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新しい開拓者たち
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棚に届いた新大陸
午後ののこまち書店に、まとまった数の新刊が届いた。
フェタシェールはレジ横へ積まれた箱を開き、納品書と照らし合わせながら一冊ずつ棚へ運んでいた。
小説。
料理本。
ファッション誌。
バーチャル世界の観光案内。
その中に、ほかよりも厚い一冊が混ざっている。
濃紺の表紙に描かれていたのは、霧の海を進む大船団だった。
まだ港もなかった新大陸。
船団へ迫る海賊船。
崖と深い谷に囲まれた未開拓地。
そして、開拓者たちの手によって建設された交易中央都市ターブルロンド。
表紙の上には、大きな文字で題名が記されていた。
<Frontier of Fortune アストラディール上陸戦記>
その下には、いくつもの見出しが並んでいる。
<大規模ギルドTRustDiamonD、一軍四部隊を投入>
<超遠距離狙撃が切り開いた海上航路>
<開拓者たちによる交易中央都市ターブルロンド設立>
その一つへ、フェタの視線が止まった。
<ギルド団ノ子、新大陸上陸戦へ参加>
ページを開く。
船の甲板で地図を囲む団ノ子。
険しい谷で輸送隊を守る団ノ子。
建設途中のターブルロンドで資材を運ぶ団ノ子。
学校ではお団子にまとめている髪を長く下ろし、刀を構えているチョコチップの姿もあった。
少し離れた場所には、崖の向こうを見ながら仲間へ何かを指示するみたらしっぽがいる。
「本当に出てるんだ……」
フェタは、思わず小さく呟いた。
みたらしっぽが最近、休み時間や放課後になると新大陸の地図を開いていたことは知っている。
隣の席なので、話を聞くこともあった。
海賊船が来たこと。
何日も谷を進んだこと。
何もなかった台地へ、少しずつ町ができていったこと。
ギルドハウスを王都から移したこと。
みたらしっぽは、聞けばかなり詳しく話してくれた。
ただ、画面の中の地図だけでは、どれほど大きな出来事だったのかまではわからなかった。
本の見開きに広がる船団と、何百人もの開拓者。
その一部として、見慣れた二人が写っている。
フェタは本を新刊台へ置く前に、DPo-Xで表紙を一枚だけ撮影した。
その時、店の扉につけられた小さなベルが鳴った。
「いらっしゃい」
顔を上げる。
フィリスフィナンシェとマリーシュトレンが、並んで店へ入ってきた。
「フェタ先輩、今月号は?」
フィナンシェが、いつものファッション誌を探して入口近くの棚へ向かう。
「入ってるよ。取り置きしてある」
「ありがとう」
フェタがレジの下から雑誌を出すと、フィナンシェは嬉しそうに受け取った。
シュトレンは、その隣に置かれた厚い本を見つける。
「これ、FoFの本?」
「今日入ったばかり」
フェタが答える。
「チョコちゃんたちが載ってるよ」
「チョコちゃんが?」
シュトレンとフィナンシェが、同時に本へ近づいた。
三人で、先ほどの特集ページを開く。
長い髪を風になびかせ、刀を抜いているチョコチップ。
その背後に、ギルド団ノ子の紋章が見える。
「チョコちゃん、学校と雰囲気が違うね」
シュトレンが写真を見つめる。
「FoFだと髪を下ろしてるんだ」
フィナンシェも、ページへ顔を近づけた。
「これ、みた先輩だよね?」
「うん」
フェタが頷く。
「最近ずっと、この大陸の話をしてた」
次のページには、交易中央都市ターブルロンドの建設記録が載っていた。
初日の台地。
仮設の柵。
建設途中の通り。
完成した都市。
同じ場所が少しずつ変わっていく様子が、何枚もの写真で紹介されている。
「プレイヤーが町を作ったの?」
シュトレンが尋ねる。
「NPCの職人もいるみたいだけど、資材を集めたり、道を守ったりしたのはプレイヤーだって」
「ゲームの中で、こんなに変わるんだ」
シュトレンは、完成した町の写真と建設前の台地を何度も見比べていた。
フィナンシェは、チョコチップの写真へ戻る。
「チョコちゃんからFoFの話は聞いたことがあるけど、こんな大きなことをしてるとは思わなかった」
「チョコちゃん、聞けば話してくれるけど、自分から大げさには言わないからね」
シュトレンが微笑む。
フェタも、みたらしっぽの写っているページへ目を向けた。
学校では、いつも通り隣の席に座っている。
授業を受け。
休み時間には友人と話し。
放課後になれば帰っていく。
けれど、そのあとには、こんな世界へ入っている。
「私も、少し気になってたんだよね」
フェタが言った。
「チョコちゃんもやってるし。みたも、本当に楽しそうに話すから」
フィナンシェは、本から顔を上げた。
「じゃあ、三人で始めてみる?」
決めるまでが早かった。
けれど、シュトレンも驚かなかった。
むしろ、少し嬉しそうに頷く。
「やってみたい。魔法も使えるんだよね?」
「私は弓がいいな」
フィナンシェは、既に自分が持つ武器まで決め始めている。
二人の視線がフェタへ向いた。
「フェタ先輩は?」
「まだ何も知らないから、武器まで決められないよ」
そう答えながらも、断るつもりはなかった。
フェタはKirscheの連絡画面を開く。
先ほど撮った本の表紙を送る。
<のこまち書店に入ってきた>
続けて、チョコチップの写っているページ。
<これ、チョコちゃんだよね?>
返事は、それほど待たずに届いた。
<はい。私です>
少し間が空く。
<もう本になっているんですね>
フィナンシェが、フェタの隣から入力する。
<私たちもFoFを始めてみたい>
今度の返事には、先ほどより少し時間がかかった。
<本当ですか?>
画面越しでも、チョコチップが驚いていることがわかった。
<はい。ぜひ一緒に遊びましょう>
さらに続けて、
<先輩にも伝えておきます>
と届いた。
三人は、もう一度本を見た。
新大陸の地図は、ほとんどが白いままだった。
今の三人には、まだ遠い場所なのだろう。
それでも。
FoFへ入る理由としては、十分だった。
フェタシェールはレジ横へ積まれた箱を開き、納品書と照らし合わせながら一冊ずつ棚へ運んでいた。
小説。
料理本。
ファッション誌。
バーチャル世界の観光案内。
その中に、ほかよりも厚い一冊が混ざっている。
濃紺の表紙に描かれていたのは、霧の海を進む大船団だった。
まだ港もなかった新大陸。
船団へ迫る海賊船。
崖と深い谷に囲まれた未開拓地。
そして、開拓者たちの手によって建設された交易中央都市ターブルロンド。
表紙の上には、大きな文字で題名が記されていた。
<Frontier of Fortune アストラディール上陸戦記>
その下には、いくつもの見出しが並んでいる。
<大規模ギルドTRustDiamonD、一軍四部隊を投入>
<超遠距離狙撃が切り開いた海上航路>
<開拓者たちによる交易中央都市ターブルロンド設立>
その一つへ、フェタの視線が止まった。
<ギルド団ノ子、新大陸上陸戦へ参加>
ページを開く。
船の甲板で地図を囲む団ノ子。
険しい谷で輸送隊を守る団ノ子。
建設途中のターブルロンドで資材を運ぶ団ノ子。
学校ではお団子にまとめている髪を長く下ろし、刀を構えているチョコチップの姿もあった。
少し離れた場所には、崖の向こうを見ながら仲間へ何かを指示するみたらしっぽがいる。
「本当に出てるんだ……」
フェタは、思わず小さく呟いた。
みたらしっぽが最近、休み時間や放課後になると新大陸の地図を開いていたことは知っている。
隣の席なので、話を聞くこともあった。
海賊船が来たこと。
何日も谷を進んだこと。
何もなかった台地へ、少しずつ町ができていったこと。
ギルドハウスを王都から移したこと。
みたらしっぽは、聞けばかなり詳しく話してくれた。
ただ、画面の中の地図だけでは、どれほど大きな出来事だったのかまではわからなかった。
本の見開きに広がる船団と、何百人もの開拓者。
その一部として、見慣れた二人が写っている。
フェタは本を新刊台へ置く前に、DPo-Xで表紙を一枚だけ撮影した。
その時、店の扉につけられた小さなベルが鳴った。
「いらっしゃい」
顔を上げる。
フィリスフィナンシェとマリーシュトレンが、並んで店へ入ってきた。
「フェタ先輩、今月号は?」
フィナンシェが、いつものファッション誌を探して入口近くの棚へ向かう。
「入ってるよ。取り置きしてある」
「ありがとう」
フェタがレジの下から雑誌を出すと、フィナンシェは嬉しそうに受け取った。
シュトレンは、その隣に置かれた厚い本を見つける。
「これ、FoFの本?」
「今日入ったばかり」
フェタが答える。
「チョコちゃんたちが載ってるよ」
「チョコちゃんが?」
シュトレンとフィナンシェが、同時に本へ近づいた。
三人で、先ほどの特集ページを開く。
長い髪を風になびかせ、刀を抜いているチョコチップ。
その背後に、ギルド団ノ子の紋章が見える。
「チョコちゃん、学校と雰囲気が違うね」
シュトレンが写真を見つめる。
「FoFだと髪を下ろしてるんだ」
フィナンシェも、ページへ顔を近づけた。
「これ、みた先輩だよね?」
「うん」
フェタが頷く。
「最近ずっと、この大陸の話をしてた」
次のページには、交易中央都市ターブルロンドの建設記録が載っていた。
初日の台地。
仮設の柵。
