血路
火口から導かれたのは、葉脈めいた
紋様の浮き出た壁に囲まれた地中の
通路であった。
イングヴェイ:
ここは……溶岩は流れ込んでこない
のか?
D・S:
ここはな、血路だ。これまでとは違う
流れのルートになってるからな。空気
と食い物が別々に、肺と胃に収まるの
と似た理由だ……ちと違うがよ
イングヴェイ:
血路? D・S! この世界について
記憶でも蘇ったのか?
D・S:
記憶にあったワケじゃねえが、何と
なく成り立ちを掴んだ気がする。
俺の考えが正しければ、この道は
心臓の呪詛の源に行き着くハズだ
ネイ:
ダーシュの心臓は、もう良くなったん
じゃないの?
D・S:
ああ。だがそいつは、あの贋の龍を
斃して俺とのリンクを断ったに過ぎ
ねえ。黒い龍は、本来の龍の存在を
書き換えるためにいやがったんだ……
D・S:
今もヨーコさんを苦しめてる心臓の
呪詛はまだ健在だ。そいつが施されて
いるのは、文字通りこの世界の心臓部
――
ヴァイ:
さっぱり判らねえよう
D・S:
頭のワリいテメーらが理解できるよう
に説明するにゃあ、もう少し時間が
必要だ。とにかく今は急いで、
呪詛の源を潰さなきゃならねえ
突如、凄まじい殺気が接近してきた。
血路の先、からではない。それはここ
とは違う空間から、急速に迫りつつ
あった。
D・S:
この気配は――!
サイクス:
くうっ!
唐突に空間が破れ、サイクスが転がり
出てきた。即座に修復された次元の
壁の向こうから、魂を凍てつかせる
おぞましい咆哮が洞窟に響き渡る。
イングヴェイ:
サイクス!
サイクス:
駄目だ……もう振り切れない。奴は、
あの猟犬は、進化している――
サイクスが出現した、今はもうただの
虚空となった空間に、みしり、と何か
の圧力が生じた。見えない次元の壁が
じりじりと押し開かれ、こちら側に
飛び出してこようとするものの透明な
影が浮かび上がる。サイクスを追い
続けた獰猛な妖獣が、遂にこの世界
へと実体化しようとしていた。
サイクス:
済まない……巻き込むつもりはなかっ
たのだが、もはや亜空間に留まれる
能力の限界に来た……君たちだけでも
早くこの場を――そ、それは!?
サイクスの目はガラの腰にぶら下げら
れた、黒龍から入手したアクセサリー
に釘付けとなった。
サイクス:
それは私の次元刀ブースター! あれ
ほど探し回ったと言うのに……いや、
それどころではない! 早くそれを
私に! それさえあれば――
ガラ:
お? おう、これね
サイクスは受け取ったアクセサリーを、
両腕に手早く装着した。
サイクス:
まさか本当に見つけだしてくれるとは
――礼を言うぞ! これで奴と決着を
つけることができる! 力を、貸して
もらえるか?
D・S:
乗りかかった船だ。チョロチョロと
こうるさいワンコロとやらを、
蹴散らしてやろーじゃねえか!
ヴァイ:
あの透明な影……犬どころじゃないん
ですけど……
サイクス:
現れるぞ!
死を目前にした猟犬の、最期の咆哮が
大気を震わせる。風景が歪みそうな、
凄まじいまでの絶叫であった。
サイクス:
よし! 二度と再生できないように
次元断層に封じ込めてやる!
サイクスが装着したブースターの、
二対の羽根が肘を支点に開く。と、
そこから生じた波動がサイクスの掌を
包み、渦状の歪みを発生させる。
サイクス:
追跡する者よ、異次元の檻に還れ!
繰り出した手刀から、増幅された
歪空間が渦となって猟犬に放たれる。
猟犬の巨体は捻り上げられたように
ねじ切られ、迸る青黒い体液の一滴も
残さずに、そのまま亜空間へと続く
渦の中心に飲み込まれていった。
サイクス:
封殺完了。諸君の奮闘を感謝する
ヴァイ:
とんでもねえ化け物だったな
イングヴェイ:
あんなものに追われていたのか……
苦労したな、サイクス
サイクス:
フ……卿らに比べれば、私はただ逃げ
回っていただけさ。だがもう、異次元
に跳躍することはできん。ここからは
一緒に行動し、ともに闘うとしよう
D・S:
溶岩は閉じちまった。もう後戻りは
できねえぜ
最終更新:2020年10月31日 21:27