和文漢読法

『和文漢読法』(盧本)簡注◆凡例・以下は、解説中で紹介した盧本、すなわち京都大学文学研究科図書館所蔵の夢花盧氏[増刊]『和文漢読法』(中哲文/日F / G。=』/わ. O一)を底本とし、その中国語の本文に書き下し文を添え、時に応じて語注・校訂・按語を加えたものである。ただし、紙幅の関係上、第三十八節と《第六表》は割愛した。なお、底本に著者名・刊行年は記されていない。・底本の割注は〔〕を以て示す。・底本の本文中の中国語の例文については()を以て訓読を添える。

  • 底本は、漢字と片仮名のみである。ただし、濁音の片仮名については、濁点の有無が統一されていない。今、適宜に濁点を付す。・底本は単に「第一節」「第二節」……と節数を掲げるのみであるが、今、読解の便を図るべく、各節の下に「* 」を以て簡略な見出しを付ける。《第一表》.《第八表》についても、同様の措置を講ずる。・語注は簡略を旨とし、各節に○を以て付す。必要に応じて、《校》を以て校訂を、《按》を以て按語を加える。校訂を加えた字句は「*」 ◆構成[覧 底本は、各節に見出しを付けず、単に全四十二節を並べ、そのあいだに《第一表》.《第八表》を配した体裁であるが、内容から整理を試みれば、左のごとく、1.Wの四部で構成されているものと見なしてよかろう。閲読の参考となれば幸いである。

1 総論  第一節  第二節H 品詞論 第三節 第四節 第五節 第六節 第七節 第八節 第九節 第十節 第十一節*日本語習得の骨法ー語順の顛倒*日本語の語順( 1 )実字と虚字を基準として*品詞の分類* 品詞冖の識別(. )名詞*品詞の識別(2 )動詞*品詞の識別(3 )助動詞*品詞の識別(4 )副詞*日本語の語順(2 )品詞を基準として * 断句の要領(1 )副詞を目安として* 品詞の識別(5 )形容詞*品詞の識別(6 )副詞と助動詞
第十二節  *日本語の語順(3 ) 皿仮名・仮名語への対応  第十三節  *仮名の処理  第十四節  * 仮名語( 1 )序論  《第一表》 * 助動詞   第十五節  * 《第一表》の説明   第十六節  * 《第一表》の説明   第十七節  * 《第一表》の説明  《第二表》 *副詞   第十八節  * 《第二表》  《第= 、表》 * (代)名詞   第十九節  * 《第一一、表》   第二十節  * 《第三表》  《第四表》 * 語助詞   第二十一節 * 《第四表》  《第五表》 * 脈絡詞         *第二十二節第二十三節第二十四節第二十五節第二十六節第二十七節第二十八節第二十九節第三十節 《第五表》* 《第五表》* 《第五表》* 《第五表》* 《第五表》* 《第五表》* 《第五表》* 《第五表》* 《第五表》品詞を基準として (1) 助動詞の位置(2) 語幹と活用語尾(3) 「為」の説明. 副詞の位置の説明( 1 )代名詞と形式名詞の説明(2) 「トキ」と「コト」の説明ー語助詞の位置の説明の説明の説明の説明の説明の説明の説明の説明の説明(. )脈絡詞の重要性(2 )「ト」 主賓と平列(3 ) 「ト」 別異(4 )「ト」 指点(5 )「モ」(6 )「ヲ」と「二」 異同(7 )「ヲ」と「二」 連用(8 )=一」(9 )「ノ」と「バ」梁啓超『和文漢読法』(盧本)簡注古田島洋介  第三十=即 * 断句の要領(2 )「テ」と「ル」  第三十二節 *断句の要領(3 )「ル」の接続例  第三十三節 *断句の要領(4 )「ル」の接続機能  第三十四節 *断句の要領(5 )句首の副詞と句末の動詞・助動詞        との呼応  第三十五節 * 仮名語(2 )総括  第三十六節 * 仮名語の解読例  第三十七節 *附説11 濁点の省略W漢字・漢字語・漢字仮名交じり語への対応  第三十八節 * 漢字語の困難(割愛)    《第六表》 *日中語彙対照表(割愛)   第三十九節 *同訓漢字の通用   《第七表》 *同訓漢字    第四十節  * 《第七表》の応用法  第四十一節 * 漢字仮名交じりの成句・熟語  第四十二節 *日本独特の漢字   《第八表》 * 国字と国訓【表紙・扉】和文漢読法【本文】和文漢読法45 N 工工一Eleotronlo  Llbrary  
Meisei University NII-Electronic Library Service 明星大学研究紀要【日本文化学部・言語文化学科】第「六号 二〇〇八年46 第一節 *日本語習得の骨法. 語順の顛倒凡学日本文之法、其最浅而最要之第一着、当知其文法与中国相顛倒。実字必在上、虚字必在下。如漢文「読書」、日文則云「書ヲ読ム」、漢文「遊日本」、日文則云「日本二遊ブ」。其他句法、皆以此為例。 おチ                                                                 まさ 凡そ日本文を学ぶの法、其の最も浅くして最も要の第一着は、当に其      あひでんたう                     ゆバの文法の中国と相顛倒するを知るべし。実字は必ず上に在り、虚字は必 しもず下に在り。漢文の「読書」、日文は則ち「書ヲ読ム」と云ひ、漢文の「遊口本」、日文は則ち「日本二遊ブ」と云ふが如くなり。其の他の句法、 これ皆此を以て例と為す。  すゑいよ末に在り、「不読書一は則ち「書ヲ読マズ」〔「ズ」は即ち「不」の字の義な〕りと云ぴ、「可遊日本」は則ち「目本二遊ブベシ」〔一ベシL                     こは即ち「可」の字の義な〕りと云ふが如きは、是れ共の例なり。「書」          いほゆう                          いはゆるの字、「日本」の字は、所謂名詞なり。「読」の字、「遊」の字は、所謂                いはゆら                  うち動詞なり。「不」の字、「可」の字は、所謂助動詞なり。大抵、一句の中、  さき           これ              これ名詞前に在り、動詞之に次ぎ、助動詞又之に次ぐ。 ○愈.愈: 意。.であればあるほど… である。 ○字 ほぼA単語Vの第三節 * 品詞の分類N 工工一Eleotronlo  Llbrary  Servloe Melsel  unlverslty  ○凡 かいつまんで言えば。要点を概括するときに冠する語。 ○第一着 第一の策。初めに講ずる手段。 ○実字 名詞を指す。 ○虚字名詞以外の品詞を指し、動詞をも合む。ただし、第三節では、動詞を「活字」と称し、虚字から除外している。第二節 *日本語の語順(1 )実字と虚字を基準として愈実之字則愈在首、愈虚之字則愈在末。如「不読書」則云「書ヲ読マズ」〔「ズ」即「不」字之義〕、「可遊日本」則云「日本二遊ブペシ」〔「ベシ」即「可」字之義〕、是其例也。「書」字「日本」字、所謂名詞也。「読」字「遊」字、所謂動詞也。「不」字「可」字、所謂助動詞也。大抵一句之中、名詞在前、動詞次之、助動詞又次之。 いよ                             はじめ 愈いよ実なるの字は則ち愈いよ首に在り、愈いよ虚なるの字は則ち愈亦有虚字而在句首者、則其虚字乃副詞也。中国入向来但分字為実字活字虚字= 、種。実字即名詞也。惟虚字之界頗不分明、実包括助動詞副詞脈絡詞語助詞皆在其内。今学日本文、不可不将此諸類弁別之。 ま                                                    ナねは 亦た虚字にして句首に在る者有れば、則ち其の虚字は乃ち副詞なり。   きやうらい た中国人、向来、但だ字を分かちて実字・活字・虚字の三種と為せるのみ。         た               ナこぶ実字は即ち名詞なり。惟だ虚字の界のみ頗る分明ならざれども、実は助動詞・副詞・脈絡詞・語助詞を包括して皆其の内に在り。今、口本文を        もつ  これ学ぶに、此の諸類を将て之を弁別せざるべからず。 ○向来 今まで。従来は。 ○活字 動詞を指す。…八九八年に成った〔清〕馬建忠『馬氏文通』巻一「正名」〈界説四〉に「動字( 11 動詞) は活字と別無し。活字と属はずして動字と日ふは…… 」(動字与活字無別。不日活字而日動字者…… )とある。ただし、本書とは異なり、『馬
