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第一話 白光の観測者
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──サーバーV2134 "Null Verge" 状況:アクセス警告。ウイルス侵蝕度 82%。再構築処理不能領域。
沈黙のデータフィールドに、ただ一人の足音が鳴っていた。
瓦礫のように崩れかけたビル群。浮遊するコードの断片。空には静止した雲のようなノイズの層が広がっている。
その中心に佇む、白い影──
「……ログNo.2038、再構築。まだ、この地点の記録は残せる。」
少女──一ノ瀬あおいは、周囲を見回し、手元のクレンズギア〈スノウ=アーク〉を起動させた。
装備から放たれた蒼白い粒子が地面を走り、汚染された地形を一時的に安定させていく。
「データ保存領域、正常。ここは……まだ、間に合う。」
彼女の声は静かで、どこか無機質にも聞こえた。けれどその瞳の奥には、確かに強い意志が宿っている。
その時だった。
「──っ!」
空気が変わった。ノイズの層が脈動する。視界の隅で、黒い“影”が膨らみ始める。
「グリッチ個体、確認……識別コード無し。未登録体。」
それは人型にも見える、異常なコードの塊だった。
赤いラインが脈打ち、笑うように、なぎさの方へとにじり寄ってくる。
「無差別侵食型……交戦回避は不可。」
彼女はクレンズギアを握り直す。足元に雪のような粒子が集まり、空気が凍てついていく。
「──記録を、始める。」
そして、蒼の光が走った。
──記録を、始める。
あおいの声と同時に、クレンズギア〈スノウ=アーク〉が展開する。
背中の装置から広がる幾何学的なラインが空中に光を刻み、四方に拡散。
白く細かな粒子が舞い上がり、空間ごと温度が急低下していく。
「浄化モード、レイヤー・ゼロ──初期化」
前方のグリッチ個体が、ねじれるような動きで突進してくる。
脚も腕もないはずなのに、流体のように地面を這い、飛び、迫ってくる。
その軌道には赤黒い腐蝕の跡が残り、周囲のデータ地形すら溶けていく。
なぎさは静かに息を吸い込む。
「……想定より速い。でも──」
掌に光が集まり、鋭い結晶のような弾丸が生まれる。
空中に浮かんだ〈スノウ=アーク〉のコアユニットから光線が伸び、凍気が爆ぜた。
──“アーク・スプラッシュ”
氷の破片が射出され、グリッチ個体の前面を薙ぎ払う。
一瞬、動きが鈍る。だが完全に止まりはしない。
「第2層展開。補助ライン起動……」
彼女の足元に円形の魔法陣のような構造体が出現。
粒子が渦を巻き、二重構造のギアが音を立てて回り始めた。
「深層浄化モード、起動。デリート・ゾーン──」
あおいの瞳に淡く光るサークルが映る。
その中心にグリッチが飛び込んだ瞬間、冷気が爆発した。
ガァアァ──……ギ、ギギ──ィィ……!
異常な音がフィールドを満たす。
デリート・ゾーンの内部に囚われた個体は、激しくのたうち回りながら粒子化していく。
だが、最後の瞬間、グリッチは自らの体を裂き、何かの“記録データ”を外部に放とうとした。
あおいの目がわずかに見開かれる。
「……今のは、ログ……?」
咄嗟にセーフゾーンを広げ、データの断片をキャプチャする。
ノイズまみれの記録。けれど、その中に見覚えのある名前が一つ──
【ReBoot_Unit_A-07:ミヤコ=エノモト】
「……あなた、もしかして……」
凍てつく空間に、あおいの声が静かに響く。
まだ誰も知らない、このサーバーの“深層”へと続く、戦いの序章が始まろうとしていた。
──"記録終了。"
粒子の嵐が収まり、空間に残るのは静寂と、微かなノイズだけだった。
「……ReBoot_Unit_A-07、ミヤコ=エノモト。ログの一部に断片的な残存データ……」
あおいは目の前に浮かぶ記録を指先でなぞる。
白く光る残骸の一部には、確かにかつての機構ユニットのタグが刻まれていた。
「貴女の記録……何が起きたの?」
思わず口をついた言葉に、答えるものはない。
だが、背後からわずかに風を切る音がした。
──足音?
