シャーンダートラール信仰(
ヒューヴル語:Xaandaatraarandaa xanoin)は
ヒューヴル王国の信仰体系の一つ。
シャーンダートラール信仰では、人は死ぬと雲のずっと上にあるとされる「シャーンダートラール(神様の島)」という天上世界に昇天することを自然の摂理とし、復活や輪廻転生などはせず、永遠にシャーンダートラールで幸せに暮らすとされている。
シャーンダートラール
アヴァイトラールの人々が死ぬと、死後の世界であるシャーンダートラール(神様の島)へと昇天していく。
シャーンダートラールはヴォーマ(飲料水)の海洋に浮かぶ島であり、シャーンダートラールには島の統治者である太陽と海の神様であるシャーンとシャーンを補佐するヴァナサなどの祖霊神、神々を補佐する自然界の精霊たちとヒューヴルの先祖代々の祖霊が住まうとされている。
死者が最初にたどり着く場所であるシャーンダートラール島以外にも大小様々な島があり、有名なものには名前がついている。人々はヴォーマの海の水をいつでも飲むことができ、マヒライナコという太った魚がたくさん泳いでいる。果実も穀物も収穫すればすぐに生えてきてどの島でも豊作豊漁である。
シャーンダートラールの祖霊は愛欲と社会欲求以外のあらゆる欲求が失われる。そのため、排泄や呼吸、げっぷ等をしなくなり、好きな時間に好きなだけ睡眠をとることができる。病気に苦しめられることもなくなる。ヴォーマの海の中では息を止めてても(そもそもしていない)苦しくならないが、アヴァイトラールに降臨すると息を止めたように苦しくなるので長時間そこに居座ることはできず、何かに触れてもすり抜け声を伝えることができない。ただし、霊力が強い場合はそれらを克服することもあると言われている。
また、窃盗や詐欺などの悪行をする気がなくなるため、犯罪は起こらない。また、既に死んで霊体となっているため殺人はしようと思ってもできない。
シャーンダートラールの入口
シャーンダートラールはアヴァイランダーサロマッカン島の霊峰アヴァルマルの頂上にある入口から行けるとされているが、シロッカンマル宮廷より先はアヴァイラー(ヒューヴル女王)とアヴァイユナー(最高位の巫女)以外の身分の者は立ち入れないよう厳重に警備されている。アヴァイトラール(現世)の人がシャーンダートラールに無理やり立ち入ろうとすると死ぬと言われている。
シャーンダートラールから最も近い場所はシャーナワーインダー・ダッカマン(神の御手の儀)を行う聖地アヴァイラッカであり、その次に近い場所はシロッカンマル宮廷である。
恋愛観
昇天した祖霊は獣のような性欲を失い、純粋なる清らかな愛欲のみを持つ。
お互いに愛し合った夫婦が昇天すると、死後シャーンダートラールでパートナーと二つの魂が一つとなり、「双子の魂」になる。離婚や浮気した相手とは双子の魂になることができないが、良きパートナーとしてあらゆるわだかまりを解消することができる。
ヒューヴルではこの双子の魂になった状態が究極的な愛の姿として認知されており、夫婦の目指すべき理想像として描かれている。
祖霊
祖霊は姿こそ見せることができても、よほど霊力に優れたユナーでもない限り、人は祖霊には触れたり声を聞いたりすることができず、祖霊も人に触れたり声を聞いたりすることができない。祖霊は原則的に見守ることしかできない。
祖霊たちは彼らの末裔たちが困っていたり、興味のあるものを探している時に、さながら子供の夏休みの宿題を手伝う親や親戚のようにそれとなくヒントやひらめき、センスなどの感覚的・精神的なご利益を与えてくれるとされている。
アヴァイトラールで偉大な功績を残した人が死後祖霊になると、自身の末裔だけではなく、遠い血縁や全く関係のない島民にまでご利益を与えることができるようになる。こうした祖霊は祖霊神と呼ばれ、シャーンダートラールの統治者であるシャーンの補佐をしたり、アヴァイトラールの人々にご利益を与える。子孫は自分の祖霊神を信仰することもできるが、他の祖霊神と一緒に信仰することもできる。ただし、自分の祖霊神を敬わないことはヒューヴルでは道徳的に問題のある行いと見なされる。