Meisei University NII-Electronic Library Service Melsel  unlverslty 氏文通』の分類では「動字」すなわち動詞を実字の一とする。 ○界「虚字」という語が持つ意味の境界、すなわち語義の範囲を指し、要するに〈定義〉の意。右に引いた『馬氏文通』に見えるく界説Vの「界」に同じ。 ○脈絡詞 文の脈絡を決定する助詞の類を指す。後掲の飛第五表》を参照。第四節 * 品詞の識別(1 )名詞名詞最易識別、即中国所謂実字是也。但言実字則専指一字、言名詞則常包数字。如「書」字名詞也。「漢書」二字亦名詞也。「班氏漢書一四字亦名詞也。乃至有以一成語当一箇名詞者甚多、不可不知。                いはゆる       こ           た 名詞は最も識別し易く、即ち中国の所謂実字、是れなり。但だ実字と言へば則ち専ら[ 字を指すのみなれども、名詞と言へば則ち常に数字を                       ま包む。「書」の字の如きは名詞なり。「漢書」の二字も亦た名詞なり。               ないし    いつ「班氏漢書」の四字も亦た名詞なり。乃至は一の成語を以て一箇の名詞に当つる者有ること甚だ多ければ、知らざるべからず。 ○常 しばしば。たびたび。 ○数字 複数の漢字。いくつかの単語。○班氏漢書 〔後漢〕班固『漢書』のこと。 ○乃至 ひいては。第五節 * 品詞の識別(2) 動詞動詞亦易識別。或有. }字四字之動詞、亦易識別。   ま 動詞も亦た識別し易し。或いは二字、四字の動詞有れども、し易し。亦た識別梁啓超「和文漢読法』(盧本)簡注古田島洋介第六節 * 品詞の識別(3 )助動詞助動詞者、所以助此動詞之意味者也。如「読書」之「読」字、動詞也。或云「可読書」、或云「不読書」、或云「非読書」、或云「能読書」、「可」字「不」字「非」字「能」字、皆助「読」字之意味者也。所謂助動詞也。餘可類推。                ほ ゑ ん 助動詞は、此の動詞の意味を助くる所以の者なり。一読書L の「読」の字の如きは、動詞なり。或いは「可読書」(書を読むべし)と云ひ、或いは[不読書L (書を読まず)と云ひ、或いは「非読書」(書を読むに              よ非ず)と云ひ、或いは「能読書」(能く書を読む)と云ふとき、「可」の字、「不」の字、「非」の字、「能」の字は、皆「読」の字の意味を助く    いはゆるる者なり。所謂助動詞なり。餘は類推すべし。第七節 *品詞の識別(4 )副詞惟副詞之性格、稍難弁別。試挙其例。如云「既読書」「未読書」…, 将欲読書L 「須読書」「苟不読書」「実能読書」「殆非読書」「最好読書」云云、「既一字「未」字「将」字「須」字「苟」字「実」字「殆」字「最」字等、皆副詞也〔如此段第二句「稍難弁別」、「難」字助動詞也、 稍L 字副詞也。第三句「試挙其例」、「挙」字動詞也、「試」字副詞也。餘可類推〕。観此可以知副詞之性格。凡副詞必在一句之首也。 た                    や 惟だ副詞の性格のみ、稍や弁別し難し。試みに其の例を挙げん。「既                            まさ読書二既に書を読む)「未読書」(未だ書を読まず)「将欲読書」(将に                ケベか書を読まんと欲せんとす)「須読書」(須らく書を読むべし)「、苟不読書」47 N 工工一Eleotronlo  Llbrary  
Meisei University NII-Electronic Library Service Meisei  university 明星大学研究紀要【日本文化学部・言語文化学科】第十六口91  二〇〇八年いやしく                                   よ(苟も書を読まずんば)「実能読書」(実に能く書を読む)「殆非読書」ほとん(殆ど書を読むに非ず)「最好読書」(最も書を読むことを好む)云々と云ふが如き、「既」の字、「未」の字、「将」の字、「須」の字、「苟」の字、「実」の字、「殆」の字、「最」の字等は、皆副詞なり〔此の段の第二句「稍難弁別」の如き、「難」の字は助動詞なり、「稍」の字は副詞なり。第三句「試挙其例」の「挙」の字は動詞なり、「試」の字は副詞な                            おより。餘は類推すべ〕し。此を観れば以て副詞の性格を知るべし。凡そ副       はじめ詞は必ず一句の首に在るなり。○凡 おしなべて。すべて.というものは。第八節 *日本語の語順(2 )品詞を基準として 既知此四種詞之性格、則当知其一定之排列法。即毎句之中、副詞第一、名詞第二、動詞第三、助動詞第四、是也、一句中此四種詞具備者、則照此排列。如「最好読書」、日文則云「最モ書ヲ読ムコトヲ好ム」。一句中此数種詞或缺一二種者、則抽出之而排列、仍不乱。如「既読書」、則云「既二書ヲ読ム」。是只有副詞名詞動詞而無助動詞也。「稍難弁別.」則云「稍ヤ弁別シ難シ」。是只有副詞動詞助動詞而無名詞也。                  まさ 既に此の四種の詞の性格を知れば、則ち当に其の一定の排列法を知る       うちべし。即ち毎句の中、副詞は第一、名詞は第二、動詞は第三、助動詞は   こ                    うち第四、是れなり。一句の中、此の四種の詞の具備する者は、則ち此の排列に照らせり。「最好読蠱日」の如き、日文は則ち「最モ書ヲ読ムコトヲ                          か好ム」と云ふ。一句の中、此の数種の詞、或いは一、二種を缺く者は、  これ                   な則ち之を抽出して排列し、仍ほ乱れず。「既読書」の如きは、則ち「既48          ここ書ヲ読ムLと云ふ。是れ只だ副詞・名詞・動詞のみ有りて助動詞無き                         ニなり。「稍難弁別」は、則ち「稍ヤ弁別シ難シ」と云ふ。是れ只だ副詞・動詞・助動詞のみ有りて名詞無きなり。第九節 *断句の要領(1 )副詞を目安として初学時、既知実字虚字巓倒之法、然有時仍覚混乱、不能断句者、大抵皆由不知副詞之例耳。既知此、則自能断句而不混乱。遇名詞之上無副詞者、知其名詞処必句首也。遇名詞之上有副詞者、知其副詞処必句首也。如此豈有不能断句之患乎。                てんたう 初めて学びし時、既に実字・虚字の顛倒の法を知れども、然れども時   な                        あた              みな有りて仍ほ混乱を覚え、断句すること能はざる者は、大抵皆副詞の例を           これ               おの      よ知らざるに由るのみ。既に此を知れば、則ち自つから能く断句して混乱             あ                   をせず。名詞の上に副詞無き者に遇へば、其の名詞の処ること必ず句首なるを知るなり。名詞の上に副詞有る者に遇へば、其の副詞の処ること必          かく         あ           あた      コれず句首なるを知るなり。此の如くんば、豈に断句すること能はざるの患へ有らんや。 ○初学時 学び始めたばかりのとき。「初+動詞」で「.したばかり」の意。 ○有時 ときおり。場合によっては。 ○断句 意味のまとまりごとに文を区切ること。《按》この一節は、当時の目本語の文章が句読点に乏しく、一つの文がいかにも冗長で、句切りづらいことを前提としている。N 工工一Eleotronio  Library  
Meisei University NII-Electronic Library Service Meisei  university 第十節 * 品詞の識別(5 )形容詞有一種之形容詞。其用法与位置、亦与副詞同。如「学而時習之」之「時」字、「汎愛衆」之「汎」字、是其例也。「時」者所以形容共「習」也、「汎」者所以形容其「愛」也。又如「急読書」「勤読書」云云、「急」                           ネ字「勤」字皆形容詞也、位置亦在句首。如「学而時習之」則云「学ビテ時二之ヲ習フ」。餘可比例推之。                   ユサ 】種の形容詞有り。其の用法と位置とは、亦た副詞と同じ。「学而時        ニれ                                 ひろ習之」(学びて時に之を習ふ)の「時」の字、「汎愛衆」(汎く衆を愛す)           この「汎」の字の如きは、是れ共の例なり。「時」は其の「習」を形容す ゆヨんる所以なり、「汎」は其の「愛」を形容する所以なり。又「急読書」(急いで書を読む)「勤読書」(勤めて書を読む)云々の「急」の字、「勤」の字の如きは皆形容詞なり、位置も亦た句首に在り。「学而時習之」の                         これ  お如きは則ち「学ピテ時二之ヲ習フ」と云ふ。餘は例に比して之を推すべし。《校》*学ビテ時二之ヲ習フ 底本は「学ビシテ時二之ヲ習フ」に作るが、この「学ビシテ」は、「学ビテ」と、「而」の直前に常用される送り仮名「シテ」とを混同したものであろう。今、「シ」を衍字として削る。《按》この一節に謂う「形容詞一は、今日の品詞概念に謂う形容詞とは異なる。形容詞と副詞を修飾語として同一視したものか。第十一節 *品詞の識別(6 )副詞と助動詞梁啓超『和文漢読法』(盧本)簡注古田島洋介副詞与助動詞之界、亦有時通用、不甚分明。如一. 難L 字「能」字之類、有時当助動詞用、有時当副詞用。但学者閲之既熟、自能一挙而知其用法。