夢角洞


奇怪な形状の柱に近づいた途端、
D・Sの脳裏にあたかも別の人間の
思考が挿入されたかのように、幻と
呼ぶにはあまりにも鮮やかな白昼夢が
浮かび上がった。

それは、見知らぬ戦場だった。
すすきの穂が風にうねる野原に、数え
切れぬほどの屍が月光の下、濡れた
ように輝いて横たわっている。
彼方には幾つもの火の手が上がり、
黒煙が時折無情な月を過ぎってゆく。

正面に、巨漢の忍者がいた。右目の
横に走った傷から溢れ出す鮮血が、
この光景の中で唯一の原色であった。
刀を構えながら、男はこちらに語り
かけてくる。

「戦の大勢は決したんだぜ。もう俺と
お前がやりあう理由はねえよ」

自分が、それを拒絶する声が響く。
だが、奇妙にもその音だけは自分の
耳には届かない。

巨漢はその刹那、泣きそうな表情を
浮かべたように見えた。死を恐れての
ものではない。劣勢にあるのは巨漢
ではない。自分が圧されていた。

自分が、ある決断をしたのが判った。
目の前の巨漢を、殺してしまうだけの
秘剣。それを使うのだ。勝つために。

己の刀を構えた。その構えを見て、
巨漢がやめろと絶叫する。死ぬな、と。
決心は変わらなかった。自分が笑みを
浮かべたのが判る。

自分の手にする刀に目をやる。妖しく、
結露した美しい刀身。それはムラサメ
だった。

突進する。ムラサメが輝く。必殺の
秘剣が、巨漢の忍者へと繰り出される。

交錯し、振り返る。巨漢は血しぶきを
夜空に噴き上げ、膝をついていた。
そして、自分の魂が肉体を離れるのが
判った。それが、ムラサメの秘剣を
用いた代償なのだ。

深手ながら生き延びた巨漢が絶叫する。
自分の名を呼んで――。
意識が遠退く。

D・S:
わあああああっ――!

ヴァイ:
どうした、D・S!

背後からヴァイに引き戻され、D・S
は危うく現実に立ち返った。あのまま
白昼夢の世界に浸り、死を追体験して
いたなら、自分の命までが失われたで
あろうことを彼は認識していた。

D・S:
この柱に近づくな。こいつは死の
体験を幻影として放射しやがる。迂闊
に記憶を辿ると、自分の魂まで持って
いかれちまう。ヤバいトコだったぜ

ヨルグ:
だが、それではこの先に進めないぞ

D・S:
こいつは恐らく中継機だろう。幻術を
送ってくる本体は別にいるはずだ。
そいつを先に潰すぜ!

D・S:
……それにしても、今の幻影は誰の
記憶だ? 手にしていた刀は確かに
ムラサメだった。相手のデカい忍者も
知ってるような気がしてならねえ……

D・S:
……くそっ、ダメだ! まだ記憶に
靄がかかってやがる。もう少しで思い
出せそうなんだが……

D・S:
これ以上近づくと、またあの幻覚に
飲み込まれちまう……他を当たるぜ










D・Sが低く詠唱し、水晶の周囲に
指先で複雑な印を描く。と、結晶の
放つ光が収束し、それは純白の輝き
へと変化した。

D・S:
これで四つ目だぜ。エネルギーの
流れはほぼ把握できるようになって
きたぜ……へへ、隔壁のロックは
全て解除されてるな

D・S:
残りのブロックへ急げ!

三番目のクリスタルも。D・Sの描く
法印の中で静かに色を失い、無垢なる
白色へと変わっていった。

D・S:
これでよし。次のブロックに急ぐぜ



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最終更新:2020年10月31日 21:11