霊岩洞


D・S:
一枚岩を掘り抜いた洞窟か――。
この岩塊全体に通路が張り巡らされて
いるようだな

ボル:
そこにいるのは何奴!

D・S:
むっ!

ヨルグ:
敵か!?

洞窟の暗がりから、影が身を起こした。
全身濡れそぼったその男は、かつて
まみえたことのある人物であった。

D・S:
オメエ確か、ボルとかいう影使いじゃ
ねえか

ボル:
? 何故その名前を? おぬし、
それがしを知っているのでござるか!?

ヴァイ:
あ! 海辺の船で襲いかかってきて、
そのまま逃げてったヤツだ!

ボル:
なんと! それがしはそんな真似を
しでかしていたでござるか!

影使いボル・ギル・ボルは、竜船で
目覚めた直後の闘いを明確には覚えて
いないようであった。ただ、追われて
いるような焦燥と恐怖に苛まれ、落ち
着きを取り戻した時には、出鱈目に
影を渡り続けたため、自分がどこから
逃げてきたのかも判らない状況だった。

その後、峡谷付近を彷徨い歩くうち、
突然流れてきた水に呑まれ、影を渡り
ながら破壊された鬼哭関跡を抜け、
ほうほうのていでこの場所まで辿り
着いたという。

竜船での遭遇の状況を聞くに及び、
ボルは非礼を詫び、同行を申し出た。
おぼろげながら闘いの記憶が蘇り、
D・Sたちが命を奪わぬよう手加減
していたことを悟った様子だった。

ボル:
今はかように濡れネズミの情けない
姿でござるが、それがし、必ずお役に
立ってみせるでござる。何卒、ご恩を
返す機会をくだされ!

D・S:
そーゆー暑苦しーのは苦手なんだよ。
ついてきたきゃ勝手にしろい。オメエ
以外はたいがいそんなヤツばっかだぜ

ヴァイ:
来る者は拒まずってコト

ボル:
かたじけない!










巨大岩塊の中心と思しき、大きな広間
だった。見上げても天井は見通せず、
ただ暗い竪穴が遥か上まで続いている。

広間中央の転送機は、動力が通じて
いないのか、作動する様子もなく
沈黙を保っている。

D・S:
これが自走砦――天守閣への転送機
だな。機能は死んじゃいねえようだが、
動力を他に回されてんのか?










D・S:
……ははあ、幻術が施された気配が
しやがるぜ

D・S:
バカめ! 同じような手が三度も
通用すると思ってやがんのかっ!

D・Sが魔力を放射すると、“幻”の
文字を記した扉が揺らぎ、消滅した。
その背後から、すでにロックの外れた
本物の隔壁が現れる。

ボル:
これは……!?

D・S:
隔壁の幻で本物を隠してやがった。
どうやら俺たちに幻影を送ってくる
ヤツは、この岩洞に隠れていやがる
ようだぜ










破界門から干渉を受けているのか、
大気は少しずつ波長を変えて振動し、
上に続く竪穴はそれを反響させて
調律の狂った楽器のように奇怪な
音色を奏でていた。

D・Sが印を結ぶと、各所の水晶が
反応して転送機に動力が蘇る。

D・S:
シーラ、待ってろ!










D・S:
引き返してるヒマはなさそうだ



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最終更新:2020年10月31日 21:12