今不縷述也。          ま 副詞と助動詞との界も亦た時有りて通用し、甚だしくは分明ならず。「難」の字、「能」の字の類の如きは、時有りて助動詞の用に当て、時有         た     これ                 おの     よりて副詞の用に当つ。但だ学者之を閲して既に熟すれば、自つから能く                るじゆワ一挙にして其の用法を知るのみ。今、縷述せざるなり。 ○有時.有時…  .することもあれば… することもある。 0 学者学ぶ者。学習者。研究にいそしむ人物としての学者ではない。 O 縷述こまごまと説明する。第十二節 *日本語の語順(3 )品詞を基準として 一句之中而有数箇動詞、或数箇助動詞、数箇副詞者、其排列仍同。如「好読書」則云「書ヲ読ムコトヲ好ム」。「読」字「好」字、皆動詞也。如「不可読書」則云「書ヲ読ムベカラズ」〔「ベカラ」可L 字之義、「ズ 「不一字之義〕。「不可」二字、皆助動詞也。「不可不読書」則云「書ヲ読マザルベカラズ」〔「ザル」亦「不」字之義〕。「不可不」三字、皆助動詞也。如「亦嘗読書」則云「亦タ嘗テ書ヲ読メリ」、「、亦嘗稍読書」則云「亦タ嘗テ稍ヤ書ヲ読メリ」。「亦」字「嘗」字「稍」字、皆副詞也。    つち 一句の中にして数箇の動詞、或いは数箇の助動詞、数箇の副詞有る者     なも、其の排列仍ほ同じ。「好読書」の如きは則ち「書ヲ読ムコトヲ好ム」              みなと云ふ。「読一の字、「好」の字は皆動詞なり。「不可読書」の如きは49 則N 工工一Eleotronio  Library  
Meisei University NII-Electronic Library Service Melsel  unlverslty 明星大学研究紀要【日本文化学部二言語文化学科】第十六号 二〇〇八年ち「書ヲ読ムベカラズ」〔「ベカラ」は「可一の字の義、「ズ」は「不」                  みなの字の義なり〕と云ふ。「不可」の二字、皆助動詞なり。「不可不読書」は則ち「書ヲ読マザルベカラズ」〔「ザル」も亦た「不」の字の義な〕り            みなと云ふ。「不可不」の三字、皆助動詞なり。「亦嘗読書」の如きは則ち「亦タ嘗テ書ヲ読メリ」と云ひ、「亦嘗稍読書」は則ち「亦タ嘗テ稍ヤ書                        みなヲ読メリ」と云ふ。「亦」の字、「嘗」の字、「稍一の字は皆副詞なり。第十一、一節 * 仮名の処理凡名詞之下、遇有附属之仮名〔口本字母、其草書日「平仮名」、正書日「偏仮名」。可総称「仮名」〕、其仮名必脈絡詞也、最当着眼。凡副詞動詞助動詞之下、皆有附属之仮名、其仮名即上一字之末音耳。日本文法有許多変化、其精微皆在於此〔動詞変化最多、助動(詞)次之。副詞有末音無変化〕。然漢人視之毫無用処、置之不理可也。一. 最好読書」則云「最モ書ヲ読ムコトヲ好ム」、「最」字下之「モ」字、「読」字下之「ム」字〔所列既不同矣、是其変化也。「読」字或附「メ」字或附「マ」字、如前節〕、「好」字下之「ム」字、皆其上一字之末音耳。故凡遇緊接於虚字活字下之仮名、暫可置之不理。不然則徒乱耳目也。此例不可不記。 およ                               あ 凡そ名詞の下、附属の仮名有るに遇へば〔口本の字母は、其の草書を「平仮名」と日ぴ、正書を「偏仮名」と日ふ。「仮名」と総称すべし〕、              まさ                およ其の仮名は必ず脈絡詞なり、最も当に着眼すべし。凡そ副詞・動詞・助     みな動詞の下、皆附属の仮名有れば、其の仮名は即ち上の一字の末音なるのみ。日本の文法は講笋の変化有り、其の胤御皆雌に在り〔動詞は変化最         これも多く、助動(詞)之に次ぐ。副詞は末音有れども変化無し〕。然れど   これ         がう                 これも漢人之を視れば毫も用ゐる処無し、之を置いて理せざるも可なり。50 「最好読書」は則ち「最モ書ヲ読ムコトヲ好ム」と云ふも、「最」の字の下の「モ」の字、「読」の字の下の「ム」の字〔列する所、既に同じか   こらず、是れ其の変化なり。「読」の字、或いは「メ」の字を附し、或いは「マ」の字を附すること、前節の如し〕、「好」の字の下の「ム」の字                  およは、皆其のヒの一字の末音なるのみ。故に凡そ虚字・活字の下に緊接す     あ          これ                                いたつるの仮名に遇へば、暫く之を置いて理せざるぺし。然らずんば則ち徒らに耳目を乱すなり。此の例、記せざるべからず。 ○正書 規則正しい書体。ここでは楷書を指す。片仮名が漢字の角張った筆画をそのまま写し取っていることからいうのだろう。 ○偏仮名片仮名。底本は「偏仮名」に作るが、「偏」では意味が通じまい。今、「偏」に改めた。 ○許多 数が多い。たくさん。 ○漢人 中国人。漢民族。満入すなわち満洲人との区別を念頭に置いているのだろう。 ○ 置之不理 放置して取り合わない。無視して相手にしない。 ○如前節第十二節に[ 読マL「読メ」などの語尾変化が見られることをいう。 0 虚字 副詞・助動詞などをいう。 ○活字 動詞をいう。第十四節 * 仮名語(1 )序諭日本書中、凡名詞必写漢字、不用仮名。動詞副詞十之九用漢字、其有用仮名者不過十之一耳。若助動詞、則十之九皆用仮名、其用漢字者殆少。又脈絡詞〔如「之」字「而」字之類〕及句末語助詞〔如「也」字「乎」字「哉一字一. 者」字之類〕亦皆用仮名、不用漢字。倶此種専用仮名不写漢字之字。在日本書籍中通行者不過数十個耳。学者既知此種詞之性格、又知其排列法、而猶不能読和文者、皆為此数十箇字所累也。今択其要者N 工工一Eleotronlo  Llbrary  
Meisei University NII-Electronic Library Service 標列於ド。     うち  およ 日本書の中、凡そ名詞は必ず漢字に写し、仮名を用ゐず。動詞・副詞は十の九は漢字を用ゐ、其の仮名を用ゐること有る者は十の一に過ぎざ        ごと                 みなるのみ。助動詞の若きは、則ち十の九は皆仮名を用ゐ、其の漢字を用ゐ   ほとんる者は殆ど少なし。又脈絡詞ロ、之Lの字、「而」の字の類の如き〕及び句末の語助詞〔「也」の字、「乎」の字、「哉」の字、「者」の字の類の如   ま   みほ                         たき〕も亦た皆仮名を用ゐ、漢字を用ゐず。但だ此の種のみ専ら仮名を用                   うちゐて漢字に写さざるの字なり。日本の書籍の中に在りて通行する者は数十個に過ぎざるのみ。学者の既に此の種の詞の性格を知り、又其の排列      じ                 あた            みな法を知つて、猶ほ和文を読むこと能はざる者は、皆此の数十箇の字のわづら                           えらド  しも累はする所と為ればなり。今、其の要なる者を択んで下に標列せん。◇ヨリ[因・自・比・与其]       ま◇ノミ[耳・而己・僅] ◇ダケ[而已・僅] 〔此字有時写作「丈ケ」(此の字、時有りて写して「丈ケ」に作る)〕◇イフ[云。謂] イヒ イハン イへ◇カラ[因・自]〔此字与「ヨリ」同用。文字用「ヨリ」、語言用「カラ」(此の字、「ヨリ」と同じく用ゐる。文字には「ヨリ」を用ゐ、語言には「カラ」を用ゐる)〕                     な◇ラレ[被動詞]〔可作「被」字読(「被」の字と作して読むべし)〕◇ント[未然詞]〔可作「欲」字読(「欲」の字と作して読むべし)〕◇マデ[迄] N 工工一Eleotronio  Library  Servioe Meisei  university 《第一表》 * 助動詞◇ズ[不凵 ジ テ ヌ ネ ザリ ザラン ザル ザレ◇アラズ[不・非] ナラズ アラザリ[非] アラザル◇アラン[有] アリ アル アレ◇ナカル[無] ナカラン ナキ ナケン ナク ナシ◇ペカラ[可] ベキ ベク ペケン ベシ◇シメ[使] シム◇セ[為] シ ス スル〔「的」字「所」字亦用此(「的」の字、「所」   ま   ニれの字も亦た此に用ゐる)〕 スレ ナリ〔「也一字亦用此(「也」の字も亦た此に用ゐる)〕 ナシ〔「無」字亦用此(「無一の字も亦た此に用ゐる)〕ナス ナセ ナル タリ タル『的」字「所[字亦用此(「的」の字、「所」の字も亦た此に用ゐる)〕 タレ       “  * アラザレ ○文字.語言…  「文字」すなわち書き言葉としては「ヨリ】、「語言」すなわち話し言葉としてほ「カラ」との意、《校》*「, 的」字「所」字亦用此 底本はこれを已然形「スレ」の割注としているが、下文の「タル」の割注および第三卜一節の内容から見て、連体形「スル」の割注とすべきであろう。今、改めた。 *ヌ 底本は「メ」に作る。これは「シテ」の合字一ノLかとも思われるが、「不」の読みとしては不適であろう。今、「ヌ」の誤植と見なす。 * 而已 底本がこの二字を分割して「而、已」とするのは誤植であろう。今、二字をつなげて 語とした。第十五節 * 《第一表》の説明(1) 助動詞の位置以上皆助動詞之類〔内惟「有」字「因・自・比一字コ五・謂」字、非助梁啓超『和文漢読法』(盧本)簡注古田島洋介