建設途中の通り。
完成した都市。
同じ場所が少しずつ変わっていく様子が、何枚もの写真で紹介されている。
「プレイヤーが町を作ったの?」
シュトレンが尋ねる。
「NPCの職人もいるみたいだけど、資材を集めたり、道を守ったりしたのはプレイヤーだって」
「ゲームの中で、こんなに変わるんだ」
シュトレンは、完成した町の写真と建設前の台地を何度も見比べていた。
フィナンシェは、チョコチップの写真へ戻る。
「チョコちゃんからFoFの話は聞いたことがあるけど、こんな大きなことをしてるとは思わなかった」
「チョコちゃん、聞けば話してくれるけど、自分から大げさには言わないからね」
シュトレンが微笑む。
フェタも、みたらしっぽの写っているページへ目を向けた。
学校では、いつも通り隣の席に座っている。
授業を受け。
休み時間には友人と話し。
放課後になれば帰っていく。
けれど、そのあとには、こんな世界へ入っている。
「私も、少し気になってたんだよね」
フェタが言った。
「チョコちゃんもやってるし。みたも、本当に楽しそうに話すから」
フィナンシェは、本から顔を上げた。
「じゃあ、三人で始めてみる?」
決めるまでが早かった。
けれど、シュトレンも驚かなかった。
むしろ、少し嬉しそうに頷く。
「やってみたい。魔法も使えるんだよね?」
「私は弓がいいな」
フィナンシェは、既に自分が持つ武器まで決め始めている。
二人の視線がフェタへ向いた。
「フェタ先輩は?」
「まだ何も知らないから、武器まで決められないよ」
そう答えながらも、断るつもりはなかった。
フェタはKirscheの連絡画面を開く。
先ほど撮った本の表紙を送る。
<のこまち書店に入ってきた>
続けて、チョコチップの写っているページ。
<これ、チョコちゃんだよね?>
返事は、それほど待たずに届いた。
<はい。私です>
少し間が空く。
<もう本になっているんですね>
フィナンシェが、フェタの隣から入力する。
<私たちもFoFを始めてみたい>
今度の返事には、先ほどより少し時間がかかった。
<本当ですか?>
画面越しでも、チョコチップが驚いていることがわかった。
<はい。ぜひ一緒に遊びましょう>
さらに続けて、
<先輩にも伝えておきます>
と届いた。
三人は、もう一度本を見た。
新大陸の地図は、ほとんどが白いままだった。
今の三人には、まだ遠い場所なのだろう。
それでも。
FoFへ入る理由としては、十分だった。
みたらしっぽの話
翌日の昼休み。
フェタは隣の席に座るみたらしっぽへ、例の本を見せた。
「みた、これ見たよ」
みたらしっぽは、表紙へ目を落とす。
「もう出たんだ」
「自分が載ってるのに、あまり驚かないんだね」
「攻略記録を本にするって話は聞いてたから。でも、団ノ子がこんなに大きく載るとは思わなかった」
ページをめくる。
船上での海賊戦。
谷の輸送戦。
ターブルロンド建設。
王都からのギルドハウス移転。
みたらしっぽは、写真を見ながら、撮影された時には気づかなかった場面を一つずつ確認していた。
「この写真、スフレの機械も写ってる」
「小さいね」
「本人が見たら喜ぶと思う。町の建設で、ずっと改良してたから」
みたらしっぽの声は、普段より少し弾んでいた。
フェタは、その横顔を見る。
FoFの話をする時。
みたらしっぽは、ただゲームの攻略情報を説明しているだけではない。
自分が見た場所。
仲間がしていたこと。
思い通りにいかなかったこと。
その全部を、今も楽しかったものとして話している。
「チョコちゃんから聞いた?」
フェタが尋ねる。
「シュトレンさんたちが始めたいって話?」
「うん。私も一緒に」
「聞いたよ」
みたらしっぽは本を閉じ、フェタへ返した。
「最初から新大陸へは行けないけど、始めるなら案内する」
「かなり難しい?」
「最初は、操作に慣れるまで少し大変かも。でも、難しい敵を倒すだけがFoFじゃないから」
みたらしっぽはDPo-Xへ、現在の世界地図を開いた。
ペル・ゼノン。
いくつもの街。
森。
山。
雪原。
海。
そして、遠く離れたアストラディール。
「強い人が先へ進んでいても、初めて町の外へ出た時に何を見つけるかは、その人ごとに違うんだよ」
地図の上には、有名な攻略場所だけでなく、小さな道や集落まで記されている。
「誰かが見つけた道を歩いてもいいし、自分で脇道へ入ってもいい。戦わないで町を見て回る日があってもいいし、素材を集めて何かを作ってもいい」
「みたは、最初から戦うのが好きだったの?」
「最初は、何をしたらいいかもわかってなかったよ」
みたらしっぽは少し笑った。
「クラスも何度か変えたし、遠くへ行こうとして普通に迷った。ギルドを作ったのも、世界が広すぎて四人だけでは見切れないと思ったから」
フェタが地図へ視線を戻す。
「今は、町まで作ってる」
「町を作ったのは、何百人もいた大部隊だけどね」
「それでも、その中にいたんでしょ?」
「うん」
みたらしっぽは素直に頷いた。
「楽しかったよ。道を一本守ったら、次の日にその先へ店ができてた。昨日まで何もなかった場所へ帰る場所が増えていくのは、普通の攻略とは違った」
授業の話よりも。
学校行事の相談よりも。
みたらしっぽはずっとよく話していた。
フェタは、彼がここまでFoFへ夢中になる理由を、少しだけ理解できた気がした。
「最初にやるなら、何を選べばいい?」
「好きなものを選んでいいよ。クラスごとにレベルが分かれているから、あとから別のクラスを育てることもできる」
「適当に決めても大丈夫?」
「適当というより、今一番使ってみたいものを選べばいい。最初から最終形を決めなくても、遊んでいるうちに変わるから」
みたらしっぽは、三人の名前をパーティー予定へ登録した。
「今日の放課後、キャラクターを作る?」
「みんなに聞いてみる」
「僕とチョコも行くよ。最初の町で待ってる」
その日のKirscheには、すぐに予定が入った。
<本日放課後 FoF>
フィナンシェから、
<準備します>
シュトレンから、
<楽しみ!>
と返事が届く。
その下へチョコチップも、
<最初の町でお待ちしています>
と送っていた。
フェタは隣の席に座るみたらしっぽへ、例の本を見せた。
「みた、これ見たよ」
みたらしっぽは、表紙へ目を落とす。
「もう出たんだ」
「自分が載ってるのに、あまり驚かないんだね」
「攻略記録を本にするって話は聞いてたから。でも、団ノ子がこんなに大きく載るとは思わなかった」
ページをめくる。
船上での海賊戦。
谷の輸送戦。
ターブルロンド建設。
王都からのギルドハウス移転。
みたらしっぽは、写真を見ながら、撮影された時には気づかなかった場面を一つずつ確認していた。
「この写真、スフレの機械も写ってる」
「小さいね」
「本人が見たら喜ぶと思う。町の建設で、ずっと改良してたから」
みたらしっぽの声は、普段より少し弾んでいた。
フェタは、その横顔を見る。
FoFの話をする時。
みたらしっぽは、ただゲームの攻略情報を説明しているだけではない。
自分が見た場所。
仲間がしていたこと。
思い通りにいかなかったこと。
その全部を、今も楽しかったものとして話している。
「チョコちゃんから聞いた?」
フェタが尋ねる。
「シュトレンさんたちが始めたいって話?」
「うん。私も一緒に」
「聞いたよ」
みたらしっぽは本を閉じ、フェタへ返した。
「最初から新大陸へは行けないけど、始めるなら案内する」
「かなり難しい?」
「最初は、操作に慣れるまで少し大変かも。でも、難しい敵を倒すだけがFoFじゃないから」
みたらしっぽはDPo-Xへ、現在の世界地図を開いた。
ペル・ゼノン。
いくつもの街。
森。
山。
雪原。
海。
そして、遠く離れたアストラディール。
「強い人が先へ進んでいても、初めて町の外へ出た時に何を見つけるかは、その人ごとに違うんだよ」
地図の上には、有名な攻略場所だけでなく、小さな道や集落まで記されている。
「誰かが見つけた道を歩いてもいいし、自分で脇道へ入ってもいい。戦わないで町を見て回る日があってもいいし、素材を集めて何かを作ってもいい」
「みたは、最初から戦うのが好きだったの?」
「最初は、何をしたらいいかもわかってなかったよ」
みたらしっぽは少し笑った。
「クラスも何度か変えたし、遠くへ行こうとして普通に迷った。ギルドを作ったのも、世界が広すぎて四人だけでは見切れないと思ったから」
フェタが地図へ視線を戻す。
「今は、町まで作ってる」
「町を作ったのは、何百人もいた大部隊だけどね」
「それでも、その中にいたんでしょ?」
「うん」
みたらしっぽは素直に頷いた。
「楽しかったよ。道を一本守ったら、次の日にその先へ店ができてた。昨日まで何もなかった場所へ帰る場所が増えていくのは、普通の攻略とは違った」
授業の話よりも。
学校行事の相談よりも。
みたらしっぽはずっとよく話していた。
フェタは、彼がここまでFoFへ夢中になる理由を、少しだけ理解できた気がした。
「最初にやるなら、何を選べばいい?」
「好きなものを選んでいいよ。クラスごとにレベルが分かれているから、あとから別のクラスを育てることもできる」
「適当に決めても大丈夫?」
「適当というより、今一番使ってみたいものを選べばいい。最初から最終形を決めなくても、遊んでいるうちに変わるから」
