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小話「墓前の再会」

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匿名ユーザー

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全てを覆い尽くすような厚い雲。
今にも崩れそうなその黒い空の下、彼女は眠っている。
永く永く眠っている。
彼女が年を取る事が無くなって、一体どれくらいの時が流れただろうか。
思い出の中では、記憶の中ではこんなにも鮮明に、こんなにも生き生きと存在しているというのに・・・。


その人影はゆっくりと墓地へと足を踏み入れる。
手には彼女の好きだった『水晶花』の花束。
アスガルド半島の特定地域にだけ存在する、透けるような美しい白い花弁の花。

人影が目的の墓の前に来た時、そこにはすでに先客がいた。
「お前に白い花は似合わない。白い色、汚れなき色は咎人が持つものではない」
「私が自分を着飾るというのならば、それは確かな事だ。だが、これは私のものではない」
ゆっくりと影が墓へと近づく。
「グエン審議官より話は聞いたぞ。・・・失態だったな、『第七課課長』。
聖務規定違反を知らぬお前ではあるまい?」
凍るような男の声の中、人影はゆっくりと花を置く。
「犯した罪に対する罰は受けよう。全ての責任は私にある。・・・が、彼の地から戻った審問官の報告によると、『解放軍』に組した鉱夫のうち数名が、既に息絶えていたらしい」
「・・・・・」
答える男の声にも、感情といったようなものは含まれていない。
灰色の、生を感じさせないかのような景色の中、声が続く。
「死体には『異端審問』にかけられた形跡があったそうだ。・・・貴公の『法王庁第8課』所属の異端審問官数名が、ここ数日姿を見せていないようだな?」
ぽつり、ぽつりと水滴が落ちる。
陰鬱な黒い雲を、空が支えていられなくなったのだろうか。
「彼らには、『自己鍛錬』を申し付けてある。余計な詮索は、遠慮願おうか」
男の口調は変わらない。
酷く冷淡に、その言葉は響いた。
「それに、『異端に救道は存在しない』。滅びこそが、唯一の救いだ。・・・二十年前にも、俺は同じ事をお前に告げた。忘れたわけではあるまい?」
最初はぽつりぽつりと落ちていた水滴は、次第に勢いを増し、水の針へと化そうとしている。
「忘れられるはずがない。・・・彼女が死んだあの日の事だ」
男は首を僅かに下げ、降りしきる雨に濡れる墓に視線を移す。
「・・・午後の『審議会』の結果如何によっては、『冥府解放区』は我々が・・・『第8課』が関与する。そのときは、『異端』に等しく滅びが訪れる。・・・俺のやり方でな」
「『彼女』の前で、まだ同じ事を言うのか?」
わずかに語調の強まった言葉。
しかしそれに答える声は、やはり変わらない。
「何度でも言おう。それが・・・私が『彼女』に捧げることが出来る唯一の献花だ。・・・『審議会』の結果を楽しみにしていろ、イルドルフ」
水の針は、遠雷を伴って、その勢いを増す。
まるでこの場にいない『彼女』の気持ちを代弁するかのように。
戻らない時を嘆く二人の、心の奥底を代弁するかのように。
一つの影が去った墓に、男は静かに祈りを捧げていた。
眠り続ける彼女に語りかけるように、ただ静かに・・・・。

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