Meisei University NII-Electronic Library Service Meisei  university 明星大学研究紀要【日本文化学部・言語文化学科】第十六号 二QO 八年動詞。然其用法与他動詞不同。凡尋常動詞之上必有一脈絡詞。惟「カラ」「ヨリ」等則与名詞緊接。コイへL「イフ」之上必有一「ト」字、以別異之。与共他動詞不同〕。其位置皆在名詞動詞之下、従無有在句首者。   みは                     た 以上は皆助動詞の類なり〔内、惟だ「有」の字、「因・自・比」の字、「云・謂」の字のみ、助動詞に非ず。然れども、其の用法は他の動詞と     およ                       いつ              た同じからず。凡そ尋常の動詞の上に必ず一の脈絡詞有り。惟だ「カラ」                            いつ「ヨリ」等のみは則ち名詞と緊接す。「イへ」「イフ」の上に必ず一の          これ「ト」の字有りて、以て之を別異す。其の他の動詞と同じからず〕。其の              よ位置は皆名詞・動詞の下に在り、従りて句首に在る者有ること無し。 ○以別異之 「ト」によって引用文などを区別する意。第二十四節を参照。 ○従無. 今まで.したことがない。従来.したためしがない。第十六節 * 《第一表》の説明(2 )語幹と活用語尾以上所列、如「有」「無一「不」「可」「云」等字、皆有語尾変化。其変化亦分現在過去未来等、与動詞同例。我輩於其変化之法、皆可置之不理。但熟認之知其為此字足矣。如「有」字有「アラン」「アリ」「アル」「アレ」四種、其実則以「ア」字為主、而以「ラ・リ・ル・レ」四字為語尾変化耳。「無」「不」「可」「云」等字亦然。「無」字以「ナ」字為主、以「カ・キ・ク・ケ」為変化。[ 不L字以「ザ」字為主、以「ラ・リ・ル・レ」為変化。「可」字以「べ」字為主、以「カ・キ・ク・ケ」為変化。「云」字以「イ」字為主、以「ハ・ヒ・フ・へ」為変化。其変化之法、必以同一行之字母。既通其例、一以貫之、毫無窒礙矣。                            みな 以上に列する所、「有」「無」「不」「可」「云」等の字の如きは、皆語52           ま尾変化有り。其の変化も亦た現在・過去・未来等に分かるること、動詞                 お           これと例を同じうす。我が輩の其の変化の法に於けるや、皆之を置いて理せ    た    つら     これ              こざるべし。但だ熟つら之を認めて其の此の字たるを知るのみにて足れり。「有」の字の如きは、「アラン」「アリ」「アルニアレ」の四種有れども、其の実は則ち「ア」の字を以て主と為して、「ラ・リ・ル・レ」の四字                         よを以て語尾変化と為すのみ。「無」「不」「可」コ云L等の字も亦た然り。「無」の字は「ナ」の字を以て主と為し、「カ・キ・ク・ケ」を以て変化と為す。「不」の字は「ザ」の字を以て主と為し、「ラ・リ・ル・レ」を以て変化と為す。「可」の字は「べ」の字を以て主と為し、「カ・キ・ク. ケ」を以て変化と為す。「云」の字は「イ」の字を以て主と為し、「ハ・ヒ・フ・へ」を以て変化と為す。其の変化の法は、必ず同一行の                いつ    ニれ        がう  ちつがい字母を以てす。既に其の例に通ずれば、 一以て之を貫き、毫も窒礙無けん。 ○我輩 中国人。第十三節「漢人」に同じく、漢民族を念頭に置いていうのだろう。 ○置之不理 第十三節に既出。 ○同一行之字母 五十音図を前提とした説明である。丁本は巻頭に五十音図を掲げているが、盧本に五十音図は見られない。 〇一以貫之 一つの不変の原理が根底を貫いている。『論語』里仁および衛霊公に見える孔子の言一一以貫之L を応用した表現。 ○窒礙 ふさぎさまたげること。学習につまつくこと。第十七節 * 《第一表》の説明(3) 「為」上所列「為」字、凡十餘箇。但此等字、日本人訳之作「為」字、応読作N 工工一Eleotronio  Library  
Meisei University NII-Electronic Library Service Meisei  university 「為」字者、不過卜中之一ニヰ。其餘大率毫無意義、不過用以足成上文而已。「シ」「ス」「スル」「タリ」「タル」「ナス」「ナリ」「ナシ」等字、満紙皆是〔尤多「スル」「タル」〕。若一一読為「為」字、則累贅不通矣。其中如「スル」「、タル」「タリ」等字、読作「的」字或「所」字較妥。              およ                た   これアリ 上に列する所の「為」の字は、凡そ十餘箇なり。但だ此等の字、日本 これ                         まさ                 な人之を訳して「為」の字に作れども、応に読んで「為」の字と作すべき                   おほむね者は、十中の一、二に過ぎざるのみ。其の餘は大率毫も意義無く、用ゐて以て上文を成すに足るに過ぎざるのみ。「シ」「ス」「スル」「タリ」                          こ「タル」「ナス」「ナリ一「ナシ」等の字は、紙を満たして皆是れなりもつと                          も〔尤も「スル」「タル」多し〕。若し一々読んで「為」の字と為せぱ、則 るいぜい             うちぢ累贅にして通ぜず。其の中、「スル」「タル」「タリ」等の字の如きは、                な     は   やす読んで「的」の字或いは「所一の字と作せば較ぼ妥し。 O 凡 すべて合わせて。合計で。 ○満紙皆是 紙面の至るところ、みなそうである。頁のあちらこちらに数多く見られる。 ○累贅 くどくどしくて煩わしい。 0 較妥 比較的穏当である。おおむね妥当である。《第二表》 * 副詞◇ ◇ ◇ ◇ ◇ マタモマヤダダータヤー一亦一一未只一亦稍一        一 @ 馗梁啓超『和文漢読法』(盧本簡注占島洋介◇イヨイ[愈々]◇マスス[ 益々]◇タタマ[偶々]◇アルハ[ 或]  〔作「アルヒバ」オホカタ大]第十八節*( 「アルヒバ」に作る)〕《二表》の説明.副詞の位置以上皆副詞、位置必在句首。副詞多写漢字、有時亦写仮名。仮名之例、若尽之、不可勝。今摘其常用者。   みな 以上は皆副詞にして、位置は必句首に在り。副詞は漢字に写す者多     ま                       も  ことこと これく、時有りて亦た仮名に写す仮名の例は、若し尽く之を列すれば、書   ニ                                       ひろするにふべからず。今、其の常用る者をへり。《第三》 * 代)名コノ◇ソ◇ ノトキ档Rコトレソカレ[ 時][ 事][此][ 其] アレ[彼]〔有時写作「序」(時有りて写して「」に作る〕〔有時写作「マ」( 時有りて写して「マ」作る)〕第十九節* 《第三表》の説明(1 )代名詞と形詞式ネ上皆名詞、「此」「其」「彼」等、皆代名詞也。有時不写漢字、