みたらしっぽは、三人の名前をパーティー予定へ登録した。
「今日の放課後、キャラクターを作る?」
「みんなに聞いてみる」
「僕とチョコも行くよ。最初の町で待ってる」
その日のKirscheには、すぐに予定が入った。
<本日放課後 FoF>
フィナンシェから、
<準備します>
シュトレンから、
<楽しみ!>
と返事が届く。
その下へチョコチップも、
<最初の町でお待ちしています>
と送っていた。
三人のキャラクター
放課後。
それぞれが自宅からFoFへ接続した。
フェタが最初に目を開けた場所は、何もない白い空間だった。
正面には、大きな鏡。
その横へ、キャラクター作成の項目が並んでいる。
体格。
髪。
瞳。
声。
種族的特徴。
服装。
現実の姿をそのまま使うこともできる。
まったく違う姿へ変えることもできる。
フェタは、自分とかけ離れた姿へするつもりはなかった。
髪型は普段に近いまま。
髪色だけ、少し深い紫へ変える。
瞳も、同じ色に合わせた。
動きやすそうな初期衣装を選び、余計な装飾はつけない。
姿を決めたあと。
五つの初期戦闘クラスが表示された。
《ファイター》
《シーフ》
《クレリック》
《レンジャー》
《メイジ》
みたらしっぽの声が、パーティー通信から届く。
『見えてる?』
「見えてる」
『武器も試せるから、決める前に一度持ってみるといいよ』
フェタは《ファイター》を選択し、片手剣と小型盾を呼び出した。
左腕へ盾をつける。
右手に剣を持つ。
思っていたよりも重さは感じない。
けれど、何も持っていない時より、立つ位置がはっきりした。
盾を前へ出せば。
自分の後ろに、誰かが入れる。
「私は、これにしようかな」
『ファイター?』
「三人で遊ぶなら、誰かが前にいた方がよさそうだから」
『いいと思う。でも、ずっと前衛をやらないといけないわけじゃないからね』
「わかってる。まずは試してみる」
フェタが決定を押す。
<初期戦闘クラス:《ファイター》>
別の作成空間では。
シュトレンが《メイジ》を選んでいた。
FoFでの彼女は、現実よりも明るい髪色へ変えている。
白に近い髪を、片側でまとめた長いサイドポニー。
淡い青と白を基調にした衣装。
手元には、小さな魔導書が浮かんでいた。
ページを開くと、青白い魔力が結晶の欠片のように広がる。
「きれい……」
シュトレンは、自分の指先へ集まる光を見つめた。
ピアノの鍵盤へ触れる時とは違う。
それでも。
指の動きに合わせ、魔力が一つずつ形を作っていく感覚には、どこか惹かれるものがあった。
<初期戦闘クラス:《メイジ》>
フィナンシェは《レンジャー》を選んだ。
FoFでは、金色の髪を左右のツインテールへまとめている。
黒と黄色を使った軽い上着。
腰回りを邪魔しない短いボトムス。
足元は、見た目だけでなく草原や森を歩きやすいブーツへ変えた。
「これなら、弓を引く時にも袖が当たらないね」
初期武器の小弓を持ち。
弦を一度だけ引く。
矢をつがえていないため、音だけが小さく響いた。
<初期戦闘クラス:《レンジャー》>
三人の作成が終わる。
視界が光に包まれ。
次に目を開けると、石造りの小さな町へ立っていた。
低い建物。
中央の噴水。
道具屋。
宿屋。
町の外へ続く木の門。
多くの初心者が、案内役のNPCへ話しかけたり、武器を確かめたりしている。
「フェタ先輩!」
聞き慣れた声へ振り返る。
金髪のツインテールを揺らしながら、フィナンシェが駆けてきた。
その後ろから、白い髪のシュトレンも歩いてくる。
三人で顔を見合わせた。
普段とは違う。
それでも、誰なのかはすぐにわかる。
「フィナンシェちゃん、雰囲気が変わったね」
「似合ってる?」
「うん。すごく」
シュトレンも、魔導書を胸元へ抱えた。
「私はどうかな?」
「きれい。魔法使いらしいよ」
フィナンシェが答える。
フェタも、二人の姿を順番に見る。
「二人とも、ちゃんと自分で選んだ感じがする」
噴水の向こうから、二人の姿が近づいてきた。
一人はみたらしっぽ。
もう一人は、長い髪を下ろし、長刀を腰へ差したチョコチップだった。
「レンちゃん、フィーちゃん、フェタ先輩」
チョコチップの表情が明るくなる。
「本当に来てくださったんですね」
「来たよ、チョコちゃん」
シュトレンが、長い髪を見つめる。
「FoFだと、本当に髪を下ろしてるんだね」
「はい。こちらでは、この姿にしています」
「似合ってる」
フィナンシェも、すぐに言った。
チョコチップは少し照れながら、それでも嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます」
みたらしっぽは、三人のクラス表示を確認した。
「ファイター、レンジャー、メイジ。三人だけでも、かなり動きやすい構成になったね」
「みたは何で来たの?」
フェタが尋ねる。
みたらしっぽの手には、普段使っている二本の剣ではなく、小さな杖があった。
「今日は《クレリック》」
「回復するクラス?」
「うん。ほとんど育てていないから、三人と同じくらいのレベルで動ける。僕とチョコは、基本的には案内役」
チョコチップも、自分の刀へ手を添える。
「危険な時だけお手伝いします。最初の敵は、三人で戦ってみてください」
みたらしっぽが、町の門へ向かって歩き始めた。
「まずは外へ出よう。操作説明だけでは、武器の使い方まではわからないから」
五人は、最初の町から草原へ向かった。
それぞれが自宅からFoFへ接続した。
フェタが最初に目を開けた場所は、何もない白い空間だった。
正面には、大きな鏡。
その横へ、キャラクター作成の項目が並んでいる。
体格。
髪。
瞳。
声。
種族的特徴。
服装。
現実の姿をそのまま使うこともできる。
まったく違う姿へ変えることもできる。
フェタは、自分とかけ離れた姿へするつもりはなかった。
髪型は普段に近いまま。
髪色だけ、少し深い紫へ変える。
瞳も、同じ色に合わせた。
動きやすそうな初期衣装を選び、余計な装飾はつけない。
姿を決めたあと。
五つの初期戦闘クラスが表示された。
《ファイター》
《シーフ》
《クレリック》
《レンジャー》
《メイジ》
みたらしっぽの声が、パーティー通信から届く。
『見えてる?』
「見えてる」
『武器も試せるから、決める前に一度持ってみるといいよ』
フェタは《ファイター》を選択し、片手剣と小型盾を呼び出した。
左腕へ盾をつける。
右手に剣を持つ。
思っていたよりも重さは感じない。
けれど、何も持っていない時より、立つ位置がはっきりした。
盾を前へ出せば。
自分の後ろに、誰かが入れる。
「私は、これにしようかな」
『ファイター?』
「三人で遊ぶなら、誰かが前にいた方がよさそうだから」
『いいと思う。でも、ずっと前衛をやらないといけないわけじゃないからね』
「わかってる。まずは試してみる」
フェタが決定を押す。
<初期戦闘クラス:《ファイター》>
別の作成空間では。
シュトレンが《メイジ》を選んでいた。
FoFでの彼女は、現実よりも明るい髪色へ変えている。
白に近い髪を、片側でまとめた長いサイドポニー。
淡い青と白を基調にした衣装。
手元には、小さな魔導書が浮かんでいた。
ページを開くと、青白い魔力が結晶の欠片のように広がる。
「きれい……」
シュトレンは、自分の指先へ集まる光を見つめた。
ピアノの鍵盤へ触れる時とは違う。
それでも。
指の動きに合わせ、魔力が一つずつ形を作っていく感覚には、どこか惹かれるものがあった。
<初期戦闘クラス:《メイジ》>
フィナンシェは《レンジャー》を選んだ。
FoFでは、金色の髪を左右のツインテールへまとめている。
黒と黄色を使った軽い上着。
腰回りを邪魔しない短いボトムス。
足元は、見た目だけでなく草原や森を歩きやすいブーツへ変えた。
「これなら、弓を引く時にも袖が当たらないね」
初期武器の小弓を持ち。
弦を一度だけ引く。
矢をつがえていないため、音だけが小さく響いた。
<初期戦闘クラス:《レンジャー》>
三人の作成が終わる。
視界が光に包まれ。
次に目を開けると、石造りの小さな町へ立っていた。
低い建物。
中央の噴水。
道具屋。
宿屋。
町の外へ続く木の門。
多くの初心者が、案内役のNPCへ話しかけたり、武器を確かめたりしている。
「フェタ先輩!」
聞き慣れた声へ振り返る。
金髪のツインテールを揺らしながら、フィナンシェが駆けてきた。
その後ろから、白い髪のシュトレンも歩いてくる。
三人で顔を見合わせた。
普段とは違う。
それでも、誰なのかはすぐにわかる。
「フィナンシェちゃん、雰囲気が変わったね」
「似合ってる?」
「うん。すごく」
シュトレンも、魔導書を胸元へ抱えた。
「私はどうかな?」
「きれい。魔法使いらしいよ」
フィナンシェが答える。
フェタも、二人の姿を順番に見る。
「二人とも、ちゃんと自分で選んだ感じがする」
噴水の向こうから、二人の姿が近づいてきた。
一人はみたらしっぽ。
もう一人は、長い髪を下ろし、長刀を腰へ差したチョコチップだった。
「レンちゃん、フィーちゃん、フェタ先輩」
チョコチップの表情が明るくなる。
「本当に来てくださったんですね」
「来たよ、チョコちゃん」
シュトレンが、長い髪を見つめる。
「FoFだと、本当に髪を下ろしてるんだね」
「はい。こちらでは、この姿にしています」
「似合ってる」
フィナンシェも、すぐに言った。