「……誰?」
振り返ると、破損したコードの山の上、逆光の中にシルエットが浮かんでいた。
「ずいぶん派手にやったな。白光ユニットってのは、あんな火力もあるのか?」
その声は軽く、けれど戦場を知る者の響きがあった。
あおいの視線の先にいたのは、深緑のジャケットを羽織った少年。
肩に機械仕掛けのドローンを一機載せ、腰には分解式のライフル。
「……識別コードを。」
「おっと、それが先か。こっちのプロトコルじゃ、挨拶の方が優先なんだけどな」
彼は手を挙げて笑った。
「俺はナダ=ラグランジュ。ReBootの外郭観測隊“ペリフェリア”。
ま、厳密には機構の正式メンバーじゃないが、ウイルスの腐れ縁とは長い」
あおいは、構えを解かずに問う。
「目的は? このエリアにアクセスできる許可はないはず」
「目的……それ、こっちが聞きたいくらいだ。
ここのデッドゾーンに単身で突っ込んで、未登録体を倒して、しかも何かを回収した?」
ナダの瞳が、浮かぶログの断片に向けられる。
「……まさか、お前……"ミヤコ=エノモト"を追ってるのか?」
あおいの指先が止まった。
「……知ってるの?」
「……ああ、昔、少しだけ一緒に動いた。あの人は……“このサーバーの核”に近づいてた」
ナダはため息を吐いて、ドローンを操作する。
「行こうぜ。俺の知ってる"最深部"に続くデッドリンクがまだ残ってる。
けど、一人じゃ突破できない。お前みたいなクレンズ使いが必要なんだよ」
あおいはしばらく黙っていたが、ふと顔を上げた。
「……分かった。条件は一つ。わたしが回収したログは……私のもの」
「OK。それで充分。俺の目的は“残った道”を開けることだからな」
二人は無言のまま、足を進めた。
空はノイズの波で揺れ、遥か遠くに沈んだ塔がゆっくりと姿を見せる。
そこが、“本当の始まり”だった。
瓦礫のように崩れかけたビル群。浮遊するコードの断片。空には静止した雲のようなノイズの層が広がっている。
その中心に佇む、白い影──
「……ログNo.2038、再構築。まだ、この地点の記録は残せる。」
少女──一ノ瀬あおいは、周囲を見回し、手元のクレンズギア〈スノウ=アーク〉を起動させた。
装備から放たれた蒼白い粒子が地面を走り、汚染された地形を一時的に安定させていく。
「データ保存領域、正常。ここは……まだ、間に合う。」
彼女の声は静かで、どこか無機質にも聞こえた。けれどその瞳の奥には、確かに強い意志が宿っている。
その時だった。
「──っ!」
空気が変わった。ノイズの層が脈動する。視界の隅で、黒い“影”が膨らみ始める。
「グリッチ個体、確認……識別コード無し。未登録体。」
それは人型にも見える、異常なコードの塊だった。
赤いラインが脈打ち、笑うように、なぎさの方へとにじり寄ってくる。
「無差別侵食型……交戦回避は不可。」
彼女はクレンズギアを握り直す。足元に雪のような粒子が集まり、空気が凍てついていく。
「──記録を、始める。」
そして、蒼の光が走った。
──記録を、始める。
あおいの声と同時に、クレンズギア〈スノウ=アーク〉が展開する。
背中の装置から広がる幾何学的なラインが空中に光を刻み、四方に拡散。
白く細かな粒子が舞い上がり、空間ごと温度が急低下していく。
「浄化モード、レイヤー・ゼロ──初期化」
前方のグリッチ個体が、ねじれるような動きで突進してくる。
脚も腕もないはずなのに、流体のように地面を這い、飛び、迫ってくる。
その軌道には赤黒い腐蝕の跡が残り、周囲のデータ地形すら溶けていく。
なぎさは静かに息を吸い込む。
「……想定より速い。でも──」
掌に光が集まり、鋭い結晶のような弾丸が生まれる。
空中に浮かんだ〈スノウ=アーク〉のコアユニットから光線が伸び、凍気が爆ぜた。
──“アーク・スプラッシュ”
氷の破片が射出され、グリッチ個体の前面を薙ぎ払う。
一瞬、動きが鈍る。だが完全に止まりはしない。
「第2層展開。補助ライン起動……」
彼女の足元に円形の魔法陣のような構造体が出現。
粒子が渦を巻き、二重構造のギアが音を立てて回り始めた。
「深層浄化モード、起動。デリート・ゾーン──」
あおいの瞳に淡く光るサークルが映る。
その中心にグリッチが飛び込んだ瞬間、冷気が爆発した。
ガァアァ──……ギ、ギギ──ィィ……!
