第一章 第二章 第三章 第四章 黒斑洞黒の館気洞溶解雨の湿地デュアディナムトンネルランゲルハンス島スーゼミの神殿血路癌臓宮癌臓宮中枢部ダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミーダミー 第五章 クリア後

スーゼミの神殿


火山の内部へ続く通路は、古くに埋も
れた地下神殿へと続いていた。火口に
匹敵するほどの熱気は、ここに溶岩流
が通じていることを示している。ただ、
噴き出す汗は暑さによるものなのか、
それとも神殿の奥から漂う膨大な妖気
に対する冷や汗なのかは判らなかった。

ロス:
あっ! みんなーっ!

ヴァイ:
ロスじゃんか!

ロス:
合流にずいぶん手間取っちゃったわね。
もう会えないかと思ってたわよ……あ、
ソレ、アタシのハーフプロテクト!
見つけてくれたのね! サンキュ!

ロス:
アタシはと言えば、どーしてもあと
ひとつ、探してるお宝が見つからない
のよねー。アレさえあればアレがアレ
できるんだけどなー……

ザック:
何言ってんだ? オマエは?

ロス:
ふふん。コドモにはワカんないイイ
コトよん。できてからのお楽しみィ

イダ:
恐ろしいっ!

D・S:
何だ? あのうすらデカイのは、
イダじゃねーか

ヴァイ:
ドンピシャじゃん!

イダ:
おお、D・S! 巡り会えて良かった!

虹で離散してから、イダはその精神を
妖気の波長に引き寄せられるように、
この神殿に迷い込んだようであった。
そこで見たものは、強さを美と捉える
彼にとってさえ、恐怖に囚われるほど
のおぞましい魔物であった。

イダ:
おお……恐ろしい。一瞬でも、あの
ような怪物を美しいと思ったなんて
――この先には、行くべきではあり
ません!

D・S:
どーやらここにゃ、もう仲間もいねえ
ようだしな。引き返したって構わねえ
んだけどよ

D・S:
せっかく全快したんだ。腕試ししとく
のも悪かねえ――さて、どうすっかな

D・S:
そうもいかねえ。俺に敵対する神と
やらに対抗するには、少しでも力を
蓄えなけりゃならねえ。そのためにも、
ここの邪神の魔力は必要になる――

イダ:
……仕方ありません。その決意に美を
感じた以上、私もお供せねばなります
まい。我が召喚術、お役に立てば幸い
です










その通路の中央に、大きな人影が
立ちはだかっていた。

巨漢であった。だが、それ以上に奇異
な風貌がまず人目を引く。逞しい肉体
に不似合いなトーガを身につけ、様々
なアクセサリーで全身を飾っている。
その貌には厚く化粧が施され、素顔が
どのようであるのかすら判断できぬ。

赤く紅を塗った唇が軽く吊り上がり、
男は想像よりも高い声で話しだした。

イダ:
おやおや。野卑な闖入者にしては、
なかなかに美しい方もいらっしゃる

D・S:
テメエは?

イダ:
これは失礼。私はイダ・ディースナ、
美しきものの奴隷と自ら任ずる者です。
今はこの神殿の神に仕え、その美を
侵す者を追い払う責務を負う身――

イダ:
貴方たちに個人的な敵意は抱いて
いませんが、これも私の役目――
悪く思わず、黄泉路へと旅立って
戴きましょうか

イダは腰に下げた二つの水晶球を手に、
短い詠唱とともに印を結んだ。どこ
からか獣の咆哮が響き、床に生じた
法印から何かが飛び出してくる。

D・S:
チッ……めんどくせえ。いーだろう、
テメエに本当の美ってヤツを教えて
やらあ!

見覚えのある大男が、そこに立ち
はだかっていた。

イダ:
またお会いしましたね

D・S:
テメエ、イダとか言ったな?

イダ:
覚えて戴き光栄です。すでに知らない
間柄ではありませんが、今や私はこの
神殿の主の下僕――その命に従い、
侵入者を排除しなくてはなりません

イダ:
悲しいことですが、またもや我々は
敵同士……それでは私の魔獣たちと
戦って頂きましょうか!

