしまった財団によるアンニュイ・プロトコルで世界はわれわれの知る「正常」な世界になった
という流れ。
我々にとっては理解しがたいが、冷静に考えてみよう。
人々にとって、赤も青も黄も緑も白も黒も、全ては白と黒のコントラスト。それが常識だった。
そこに広がり始める異常な色彩。
当然、「正常な」世界を維持するために財団はSCP-8900を全力で収容しようとした。
そうやって拡散を食い止めようと試行錯誤している間にも、どんどん「異常な」色が広がっていくのだから、人々が抱く違和感は尋常ではなかっただろう。
そして、広まった可視スペクトルの変調は、世界全土をあり得るはずのないおかしな色に塗り替えた。
色自体が違って目に映る、この広がり続ける「異常な」色彩で
人々は混乱の極みにあったことが容易にうかがえる。
異常は全世界に広まってしまい、もはや隠せない。
だが、「正常な」世界のために動かなければならない。
だから、異常で埋め尽くされた「正常」な世界そのものを欺く。
かくして、我々の今知る世界が回り出したのである。
何も変わっていない。
今日も、明日も、その先も、山々は美しい緑に燃え、海は青く波打っている。
そうやって「正常」になった今、SCP-8900は異常ではない。
再分類されたSCPナンバーはSCP-8900-EX
クラスはExplained。もはや収容の必要はない。
その特性の関係上、この報告書は秘匿され、O5のみが閲覧を許されている…………………。
かつて白と黒のコントラストにどんな色を見ていたのか?
言葉には出来る。青や赤。だが、どんなふうに見えていたのかは、もはや誰にもわからない。思い描くことすら、難しい。
どんなに焦がれても、どんなに望んでも、
今日も空は、青く広がっている。
余談
- 一度日本語訳版SCPwikiにおいて、このSCPの翻訳版のタイトルの投票が行われたことがある。その際、空色の空・青い、青い空等の題案の中に「ブライト博士」がしっかり混ざっていた。
- 翻訳wikiでは通常ディスカッションまでは翻訳されないため、日本のSCPファンの間では長らく「どのようなSCPなのか、作者の答えはどこにも提示されていない」と思われ「どの解釈が正当なのか」を巡って、度々マウントの取り合いが行われていた。その後、原著者による解説がマウント合戦以前から既に行われていた事が日本語話者の間でも広く知れた事で今度は「原著者の提示した背景が正解だ派」と「原著者の意図を押し付けられたくない派」が衝突しやすい状況が生まれているが、動画サイトやwikiのコメント欄は皆で楽しむ事が第一義である事を忘れないで欲しい。要するに、「そっとしといてやんな」と言う事である。
追記・修正は世界の色を見渡してからお願いします。
- rbgをバラけさせるscp? -- (名無しさん) 2020-04-27 14:43:41
- さらりと陰謀論/都市伝説(薬物の空中散布)を紛れさせる手際にも注目したい -- (名無しさん) 2020-07-02 18:29:28
- どっかの目薬さんはこれに対する勝利だったかもしれないとかやってたな -- (名無しさん) 2020-08-17 13:26:12
- なぜカラーフィルムが開発されたんだ?元々白黒だったのに? -- (名無しさん) 2020-12-09 19:54:38
- ↑やっぱ「元々白黒で色彩なんてなかった」だと矛盾するような気がするな。今の色彩しか見えない我々には白黒に見えるが、この8900-EXが広まる前には今は見えない色があった。じゃないと広まる前の旧世界に「色彩」なんて概念ないはずだと思うんだが...(この記事の解釈No.1のように、元の色なんてない「白黒」だと記事本文にもある本来あった「美しい色彩」なんて概念生まれないと思う) だから個人的な解釈するなら解釈No.2か3かなって -- (名無しさん) 2020-12-09 20:23:16
- 色覚異常は実はこの異常性を受けない人とかだったりして -- (名無しさん) 2021-01-02 03:28:13
- >> 色覚異常は実はこの異常性を受けない人とかだったりして -- (名無しさん) 2021-03-12 15:33:04
- あれいつの間にか画像変わってる? -- (名無しさん) 2021-06-17 00:32:12
- ↑アメリカ兵ってキャプションなのにドイツ兵の写真だったから、その点を修正したのかと思ったのに差し替え後の写真もドイツ兵で笑ってしまった -- (名無しさん) 2021-08-20 00:15:50
- これ見てから1607-JP見るとなんとも言えない気持ちになるな -- (名無しさん) 2022-03-07 13:59:50
- ↑6 白黒の濃淡を「色彩」って表現してたんじゃ?我々から見ても「本当に白と黒の二色だけ」と「白と黒の濃淡による(実質的には)多数の色」じゃ全然違うでしょ? カラー写真に関しては、その「白黒の濃淡」をより(かつての基準での)現実の色合いに近づけたものを指してたんじゃ無いかと考察してる -- (名無しさん) 2022-04-12 19:32:35
- この記事自体は素晴らしいんだけど、(よく言われる話だが)EX内でダントツで有名すぎるが故にEXの定義が誤解されまくってるんだよな…。「EX=財団の敗北宣言」なんてアポリオンみたいな解釈されたりもしてる。ニコニコの444-jp解説動画で、「これもうどうしようもないしEXじゃね?」ってコメが流れたり -- (名無しさん) 2022-05-06 19:36:01
- なんかすごく『きれい』さを感じるブツだなぁ。これで世界が滅んだ場合、賛美歌が似合う気がする。 -- (名無しさん) 2023-02-15 14:35:39