チョコチップは少し照れながら、それでも嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます」
みたらしっぽは、三人のクラス表示を確認した。
「ファイター、レンジャー、メイジ。三人だけでも、かなり動きやすい構成になったね」
「みたは何で来たの?」
フェタが尋ねる。
みたらしっぽの手には、普段使っている二本の剣ではなく、小さな杖があった。
「今日は《クレリック》」
「回復するクラス?」
「うん。ほとんど育てていないから、三人と同じくらいのレベルで動ける。僕とチョコは、基本的には案内役」
チョコチップも、自分の刀へ手を添える。
「危険な時だけお手伝いします。最初の敵は、三人で戦ってみてください」
みたらしっぽが、町の門へ向かって歩き始めた。
「まずは外へ出よう。操作説明だけでは、武器の使い方まではわからないから」
五人は、最初の町から草原へ向かった。
最初の一体
町の外には、緩やかな草原が広がっていた。
低い丘。
細い小川。
遠くに見える林。
道の近くでは、初心者向けの小型魔物が何体か歩いている。
みたらしっぽは、五人を道から少し外れた場所へ案内した。
「あれにしよう」
示した先にいたのは、額へ短い角を持つ兎型の魔物だった。
見た目は小さい。
けれど、地面を蹴る脚にはかなりの力があるらしい。
<草角ラビット Lv.2>
「戦い方は、一つだけ覚えればいい」
みたらしっぽが言う。
「一人で全部しようとしないこと。フェタが正面に立つ。フィナンシェさんは少し離れて弓を使う。シュトレンさんは、フェタのすぐ後ろではなく、魔物の横が見える位置へ」
三人が、それぞれの場所へ移る。
チョコチップは少し離れた場所から見守っていた。
「フェタ先輩。盾を構えたまま動いても大丈夫です。最初は、攻撃よりも相手を見ることを意識してください」
「わかった」
フェタは盾を前へ出した。
みたらしっぽが頷く。
「始めていいよ」
フェタが一歩近づく。
草角ラビットが顔を上げた。
一瞬の間。
次の瞬間には、地面を強く蹴っていた。
「速い……!」
角が盾へぶつかる。
フェタの身体が後ろへ押された。
倒れはしなかったが、剣を振る余裕はない。
フィナンシェが矢をつがえる。
弦を引き。
放つ。
矢は草角ラビットの横を通り過ぎ、地面へ刺さった。
「外れた」
シュトレンは魔導書を開く。
浮かび上がった術式へ手を伸ばす。
青白い魔力弾。
しかし。
発動した時には草角ラビットが再び跳んでいた。
魔力は空を抜け、フェタのすぐ横にある地面へ着弾した。
小さな光と風が広がる。
「フェタ先輩、ごめん!」
「大丈夫。びっくりしただけ」
草角ラビットが、もう一度フェタへ向かう。
今度はフェタも動きを見ていた。
真っすぐ突進してくる直前。
わずかに頭が下がる。
「来るよ」
盾を少し斜めへ向ける。
角が盾の表面を滑り、魔物の身体が横へ流れた。
「今です、フィーちゃん!」
チョコチップの声。
フィナンシェは、先ほどより短く弦を引いた。
放った矢が、草角ラビットの胴へ刺さる。
魔物の動きが止まった。
シュトレンも、今度は慌てずに術式を完成させる。
青白い光が、結晶の欠片を散らしながら命中した。
フェタが剣を振る。
三人の攻撃を受けた草角ラビットは、淡い光の粒となって消えていった。
<討伐成功>
<経験値を獲得しました>
三人の身体を、小さな光が包む。
フィナンシェは、地面へ刺さった自分の最初の矢と、魔物へ命中した二本目を見比べた。
「当たった」
声には、驚きと喜びが同時に混じっていた。
シュトレンも魔導書へ目を落とす。
「魔法、本当に出たね」
「出るよ」
みたらしっぽが笑う。
「最初の一体は、思ったように動けない方が普通だから。今ので、相手の速さも、自分の武器の間合いも少しわかったと思う」
フェタは盾を下ろした。
最初に受けた衝撃が、まだ腕へ残っている気がする。
「小さいのに、結構強かった」
「レベルが同じくらいだからね」
「先輩たちも、最初はこうだったんですか?」
シュトレンが尋ねる。
「僕は、盾も持たずに正面から攻撃して、そのまま何度か倒されたよ」
みたらしっぽは隠さず答えた。
「チョコは、僕が教えたから少し早かったけど、それでも最初から今みたいに刀を使えたわけじゃない」
チョコチップも頷く。
「攻撃を受け流すつもりで、そのまま受けてしまったこともあります」
三人は、もう一度草原を見る。
さっきまで、ただ歩いているだけに見えた魔物。
今は。
一体ごとに動きが違って見えた。
「次も行ってみる?」
みたらしっぽが尋ねる。
三人の返事は、ほとんど同時だった。
低い丘。
細い小川。
遠くに見える林。
道の近くでは、初心者向けの小型魔物が何体か歩いている。
みたらしっぽは、五人を道から少し外れた場所へ案内した。
「あれにしよう」
示した先にいたのは、額へ短い角を持つ兎型の魔物だった。
見た目は小さい。
けれど、地面を蹴る脚にはかなりの力があるらしい。
<草角ラビット Lv.2>
「戦い方は、一つだけ覚えればいい」
みたらしっぽが言う。
「一人で全部しようとしないこと。フェタが正面に立つ。フィナンシェさんは少し離れて弓を使う。シュトレンさんは、フェタのすぐ後ろではなく、魔物の横が見える位置へ」
三人が、それぞれの場所へ移る。
チョコチップは少し離れた場所から見守っていた。
「フェタ先輩。盾を構えたまま動いても大丈夫です。最初は、攻撃よりも相手を見ることを意識してください」
「わかった」
フェタは盾を前へ出した。
みたらしっぽが頷く。
「始めていいよ」
フェタが一歩近づく。
草角ラビットが顔を上げた。
一瞬の間。
次の瞬間には、地面を強く蹴っていた。
「速い……!」
角が盾へぶつかる。
フェタの身体が後ろへ押された。
倒れはしなかったが、剣を振る余裕はない。
フィナンシェが矢をつがえる。
弦を引き。
放つ。
矢は草角ラビットの横を通り過ぎ、地面へ刺さった。
「外れた」
シュトレンは魔導書を開く。
浮かび上がった術式へ手を伸ばす。
青白い魔力弾。
しかし。
発動した時には草角ラビットが再び跳んでいた。
魔力は空を抜け、フェタのすぐ横にある地面へ着弾した。
小さな光と風が広がる。
「フェタ先輩、ごめん!」
「大丈夫。びっくりしただけ」
草角ラビットが、もう一度フェタへ向かう。
今度はフェタも動きを見ていた。
真っすぐ突進してくる直前。
わずかに頭が下がる。
「来るよ」
盾を少し斜めへ向ける。
角が盾の表面を滑り、魔物の身体が横へ流れた。
「今です、フィーちゃん!」
チョコチップの声。
フィナンシェは、先ほどより短く弦を引いた。
放った矢が、草角ラビットの胴へ刺さる。
魔物の動きが止まった。
シュトレンも、今度は慌てずに術式を完成させる。
青白い光が、結晶の欠片を散らしながら命中した。
フェタが剣を振る。
三人の攻撃を受けた草角ラビットは、淡い光の粒となって消えていった。
<討伐成功>
<経験値を獲得しました>
三人の身体を、小さな光が包む。
フィナンシェは、地面へ刺さった自分の最初の矢と、魔物へ命中した二本目を見比べた。
「当たった」
声には、驚きと喜びが同時に混じっていた。
シュトレンも魔導書へ目を落とす。
「魔法、本当に出たね」
「出るよ」
みたらしっぽが笑う。
「最初の一体は、思ったように動けない方が普通だから。今ので、相手の速さも、自分の武器の間合いも少しわかったと思う」
フェタは盾を下ろした。
最初に受けた衝撃が、まだ腕へ残っている気がする。
「小さいのに、結構強かった」
「レベルが同じくらいだからね」
「先輩たちも、最初はこうだったんですか?」
シュトレンが尋ねる。
「僕は、盾も持たずに正面から攻撃して、そのまま何度か倒されたよ」
みたらしっぽは隠さず答えた。
「チョコは、僕が教えたから少し早かったけど、それでも最初から今みたいに刀を使えたわけじゃない」
チョコチップも頷く。
「攻撃を受け流すつもりで、そのまま受けてしまったこともあります」
三人は、もう一度草原を見る。
さっきまで、ただ歩いているだけに見えた魔物。
今は。
一体ごとに動きが違って見えた。
「次も行ってみる?」
みたらしっぽが尋ねる。
三人の返事は、ほとんど同時だった。
少しずつ強くなる
それから数日。
三人は放課後になるとFoFへ入り、少しずつレベルを上げていった。
毎日、みたらしっぽとチョコチップが一緒にいるわけではない。
二人が団ノ子の活動へ参加している夜には、三人だけで町の近くを歩いた。
最初は、町から遠くへ行きすぎないようにしていた。
草原で小型魔物を倒す。
林の入口で薬草を集める。
NPCの商人から頼まれ、近くの農場まで荷物を届ける。
道の途中で現れた魔物を、三人で追い返す。
一つの依頼を終えるたび。
経験値。
少しの報酬。
新しい装備。
次の場所へ続く話が増えていく。
フェタは、盾の使い方へ少しずつ慣れていった。
正面からすべて受け止めるのではなく。
相手の攻撃へ角度を合わせる。
盾で視界を隠しすぎない。
自分が動けば、後ろにいる二人が攻撃しやすい位置も変わる。
レベルが上がり、《挑発》を覚えると、複数の敵から三人を守りやすくなった。
フィナンシェは、弓を引く時間を覚えた。
長く引けば威力は上がる。
けれど、狙っている間も敵は動く。
