樹海中心部(北)


D・S:
う、うおお……

解放された門を抜けて目に入ったのは、
天高く聳える巨大な緑の塊であった。
樹海の中央に位置するそれは、あまり
に並外れた大きさであるが故に、初め
は森が山となって隆起しているとしか
見えなかった。

それは、木であった。たった一本で
ありながら、森全体を包み込むほどの
太さの幹を持つ巨木――それが樹海の
臍に当たる位置から、緑の奔流と
なって空に伸びているのである。

疑うことなく、その巨木こそが龍樹で
あった。

ヴァイ:
で、でけえ……あれが木かよ……

シェラ:
あそこに龍が囚われているのか……

D・S:
あそこに、シェラの歌ってた龍が
囚われてやがるのか……それにしても、
常軌を逸したスケールだぜ

D・S:
あの龍樹にも行かなきゃならねえが、
この辺りからは辿り着けそうにねえな










門には樫の根がびっしりと絡みつき、
扉を厳重に封印している。

D・S:
また樫かよ。この根を何とかできねえ
とここは通れそうにねえ

宿り木の短刀を近づけると、樫の根は
怯えたように震え、いとも簡単に
千切れて門を解放した。










カイ:
誰だ! 貴様ら!?

D・Sたちの気配に振り返ったのは、
勇ましい出で立ちの女剣士であった。
両手で扱わなければならぬほど長大な
剣を腰に佩き、即座に抜刀の構えを
取った身のこなしを見れば、女らしく
丸みを帯びたプロポーションからは
想像もつかぬ、鍛え上げられた戦士の
肉体を有していることが窺い知れる。

女らしく着飾れば、求愛する男が引き
も切らぬほどに美しい娘になるだろう。
だが、山猫を思わせるその瞳には、
決して飼い慣らせぬ気高さと、男を
寄せ付けぬ野生の獰猛さが強い輝きと
なって現れていた。

カイ:
魔雷妃の手の者か? 無勢といえども
このカイ・ハーン、決して退かぬ!
命の惜しくない者からかかってくるが
いい!

D・S:
待て待て。その魔雷妃ってのは誰の
コトだ? 俺たちは超絶美形D・S様
と、その他どーでもいい下僕たちだ。
誰の手の者でもねーぜ

ヴァイ:
どーでもいいたあ何だ! 大体いつ
俺たちが下僕になったよ! おい、
聞いてんのかよ!

カイ:
……どうやら本当のようだな。で、
その超絶美形とやらはドコにいるのだ?

D・S:
……やい女、オメエの目は節穴か?
それともオトコを見る目がネエのか?
この俺様の他に、この世に超絶美形と
称される男が存在するワケねーだろ!

カイ:
オマエが? バカじゃなかろか

D・S:
こ……このアマぁ

ヴァイ:
いーぞ。もっと言ってやれ

ヨルグ:
――それで、魔雷妃と言うのは?

カイ:
あの魔女を知らずに、良くもこの森を
歩き回れたものだな。樹海に潜む
魔性の類は、ほとんどが魔雷妃の
手下であると言うのに――

カイ:
魔雷妃は、森の北に聳える樹棺城に
棲む残忍な魔女だ。幻術を用い、雷を
操り、恐怖でこの森を支配している
ダークエルフのハーフさ

D・S:
その女なら会ったぜ。肩にデカイ鴉
を乗せた奴だろ? 王鴉とか名乗る
化け物に変身しやがったが、チョイと
ヒネってやったら城に逃げちまったぜ

カイ:
あの、三妖魅の一角をか!? オマエ
たちは一体――

カイの話によれば、魔雷妃は三体の
異なる幻体を用いて森を監視している
らしい。そのそれぞれには王鴉を始め
とした妖魔の類が憑き、事があれば
冷酷無情に敵対者を処断すると言う。

カイ自身はやはり記憶を失ったままで、
三人の仲間とともにこの地に目覚めた。
その直後に魔雷妃の使いが幾度か現れ、
配下に下れとの誘いを受けたが、カイ
ともうひとりの仲間は本能的にこれを
拒んだ。魔雷妃の背景に、従い得ぬ
邪悪の匂いを感じ取ったからだ。

しかし、残るふたりはカイたちの制止
も聞かず、魅入られたように樹海の奥
へと消えていった。拒絶したカイたち
は反逆者として魔雷妃の幻体と配下の
魔物に追撃され、森を逃げ惑いながら
も何とか九死に一生を得た。そして
ここに態勢を立て直し、反攻の機を
窺っていたのだった。

D・S:
その、魔雷妃の軍門に下った奴って
のは、ランって野郎じゃねえのか?

カイ:
! ランに会ったのか!?