降臨
シャーンダートラール(死後世界)とアヴァイトラールはそれぞれ天と水、水と天の関係のように、祖霊がアヴァイトラールに行く時は海の中で息を止めたような状態になっているため、わずかな時間しか降臨することができない。また、アヴァイトラールの人々が臨死体験等でシャーンダートラールに行きかける(逝きかける)時も同様に海の中で息を止めた状態になっているため、わずかな時間しかその場所に留まることができない。プイ(祖霊の気配)や祖霊自体をいつでもどこでも感じることができないのはこれが理由であると説明される。
また、祖霊は自分とプイ(縁)のある場所以外にはなかなか降臨することが難しいと考えられている。そのため、自分が長い間住んでいた家や印象に残った旅行先などの思い出の場所や、自分の子供や孫、親戚などの関係が深い人物がいた場所には降臨することができるが、生前全く見たことも行ったこともない場所には降臨できない。何代も昔の祖霊が自分の目の前に降臨できない理由はこれが原因だとされる。
迷い霊
悲しみや怒り、嫉妬などの強い負の感情を残しながら死んだ者はシャーンダートラールに行くことがなかなかできず、霊体の姿になってもアヴァイトラールに留まっている場合がある。これを迷い霊と言う。
迷い霊には悪意はないため悪霊ではないが、その多くが助けを求めていたり、心を病んでいるため、迷い霊に憑依されやすい者はそのプイを受けて負の感情に苦しみ、暴力的になったり悲観的になったりする。
シャーンダートラール信仰においては現世の人間が考えてしまう「後悔」はこの迷い霊が近くにいて助けを求めてくることで生じると説明されている。
高位のユナー(巫女)は祈祷することで彼らの心を鎮めて昇天させることができる。ユナーの血を引く者にはこの霊力はないが、迷い霊を見る程度の能力が備わっている者がいたり、部分的にプイを感じ、思念の強い迷い霊に腕を引っ張られたりすることがある。
また、他殺された場合よりも自殺や自死を迫られた場合の方が圧倒的に迷い霊になりやすいと言われている。
その人が迷い霊にならないようにするには、「後悔を生じさせないこと」、「健全な愛情を持って育ててあげること」、「過度のストレスを与え続けないこと」、「ちゃんとお墓を建てて葬儀を行うこと」の四つが重要と考えられている。
残留思念
迷い霊がアヴァイトラールをさまよい続けて数百年が経過すると、その思念自体も薄まっていき、ぼんやりとした黒い液体かガスのような霊体に変化する。これを残留思念と言う。
残留思念は迷い霊ほどの強い霊力を持たないがために、霊力のある人間に対して手を引っ張ったり声を出したりするような高等な干渉ができなくなり、憑依することしかできなくなるが、霊力が弱くなる代わりに多くの思念体が憑依できるようになるので、場合によっては100体以上の残留思念に取り憑かれることもある。
稀に非常に強い霊力を持った迷い霊が残留思念になると、1体だけで背中をびっしりと埋めるように憑依する場合もあるとされる。
彼らは元々人が住んでいた空き地などでさまよい続け、非常に長い時間をかけて少しずつ透明になるようにフェードアウトして消えていく。
残留思念を昇天させることができるユナーは滅多におらず、最高位のユナーであるアヴァイユナーでさえも一握りであると言われている。
アヴァイラーの地位
アヴァイラー(ヒューヴル女王)はユナー(巫女)の中でもアヴァイユナー(最高位のユナー)のさらに最上位に位置する、アヴァイトラールの統治者である。
アヴァイラーはシャーンダートラールの入口であるアヴァルマル山の管理者であり、死者がシャーンダートラールへの昇天を司る。アヴァイラーにはシャーンや祖霊神との対話によって神託を受ける能力があり、祈祷や対話によって迷い霊や残留思念を昇天させることができる。
シャーンダートラールの統治者であるシャーンは男性の神であることと対になっている必要があるため、アヴァイラーは女性でなくてはならない。
最終更新:2022年06月27日 10:23