最初の頃は、確実に当てようとして機会を逃していた。
今では、動きを見ながら短く放つ矢と、弱点へ狙いを定める一撃を使い分けている。
装備を買う時には、性能だけでなく見た目も細かく確かめた。
ただし。
袖が弦へ触れないこと。
矢筒へ手を伸ばしやすいこと。
森で枝へ引っかからないこと。
実際に戦ってみたことで、選ぶ基準も増えていた。
シュトレンは、いくつかの攻撃魔法を覚えた。
小さな魔力弾。
足元から伸びる光の柱。
複数の敵へ広がる魔法陣。
中でも気に入ったのは、魔力が青白い結晶のように固まり、敵の動きを一瞬だけ鈍らせる術だった。
魔導書の上で指を動かし。
術式を組み上げる。
以前より、詠唱を始める場所へ気を配るようになった。
フェタが敵を止める。
フィナンシェが距離を取り。
シュトレンが魔法を重ねる。
三人の動きは、少しずつ形になっていった。
ある夜。
みたらしっぽが久しぶりに合流すると、三人だけで二体の魔物を相手にしているところだった。
フェタが一体を引きつける。
フィナンシェの矢が、もう一体の脚を射抜く。
動きが止まったところへ、シュトレンの魔法が入る。
みたらしっぽとチョコチップは、少し離れた場所で手を出さずに見ていた。
最後の魔物が消える。
フィナンシェが振り返った。
「今の、見てましたか?」
「見てたよ」
みたらしっぽは頷く。
「三人とも、最初とは全然違う」
フェタは剣を鞘へ戻した。
「みたたちがいない日にも、少しやってたから」
「その方がいいと思う。僕やチョコのやり方だけを真似するより、三人で合う動きを見つけた方が長く遊べるから」
チョコチップも、嬉しそうに三人を見る。
「レンちゃんの魔法、きれいでした。フィーちゃんも、動いている敵へ当てられるようになりましたね」
「フェタ先輩が止めてくれるから狙えるんだよ」
フィナンシェが答える。
フェタも、二人へ視線を向けた。
「後ろから攻撃してくれるってわかってるから、前に立てるんだと思う」
自然に出た言葉だった。
三人は、もう最初の一体を別々に追いかけていた頃とは違う。
みたらしっぽは、三人のレベルと装備を確認した。
「そろそろ、小さいダンジョンへ行ってみる?」
シュトレンの表情が明るくなる。
「行けるの?」
「初心者向けなら。町の北に、短いダンジョンがある」
地図へ、小さな入口が表示された。
<風鳴りの旧礼拝堂>
<推奨レベル:10>
<小規模ダンジョン>
フィナンシェは、すぐに目的地へ印をつけた。
「次はここにしよう」
フェタは、帰還地点と道の長さを確認する。
「中で戻れなくなったりしない?」
「入口近くに帰還碑があるよ」
みたらしっぽが説明する。
「地図を全部覚えなくてもいい。入口と帰還碑と、分かれ道だけ先に見れば大丈夫」
フェタは、学校でキャンプの準備をしていた時を思い出した。
「みた、現実でも最初に帰り道を確認してたね」
「ゲームでも、帰れる場所は先に見ておいた方がいいから」
みたらしっぽは、ダンジョンの簡単な記録を三人へ送った。
「僕も《クレリック》で行く。チョコは危ない時の保険。進む道と、敵をどう倒すかは三人で決めてみて」
最初のダンジョン攻略の日が決まった。
三人は放課後になるとFoFへ入り、少しずつレベルを上げていった。
毎日、みたらしっぽとチョコチップが一緒にいるわけではない。
二人が団ノ子の活動へ参加している夜には、三人だけで町の近くを歩いた。
最初は、町から遠くへ行きすぎないようにしていた。
草原で小型魔物を倒す。
林の入口で薬草を集める。
NPCの商人から頼まれ、近くの農場まで荷物を届ける。
道の途中で現れた魔物を、三人で追い返す。
一つの依頼を終えるたび。
経験値。
少しの報酬。
新しい装備。
次の場所へ続く話が増えていく。
フェタは、盾の使い方へ少しずつ慣れていった。
正面からすべて受け止めるのではなく。
相手の攻撃へ角度を合わせる。
盾で視界を隠しすぎない。
自分が動けば、後ろにいる二人が攻撃しやすい位置も変わる。
レベルが上がり、《挑発》を覚えると、複数の敵から三人を守りやすくなった。
フィナンシェは、弓を引く時間を覚えた。
長く引けば威力は上がる。
けれど、狙っている間も敵は動く。
最初の頃は、確実に当てようとして機会を逃していた。
今では、動きを見ながら短く放つ矢と、弱点へ狙いを定める一撃を使い分けている。
装備を買う時には、性能だけでなく見た目も細かく確かめた。
ただし。
袖が弦へ触れないこと。
矢筒へ手を伸ばしやすいこと。
森で枝へ引っかからないこと。
実際に戦ってみたことで、選ぶ基準も増えていた。
シュトレンは、いくつかの攻撃魔法を覚えた。
小さな魔力弾。
足元から伸びる光の柱。
複数の敵へ広がる魔法陣。
中でも気に入ったのは、魔力が青白い結晶のように固まり、敵の動きを一瞬だけ鈍らせる術だった。
魔導書の上で指を動かし。
術式を組み上げる。
以前より、詠唱を始める場所へ気を配るようになった。
フェタが敵を止める。
フィナンシェが距離を取り。
シュトレンが魔法を重ねる。
三人の動きは、少しずつ形になっていった。
ある夜。
みたらしっぽが久しぶりに合流すると、三人だけで二体の魔物を相手にしているところだった。
フェタが一体を引きつける。
フィナンシェの矢が、もう一体の脚を射抜く。
動きが止まったところへ、シュトレンの魔法が入る。
みたらしっぽとチョコチップは、少し離れた場所で手を出さずに見ていた。
最後の魔物が消える。
フィナンシェが振り返った。
「今の、見てましたか?」
「見てたよ」
みたらしっぽは頷く。
「三人とも、最初とは全然違う」
フェタは剣を鞘へ戻した。
「みたたちがいない日にも、少しやってたから」
「その方がいいと思う。僕やチョコのやり方だけを真似するより、三人で合う動きを見つけた方が長く遊べるから」
チョコチップも、嬉しそうに三人を見る。
「レンちゃんの魔法、きれいでした。フィーちゃんも、動いている敵へ当てられるようになりましたね」
「フェタ先輩が止めてくれるから狙えるんだよ」
フィナンシェが答える。
フェタも、二人へ視線を向けた。
「後ろから攻撃してくれるってわかってるから、前に立てるんだと思う」
自然に出た言葉だった。
三人は、もう最初の一体を別々に追いかけていた頃とは違う。
みたらしっぽは、三人のレベルと装備を確認した。
「そろそろ、小さいダンジョンへ行ってみる?」
シュトレンの表情が明るくなる。
「行けるの?」
「初心者向けなら。町の北に、短いダンジョンがある」
地図へ、小さな入口が表示された。
<風鳴りの旧礼拝堂>
<推奨レベル:10>
<小規模ダンジョン>
フィナンシェは、すぐに目的地へ印をつけた。
「次はここにしよう」
フェタは、帰還地点と道の長さを確認する。
「中で戻れなくなったりしない?」
「入口近くに帰還碑があるよ」
みたらしっぽが説明する。
「地図を全部覚えなくてもいい。入口と帰還碑と、分かれ道だけ先に見れば大丈夫」
フェタは、学校でキャンプの準備をしていた時を思い出した。
「みた、現実でも最初に帰り道を確認してたね」
「ゲームでも、帰れる場所は先に見ておいた方がいいから」
みたらしっぽは、ダンジョンの簡単な記録を三人へ送った。
「僕も《クレリック》で行く。チョコは危ない時の保険。進む道と、敵をどう倒すかは三人で決めてみて」
最初のダンジョン攻略の日が決まった。
風鳴りの旧礼拝堂
週末。
五人は町の北門から歩いて丘陵地帯へ向かった。
町を離れるほど、道は細くなる。
草の間には、古い石畳がところどころ残っていた。
風が吹くたび。
丘の向こうから、低い鐘のような音が届く。
「本当に鐘が鳴ってるみたい」
シュトレンが足を止める。
みたらしっぽは、丘の上を示した。
「あそこに礼拝堂がある。屋根は崩れてるけど、地下の鐘楼へ風が通ると音が出るらしい」
坂を上る。
石造りの小さな礼拝堂が見えてきた。
屋根の半分は崩れ。
壁には蔦が広がっている。
正面の扉はなく、暗い内部がそのまま開いていた。
奥には地下へ続く階段。
その前に、青い光を宿した帰還碑が立っている。
五人は、帰還地点を登録した。
みたらしっぽが三人を見る。
「ここから先は、狭い道が多い。フェタが前。シュトレンさんとフィナンシェさんは間を空けすぎないように。チョコは最後尾をお願い」
「はい、先輩」
チョコチップは刀へ手を添え、三人の後ろへ回った。
地下へ降りる。
壁の隙間から風が入り。
奥にある小さな鐘を、一定ではない間隔で揺らしている。
暗い通路。
床へ積もった砂。
崩れた石柱。
シュトレンが魔導書を開き、淡い光を浮かべた。
「これで少し見えるね」
足元と壁の輪郭が明るくなる。
最初の曲がり角。
天井から、複数の羽音が聞こえた。
フェタが盾を構える。
「上にいる」
薄暗い天井へ、石のような翼を持つコウモリ型の魔物が張りついていた。
一体が羽を開く。
それを合図に、ほかの二体も飛び降りてくる。
「フィーちゃん、手前の一体をお願いします」
チョコチップの声。
フィナンシェが弓を引く。
飛んでいる敵は、草原の魔物より狙いづらい。
一発目は翼の下を抜けた。
それでも、すぐ次の矢をつがえる。
フェタが盾で一体を受ける。
もう一体がシュトレンへ向かった。
シュトレンは詠唱を止め、横へ避ける。
そこへ、フィナンシェの二本目の矢が命中した。
魔物が床へ落ちる。
