ショート・ストーリー。 ショート・ストーリー。 **王の役者 自らが誰なのかという自問繰り返す。 てんで分からないのだ、私は、いや俺は。 誰かに願われたためにここに居るのは確かであると、 何者かの願望の終着点なのだと理解している。 だからこそ自由意志を失っている。 初めからないと言っていい 疑問自体が成立しない。 「おい。不死者」 黒の部屋には装飾過多な調度品が並べられ、床には赤のカーペットが薄暗い中でなお存在を誇示している。黄色い月明かりだけが照らす光の中に声が響く。 誰だろう?私を求めるのは。 女、女だ、幼い女。あれは私を獣だと思っている、獰猛で狡猾で言葉を操りながらもその意味を理解していない化け物だと。 なら、ならばそれに応える。 少女だけだった部屋に私は現れる。この部屋の奥に鎮座する玉座へと。 「今宵の遊戯の参加者か?ならば自由に暴れるといい。全ての遊戯の題目は闘争だからな」 「黙れ。アイツを返してもらうぞ」 「はあて、誰の事だろうな?今宵の遊戯は盛況でな?生身だけでも100人を超えるぞ」 「ならば全員寄こせ」 「くだらない事を言う。あれは全て公平な遊戯による管理下だ、景品が失くしてどうやって遊戯を楽しめようものか」 「ならいい。殺すから動くな」 少女の背中には骨が生えている。それは鳥の翼のように、幾重にも折り重なり、接続し広がっている。 それが全て此方を向いて間接を増やし腕を伸ばし、軽く40を超える先端が殺意共に襲い来る。 「ハ、ハ、ハ!! 私は獣だぞ。貴様が想像した人外の化け物だぞ。人の殺人法が通じるなどくだらない。実にくだらない」 当たらない、当たるはずもない。かすり傷すらつけずに避けきり接敵する。相手が背中の骨羽根を起点に攻撃したせいでドームのように左右と上を覆っているが、それはどうでもいい。 回避すればいい。この体に回避不能な事象などありえない。 「黙れ」 骨のドームが変形する、内側にスパイクが浮き上がり、刺し殺す針となって視界は骨の白に染まる。 「無論黙らんさ。私は獣、人の言葉など関係ないのだから」 獣は体を黒いモヤ、霧へと変質させていた。風穴だらけ骨の有刺鉄線などで縛ることはできない。 「黙れ」 跳ぶ、少女は後方に跳躍し、同時に骨の檻を分解させ羽根は元のサイズへと不要分を撒き散らして戻り。 腕に散った骨を集め砲身を形成する。瞬き数度ほどの時間で砲身は内容物を吐き出した。 「骨の拡散弾か?それとも剛骨の刺し杭か?」 嗤う。骨使いは力はそれなりだが学習する能がない。頭が全て頭蓋骨で埋められているようだ――――。 思考の途中で全身が弾け飛んだ。 霧の、風によって物理的な攻撃を一切受けないこの体が砕け散る これは、あぁ。そうか、空気砲。爆発物でもいい、霧ならば散らせばいい、すなわち霧散せり。 「だがそれで私は倒せんぞ?吹き飛ばしたに過ぎない、先送りの悪手と変わらぬ」 「そう、そう思ってるならそう信じてたら」 霧散した霧はを集めようと、体をまとめようとして気づく、霧の量が減っている。 単なる水分ではない、減少するなど有り得ない、ならば先ほどの砲撃だろう。霧を霧散ではなく消滅させる。 「竜気砲、その骨は竜種の骨か。あれらの咆哮はどのようなものであれ同様に砕くと聞く。その砲身、一射ではじけるようだが火力だけは本家にも劣らぬようだ」 肉体に還元すれば、右半身が抉られていた。 少女はもう一度骨を腕に集め始め、砲身を作り直す。 「時間だ。もう遅い、日を改めよ、まぁ探していた奴が生きているとはしらないがな」 「逃がすか、もう一度――!!」 遅い。左手は床に触れる、それは膝を折ったのではなく起動の為に。 城が揺れる、天地が翻る。月は赤く燃え染まる。 「ッ――――!?」 「ここは私の居城。いつどのように改変しようと当然である。従者というのはそういうものだ、それが城であろうとな」 回転する視界の中、少女はもともと天井であったはずの奈落へ転落していく。 月は赤く、反転城が姿を示す。 さぁ、今宵の遊戯の収穫といこうか。 **乱入者 招かれざる客人、それはそんな生易しいものではない。生きる暴虐。意思を持った災害。 「デューくん。デューくん?」 それは狂っている。狂気と陶酔の思考しかありえない。 「デューくん、デューくんデューくんデューくんデューくんデューくんデューくんデューくんデューくん。どこ、どこなの」 もはや目に何も映っていない。ただ憎悪だけで行動している。 「どこだろ、あそこかな、におい、感じる。下、下かな?、下下下」 **走者の役者 不気味な夜だ。もう三時間は走っているが一向に星が動かない、不気味な夜に女はそれでも足を止めない。 このまま野宿となるのが嫌なのと、それよりも人に出会いたい気分だったから。 「地図だったらもうそろそろ街があってもいいころなのに。おかしいわ」 コンパスはしばらく前から動かない。 地図だって当てにならなくなってきていた。このあたりは亡者の国があるって聞いて文字通り駆け足に横断しようと思っていたのに。