Meisei University NII-Electronic Library Service 明星大学研究紀要【日本文化学部・言語文化学科】第卜六号 二〇Q 八年54 「コ」「ソ」「ア」等仮名。故列出之。    みな                              みな 以上は皆名詞にして、「此」「其」「彼」等は、皆代名詞なり。時有りて漢字に写さずして、「コ」「ソ」「ア」等の仮名を用ゐる。故に列してこれ  い之を出だせり。第二十節* 《第三表》の説明(2 )「トキ」と「コト」 ○蓋 たぶん。おそらく。推測を表す語。 ○彼 日本人。 O 食飯的事/ 読書的事 今、訓読の便宜および日本語の実態から「的」を置き字として読まず、また当節の趣旨から「事 を平仮名に改めた。 ○置之不問 第十三節「置之不理」に同じ。《校》*最モ書ヲ読ムコトヲ好ム 底本は[ 最モ書ヲ読ムコト好ムLに作るが、今、助詞「ヲ」を補った。N 工工一Eleotronio  Library  Servioe Meisei  university 「時」字「事」字等、大抵不写漢字、而用「トキ」「コト」等仮名。此両字、日本文用之最多。因共太多、故毎用省筆、写作「序」「コ」。惟「コト」字、我輩読之常覚其無用。蓋日本人最喜用「事」字。如「食飯」彼則云「食飯的事」、「読書」彼則云「読書的事」。凡此等皆可置之不問。視之与「スル」「タリ」等同例可也。観於第八節「最好読書」云云、日    ネ文則為「最モ書ヲ読ムコトヲ好ム」、其「. コト」二字之無用甚明、餘一切多類是。             たいてい 「時」の字、皿、事L の字等は、大抵漢字に写さずして、「トキ」「コト」                 これ等の仮名を用ゐる。此の両字は、日本文之を用ゐること最も多し。其のはなは太だ多きに因りて、故に用ゐるごとに省筆し、写して「キ」「コ」に作  た                              こいる。惟だ「コト」の字のみは、我が輩之を読んで常に其の無用を覚えん。け蓋だし日本人は最も喜んで「事」の字を用ゐる。「飯を食らふ」を彼は則ち「飯を食らふこと」と云ひ、「書を読む一を彼は則ち「書を読むこと」       およ  これら     これ                     これと云ふが如し。凡そ此等は皆之を置いて問はざるべし。之を「スル」「タリ」等と例を同じうすと視るも可なり。第八節「最好読書」云々を日文は則ち「最モ書ヲ読ムコトヲ好ム」と為すを観れば、其の「コト」                      こ二字の無用なること甚だ明らかにして、餘は一切多く是れに類す。《第四表》 * 語助詞◇モノ[者凵 〔「物」字亦用此◇ナリ[也] 〔「為」字亦用此◇ヤ [乎・哉・也] ◇カ [乎・哉] ◇ゾ [乎]      ま   これ(一物L の字も亦た此に用ゐる)〕〔「為」の字も亦た此に用ゐる)〕第二十一節 * 《第四表》の説明  語助詞の位置以上皆語助詞、位置必在句末。惟一モノL常在句中。   おは                                     た 以上は皆語助詞にして、位置は必ず句末に在り。惟だ「モノ」常に句中に在り。《第五表》 * 脈絡詞のみは◇ドモ[雖] 〔有時写作「田」。単一「ド」字或「モ」字皆有「雖」意(時有りて写して「臣」に作る。単一の「ド」の字或いは「モ」の字も
Meisei University NII-Electronic Library Service Meisei  university   いへども皆H 「雖」の音芯有り) 〕◇バ[則] ◇ナレバ [ 則]〔「バ」有「則」宇之意。「ナレ」則前所列「為」字之意也。実則不能謂之為「為」字、只当作無用耳。故雖添一「ナレ」、仍謂                         きヰぐ之「則」也(「バ」に「則」の字の意有り。「ナレ【は則ち前に列する所              これ                   い       ちたの「為」の字の意なり。実は則ち之を「為」の字を為すと謂ふこと能は    まさ       な              いつ                 いへどず、只だ当に無用と作すべきのみ。故に一の「ナレ」を添ふると雖も、な   これ          い仍ほ之を「則」と謂ふなり)〕◇ナレバ [ 然則] ◇ト[与・及] 〔又指点之詞。又別異之詞(又指点の詞なり。又別異の詞なり)〕◇モ [ 雖・亦] 〔又両名詞並列亦用之、与「ト」字同(又両の名詞の並   ま   これ列にも亦た之を用ゐること、「卜」の字と同じと     の◇ハ[逗頓之詞]〔有時可当「者」字用。句中一読毎用之(時有りて               いつ とう つね これ「者」の字の用に当つべし。句中、一の読に毎に之を用ゐる)〕◇テ[転語詞] 〔可当「而」字用(「而」の字の用に当つべし)〕◇シ[而] 〔「ニシテ」「トシテ」皆可当「而一字用(「ニシテ」一トシテLは皆「而」の字の用に当つべし)〕 ◎案「シ」不能作「而」字解、有「為」字意。「ニシテ」為「某.而某.」也。並非僅一「而」字(案ずるに、「シ」は「而」の字の解を作   あたすこと能はず、「為」の字の意有り。=一シテLは「.にして(而).」      けつ    わつ    いつと為るなり。並して僅かに一の「而」の字のみに非ず) 。                     およ◇ヲ[倒装脈絡詞] 〔凡名詞与動詞之間必用之(凡そ名詞と動詞との問   これに必ず之を用ゐる)〕◇二[倒装脈絡詞] 〔其用与「ヲ」同。亦逗頓之詞。其用与「ハ」略同梁啓超『和文漢読法』( 盧本)簡注古田島洋介           ま  とうとん                     は(其の用、「ヲ」と同じ。亦た逗頓の詞なり。其の用、「ハ」と略ぼ同じ)〕     の◇ン[未然之詞」     う                                     およ◇ル[接続之詞] 〔凡有「ル」字処、必不断句(凡そ「ル」の字有る処、必ず断句せずと ◎案「ル」可作「所」字解。与「タル」同。如訳書、可省則省(案ず              なるに、「ル」は「所」の字の解を作すべし。「タル」と同じ。訳書の如きは、省くべくんぱ則ち省く) 。     の◇ヨ [命令之詞] 〔在句末(句末に在りご◇ノ[的・之一 ま◇ガ[的]  ○指点 指し示す。ここでは語を取り立てて示す意。第二十五節を参照。 ○別異 区別する。ここでは引用文と地の文の句切りを示す意。第二十四節を参照。 ○逗頓 止まってとどこおる。文章の切れめをいう。 ○読 句切り。文章の切れめ。「逗一に同じ。 ○「某.而某.」今、「にして」の用法が明確になるように書き下した。 ○倒装脈絡詞「倒装」は倒置の意。「脈絡詞」は第三節に既出。中国語の構文「動詞+ 目的語」から見れば倒置構文「目的語+動詞一を形成する日本語の助詞を指す。 0 如訳書、可省則省 これは文語「タル」が、西洋語を翻訳した書物では口語「タ」となり、「ル」が省かれることをいうのだろう。《校》* 亦底本は「支」に作るが意味が通じにくい。字形の近似による誤植と見なし、暫く「亦」に改めた。 * ガ 底本は清音「、カ」に作るが、これは「的一の解を為すことから、「我ガ一生」などの「ガ」を念頭に置くものと思われる。今、濁点を付した。55 N 工工一Eleotronio  Library  
Meisei University NII-Electronic Library Service Melsel  unlverslty 明星大学研究紀要【口本文化学部二言語文化学科】第十六号 二〇〇八年《按》この第二十一節には「シ[而]」とりわけ前者の案語は「シ」を「而」すでに丁本にこの案語が見られるが、本が初めて付したのかは未詳。とル[接続之詞]に案語があり、と解釈することに異を唱えている。これが再版本で記されたのか、丁第二十二節 * 《第五表》の説明(1 )脈絡詞の重要性以上皆脈絡詞、日本文中最要緊之字也。其中「テ」「二」「ヲ」「ハ」「ノ」等字、尤為要中之要、日本文典所称天爾遠波、是也。〔天即「テ」、爾即= こ、遠即「ヲ」、波即「ハ」〕。連続成文、皆頼此等字、不可不熟記之。但其中有数字須詳論者。論之如下。    みな                    うち                      うち 以上は皆脈絡詞にして、日本文の中の最も要緊の字なり。其の中                もつと「テ」「二」「ヲ」「ハ」「ノ」等の字は、尤も要中の要たり、日本文典の     て に を は   こ称する所の天爾遠波、是れなり。〔天は即ち「テ」、爾は即ち「二」、遠                          これらは即ち「ヲ」、波は即ち「ハ」なり〕。連続して文を成すに、皆此等の字     つら     これ                        た          りら            ちベかに頼れば、熟つら之を記せざるべからず。但だ其の中に数字のみ須らく        これ            しも詳論すべき者有り。之を論ずること下の如し。 ○要緊 重要な。肝腎な。 ○日本文典 一見、固有名詞として大槻文彦『広日本文典』(明治三十年〔一八九七〕、著者発行/ 〔復刻版〕昭和五十五年、勉誠社)の略称にも見えるが、同書一六二頁その他は「テニヲハ」を「弖爾乎波」に作り、本節の記す「天爾遠波」とは字遣いが異なる。今、単なる普通名詞と解す。56 第二十三節 * 《第五表》の説明(2 )「ト」 主賓と平列「ト」字作「与」字解。如「我与爾」、日文則為「我爾ト」、「兄与弟」、日文則云「兄ト弟ト」。大抵其句中両名詞、一為主、一為賓者、則用一「ト」字、其両名詞属平列者、則用両「ト」字、是也。              な                             なんぢ 「ト」の字は「与」の字の解を作す。「我与爾」を日文は則ち「我爾                           たいていト」と為し、「兄与弟」を日文は則ち「兄ト弟ト」と云ふが如し。