「レンちゃん、今です」
シュトレンが魔導書へ手を置く。
青白い魔法陣。
結晶のような光が床へ広がり、落ちた魔物とフェタの前にいる二体をまとめて包む。
動きが鈍ったところへ。
フェタが剣を振る。
フィナンシェの矢も続く。
三体の魔物が、順番に光へ変わった。
「最初の部屋、通れたね」
みたらしっぽが回復魔法をフェタへ送る。
減っていたHPがゆっくり戻った。
「回復って、こう見えるんだ」
フェタは、自分の腕へ集まる柔らかな光を見た。
「クレリックなら、フェタもあとから育てられるよ」
「今は盾で精いっぱいかな」
「それでいいよ。やりたいと思った時に始めればいい」
五人は、さらに奥へ進んだ。
途中。
床の一部が沈み、壁から短い風が噴き出す仕掛け。
音へ反応して動く石像。
二つに分かれた通路。
すべてが戦闘だけではなかった。
みたらしっぽは答えを先に言わず、三人が立ち止まるのを待った。
「風の音、右の方が大きいね」
シュトレンが耳を澄ませる。
「地図だと、右が鐘楼へ続いてる」
フェタが記録を確認した。
フィナンシェは左の通路へ目を向ける。
「左にも宝箱の印がある」
三人で短く相談する。
先に左へ進み、宝箱を回収してから分かれ道へ戻ることにした。
見つけたのは、初心者用の装備素材と、小さな風属性の宝石だった。
「寄り道してよかったね」
シュトレンが宝石を手のひらへ乗せる。
みたらしっぽも頷いた。
「ダンジョンは最短で抜けてもいいけど、こういう場所を探すのも面白いよ」
「先輩は、全部探す方ですか?」
チョコチップが尋ねる。
「時間があれば」
「時間がなくても、少し気になると寄っていますよね」
チョコチップは、みたらしっぽが以前遠回りした道を思い出しているようだった。
みたらしっぽは否定せずに笑った。
「見えてるのに通り過ぎるのは、少しもったいないから」
その言葉を聞き。
三人も、来た道を振り返った。
ただ出口へ向かうのではなく。
自分たちで見つけたものを持って進んでいる。
初めてのダンジョンが、少しずつ自分たちの冒険になっていた。
五人は町の北門から歩いて丘陵地帯へ向かった。
町を離れるほど、道は細くなる。
草の間には、古い石畳がところどころ残っていた。
風が吹くたび。
丘の向こうから、低い鐘のような音が届く。
「本当に鐘が鳴ってるみたい」
シュトレンが足を止める。
みたらしっぽは、丘の上を示した。
「あそこに礼拝堂がある。屋根は崩れてるけど、地下の鐘楼へ風が通ると音が出るらしい」
坂を上る。
石造りの小さな礼拝堂が見えてきた。
屋根の半分は崩れ。
壁には蔦が広がっている。
正面の扉はなく、暗い内部がそのまま開いていた。
奥には地下へ続く階段。
その前に、青い光を宿した帰還碑が立っている。
五人は、帰還地点を登録した。
みたらしっぽが三人を見る。
「ここから先は、狭い道が多い。フェタが前。シュトレンさんとフィナンシェさんは間を空けすぎないように。チョコは最後尾をお願い」
「はい、先輩」
チョコチップは刀へ手を添え、三人の後ろへ回った。
地下へ降りる。
壁の隙間から風が入り。
奥にある小さな鐘を、一定ではない間隔で揺らしている。
暗い通路。
床へ積もった砂。
崩れた石柱。
シュトレンが魔導書を開き、淡い光を浮かべた。
「これで少し見えるね」
足元と壁の輪郭が明るくなる。
最初の曲がり角。
天井から、複数の羽音が聞こえた。
フェタが盾を構える。
「上にいる」
薄暗い天井へ、石のような翼を持つコウモリ型の魔物が張りついていた。
一体が羽を開く。
それを合図に、ほかの二体も飛び降りてくる。
「フィーちゃん、手前の一体をお願いします」
チョコチップの声。
フィナンシェが弓を引く。
飛んでいる敵は、草原の魔物より狙いづらい。
一発目は翼の下を抜けた。
それでも、すぐ次の矢をつがえる。
フェタが盾で一体を受ける。
もう一体がシュトレンへ向かった。
シュトレンは詠唱を止め、横へ避ける。
そこへ、フィナンシェの二本目の矢が命中した。
魔物が床へ落ちる。
「レンちゃん、今です」
シュトレンが魔導書へ手を置く。
青白い魔法陣。
結晶のような光が床へ広がり、落ちた魔物とフェタの前にいる二体をまとめて包む。
動きが鈍ったところへ。
フェタが剣を振る。
フィナンシェの矢も続く。
三体の魔物が、順番に光へ変わった。
「最初の部屋、通れたね」
みたらしっぽが回復魔法をフェタへ送る。
減っていたHPがゆっくり戻った。
「回復って、こう見えるんだ」
フェタは、自分の腕へ集まる柔らかな光を見た。
「クレリックなら、フェタもあとから育てられるよ」
「今は盾で精いっぱいかな」
「それでいいよ。やりたいと思った時に始めればいい」
五人は、さらに奥へ進んだ。
途中。
床の一部が沈み、壁から短い風が噴き出す仕掛け。
音へ反応して動く石像。
二つに分かれた通路。
すべてが戦闘だけではなかった。
みたらしっぽは答えを先に言わず、三人が立ち止まるのを待った。
「風の音、右の方が大きいね」
シュトレンが耳を澄ませる。
「地図だと、右が鐘楼へ続いてる」
フェタが記録を確認した。
フィナンシェは左の通路へ目を向ける。
「左にも宝箱の印がある」
三人で短く相談する。
先に左へ進み、宝箱を回収してから分かれ道へ戻ることにした。
見つけたのは、初心者用の装備素材と、小さな風属性の宝石だった。
「寄り道してよかったね」
シュトレンが宝石を手のひらへ乗せる。
みたらしっぽも頷いた。
「ダンジョンは最短で抜けてもいいけど、こういう場所を探すのも面白いよ」
「先輩は、全部探す方ですか?」
チョコチップが尋ねる。
「時間があれば」
「時間がなくても、少し気になると寄っていますよね」
チョコチップは、みたらしっぽが以前遠回りした道を思い出しているようだった。
みたらしっぽは否定せずに笑った。
「見えてるのに通り過ぎるのは、少しもったいないから」
その言葉を聞き。
三人も、来た道を振り返った。
ただ出口へ向かうのではなく。
自分たちで見つけたものを持って進んでいる。
初めてのダンジョンが、少しずつ自分たちの冒険になっていた。
風鐘の石守
地下の最深部。
大きな円形の部屋へたどり着いた。
天井は高く。
中央には、ひび割れた大鐘が吊られている。
その下へ、翼を持つ石像が座っていた。
五人が部屋へ入る。
背後の扉が、重い音を立てて閉じた。
石像の胸元に、淡い青色の光が灯る。
翼が開く。
石の身体が、ゆっくりと立ち上がった。
<風鐘の石守 Lv.12>
フェタが盾を構える。
フィナンシェは、石守の翼と関節を見た。
シュトレンも魔導書を開く。
みたらしっぽが三人へ声をかける。
「最初は、動きを見る。いきなり全部使わなくていい」
石守が翼を振った。
強い風が、部屋全体へ広がる。
フェタは盾を地面へ傾け、身体を低くした。
それでも足が後ろへ滑る。
フィナンシェとシュトレンも、風に押されて壁際まで下がった。
石守は、そのままフェタへ向かって腕を振り下ろす。
盾へ重い衝撃が入る。
HPが一気に削れた。
みたらしっぽの回復光が届く。
「受けられてる。次は、腕が上がった時に少し横へずれてみて」
「わかった」
二撃目。
フェタは、盾を構えたまま右へ一歩動いた。
石の拳が盾の端をかすめ、床へ叩きつけられる。
完全には避けられない。
けれど、受けた衝撃は先ほどより小さい。
「フィナンシェちゃん、翼の根元が光ってる」
シュトレンが声を上げる。
フィナンシェも確認する。
石守が風を起こす時。
両翼の関節へ、青い光が集まっている。
弓を引く。
放った矢は、動き始めた翼へ弾かれた。
石守が振り返る。
フィナンシェへ向かおうとしたところで。
「こっち」
フェタが《挑発》を使う。
盾の表面を剣で叩く。
短い音が部屋へ響き、石守の視線が再びフェタへ戻った。
「フィーちゃん。次の風を出す前なら、翼が止まります」
チョコチップが言う。
「焦らず待ってください」
フィナンシェは、つがえた矢を下ろさずに待った。
石守の両翼が大きく開く。
根元へ光が集まり始める。
動きが一瞬だけ止まった。
矢を放つ。
今度は、光っていた関節の中央へ命中した。
石の翼へ亀裂が走る。
片側の翼が下がり、石守の身体が傾いた。
「当たった!」
フィナンシェの声が、広い部屋へ響く。
シュトレンは、既に詠唱を始めていた。
魔導書の周囲へ、青白い術式が何層も重なる。
結晶のような光が、少しずつ大きくなっていく。
しかし。
石守の残った翼が開いた。
「レンちゃん、風が来ます!」
チョコチップが前へ出ようとする。
その前に。
フェタが石守とシュトレンの間へ入った。
盾を構える。
「続けて!」
風が広がる。
フェタの足が滑る。
盾を持つ腕が震える。
それでも、シュトレンの前から動かなかった。
フィナンシェが次の矢を放つ。
残った翼の関節へ命中する。
完全には壊れない。
それでも、風の勢いが少し弱くなった。
シュトレンの詠唱が完成する。
「行って!」
魔導書から放たれた光が、空中でいくつもの結晶へ分かれる。
一つずつ。
石守の胸。
肩。
翼。
青い光を残しながら突き刺さった。
石守の胸元へ大きな亀裂が走る。
内部から、風を生み出していた核が露出した。
「今が弱点」
みたらしっぽが言う。
フェタは盾を下ろし、石守の正面へ踏み込んだ。
振り下ろされた腕を盾で外へ流す。
空いた胸元へ剣を入れる。
