海底都市遺跡


遺跡は、中心に聳える塔から放射状に
伸びた十本の回廊と、その先に位置
する五つの宮殿によって構成されて
いた。宮殿は回廊をひとつおきに、
五芒星の頂点を描くように配置されて
いる。それ以外の桟橋は、いずれも
到着した場所と同じ、虚無の暗黒空間
で終わっていた。

中央の塔にも、地下へと続くらしき
入口がある。しかし今は結界が張られ
ているのか、侵入することはできない
ようであった。宮殿の幾つかも、同じ
種類の結界に阻まれている。

塔の壁面に、この遺跡を表している
らしき図形が刻まれていた。
中心と円周の十ヶ所に同じ大きさの
窪みがあり、そこに五つの宮殿と、
塔を示すそれぞれ異なる色の宝石が
嵌め込まれている。

D・S:
こいつは何を表してやがるんだ……?
ボル、オメエ何か聞いてねえか?

ボル:
いや……カル様は我々にほとんど何も
語ることなく、必要な時に呼び出して
命令を与えるのみでござった。この
遺跡のことは、それがしは何ら……

ボル:
ただ、この地にも魔戦将軍が送り込ま
れているはずでござる。巨獣を使わず
とも、地下世界と地表を自由に行き来
する手段はあったようでござった

D・S:
つまり、この遺跡はカルの手が加え
られているってこったな。とりあえず、
入れる宮殿から探索してみるか。
何か判るかも知れねえ――










五つの宮殿を並べ替えたせいなのか、
中央の塔の入口から結界が消えている。

D・S:
……ここは空間が歪曲してやがる。
本来の塔じゃなく、別の建造物への
通路が空間に割り込んでるのか?

ヴァイ:
どうすんの?

D・S:
他の五宮の並びから判断すりゃあ、
それがたぶん最後の宮殿になるんだろ。
構うこたあねえ。行くぜ!










シェラ:
地下遺跡に完全な静寂が戻った……。
もうここに用はなさそうだな

ヴァイ:
でも、どうやって地表に戻るんだ?

ラン:
俺が使った、至高王下賜の乗用生物が
いる。それに乗ればエーテルの海を
浮上できる

シーン:
わたしもそれを拝借して、ここまで
降りてきたのよね。良く慣れていたわ

カイ:
俺たちが使ったのもそれだ。
良く馴らされていて助かったぞ

ヨシュア:
あれなら、この程度の人数なら一度に
運んでくれるだろう

ランが合図を送ると、上空を旋回して
いたのか、一匹の巨大なエイのような
生物がゆっくりと降下してきた。
十メートル近い大きさであったが、
性質は極めておとなしいらしい。
全員を背に乗せて、それはエーテルの
海をふわりと泳ぎ始めた。

浮上の途中、彼方を巨獣が泳いでいる
姿が見えた。それは次第に遠くなり、
遥か海底に消えていった――。










そこは明らかに、入った時とは違う
回廊の出口であった。
先刻までは暗黒空間に通じていた回廊
――即ち、宮殿それ自体がこの遺跡の
中で位置を変えたのである。

D・S:
……そうか! この遺跡の仕組みが
判ってきたぜ

シェン:
どういうことだ?

D・S:
ここは天体の運行を模して造られた
建造物群だ。恐らくは黄道の並びを
なぞってたんだろうが、それが移動さ
せられて機能を狂わされてやがる――

D・S:
さっきの違和感はそのせいだろう。
今の宮殿を動かしたことで、ひとつは
正しい位置に納まったってワケだ。

ヴァイ:
じゃあ、宮殿を全部正しい位置まで
並び替えれば……どうなんの?

D・S:
カルの奴にとって面白くねえことが
起きるんだろうぜ。たぶん、俺たちに
とっちゃ利になるこった

シェラ:
その推測は間違いではあるまい。あの
宮殿が元の位置に納まった時、嫌な
波動は確実に消えていた……ねじ曲げ
られた自然の理が回復したようだった

D・S:
よーし。今の宮殿が動いたぶん、また
そこに移動できる宮殿ができたはずだ。
片っ端から並べ直してやるぜ!










遺跡中央の塔には、著しい変化が
現れていた。

壁面の図形は、移動させた六つの宮殿
を示す宝石が六芒星の頂点を描き、
その中心には太陽を思わせるシンボル
が目映く輝いていた。塔の上には光の
柱が垂直に伸び、強いエネルギーが
内部から漏れているのが判る。

D・S:
今度は、ちゃんとこの塔に繋がってる
みたいだな

シェラ:
凄まじい力を感じる……この力こそが、
水龍の示そうとした秘密――?










目には見えぬ結界によって阻まれている



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最終更新:2020年10月31日 21:21