スーゼミの神殿
火山の内部へ続く通路は、古くに埋も
れた地下神殿へと続いていた。火口に
匹敵するほどの熱気は、ここに溶岩流
が通じていることを示している。ただ、
噴き出す汗は暑さによるものなのか、
それとも神殿の奥から漂う膨大な妖気
に対する冷や汗なのかは判らなかった。
ロス:
あっ! みんなーっ!
ヴァイ:
ロスじゃんか!
ロス:
合流にずいぶん手間取っちゃったわね。
もう会えないかと思ってたわよ……あ、
ソレ、アタシのハーフプロテクト!
見つけてくれたのね! サンキュ!
ロス:
アタシはと言えば、どーしてもあと
ひとつ、探してるお宝が見つからない
のよねー。アレさえあればアレがアレ
できるんだけどなー……
ザック:
何言ってんだ? オマエは?
ロス:
ふふん。コドモにはワカんないイイ
コトよん。できてからのお楽しみィ
イダ:
恐ろしいっ!
D・S:
何だ? あのうすらデカイのは、
イダじゃねーか
ヴァイ:
ドンピシャじゃん!
イダ:
おお、D・S! 巡り会えて良かった!
虹で離散してから、イダはその精神を
妖気の波長に引き寄せられるように、
この神殿に迷い込んだようであった。
そこで見たものは、強さを美と捉える
彼にとってさえ、恐怖に囚われるほど
のおぞましい魔物であった。
イダ:
おお……恐ろしい。一瞬でも、あの
ような怪物を美しいと思ったなんて
――この先には、行くべきではあり
ません!
D・S:
どーやらここにゃ、もう仲間もいねえ
ようだしな。引き返したって構わねえ
んだけどよ
D・S:
せっかく全快したんだ。腕試ししとく
のも悪かねえ――さて、どうすっかな
D・S:
そうもいかねえ。俺に敵対する神と
やらに対抗するには、少しでも力を
蓄えなけりゃならねえ。そのためにも、
ここの邪神の魔力は必要になる――
イダ:
……仕方ありません。その決意に美を
感じた以上、私もお供せねばなります
まい。我が召喚術、お役に立てば幸い
です
その通路の中央に、大きな人影が
立ちはだかっていた。
巨漢であった。だが、それ以上に奇異
な風貌がまず人目を引く。逞しい肉体
に不似合いなトーガを身につけ、様々
なアクセサリーで全身を飾っている。
その貌には厚く化粧が施され、素顔が
どのようであるのかすら判断できぬ。
赤く紅を塗った唇が軽く吊り上がり、
男は想像よりも高い声で話しだした。
イダ:
おやおや。野卑な闖入者にしては、
なかなかに美しい方もいらっしゃる
D・S:
テメエは?
イダ:
これは失礼。私はイダ・ディースナ、
美しきものの奴隷と自ら任ずる者です。
今はこの神殿の神に仕え、その美を
侵す者を追い払う責務を負う身――
イダ:
貴方たちに個人的な敵意は抱いて
いませんが、これも私の役目――
悪く思わず、黄泉路へと旅立って
戴きましょうか
イダは腰に下げた二つの水晶球を手に、
短い詠唱とともに印を結んだ。どこ
からか獣の咆哮が響き、床に生じた
法印から何かが飛び出してくる。
D・S:
チッ……めんどくせえ。いーだろう、
テメエに本当の美ってヤツを教えて
やらあ!
見覚えのある大男が、そこに立ち
はだかっていた。
イダ:
またお会いしましたね
D・S:
テメエ、イダとか言ったな?
イダ:
覚えて戴き光栄です。すでに知らない
間柄ではありませんが、今や私はこの
神殿の主の下僕――その命に従い、
侵入者を排除しなくてはなりません
イダ:
悲しいことですが、またもや我々は
敵同士……それでは私の魔獣たちと
戦って頂きましょうか!
D・S:
またか……上等だ! 今度こそ美しい
戦いってのをテメエの瞼に焼き付けて
やるぜ!