フィナンシェも、残っていた矢をつがえた。
今度は長く引き絞る。
シュトレンの魔法で広がった亀裂。
その中央へ、矢が入った。
核が割れる。
石守の身体から力が抜けた。
大きな身体が膝をつき。
翼から。
腕から。
石の破片が光となって剥がれていく。
最後に、胸元の核が砕けた。
<ダンジョンボスを討伐しました>
<風鳴りの旧礼拝堂 攻略完了>
五人の身体を、経験値を示す光が包んだ。
誰も、すぐには言葉を出さなかった。
閉じていた扉が開く。
大鐘を抜けた風が、先ほどまでとは違う穏やかな音を響かせた。
フェタは盾を下ろす。
腕には、まだ石守の攻撃を受けた感覚が残っている。
フィナンシェは、空になった矢筒へ手を入れたまま、割れた核があった場所を見ていた。
シュトレンも、静かになった魔導書を胸元へ抱える。
「倒せたね」
最初に言ったのは、シュトレンだった。
フィナンシェが笑う。
「三人で倒した」
「みたの回復もあったけどね」
フェタが振り返る。
みたらしっぽは杖を下ろした。
「回復はしたけど、石守を倒したのは三人だよ」
チョコチップも、最後まで抜かなかった刀から手を離す。
「とてもよかったです」
三人のところへ近づく。
「フェタ先輩が正面を守って、フィーちゃんが翼を壊して、レンちゃんが核を開いた。最初の草原では、三人とも別々に攻撃していたのに」
チョコチップの顔には、自分のことのような喜びがあった。
シュトレンも、最初の日を思い出したように笑う。
「あの時、魔法をフェタ先輩の横に落としちゃったね」
「今日は、ちゃんと後ろで使ってくれたから大丈夫」
フェタが答える。
フィナンシェは攻略記録を開いた。
最初のダンジョン名。
攻略日時。
パーティーメンバー。
五人の名前が並んでいる。
「この記録、保存しておこう」
「私も」
シュトレンも同じ画面を開く。
フェタも、攻略記録を個人ストレージへ残した。
大きなレイドではない。
新大陸の開拓でもない。
有名な攻略記録へ載るような戦いでもない。
それでも。
三人にとっては、初めて自分たちで越えたダンジョンだった。
大きな円形の部屋へたどり着いた。
天井は高く。
中央には、ひび割れた大鐘が吊られている。
その下へ、翼を持つ石像が座っていた。
五人が部屋へ入る。
背後の扉が、重い音を立てて閉じた。
石像の胸元に、淡い青色の光が灯る。
翼が開く。
石の身体が、ゆっくりと立ち上がった。
<風鐘の石守 Lv.12>
フェタが盾を構える。
フィナンシェは、石守の翼と関節を見た。
シュトレンも魔導書を開く。
みたらしっぽが三人へ声をかける。
「最初は、動きを見る。いきなり全部使わなくていい」
石守が翼を振った。
強い風が、部屋全体へ広がる。
フェタは盾を地面へ傾け、身体を低くした。
それでも足が後ろへ滑る。
フィナンシェとシュトレンも、風に押されて壁際まで下がった。
石守は、そのままフェタへ向かって腕を振り下ろす。
盾へ重い衝撃が入る。
HPが一気に削れた。
みたらしっぽの回復光が届く。
「受けられてる。次は、腕が上がった時に少し横へずれてみて」
「わかった」
二撃目。
フェタは、盾を構えたまま右へ一歩動いた。
石の拳が盾の端をかすめ、床へ叩きつけられる。
完全には避けられない。
けれど、受けた衝撃は先ほどより小さい。
「フィナンシェちゃん、翼の根元が光ってる」
シュトレンが声を上げる。
フィナンシェも確認する。
石守が風を起こす時。
両翼の関節へ、青い光が集まっている。
弓を引く。
放った矢は、動き始めた翼へ弾かれた。
石守が振り返る。
フィナンシェへ向かおうとしたところで。
「こっち」
フェタが《挑発》を使う。
盾の表面を剣で叩く。
短い音が部屋へ響き、石守の視線が再びフェタへ戻った。
「フィーちゃん。次の風を出す前なら、翼が止まります」
チョコチップが言う。
「焦らず待ってください」
フィナンシェは、つがえた矢を下ろさずに待った。
石守の両翼が大きく開く。
根元へ光が集まり始める。
動きが一瞬だけ止まった。
矢を放つ。
今度は、光っていた関節の中央へ命中した。
石の翼へ亀裂が走る。
片側の翼が下がり、石守の身体が傾いた。
「当たった!」
フィナンシェの声が、広い部屋へ響く。
シュトレンは、既に詠唱を始めていた。
魔導書の周囲へ、青白い術式が何層も重なる。
結晶のような光が、少しずつ大きくなっていく。
しかし。
石守の残った翼が開いた。
「レンちゃん、風が来ます!」
チョコチップが前へ出ようとする。
その前に。
フェタが石守とシュトレンの間へ入った。
盾を構える。
「続けて!」
風が広がる。
フェタの足が滑る。
盾を持つ腕が震える。
それでも、シュトレンの前から動かなかった。
フィナンシェが次の矢を放つ。
残った翼の関節へ命中する。
完全には壊れない。
それでも、風の勢いが少し弱くなった。
シュトレンの詠唱が完成する。
「行って!」
魔導書から放たれた光が、空中でいくつもの結晶へ分かれる。
一つずつ。
石守の胸。
肩。
翼。
青い光を残しながら突き刺さった。
石守の胸元へ大きな亀裂が走る。
内部から、風を生み出していた核が露出した。
「今が弱点」
みたらしっぽが言う。
フェタは盾を下ろし、石守の正面へ踏み込んだ。
振り下ろされた腕を盾で外へ流す。
空いた胸元へ剣を入れる。
フィナンシェも、残っていた矢をつがえた。
今度は長く引き絞る。
シュトレンの魔法で広がった亀裂。
その中央へ、矢が入った。
核が割れる。
石守の身体から力が抜けた。
大きな身体が膝をつき。
翼から。
腕から。
石の破片が光となって剥がれていく。
最後に、胸元の核が砕けた。
<ダンジョンボスを討伐しました>
<風鳴りの旧礼拝堂 攻略完了>
五人の身体を、経験値を示す光が包んだ。
誰も、すぐには言葉を出さなかった。
閉じていた扉が開く。
大鐘を抜けた風が、先ほどまでとは違う穏やかな音を響かせた。
フェタは盾を下ろす。
腕には、まだ石守の攻撃を受けた感覚が残っている。
フィナンシェは、空になった矢筒へ手を入れたまま、割れた核があった場所を見ていた。
シュトレンも、静かになった魔導書を胸元へ抱える。
「倒せたね」
最初に言ったのは、シュトレンだった。
フィナンシェが笑う。
「三人で倒した」
「みたの回復もあったけどね」
フェタが振り返る。
みたらしっぽは杖を下ろした。
「回復はしたけど、石守を倒したのは三人だよ」
チョコチップも、最後まで抜かなかった刀から手を離す。
「とてもよかったです」
三人のところへ近づく。
「フェタ先輩が正面を守って、フィーちゃんが翼を壊して、レンちゃんが核を開いた。最初の草原では、三人とも別々に攻撃していたのに」
チョコチップの顔には、自分のことのような喜びがあった。
シュトレンも、最初の日を思い出したように笑う。
「あの時、魔法をフェタ先輩の横に落としちゃったね」
「今日は、ちゃんと後ろで使ってくれたから大丈夫」
フェタが答える。
フィナンシェは攻略記録を開いた。
最初のダンジョン名。
攻略日時。
パーティーメンバー。
五人の名前が並んでいる。
「この記録、保存しておこう」
「私も」
シュトレンも同じ画面を開く。
フェタも、攻略記録を個人ストレージへ残した。
大きなレイドではない。
新大陸の開拓でもない。
有名な攻略記録へ載るような戦いでもない。
それでも。
三人にとっては、初めて自分たちで越えたダンジョンだった。
まだ遠い町
礼拝堂を出ると、空は夕方の色へ変わっていた。
五人は、町まで続く石畳を歩いた。
帰還機能を使えば、すぐに町へ戻ることもできる。
けれど。
三人は、来た道を歩いて帰ることを選んだ。
丘の上から。
遠くの町の灯りが見える。
フィナンシェは、今日手に入れた装備素材を確認していた。
「次は、これで新しい弓を作れるかな」
「鍛冶屋か木工師に相談すれば作れるよ」
みたらしっぽが答える。
「既製品を買う方法もあるけど、素材から作ってもらうと性能の調整ができる」
「見た目も選べますか?」
「ある程度は。装飾までこだわるなら、宝飾師にも頼める」
フィナンシェの予定へ、早くも新しい項目が増えていく。
シュトレンは、地下で見つけた風属性の宝石を持っていた。
「これ、魔導書につけられる?」
「できると思う。魔法の属性補正がつくかもしれない」
みたらしっぽは宝石を確認する。
「ただ、今すぐ使わずに取っておくのもありだよ。もっと気に入った魔導書が見つかってからでも遅くない」
「少し考える」
シュトレンは宝石を大事そうにしまった。
フェタは、地図を開く。
現在地。
最初の町。
今日攻略した礼拝堂。
そこから遠く離れた場所へ、交易中央都市ターブルロンドが表示されている。
三人の現在レベルでは。
その周辺へ続く航路も。
大陸への渡航条件も、まだ解放されていない。
「本に載ってた町、かなり遠いんだね」
フェタが言った。
「うん」
みたらしっぽは、ターブルロンドの位置を見た。
「今すぐ行こうとしたら大変だけど、遊んでいればいつか届くよ」
「どのくらいレベルが必要?」
フィナンシェが尋ねる。
「レベルだけじゃない。航路を開くクエストもあるし、その前に通る町やフィールドも多い」
みたらしっぽは、最初の町から新大陸までを一本の線で結ばなかった。
代わりに。
途中にある、いくつもの地域を示す。
森の都市。
山岳地帯。
港町。