D・S:
黒騎士とか名乗って、何度か襲いかか
ってきやがった。何かに操られてる
みてえだったな。目つきが尋常じゃ
なかったし――

D・S:
反逆者――たぶんオメエのコトだろう
が、それも狩り出す役目を負ってる
らしいぜ

カイ:
ランが……。そうか

ヴァイ:
それで、アンタのもうひとりの仲間
ってのは?

カイ:
あるものを探しに出ている。ここで
落ち合うことになっているのだが……
幾ら何でも遅いな――

その時、一羽の白い鳩が森の彼方から
飛来した。酷く傷ついており、脚には
短刀のようなものを掴んでいる。鳩は
カイの腕に舞い降りると、ほころびた
かに弾けてぼろぼろの紙片に変じた。
式神と呼ばれる、魔力を封じた呪符を
使い魔として使役したものであった。

カイ:
これはシーンの……何!?

紙片に記された文に視線を走らせた
カイの顔色が変わった。

D・S:
どうした?

カイ:
……シーンが――仲間が魔雷妃の
手の者に捕らえられたようだ。そこの
森を越えた場所にある湖に連れ去られ、
魔性の生け贄に捧げられるらしい――

わずかに沈思黙考し、やがて意を
決したようにカイは顔を上げた。

カイ:
本来なら出会ったばかりの、男の手
など借りようとは思わぬのだが……
頼む! どうかシーンを救い出しては
くれまいか?

カイ:
湖上の島に囚われたシーンを救出する
には、湖に棲む水妖の助けを借りねば
ならん。だが、奴らは女の俺とは
口を利こうともしないのだ――

ヴァイ:
だけどよ、湖のある森ってのは、
そこの樫の根が縛ってる門の先にある
んだろ? 俺たちも樫の根を何とか
してえんだが、どうにも――

カイ:
しかも、その湖がある森へと続く道は、
樫の根によって縛られた扉に塞がれて
いる。だが、これには――

カイ:
このヤドリギで作った短刀がある。
宿り木に寄生されるのを畏れて、樫の
根にかけられた呪力は霧散するハズだ

カイ:
シーンはあの根の結界を破るために
宿り木を探していたのだが、それが
このような形で役立とうとは……

木を削って作られた刃は、通常の切断
能力はないように思えた。しかし、
ドルイド僧に神聖視される宿り木の
持つ力は、樫の根を断つ魔力の刃と
なって木製の短刀に不思議な輝きを
与えていた。

シェラ:
素晴らしい宿り木だ。これならあの
樫の呪力も間違いなく打ち破れる

シェラ:
素晴らしい宿り木だ。これなら樫を
媒体とする呪力は間違いなく打ち
破れるだろう

ジオン:
――ならば、その短刀でシェンを、
あの樫の牢獄から助けることもできる
のだな!? だったらシェンのほうが
先だ! アイツを助けてやってくれ!

QUESTION:
どなたを先に救出しますか?
カイの仲間
シェン

D・S:
短刀だけ受け取って、この女の仲間
を助けねえワケにゃいかねえだろう。
生け贄にもされそうだって言うし、
先に湖の化け物を片づけちまおう

ジオン:
し、しかしシェンが……ええい、
もう頼まん! 俺がひとりでシェンを
助けてやるんだ!

叫ぶや否や、ジオンは目にも止まらぬ
迅さで宿り木の短刀を奪い取り、
止める間もなく樫の牢獄に向かって
走り去っていった。

カイ:
何ということだ――

D・S:
仕方ねえな。俺たちはジオンを追う!
その後で水妖の湖に助けに向かうぜ

カイ:
よろしく頼む。俺は何か他の方法を
探してみる。別の宿り木が見つかれば
いいのだが――

D・S:
実は俺たちの仲間も樫の牢屋にとっ
捕まっちまってる。あの王鴉とやらが
言うには、そいつも長くは放って
おけねえらしい

D・S:
シェンが捕まってからずいぶん経っち
まった。済まねえが、そっちを先に
片づけさせてもらいてえ。弟のことで、
そこのジオンは気が気じゃねえんだ

ジオン:
……勝手を言って済まん。だが、
シェンがなぶり殺されるようなことが
あったら、俺は……

カイ:
……事情は判った。ならば先にその
弟を助けるがいい。あの王鴉を退けた
オマエたちだ。牢さえ開けばさほど
手間取ることもあるまいが――

ジオン:
かたじけない――恩に着るぞ!

D・S:
シェンを助けたら、すぐにオメエの
仲間を助けに向かうぜ!

カイ:
――頼んだぞ。俺はそれまで、何か
別の方法を探してみる










湖の妖魔テウターテスから手に入れた
鍵により、ビクともしなかった堅固な
門はいとも簡単に錠の戒めから解放
された。










ジオン:
シェンが捕まってるのはそっちじゃ
ない! 急いでくれD・S!



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最終更新:2020年10月31日 21:15