大抵、         いワ                         いつ其の句中の両の名詞の冖は主と為り一は賓と為る者は則ち一の「ト」の字を用ゐ、其の両の名詞の平列に属する者は則ち両の「ト」の字を用ゐ  こる、是れなり。《按》この一節は、実質上、漢文「A与B 」を、「A がB と」の意であれ   と                                              とば「A 与レB 」(AB と) 、「AとB が」の意であれば「A , 与レB 」(AとBと)と訓読する習慣を説明しているに等しい。それがそのまま漢文訓読体の文章の通例だと指摘しているわけである。第二十四節 * 《第五表》の説明〔3 )「ト」 別異「卜」字用為別異之詞者、如文中引古書、或用他人之言。於其所引既畢、必有一「ト」字、以別異之。故凡文中上有「日」字「云」字「以為」字等、其下必有「ト」字、乃】定之例也。 「ト」の字の用ゐて別異の詞と為す者は、文中に古書を引き、或いは                    をは      お他人の言を用ゐるが如くなり。其の引く所の既に畢れるに於いて、必ずいつ                  これ            およ               いはく一の「ト」の字有り、以て之を別異す。故に凡そ文中にて、上に「日」N 工工一Eleotronlo  Llbrary  
Meisei University NII-Electronic Library Service Melsel  unlverslty    いふ        おもへらくの字、「云」の字、「以為」  すなはは、乃ち一定の例なり。の字等有れば、其の下に必ず「ト」の字有る第二十五節 * 《第五表》の説明(4) 「ト」 指点文中有三四字之成語、或用尋常不常用之字、或本熟字而用之稍与尋常異者、其下亦毎以一「ト」字指点之。故}, トL字之用極多。 文中に三、四字の成語有り、或いは尋常には常用せざるの字を用ゐ、   もこれや ま或いは本と熟字にして之を用ゐて稍や尋常と異なる者は、其の下に亦たつね  いつ                   これ毎に一の「ト」の字を以て之を指点す。故に「ト」の字の用は極めて多し。第二十六節 * 《第五表》の説明(5) 「モ単一「モ」字、可作「雖」字用、亦可作「亦」字用。大抵属上則為「雖」、属下則為「亦」也。惟有時両名詞平列、亦用「モ」字。如「兄ト弟ト」、有時作「兄モ弟モ」〔亦有時作「兄二弟二」〕。又副詞之下常有「モ」字。如「最モ」「尤モ」之類。然此不過「最」字「尤」字之末音耳、毫無意義、切勿誤認為「雖」字「亦」字等。要之、副詞動詞之下緊接附属之仮名、必為無用者、不可不牢記。                ぼ            よ 単一の「モ」の字、「雖」の字の用を作すべく、亦た「亦」の字の用      にいてい かみ                      しもを作すべし。大抵、上に属せぼ則ち「雖一と為り、下に属せば則ち        に「亦」と為るなり。惟だ時有りて両の名詞の平列も亦た「モ」の字を用ゐるのみ。「兄ト弟ト」の如きは、時有りて「兄モ弟モ」に作る〔亦た時有りて「兄二弟二」に作る〕。又副詞の下に常に「モ」の字有り。「最梁啓超『和文漢読法』(盧本)簡注古田島洋介                これモL「尤モ」の類の如くなり。然れども此はコ最L の字、「尤」の字の末        かう             せつ音に過ぎざるのみ、毫も意義無く、切に誤認して「雖」の字、「亦」の      なか     これ字等と為すこと勿れ。之を要すれば、副詞・動詞の下に緊接する附属の               ロリロつき仮名は、必ず無用の者と為ること、牢記せざるべからず。○切勿 決して.してはいけない。 ○牢記 確実に記憶すること。第二十七節 * 《第五表》の説明(6 )「ヲ」と「二」 異同「ヲ」字与「二」字皆倒装用字、其性格略同。惟「ヲ」字略近「其」字之意、「二」字略近「於」字之意。観第一節所引例「書ヲ読ム」与「日本二遊ブ」、可以知其用法。             たうさう                         ほ 「ヲ」の字と「二」の字とは皆倒装用の字にして、其の性格は略ぼ同じ。惟だ「ヲ の字は略ぼ「其」の字の意に近く、「、二」の字は略ぼ「於」の字の意に近きのみ。第一節に引く所の例「書ヲ読ム」と「日本二遊ブ」とを観て、以て其の用法を知るぺし。第二十八節 * 《第五表》の説明(7 )「ヲ」と「二」 連用若一句之中以一動詞綰両名詞者、則「ヲ」字コこ字並用。如「読書於              ホ                         ギ日本」則云「, 書ヲ日本二読ム」、「尽心力於国事」則云「心力ヲ国事二尽ス」。文字中此種句法最多、当知其例。若漫然不省、僅拠倒装之例、而誤認為「読日本」「尽国事」、則不通矣。 も        うち  いつ                    むす 若し一句の中に一の動詞を以て両の名詞を綰ばんとすれば、則ち「ヲ」の字、= 二の字は並用せらる。「読書於日本」は則ち「書ヲ日57 本N 工工一Eleotronlo  Llbrary  
Meisei University NII-Electronic Library Service 明星大学研究紀要【日本文化学部・言語文化学科】第十六号 二〇〇八年58 二読ムLと云ひ、「尽心力於国事」は則ち「心力ヲ国事二尽ス」と云ふ      うら                                  まさが如し。文字の中、此の種の句法最も多ければ、当に其の例を知るべし。も                    わつお    たつさう若し漫然として省みず、僅かに倒装の例のみに拠りて、誤認して「読日本」(日本を読む)「尽国事」(国事を尽す)と為せば、則ち通ぜず。《校》* 尽心力於国事…… 心カヲ国事二尽ス 底本は…… 「心力ヲ国事ユ尽」に作り、両者が一致しない。「力」を、日本語に「ス」を補った。「尽心於国事」今、中国語に用。非尋常之コ則L 字也。故文中「ノ」字、即「之」字也、一、バ」字即「則」字也。    ヒつち 目本文の中に「之」の字無く、「則」の字無し。「之」の字有れば、則ち必ず代名詞の用に当つ。尋常の「之」の字に非ざるなり〔「学而時習     これ之」(学びて之を習ふ)の「之」の字の如きは則ち「之」の字に写すも、「大学之道」(大学の道)の「之」の字は則ち必ず「之」の字に写さず〕。「則」の字有れば、則ち必ず「即」の字の用に当つ。尋常の「則」の字に非ざるなり。故に文中の「ノ」の字は即ち「之」の字なり、「バ」の字は即ち「則」の字なり。N 工工一Eleotronio  Library  Servioe 第二十九節 * 《第五表》の説明(8) 「二」於句中;輒之時、往往用「二」字以為逗頓。又副詞之下、亦往往用「二」字。此等不能認為倒装脈絡詞。学者当合上下文法求之可也。   お    ひと   とう        わうわう 句中に於いて一たび読するの時、往々にして「二」の字を用ゐて以てとうとん                   ま                            これら逗頓と為す。又副詞の下にも亦た往々にして「ユ」の字を用ゐる。此等    たうさう                      みヰた               まさは認めて倒装の脈絡詞と為すこと能はず。学者、当に上下の文法を合は  ニれせて之を求むべくんば可なり。《校》学而時習之…… 大学之道 底本は「時」の字の位置を誤って「学       あ而習之…… 大学時之道」に作る。今、改めた。《按》本節は、日本文の「之」の字は「これ」と訓ずる代名詞であり、「則」の字は中国語の「即」と同じように使うとの趣旨である。末尾の一文は、中国語で修飾関係を形成する「之」および仮定・条件を表す「則」は、日本語ではそれぞれ仮名でコノL「バ」と記される、との意である。○読 《第五表》の語注を参照。第三十一節* 断句の要領(2 )「テ」と「ル」Meisei  university 第三十節 * 《第五表》の説明(9 )「ノ一と「バ」日本文中無「之」字、無「則」字。有「之」字、則必当代名詞用。非尋         ホ                                                   ホ常之「之」字也〔如「学而時習之」之「之」字、則写「之」字、「大学之道」之「之」字、則必不写「之」字〕。有「則」字、則必当「即」字読日本書者、毎苦於不能断句、吾今有一法。凡句中遇有「テ」字「ル」字之処、必不断句也。但「テ」字為転語詞、「ル」字為接続詞。故遇「テ」字垣為一読。「テ」字可作「而」字用、「ル」字可作「的」字用〔有時亦不能逕作「的」字〕。如「スル」「タル」等、尤多合「的」字之義。大抵熟第一表》所列各「為」字中、如「シ」「セ」「ス」等、常有当