異常な音がフィールドを満たす。
デリート・ゾーンの内部に囚われた個体は、激しくのたうち回りながら粒子化していく。
だが、最後の瞬間、グリッチは自らの体を裂き、何かの“記録データ”を外部に放とうとした。
あおいの目がわずかに見開かれる。
「……今のは、ログ……?」
咄嗟にセーフゾーンを広げ、データの断片をキャプチャする。
ノイズまみれの記録。けれど、その中に見覚えのある名前が一つ──
【ReBoot_Unit_A-07:ミヤコ=エノモト】
「……あなた、もしかして……」
凍てつく空間に、あおいの声が静かに響く。
まだ誰も知らない、このサーバーの“深層”へと続く、戦いの序章が始まろうとしていた。
──"記録終了。"
粒子の嵐が収まり、空間に残るのは静寂と、微かなノイズだけだった。
「……ReBoot_Unit_A-07、ミヤコ=エノモト。ログの一部に断片的な残存データ……」
あおいは目の前に浮かぶ記録を指先でなぞる。
白く光る残骸の一部には、確かにかつての機構ユニットのタグが刻まれていた。
「貴女の記録……何が起きたの?」
思わず口をついた言葉に、答えるものはない。
だが、背後からわずかに風を切る音がした。
──足音?
「……誰?」
振り返ると、破損したコードの山の上、逆光の中にシルエットが浮かんでいた。
「ずいぶん派手にやったな。白光ユニットってのは、あんな火力もあるのか?」
その声は軽く、けれど戦場を知る者の響きがあった。
あおいの視線の先にいたのは、深緑のジャケットを羽織った少年。
肩に機械仕掛けのドローンを一機載せ、腰には分解式のライフル。
「……識別コードを。」
「おっと、それが先か。こっちのプロトコルじゃ、挨拶の方が優先なんだけどな」
彼は手を挙げて笑った。
「俺はナダ=ラグランジュ。ReBootの外郭観測隊“ペリフェリア”。
ま、厳密には機構の正式メンバーじゃないが、ウイルスの腐れ縁とは長い」
あおいは、構えを解かずに問う。
「目的は? このエリアにアクセスできる許可はないはず」
「目的……それ、こっちが聞きたいくらいだ。
ここのデッドゾーンに単身で突っ込んで、未登録体を倒して、しかも何かを回収した?」
ナダの瞳が、浮かぶログの断片に向けられる。
「……まさか、お前……"ミヤコ=エノモト"を追ってるのか?」
あおいの指先が止まった。
「……知ってるの?」
「……ああ、昔、少しだけ一緒に動いた。あの人は……“このサーバーの核”に近づいてた」
ナダはため息を吐いて、ドローンを操作する。
「行こうぜ。俺の知ってる"最深部"に続くデッドリンクがまだ残ってる。
けど、一人じゃ突破できない。お前みたいなクレンズ使いが必要なんだよ」
あおいはしばらく黙っていたが、ふと顔を上げた。
「……分かった。条件は一つ。わたしが回収したログは……私のもの」
「OK。それで充分。俺の目的は“残った道”を開けることだからな」
二人は無言のまま、足を進めた。
空はノイズの波で揺れ、遥か遠くに沈んだ塔がゆっくりと姿を見せる。
そこが、“本当の始まり”だった。