砂漠。
雪原。
「急いで最短だけ進むこともできる。でも、三人が楽しいと思う場所を通った方がいい。寄り道で見つけたクラスや装備が、ずっと使いたいものになることもあるから」
フェタは地図を見つめた。
昨日まで。
これらは名前すら知らなかった場所だった。
今は。
一つ目の町。
一つ目の草原。
一つ目のダンジョン。
自分たちが歩いた場所だけ、少し身近に見える。
シュトレンが、ターブルロンドへ目標の印を置いた。
「いつか、ここへ行きたいな」
フィナンシェも同じ場所へ印をつける。
「その頃には、もっといい装備にしておきたい」
フェタも、少し遅れて登録した。
<目標地点:交易中央都市ターブルロンド>
みたらしっぽは、三人の地図へ並んだ印を見た。
「その時は、町を案内するよ」
「ギルドハウスも?」
シュトレンが尋ねる。
「もちろん」
チョコチップも、三人と同じ地図を見ていた。
「皆さんが来るまでに、もっと町が広くなっているかもしれませんね」
「それも見たい」
シュトレンが言う。
「本に載っていた町と、私たちが着いた時の町がどれくらい違うのか」
みたらしっぽは頷いた。
「それがFoFの面白いところだと思う。今ある景色も、ずっと同じとは限らないから」
町へ着く。
門をくぐったところで、パーティー終了の確認が表示された。
フィナンシェは少し考え。
三人だけの継続パーティーを新しく作成した。
名前欄へ入力する。
<Kirsche>
フェタが表示を見る。
「チョコちゃんもいるグループ名だけど」
「普段の四人で遊ぶ時に使えばいいよ。今日は、みた先輩が案内役で入ってくれただけだから」
シュトレンも嬉しそうに頷いた。
「次はチョコちゃんも、最初から一緒に行こう」
チョコチップの表情が明るくなる。
「はい。ぜひ」
みたらしっぽは、三人のギルド欄が空白のままであることを確認しても、何も勧めなかった。
「ギルドは、FoFのことをもう少し知ってから決めればいいよ。三人で遊びたいこともあると思うし、いろんな人と組んでみてもいい」
「団ノ子には、すぐ入れないの?」
フィナンシェが尋ねる。
「入れないとは言ってないよ」
みたらしっぽは穏やかに答えた。
「ただ、始めたばかりで居場所を決めなくてもいいと思ってる。FoFの中で何をしたいか、自分で見つけてからでも遅くない」
三人は、その言葉を聞いて町を見回した。
武器を持ったプレイヤー。
素材を運ぶ生産職。
露店を開く人。
クエストへ向かうパーティー。
宿屋へ戻る人。
まだ、自分たちが何を中心に遊ぶのかはわからない。
それでも。
次にやってみたいことは、もういくつもあった。
「また明日も入る?」
シュトレンが尋ねる。
「私は入れるよ」
フィナンシェが答える。
フェタも頷いた。
「書店の仕事が終わってからなら」
チョコチップも予定を確認する。
「私も少し遅くなりますが、合流できます」
次の約束が決まる。
ログアウトの光へ包まれる直前。
みたらしっぽのギルド画面へ、団ノ子の通知が届いた。
<ギルド会議予定>
<議題:超高難易度レイドへの挑戦>
みたらしっぽは、その文字を静かに見つめた。
今日。
三人の新しい開拓者が、最初の小さなダンジョンを越えた。
その一方。
交易中央都市ターブルロンドでは。
団ノ子が、これまでで最も大きな戦いへ向かおうとしている。
チョコチップも通知へ気づいた。
「先輩」
「うん」
「いよいよですね」
みたらしっぽは、新大陸の地図を開いた。
霧の奥で。
赤い紋章が、静かに光っている。
「次は、みんなに話す」
最初の町では。
シュトレン、フィナンシェ、フェタシェールの名前が、新しいパーティー履歴へ残っていた。
遠い新大陸では。
団ノ子の次の目的地が、少しずつ形を持ち始めていた。
五人は、町まで続く石畳を歩いた。
帰還機能を使えば、すぐに町へ戻ることもできる。
けれど。
三人は、来た道を歩いて帰ることを選んだ。
丘の上から。
遠くの町の灯りが見える。
フィナンシェは、今日手に入れた装備素材を確認していた。
「次は、これで新しい弓を作れるかな」
「鍛冶屋か木工師に相談すれば作れるよ」
みたらしっぽが答える。
「既製品を買う方法もあるけど、素材から作ってもらうと性能の調整ができる」
「見た目も選べますか?」
「ある程度は。装飾までこだわるなら、宝飾師にも頼める」
フィナンシェの予定へ、早くも新しい項目が増えていく。
シュトレンは、地下で見つけた風属性の宝石を持っていた。
「これ、魔導書につけられる?」
「できると思う。魔法の属性補正がつくかもしれない」
みたらしっぽは宝石を確認する。
「ただ、今すぐ使わずに取っておくのもありだよ。もっと気に入った魔導書が見つかってからでも遅くない」
「少し考える」
シュトレンは宝石を大事そうにしまった。
フェタは、地図を開く。
現在地。
最初の町。
今日攻略した礼拝堂。
そこから遠く離れた場所へ、交易中央都市ターブルロンドが表示されている。
三人の現在レベルでは。
その周辺へ続く航路も。
大陸への渡航条件も、まだ解放されていない。
「本に載ってた町、かなり遠いんだね」
フェタが言った。
「うん」
みたらしっぽは、ターブルロンドの位置を見た。
「今すぐ行こうとしたら大変だけど、遊んでいればいつか届くよ」
「どのくらいレベルが必要?」
フィナンシェが尋ねる。
「レベルだけじゃない。航路を開くクエストもあるし、その前に通る町やフィールドも多い」
みたらしっぽは、最初の町から新大陸までを一本の線で結ばなかった。
代わりに。
途中にある、いくつもの地域を示す。
森の都市。
山岳地帯。
港町。
砂漠。
雪原。
「急いで最短だけ進むこともできる。でも、三人が楽しいと思う場所を通った方がいい。寄り道で見つけたクラスや装備が、ずっと使いたいものになることもあるから」
フェタは地図を見つめた。
昨日まで。
これらは名前すら知らなかった場所だった。
今は。
一つ目の町。
一つ目の草原。
一つ目のダンジョン。
自分たちが歩いた場所だけ、少し身近に見える。
シュトレンが、ターブルロンドへ目標の印を置いた。
「いつか、ここへ行きたいな」
フィナンシェも同じ場所へ印をつける。
「その頃には、もっといい装備にしておきたい」
フェタも、少し遅れて登録した。
<目標地点:交易中央都市ターブルロンド>
みたらしっぽは、三人の地図へ並んだ印を見た。
「その時は、町を案内するよ」
「ギルドハウスも?」
シュトレンが尋ねる。
「もちろん」
チョコチップも、三人と同じ地図を見ていた。
「皆さんが来るまでに、もっと町が広くなっているかもしれませんね」
「それも見たい」
シュトレンが言う。
「本に載っていた町と、私たちが着いた時の町がどれくらい違うのか」
みたらしっぽは頷いた。
「それがFoFの面白いところだと思う。今ある景色も、ずっと同じとは限らないから」
町へ着く。
門をくぐったところで、パーティー終了の確認が表示された。
フィナンシェは少し考え。
三人だけの継続パーティーを新しく作成した。
名前欄へ入力する。
<Kirsche>
フェタが表示を見る。
「チョコちゃんもいるグループ名だけど」
「普段の四人で遊ぶ時に使えばいいよ。今日は、みた先輩が案内役で入ってくれただけだから」
シュトレンも嬉しそうに頷いた。
「次はチョコちゃんも、最初から一緒に行こう」
チョコチップの表情が明るくなる。
「はい。ぜひ」
みたらしっぽは、三人のギルド欄が空白のままであることを確認しても、何も勧めなかった。
「ギルドは、FoFのことをもう少し知ってから決めればいいよ。三人で遊びたいこともあると思うし、いろんな人と組んでみてもいい」
「団ノ子には、すぐ入れないの?」
フィナンシェが尋ねる。
「入れないとは言ってないよ」
みたらしっぽは穏やかに答えた。
「ただ、始めたばかりで居場所を決めなくてもいいと思ってる。FoFの中で何をしたいか、自分で見つけてからでも遅くない」
三人は、その言葉を聞いて町を見回した。
武器を持ったプレイヤー。
素材を運ぶ生産職。
露店を開く人。
クエストへ向かうパーティー。
宿屋へ戻る人。
まだ、自分たちが何を中心に遊ぶのかはわからない。
それでも。
次にやってみたいことは、もういくつもあった。
「また明日も入る?」
シュトレンが尋ねる。
「私は入れるよ」
フィナンシェが答える。
フェタも頷いた。
「書店の仕事が終わってからなら」
チョコチップも予定を確認する。
「私も少し遅くなりますが、合流できます」
次の約束が決まる。
ログアウトの光へ包まれる直前。
みたらしっぽのギルド画面へ、団ノ子の通知が届いた。
<ギルド会議予定>
<議題:超高難易度レイドへの挑戦>
みたらしっぽは、その文字を静かに見つめた。
今日。
三人の新しい開拓者が、最初の小さなダンジョンを越えた。
その一方。
交易中央都市ターブルロンドでは。
団ノ子が、これまでで最も大きな戦いへ向かおうとしている。
チョコチップも通知へ気づいた。
「先輩」
「うん」
「いよいよですね」
みたらしっぽは、新大陸の地図を開いた。
霧の奥で。
赤い紋章が、静かに光っている。
「次は、みんなに話す」
最初の町では。
シュトレン、フィナンシェ、フェタシェールの名前が、新しいパーティー履歴へ残っていた。
遠い新大陸では。
団ノ子の次の目的地が、少しずつ形を持ち始めていた。