Meisei University NII-Electronic Library Service Meisei  university 「的」字用者。学者因上下文求之、自能分別領会。           つね             あた                     いま 日本の書を読む者は、毎に断句すること能はざるに苦しめども、吾今     およ                                            あ一法有り。凡そ句中に「テ」の字、」. ルLの字有るの処に遇へば、必ず        た断句せざるなり。但だ「テ」の字は転語詞と為り、「ル」の字は接続詞              あ         つね   いつ  とうと為るのみ。故に「テ」の字に遇へば、恒に一の読を為す。「テ」の字         な                                         なは「而」の字の用を作すべく、皿、ルLの字は「的」の字の用を作すべし    まただ   な あた〔時有りて亦た逕ちには「的」の字と作すこと能はず〕。「スル」「タル」      もつと                         たいてい等の如きは、尤も「的」の字の義に合ふこと多し。大抵《第]表》に列           うりする所の各「為」の字の中、「シ」「セ」「ス」等の如きは、常に「的」                      これ            おのの字の用に当たる者有り。学者、上下の文に因つて之を求むれば、自つ  よ      りやうくわいから能く分別し領会せん。○分別領会 見分けて理解する。第三十二節 *断句の要領(3 )「ル」の接続例日本文句法、往往極長、最為繁難可厭。然其所以聯為長句者、皆藉「ル」字之用也。今訳一二条以為例。        わうわう                  はんなん    のと 日本文の句法、往々にして極めて長きは、最も繁難にして厭ふべきと         つら              ゆゑん為す。然れども其の聯ねて長句を為す所以の者は、皆「ル」の字の用にか藉ればなり。今、 一、二条を訳して以て例と為さん。◇原文ナリ。 直訳単純ナル器物之製造二従事スルノ智識ヲ発スルヲ得タルノ時代将発従事於単純的器物之製造的智識之時代也。梁啓超「和文漢読法』(盧本)簡注古田島洋介 訳意◇原文 直訳 訳意当此之時、人類智識漸発、能製造簡易之器物也。道理上ノ真理二関スル智識ノ退歩スル理ナク。無関於道徳E 之真理的智識之退歩的理。関於道徳上之智識、決無退歩之理。 ○最為 最も.である。               の《按》第一例の原文に見える「器物之製造」の「之」の字は、の内容を自ら裏切る字遣いであるが、今、暫く改めない。第三十三節 *断句の要領(4 )「ル」の接続機能第三十節由此観之、知其「ル」字皆句中接続要緊之字。若不知此例、任意断句、或僅拠〈実字在上、虚字在下〉之例、謂〈凡遇名詞、必係句首V 、則窒礙不通矣。既知此例、又合第九節之例、則無以断句為難者矣。 これ       これ                      みな 此に由りて之を観れば、其の「ル」の字の皆句中にて要緊の字を接続        も                                             わづすることを知る。若し此の例を知らず、任意に断句し、或いは僅かに   かみ              しも                            およ        あA実字は上に在り、虚字は下に在り〉の例のみに拠つて、〈凡そ名詞に遇           おも       ちつかいへば、必ず句首に係る〉と謂はば、則ち窒礙して通ぜず。既に此の例を                      かた知り、又第九節の例を合はすれば、則ち断句を以て難しと為す者無けん。第三十四節 * 断句の要領      詞との呼応〔5 )句首の副詞と句末の動詞・助動又有一例。凡句首有副詞者、其句末必有動詞或助動詞以応之。但日文句法太長、常有隔数十字或数行、乃為一句者。若遇句首既有副詞、句中59 有N 工工一Eleotronio  Library  
Meisei University NII-Electronic Library Service Meisei  university 明星大学研究紀要【日本文化学部・言語文化学科】第十六号 二〇〇八年許多「テ」字「ル」字、又未得其応之之動詞者、則知其必不断佝。或畳至数十字数行以下、必得其相応之動詞、乃能断句也。      およ 又一例有り。凡そ句首に副詞有る者は、其の句末に必ず動詞或いは助     これ           た            はなは動詞の以て之に応ずる有り。但だ日文の句法は太だ長く、常に数十字或       ずなは                          もいは数行を隔てて乃ち一句を為す者有るのみ。若し句首にて既に副詞有  あ           きよた                                         これるに遇ひ、句中に許多の「テ」の字、「ル」の字有りて、又未だ其の之                              かさに応ずるの動詞を得ざれば、則ち其の必ず断句せざるを知る。或いは畳                            ナなは よねて数十字・数行以下に至つて必ず其の相応ずるの動詞を得ん、乃ち能く断句するなり。○乃 そこではじめて。やっとのことで。第三十五節 * 仮名語(2 )総括以上《第一表》至《第五表》所列之日本字、及第十四節至第三十三節之解釈、日本書中所用之仮名、字有用而当記者、略尽於是矣。申而論之、書中仮名可分為三類。 以上、《第一表》より《第五表》に至るまで列する所の日本の字、及び第十四節より第三十三節に至るまでの解釈にて、日本の書中に用ゐる           まさ            ほ  ニこ      かさ   これ所の仮名、字の有用にして当に記すべき者は、略ぼ是に尽く。申ねて之を論ずれば、書中の仮名は分かちて三類と為すべし。 第一類 最有用者、如表中所列脈絡詞結語詞及助動詞等、是也(最も有用なる者は、表中に列する所の脈絡詞・結語詞及び助動詞等の如き、是れなり) 。60  第二類 半有用者、如「シ」「ス」「. スル」「タル」「ナリ」「ナス」「ナル」「コト」之類、是也(半ば有用なる者は、「シ」「ス」「スル」「タル」                   こ「ナリ」 ナスL「ナル」「コト」の類の如き、是れなり)  第三類 無用者、如緊接於副詞動詞助動詞下所附属之末音、是也(無用なる者は、副詞・動詞・助動詞の下に緊接して附属する所の末音の如  こき、是れな)りQ ○申而論之 改めて論ずるならば。第三十六節 * 仮名語の解読例学者既知此、則雖遇書中仮名甚多処、不必畏怖之。一望而能将其有用者摘出、当作漢字読之、而無用者棄之也。試挙其例。其文日「此レノミナラズナリ」。驟観覚甚難読。然既知「ノミ」之為「僅」、又知「ナラズ」之為「不」、又知「ナリ」為「也」、則一望両知其語意為「不独此也」。又有【句於此、其文日「豈二以テ成スアルベキニアラザランヤ」。驟観亦覚難読、既知「アル」之為「有」、知「ベキ」之為「可」、知「アラザラ」之為「非」、知「ヤ」之為「哉」、則一望而知其語意為「豈非可以有成哉 。其「豈」字下之「二」、「成」字下之「ス」、知其一為無用、一為半無用、自可置之不問矣。故用此法、但牢記前五表所列各字、認字極熟、与漢字等、則於読日本書、思過半矣。      これ                                    あ 学者、既に此を知れば、則ち書中の仮名の甚だ多き処に遇ふと雖も、    これ ゐ ふ     ひと        よ               もつ必ずしも之を畏怖せじ。一たび望んで能く共の有用なる者を将て摘出し、まさ            これ                        これ  す当に漢字に作つて之を読むべくして、無用なる者は之を棄てよ。試みに                                         には其の例を挙げん。其の文に曰く「此レノミナラズナリ」と。驟かに観れN 工工一Eleotronio  Library  
