小島
洞窟は、先刻とは別の海岸の、島状の
岩場に続いていた。
周囲を海と断崖に守られた、海底洞窟
を通じてしか辿り着けぬ聖域がそこに
あった。風雨に晒され、朽ち果てつつ
あったが、その巨大な神殿の持つ荘厳
さは、今もって神聖な力を祀っている
ことを物語っている。
ヴァイ:
あれは寺院……神殿か? ずいぶん
大がかりなもんだな。あんなのが
あるってことは、この辺りにも
住んでる人間がいるってことか
D・S:
アホウ
ヴァイ:
……ムカつくほど口が悪いよな、
アンタは。何で俺が阿呆なんだよ!
D・S:
あの風化した様子を見ろ。今も誰か
参拝しているように見えるか?
ヴァイ:
う……でも、きっとあそこには何か
あるぜ
D・S:
どうして判るんだ、どアホウ……と、
言いてえところだが、俺もそう思う。
調べてみねえとな
神殿の入口は、ぶ厚い石の扉によって
堅く閉ざされていた。人間の力で動く
代物ではなく、おいそれと壊せそうな
岩質とも見えない。扉を開くためには
何らかの仕掛けがありそうだった。
床面を見ると、扉の左右に少し離れた
位置に、幽かな切れ込みの入った
踏み板らしきものがあった。
D・S:
この踏み板、人を乗せるように
作られてるな。どれどれ――と
D・Sがそのひとつに体重を預けると、
踏み板はゴリッという固い音とともに
数センチ沈み込んだ。
ヴァイ:
……何も起こらねえじゃねえか
D・S:
鈍い野郎だな。テメエもそっちの
踏み板に乗れよ。どうしてふたつも
あると思ってんだ?
ヴァイ:
あ、そっか
ヴァイがもうひとつを踏むと、やはり
そちらも浅く沈み込んだ。同時に、
神殿の扉が石の擦れる音を響かせて、
ゆっくりと持ち上がり始めた。
ヴァイ:
なるほど! ふたりで協力しないと
扉を開くことができないってワケか
D・S:
ってコトよ……あれ?
開いた扉の少し奥に、再び岩の扉が
姿を見せていた。そして、その前の
床にもうひとつ、踏み板があるのが
見て取れる。
ヴァイ:
あれに乗れば開くってんだろ。
簡単じゃんか
D・S:
あ、おい、ちょっと待て
ヴァイが踏み板から降り、第二の扉に
歩き始めた途端、開いたばかりの扉が
彼を押し潰さんばかりのタイミングで
落下した。
ヴァイ:
うわあっ! あぶ、危ねーっ!
D・S:
だから待てっつったんだ、アホウ
D・S:
左右の踏み板が両方沈んでいねえと
扉はすぐに閉まるようになってやがる。
二ヶ所を踏んだままじゃねえと、次の
扉の前には辿り着けねえってワケか
D・S:
どうやらもうひとり、踏み板に
乗っかる奴がいないと、この神殿の
中にゃ入れそうにねえな
ヴァイ:
あの船にいた連中がひとりでも
一緒に来ていればな……
D・S:
ちょっとした重さじゃ踏み板を
固定できそうにねえし……おい、
ヴァイよ。オマエ扉が閉まる前に
気合いで飛び込んでみねえか?
ヴァイ:
冗談じゃねえよ!
D・S:
やっぱり無理かな。それに万一中に
入れても、最初の扉が開いたままじゃ
なけりゃ次の踏み板は作動しない
ようになってるだろうな
ヴァイ:
じゃ、何か? 俺が万に一つの
命懸けの挑戦をして、しかも無駄に
なっちゃうワケか?
D・S:
さらに、ふたつの扉の間に閉じ
込められて、もう俺ひとりじゃ開け
られないから、そのうち空気もなく
なって、あえなく昇天するワケだ
ヴァイ:
アンタなあ……
D・S:
シッ! 人の気配だ
ヨシュア:
そこにいるのはD・Sとヴァイか。
ふたりだけなのか?
ヴァイ:
ヨシュアか! 助かったぜ!
ヨシュア:
……なるほど、私の他に竜船に
乗っていたのはボルとブラドか。
どちらもD・S、あなたの心強い
仲間となったはずだが……
ヨシュア:
これ以上手間取っては敵の思う壺だ。
しばらく私も同行して助力しよう
D・S:
テメエにゃ色々と訊きてえトコだが、
今はやめといてやらあ。この神殿の
探索を優先しなきゃならねえし、
一応信用することにしたからな
ヨシュア:
……すまない
ブラド:
ヴァイは動かずに、ワシが最後の
スイッチを踏めばよいのだな
ボル:
それがしが三番目の踏み板の上に
乗ればいいのでござるな
D・S:
そう言うコト。頭数が揃ってて
助かったぜ
D・S:
そう言うコト。竜船で頭数を揃えた
甲斐があったってもんだぜ
左右の踏み板に乗ったまま、第三の
スイッチを踏むと、奥の扉も同様に
開いた。どこかでガチリと岩の噛み
合う音が響き、もはや踏み板から
降りても二枚の扉が閉まることは
なくなった。
最終更新:2020年10月31日 21:06