これまでと同様、太古の邪神の波長に
呼び寄せられたのか、召喚士イダが
この神殿を護っていた。
イダ:
いよいよ決着をつける時が来ましたか
――。貴方たちの美しさが上か、それ
とも私の召喚術が上か、尋常に勝負と
参りましょう
D・S:
いーだろう。テメエが腰を抜かし
ちまうような、美しーい闘いっぷりを
見せてやろうじゃねーか! オメーら、
テキパキやるぜっ!
イダ:
おおっ!? うっ、美しい――っ!
D・Sたちの見事な連携に心を打たれ
たのか、イダはその場にへたり込んで
はらはらと涙を流した。
イダ:
このように美しい闘いを見せられては、
私は自らに課した戒律に則って、
貴方たちの軍門に下る他ありません。
私は常に、最も美しき者の従者――
どうやらイダは、この世界について
何も知らないようであった。この神殿
の神に魅せられ、唯一残る記憶――
美しき者に従えとの声に導かれるまま、
ここで守護者を任じていたという。
シェラ:
イダ、貴公まだ記憶が蘇っていない
のか?
イダ:
何と? 貴女は私をご存じなのですか?
イングヴェイ:
貴公はそもそも我々の仲間……私を
含め、ここにいる者たちに見覚えは
ないか?
D・Sたちと話すうち、イダの記憶は
急速に蘇っていった。自分が魔戦将軍
としてカルに仕えていたこと、そして
それより以前、かつての征服戦争の折
にはD・Sの軍勢に属していたことを
――。
D・S:
オメエみたいに薄らデカイ奴、
いたっけかなぁ?
イダ:
貴方が覚えていないのも無理はありま
せん。その頃の私はまだ十代の前半、
軍団の末端に属していたに過ぎません
でしたから……
イダ:
幼い頃から召喚が得意で、この体格も
あって鬼っ子呼ばわりされていた私は、
当時一も二もなく貴方の軍勢に身を
投じ、魔獣軍団編成の任を受けました
イダ:
まだ若かった私は、魔獣召喚の手柄を
片っ端から横取りされていたようで、
その功を認められた頃には、貴方は
すでにこの世の人ではなかったのです
イダ:
放浪の後、再び私は反逆四天王の軍勢
と――カル様と出会うことになるの
ですが……どうです? 私とカル様の
美しい邂逅の経緯も聞きたいですか?
D・S:
聞きたくねーよ! 止める間もなく
自分の半生を語りやがって……
イダ:
残念ながら、この程度の美しさでは
私の心を揺さぶることはできません
イダ:
今回もまたダメでしたね……魔獣は
倒せても、戦いに華がなければ私は
認めることができません
イダ:
もはやこの地で出会えることはあり
ますまい。せめて貴方たちに御武運と、
いくばくかの美が訪れることをお祈り
しましょう。では、さらばです――
言い残し、イダの巨体は召喚の魔法陣
に消えた。もはやそこに気配はなく、
法印の痕に一輪のバラが残されている
のみであった。
イングヴェイ:
イダ……行ってしまったか。魔戦将軍
としての記憶が戻らぬまま――
D・S:
何が悪かったのかなぁ? 俺が闘って
るだけでも充分美しいとゆーに
ヴァイ:
その考え方が悪いんじゃーっ!
噴き上がる熱気で揺らめく祭壇から、
膨大な地熱をも圧する妖気が発散され
ている。
蜃気楼のような影が、徐々に実体へと
変わっていく。太古の時代、恐怖に
よって信仰を集め、力を蓄え続けた
暴虐の鬼神――その暴風を思わせる
肉体が今、愚かなる闖入者の魂を
求めて姿を現した。
D・S:
これで超上位の鬼神どもが三匹、俺の
中に魔力ごと封印できたぜ……あとは
身体に馴染ませるだけで、こいつらは
俺の口代わりになる――ククク
D・S:
この鬼神、凄え魔力を秘めてやがる。
眼を塞いじまえば、“唱える者”と
して使えるところだが……何にせよ
三匹いねえとしょうがねえな――
最終更新:2020年10月31日 21:27