素直に宿におさまって着るべきだったわね。 「ん、あれは……」 遠く、森を迂回して見えてきた土地には街がある。それだけでなく城まであって立派な城下町の装いだった。 「なんとか、運には見放されてなかったようね」 わずかな希望をもって、その城下町にたどり着いた時に、それが裏切れる。 街の様子がおかしい。それは夜の星だけでなく住民と言えるものが見当たらない、変わりにあるのは不気味に光を放つ城とそこから響く重く鋭い金属音の連なり。 まさか、ここが亡者の国? 安心してしまってより深い不幸に突っ込んでしまったのかしら。 不意に動く影を見た、それは私よりすこし高い人影に初めてかけらほとの安心感を得て。 「すみません。ホテルとかって、どこにありますか?」 影の主は、答えず、それが干からびた肌に浮き出る骨身の亡者だと気づいて亡者の国だと確信した。 しまった、そうよ当然亡者の国の住民は亡者、知性とかあるのかな? まぁすぐに攻撃してくるようなゲームのゾンビでもないんだから。 「おい!」 今度はなんだと思いつつ、振り向こうとするよりも先に手を取られ、引かれるままに走らなければならなくなった。 「えっ、何? ちょっといきなり何」 新手の強盗だろうか。だとしたら早く……、ダメだ、掴む力が強くて簡単には引きはがせそうにない。 男は腰に下げていた機械を数度触り。喋りだしたため通信機だと理解した。 「こちらダーリィフ・デイアー。人間を発見した、これから本部まで護送する」 声は年季の入った男で、格好は青白い鎧とゲームのコスプレみたいな格好だった。 だけど見覚えがある、気がする。どこみたっけな……。 15分ぐらい走っただろうか、街からは出ていないが結構離れた場所に思える。それに広場のようだがテントが並び、男と同じ格好の鎧が何人もせわしなく動いている。久々に見る人に、ようやくちゃんと落ち着ける。 「すまないな、はぁ、ふぅ。この都市は危険だ。緊急だったため説明をなしに保護したがそれも貴女の身のためということを理解してほしい」 息を切らして自己紹介を始めた。 「俺はハルト・ミリシルド・アザムラン。ここから北西にある教会騎士だ。ここは教会騎士のキャンプ、安心してくれ」 は、はぁ……。遠くを見ると目があった騎士らしき人が手を振りこちらもぎこちなく振り返す。 「あの、全然状況がわからないのですけど」 「貴女はおそらく、事故でここに迷い込んでしまったのでしょう。この街の名はフレメル、悪名高き不死者の国。ここの住民はみな生者を害する、先ほどの貴女も危ないところだった」 「じゃああなた達はなぜここに、いやそれよりも帰れるの?」 「それは保証する。そして俺達は教会騎士です、邪を討ち払うい、人々を安心させる事以上の理由はない」 男は夜が明けるまではここにいた方がいいと軽く説明しテントの案内をしようとした最中だった。 遠く、城の方からひときわ大きい音が鳴った、山が砕けるような、隕石が落下したような低音が大気を丸ごと震わせる。 全ての人がそれに注視せざるを得なかった、城の最上に平たく広がった部分が土煙を吐いて砕け落ちてゆく。ただ事ではなく、騎士達は各々装備をまとめて班に別れて調査に向かう様子だ。 さっきの男も例外ではなく、異様に大きな槍を担いで出立する。 去り際にキャンプの見張りに残った騎士の所在と名を伝えて先行した班に向かってかけていく。 そこで子供と言えるような幼い顔立ちの青年が目に入る。 彼は騎士達と違って軽装で材質も皮や布が中心だ。 「ちょっと君。危ないよ、そんな格好じゃ。教会騎士に任せた方が」 「え、あ、はい。心配無用ですよ、僕は騎士見習い、従者なので全然」 にこやかな表情で男を追って遠くなる。 「全然答えになってないよ」 キャンプは一気に静かになった。 鎧のたてる音がなくなり変わりに風や鳥、虫などの自然の音に移り変わる。 あの青年は私とそれほど変わらない年に思えた。そんな青年ですら何かのために危険な場所に向かっていくのは羨ましくもあり、危なくもある。 「無事だといい、な」 「そうですねぇ」 隣に、いつの間にか立つ女性がいた。 「えっと、貴女も、ここで保護されてるんですか?」 「うふ、残念少し違うわね。わたくしはここに住んでいる住民、ここのお手伝いをしているだけですわ」 女性の目は赤かった。 紅蓮、灼熱、赤色の瞳は血を固め磨いた宝石のようだ。 「名前、聞いてよろしいかしら? いえ、先に名乗るのが礼儀ですね。わたくしはキースマイト、女史と皆さまから呼ばれてますの」 「わ、私は、ケーリ」 「ケーリさんですね、短い間ですしょうが、仲良くお願いしたいですの」 キースマイトという名前には別の事が頭に上がる。昔読んだ御伽噺の本に出てくる吸血鬼の姫、人の王子に恋をした姫は徐々に人へと変化成長していく話だった。 キースマイトはキャンプを巡り、テントの張りを確認したり、魔法による保護術を掛けて回っている。 *関連項目