格関係内の名詞修飾節の対照研究
論旨
名詞修飾節において、日本語では格関係による制限があるものの、
エミュンス語にはそれがなく、自由に名詞を修飾することができる。さらに日本語では取り立て助詞「は」を用いて名詞修飾節で主題を表すことができないものの、
エミュンス語では語順を入れ替えることで主題の表現が可能である、ということが明らかになった。
また、時制・相では
エミュンス語の「未来形」を除き、対応性が認められる。さらに日本語では終助詞を、
エミュンス語では語尾詞を使用して名詞を修飾することはできない、ということが明らかになった。
1.はじめに
日本語の名詞修飾には文中の要素を修飾する「内の関係の名詞修飾節」と文外の要素を修飾する「外の関係の名詞修飾節」が存在する。本稿ではその中の「内の関係の名詞修飾」に関して考察を行う。
「内の関係の名詞修飾節」の例に「家で本を読むヅィーガー」という句がある。元の文は「ヅィーガーが家で本を読む」であり、「
ヅィーガー」はガ格、本はヲ格、家はデ格となる。つまりそれぞれ格関係内にあるのである。これらを入れ替えることでそれぞれ以下の文が成立する。
(1)
a.家で本を読むヅィーガー
b.ヅィーガーが家で読む本
c.ヅィーガーが本を読む家
このような「内の関係の名詞修飾節」は
前置詞で格関係を表す言語である
エミュンス語にも存在する。
(2)
a.Cziigay:e doxt re fooji zio iina
b.foojy:e er Cziigaa doxt zio iina
c.iiny:e er Cziigaa doxt re fooji
以上のように前置詞を省略し、名詞に対し
接合詞《y:e》を用いて表すことができる。
2.内の関係の諸制限
格関係における制限
日本語の内の関係の名詞修飾にはいくつかの制限が存在する。被修飾名詞になれないものとして、カラ格・マデ格名詞が挙げられる。
(3)「私はヅィーガーから本をもらった」のヅィーガー
*私が本をもらったヅィーガー
以上のように日本語には名詞の格による制限があるものの、
エミュンス語の名詞修飾には格の制限がない。そのため(3)、(4)を以下のように表現することができる。
(5)Cziigay:e ele soot re fooji
(6)Suufion'H:elniy:e er cziigaa yo s:antleeria jeen(※2)
したがって、日本語は一部格が名詞修飾節に使えないが、
エミュンス語はすべての格が名詞修飾節に使用できると言うことがわかる。つまり格関係と名詞修飾節に関して、日本語と
エミュンス語は一定の対応性があるといえる。
※1 「
惑星ヒェルニエ」がニ格、ヘ格名詞として成立する
※2 rie格としてみることもできる
取り立て助詞「は」への制限
日本語は取り立て助詞「は」を用いて主題を表すことができ、
エミュンス語も
前置詞句・後動前置詞句の位置を変更することで、文の主題を表すことができる。
しかし日本語の名詞修飾節の場合では取り立て助詞「は」を使うことができない。
(7)
a.*ヅィーガーは
ニルガを食べる店
b.ヅィーガーが
ニルガを食べる店
一方で、
エミュンス語は前置詞《er》を用いたer格名詞と他の格の順番を前後することで表すことができる。
(8)
a.yootisy:e er Cziigaa yoot re nilga
b.yootisy:e yoot re nilga er Cziigaa
aの場合では「"ヅィーガーが"
ニルガを食べる店」、bの場合では「"
ニルガを"ヅィーガーが食べる店」というニュアンスになる。日本語では語順が変わり、単に強調されているだけのように聞こえるが、
エミュンス語では主題を語順で表すため、このような名詞修飾節を作ることができる。
時制・相への制限
日本語では「タ形」、「テイル形」動詞を用いて時制・相を使った名詞修飾が可能であるが、
エミュンス語の場合でも
後動詞を用いて表現が可能である。
(9)
a.グミを食べている
レイニエちゃん
b.グミを食べたレイニエちゃん
(10)
a.Na'Leiniy:e yootlnt re diinm:ueno
b.Na'Leiniy:e yooteen re diinm:ueno
日本語と
エミュンス語では以上のような対応性がある。日本語の時制は「過去」もしくは「非過去」で表される一方で、
エミュンス語の時制は「過去」、「現在」、「未来」で表される。このため「未来」表現において
エミュンス語と日本語は対応していない。
仮に日本語での未来表現を「~だろう」というモダリティ表現で表した場合以下のようになる。
(11)*グミを食べるだろうレイニエちゃん
(12)Na'Leiniy:e yooty:un re diinm:ueno
日本語では非文寄りのかなり不自然な文となるが、
エミュンス語では自然な文として成立する。したがって、未来表現においては
エミュンス語と日本語は対応性を持たない。
終助詞を使用した名詞修飾
これらの文は日本語では非文となる。一方
エミュンス語では「ね」、「よ」にあたる表現はない(※3)。そこで疑問の《tt》を使うと以下のようになる。
(14)*Uuny:e tt breyunlnt re Naxtsiulonshun terelrtatla
以上のように非文となる。名詞修飾節において日本語の終助詞と
エミュンス語の語尾詞には一定の対応性が見いだせる。
エミュンス語では命令文を語尾詞を使って表現する。語尾詞が使用できないとなると、日本語の命令形はどうであろうか。
やはり、日本語でも非文となってしまう。以上のことから、日本語の終助詞は
エミュンス語の語尾詞と一定の対応性があるといえる。
※1 ヅェアトロット方言には存在する
※2 呼びかけの場合は使用可能
3.終わりに
本稿では格関係のない名詞修飾節についての
日エ対照研究を行った。日本語と
エミュンス語には格関係内と外の名詞修飾が存在する。
名詞修飾節において、日本語では格関係による制限があるものの、
エミュンス語にはそれがなく、自由に名詞を修飾することができる。さらに日本語では取り立て助詞「は」を用いて名詞修飾で主題を表すことができないものの、
エミュンス語では語順を入れ替えることで主題の表現が可能である。
また、時制・相では
エミュンス語の「未来形」を除き、対応性が認められる。さらに日本語では終助詞を、
エミュンス語では語尾詞を使用して名詞を修飾することはできない。
関連項目
最終更新:2020年08月26日 14:19