- SCP-8000コンテストに至るのももうすぐだろうし、その時SCP-8900も欲しがる人がいるだろうなと思う。 -- (名無しさん) 2023-04-15 11:31:05
- この報告書や解説動画を見て思ったことを。……我々一人一人が見ている色彩も「同じ見え方とは限らない」んじゃないか、と。赤色は赤色だ。でも、私に見えている赤色と、あなたに見えている赤色は全然違うのかもしれない。何故なら主観同士で見比べることが出来ないから。自分と他人は同じ色あいを見ているなんて証明、説明なんて誰にもできない、しようがない。…なんて考えてしまった。 -- (名無しさん) 2023-05-02 03:13:55
- テキストで説明されていることを考え合わせると認識災害っぽいけど元記事の画像だと物体そのものが発している(反射している)光のスペクトルが変わってるような描写でややこしいな。それとも両方がセットで起こるってことなのか?ここから推測:現在の可視光の波長(約400〜800nm)とは全然違う波長(例えば1000〜1400nmとか)が人間の可視光の範囲で物体が発する光の特徴的なスペクトルもその範囲内だったとか。しかし、8900の影響を受けた物体は400〜800nmの間で特徴的なスペクトルを示すようになりそれを見た人の目もその範囲を色彩として認識するようになる。8900の影響を受けていない物体を見ても可視光の範囲でスペクトルの違いが認識できず明度の違いしか分からなくなってしまった。こんな感じかな?言い換えると赤外や紫外の波長を色として認識してた状態から今の赤〜紫の範囲を色として認識するようになったみたいな。分かりにくい文をツラツラと続けてしまってスマン -- (名無しさん) 2023-12-19 00:33:25
- ↑の補足で連投。許して。物体が発する光の波長も人間が認識できる光の波長もSCP8900の影響を受けると一緒にシフトしてしまう、ということが言いたかった。言えてるか?賢い上にこの文を理解できる人がいたら分かりやすく翻訳してくれ -- (名無しさん) 2023-12-19 00:46:14
- 記事の最後の文章メチャ綺麗だな。余韻柄半端ないわ。 -- (名無しさん) 2024-03-07 12:16:13
- 某青春アーカイブの世界観みたい -- (名無しさん) 2024-03-07 13:13:52
- 8000コンテストを経て本家ナンバーにも8900が登場、そして8901が8900-EXを強く意識してる -- (名無しさん) 2024-03-12 17:45:18
- ↑2 やってることは逆だけど、「色彩」っていうネーミングの元ネタっぽさすごいよね 「この世界はもともとこのように存在していた」とか -- (名無しさん) 2024-05-14 20:19:27
- ぶっちゃけほぼ陰謀論だよねこれ -- (名無しさん) 2024-06-25 08:13:17
- ↑8 その考え方が正しいことは主観レベルの話ではなく、科学的に証明されている。私達は眼球にある錐体細胞で色を感じているが、この錐体細胞の働きには個人差がある。いわゆる色覚異常と言われる人も、この細胞の働きが大多数の人と大きく異なるという場合が多い。 -- (名無しさん) 2024-10-19 20:33:53
- 8900はいてよかった…のか? -- (名無しさん) 2025-01-05 14:17:31
- 波長の話してる人に近い考えなんだけど -- (名無しさん) 2025-02-22 05:03:40
- 送信してしまったすまない。 波長が変わったというよりは、受け取った波長の感じ方が変わってしまったが正しいと思う。 カオスヘッドノアという作品に一般の人が言う青い空の青色がドス黒い赤色に見えているって状態のキャラクターがいるんだけど、これが近い状況を示してると思う。 波長で議論するのが正しいかはわからないけど、あえて波長で例えるなら、「赤外線に色はあるのか?我々が赤外線を可視できた時、それには可視光における色の変化が同様に表現できるのか?」がこの8900の影響前と後の状況を考えるのに適してると思う。 もちろん8900の影響は追加で見れるものが増えたのではなく、今まで見れてたものの見え方が変わったが正しいので、上の状況はそのまま当てはまらないけど。 -- (名無しさん) 2025-02-22 05:21:17
- 送ってから思いついてしまって申し訳ないんだけど、虹の方が良さそう。 このストーリーの裏テーマがあるなら、8900の影響云々の前に、カオスヘッドノアのように、そもそも私たちが認識してる色は他の人と同じ認識ができているのか?だと思う。 色盲とかもあるけど、それ以前に同じ感じ方ってできるの?ってこと。 虹って見る人によって、明暗の2色から、5色だったり7色だったり、8色だったりするらしいよ。虹の物理現象的には無限色になると思うけどね。 -- (名無しさん) 2025-02-22 05:25:40
- 白黒写真を濃淡からカラーに復元する技術があるように、この記事においては白黒の濃淡ですべての色彩を表していて、昔の人たちはそれですべての色を判別できていたって話じゃないの?なんで存在しない色があったとかいう話になるのかわからん -- (名無しさん) 2025-02-22 10:32:37
- なぜカラーフィルムができた?とかあるけどもしかしたら濃淡を表現を再現しきれなくてそれをもっと強くしようとした結果色ができてしまったのかもしれない -- (名無しさん) 2025-03-02 20:52:02
- しかし中世やさらに過去に描かれた絵にも色はついていたわけで、重箱の隅をつつくようだけど色彩は元々あるんだよな。それはそれとして好きなオブジェクトではある -- (名無しさん) 2025-03-23 19:34:46
最終更新:2025年04月22日 13:52