D・S:
またか……上等だ! 今度こそ美しい
戦いってのをテメエの瞼に焼き付けて
やるぜ!

これまでと同様、太古の邪神の波長に
呼び寄せられたのか、召喚士イダが
この神殿を護っていた。

イダ:
いよいよ決着をつける時が来ましたか
――。貴方たちの美しさが上か、それ
とも私の召喚術が上か、尋常に勝負と
参りましょう

D・S:
いーだろう。テメエが腰を抜かし
ちまうような、美しーい闘いっぷりを
見せてやろうじゃねーか! オメーら、
テキパキやるぜっ!

イダ:
おおっ!? うっ、美しい――っ!

D・Sたちの見事な連携に心を打たれ
たのか、イダはその場にへたり込んで
はらはらと涙を流した。

イダ:
このように美しい闘いを見せられては、
私は自らに課した戒律に則って、
貴方たちの軍門に下る他ありません。
私は常に、最も美しき者の従者――

どうやらイダは、この世界について
何も知らないようであった。この神殿
の神に魅せられ、唯一残る記憶――
美しき者に従えとの声に導かれるまま、
ここで守護者を任じていたという。

シェラ:
イダ、貴公まだ記憶が蘇っていない
のか?

イダ:
何と? 貴女は私をご存じなのですか?

イングヴェイ:
貴公はそもそも我々の仲間……私を
含め、ここにいる者たちに見覚えは
ないか?

D・Sたちと話すうち、イダの記憶は
急速に蘇っていった。自分が魔戦将軍
としてカルに仕えていたこと、そして
それより以前、かつての征服戦争の折
にはD・Sの軍勢に属していたことを
――。

D・S:
オメエみたいに薄らデカイ奴、
いたっけかなぁ?

イダ:
貴方が覚えていないのも無理はありま
せん。その頃の私はまだ十代の前半、
軍団の末端に属していたに過ぎません
でしたから……

イダ:
幼い頃から召喚が得意で、この体格も
あって鬼っ子呼ばわりされていた私は、
当時一も二もなく貴方の軍勢に身を
投じ、魔獣軍団編成の任を受けました

イダ:
まだ若かった私は、魔獣召喚の手柄を
片っ端から横取りされていたようで、
その功を認められた頃には、貴方は
すでにこの世の人ではなかったのです

イダ:
放浪の後、再び私は反逆四天王の軍勢
と――カル様と出会うことになるの
ですが……どうです? 私とカル様の
美しい邂逅の経緯も聞きたいですか?

D・S:
聞きたくねーよ! 止める間もなく
自分の半生を語りやがって……

イダ:
残念ながら、この程度の美しさでは
私の心を揺さぶることはできません

イダ:
今回もまたダメでしたね……魔獣は
倒せても、戦いに華がなければ私は
認めることができません

イダ:
もはやこの地で出会えることはあり
ますまい。せめて貴方たちに御武運と、
いくばくかの美が訪れることをお祈り
しましょう。では、さらばです――

言い残し、イダの巨体は召喚の魔法陣
に消えた。もはやそこに気配はなく、
法印の痕に一輪のバラが残されている
のみであった。

イングヴェイ:
イダ……行ってしまったか。魔戦将軍
としての記憶が戻らぬまま――

D・S:
何が悪かったのかなぁ? 俺が闘って
るだけでも充分美しいとゆーに

ヴァイ:
その考え方が悪いんじゃーっ!










噴き上がる熱気で揺らめく祭壇から、
膨大な地熱をも圧する妖気が発散され
ている。

蜃気楼のような影が、徐々に実体へと
変わっていく。太古の時代、恐怖に
よって信仰を集め、力を蓄え続けた
暴虐の鬼神――その暴風を思わせる
肉体が今、愚かなる闖入者の魂を
求めて姿を現した。

D・S:
これで超上位の鬼神どもが三匹、俺の
中に魔力ごと封印できたぜ……あとは
身体に馴染ませるだけで、こいつらは
俺の口代わりになる――ククク

D・S:
この鬼神、凄え魔力を秘めてやがる。
眼を塞いじまえば、“唱える者”と
して使えるところだが……何にせよ
三匹いねえとしょうがねえな――



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最終更新:2020年10月31日 21:27