Meisei University NII-Electronic Library Service ば甚だ読み難きを覚ゆ。然れども、既に「ノミ」の「僅」と為るを知り、又「ナラズ」の「不」と為るを知り、又「ナリ」の「也」と為るを知れ    ひと                                                             ここぼ、則ち一たび望んで其の語意の「不独此也」と為るを知らん。又此に一句有り、其の文に曰く「豈二以テ成スアルベキニアラザランヤ」と。には           ま驟かに観れば亦た読み難きを覚ゆれども、既に「アル」の「有」と為るを知り、「ベキ」の「可」と為るを知り、「アラザラ」の「非」と為るを知り、「ヤ」の「哉」と為るを知れば、則ちひ一とたび望んで其の語意の「豈非可以有成哉」と為るを知らん。其の「豈」の字の下の「二」、「成」           いつ              いつの字の下の「ス」は、其の一の無用と為り、 一の半ば無用と為るを知れ  おの     これ                                  た  さきば、自つから之を置いて問はざるべし。故に此の法を用ゐ、但だ前の五           らロつき表の列する所の各字のみを牢記し、字を認めて極めて熟すること漢字と               お等しければ、則ち日本の書を読むに於いて、思ひ半ばに過ぎん。ジズゼゾL等為濁音〕往往缺其両点。如「ザル」「ザレ」「ズ」「ジ」「ド」等字、書中常刻為「サル」「サレ」「ス」「シ」「ト」等字者、看之既熟、自能会意弁別。  いつ  さ るん                               お 又一の瑣論有り。日本刊刻の書籍、濁音の宇に於いて〔「サシスセソ」                      わうわう等を原音と為し、「ザジズゼゾ」等を濁音と為す〕往々にして其の両点 かを缺く。「ザル」「ザレ」「ズ」「ジ」「ド」等の字、書中に常に刻して                          これ「サル」「サレ」「ス」「シ」「ト」等の字と為す者の如きは、之を看て既      おの    よ     くわいに熟すれば、自つから能く意を会して弁別せん。○会意 わかる。納得する。第三十八節 * 漢字語の困難(割愛) N 工工一Eleotronio  Library  Servioe  ○置之不問 第二十節に既出。第十三節「置之不理」と同義。《校》* 此レノミナラズナリ 正しくは「…… ザルナリ」であるが、今、暫く改めない。 * 豈二以テ成スアルペキニアラザランヤ 底本は「豈二成スアラン、ベシ、アラザレセ」に作り、「アラン」11 「有」、「ベシ」11 「可」、「アラザレ」11 「非」、「セ」11 「哉」と比定しているが、下文に見える「豈非可以有成哉」の訓読としては甚だ適切を欠き、仮名の誤植も明らかである。今、「豈非可以有成哉゜」を訓読して、漢字に比定すべき語を仮名書きとし、それに従って仮名と漢字の比定を記した。第三十七節 * 附説隠濁点の省略《按》原文・書き下し文は、ともに解説の三「《第六表》げたとおりである。当該箇所を御参照いただきたい。《第六表》 *日中語彙対照表(割愛) 第三十九節 *同訓漢字の通用の問題L 中に掲和文中常有以漢文同訓詁之字彼此誤用者。今挙於下。    シち            くんこ 和文の中に常に漢文の訓詁を同じうするの字を以て彼と此と誤用する      しも者有り。今、下に挙げん。Meisei  university 又有一瑣論。日本刊刻書籍、於濁音之字〔「サシスセソ」等為原音、「ザ《第七表》 *同訓漢字梁啓超『和文漢読法』(盧本)簡注古田島洋介
Meisei University NII-Electronic Library Service Melsel  unlverslty 明星大学研究紀要【日本文化学部・言語文化学科】第1 六号 二〇〇八年◇所・処 如「, 無所不知」常作為「無処不知」(「知らざる所無し」を常に作つて「知らざる処無し」と為すが如し) 。◇有・在 如「在明明徳」常作為「有明明徳」、「知止而後有定」常写為「・・…・而後在定」(「明徳を明らかにするに在り」を常に作つて「明徳を             や    しか  のち明らかにするに有り」と為し、「止んで而る後に定まること有るを知る」を常に写して「…… 而る後に定まること在るを…… 」と為すが如し) 。                  や◇已・止 如「不得已」常写為「不得止」(「己むを得ず」を常に写してや「止むを得ず」と為すが如し) 。◇至・到如「無所不至」常写「無所不到」(「至らざる所無し」を常に「到らざる所無し」に写すが如し) 。◇因・従◇追・逐◇視・観・見 如「由是観之」常作「由是視之」或「見之」。「観月」             これ       これ「観山」則作「見月」「見山」(「是に由りて之を観れば」を常に「是に由りて之を視れば」或いは「:・… 之を見れば」に作るが如し。「月を観る」「山を観る」は則ち「月を見る」「山を見る」に作る) 。◇其・夫・彼                            これ◇此・之・是如「由是観之」常作「由此観此」或「由此観是」(「是に   これ由りて之を観れば」を常に「此に由りて此を観れば一或いは「此に由りて是を観れば」に作るが如し) 。◇若・或・及 「若」字多作「若子若弟」之「若」字用(「若」の字は、     も        し   も        てい                           な「若子若弟」(若しくは子、若しくは弟なり)の「若」の字の用を作すこと多し) 。◇則・即・乃「則」字毎当「即」字用。「乃」字亦同(「則」の字は、62 つね                                    ま毎に「即」の字の用に当つ。「乃」の字も亦た同じ) 。◇言・云・謂 如「其事有不堪言者」、則作為「不堪云」「不堪謂」(「其の事、言ふに堪へざる者有り」の如きは、則ち作つて「…… 云ふに堪へざる…… 」「…… 謂ふに堪へざる…… 」と為す) 。 ○彼此 互いに。 0 若子若弟 『春秋左氏伝』襄公十}年・春[伝]                            もに「孟氏使半為臣。若子若弟」(孟氏は半ばをして臣たらしむ。若しく  もは子、若しくは弟なり)とある。《按》この一節中、「因・従」「追・逐」「其・夫・彼」の三条には何も説明が付されていない。丁本も同様である。初版本のときから字旬が欠けていたのであろうか。『和文漢読法』が慌しく編集されたことを窺わせる欠字かもしれない。第四十節 * 《第七表》の応用法此類通用之字、目人毎随意写之、学者既知此例、於読書時、如遇「処」字、覚其不通時、当「所」字読之必通矣、遇「在」字、覚其不通時、当「有」字読之必通矣。他皆以此為例。           つね        これ 此の類の通用の字、日人毎に随意に之を写す。学者、既に此の例を知       お       も               あれば、読書の時に於いて、如し「処」の字に遇ひて、其の通ぜざるを覚            これ                        あゆる時は、「所」の字を当てて之を読めば必ず通じ、「在」の字に遇ひて、                    これ其の通ぜざるを覚ゆる時は、「有」の字を当てて之を読めば必ず通ぜん。   これ他は皆此を以て例と為す。N 工工一Eleotronlo  Llbrary  
Meisei University NII-Electronic Library Service Meisei  university 第四十=即 * 漢字仮名交じりの成句・熟語和文中常有成句熟語。文字中常用者、共中漢字与仮名相間、驟視頗難索解。今列其数句。    シち                         うち                うち 和文の中に常に成句・熟語有り。文字の中に常用する者、其の中に漢    あひか        には        ずこぶ    もと字と仮名と相問はるは、驟かに視れば頗る解を索め難し。今、其の数句を列せん。◇例ヘバ 猶言試挙共例也(猶ほ「試みに其の例を挙げん」と言ふがごとくなり) 。 ホ                                                 ぶさ    これ◇之ヲ換言スレバ 猶言申而論之(猶ほ「申而論之」(申ねて之を論ずれば)Lと言ふがごとし) 。◇拘ハラズ 直訳之為「不拘」。猶云無論也。其用法如云此事雖難成、而我必為之、則云、於是等句或用「論ナシ」或用「勿論」。共義一也これ                      かか                 な(之を直訳すれば「不拘」(拘はらず)と為る。猶ほ「無論」(論ずること無く)と云ふがごとくなり。其の用法、「此の事、成り難しと雖も、しか           これ                                           こニ  お而して我必ず之を為さん」と云ふが如きには、則ち云ふ。是に於いて等しき句として、或いは「論ナシ一を用ゐ、或いは「勿論」を用ゐる。其   いつの義は} なり) 。 ネ◇言マデモナク 直訳為「言迄無」。訳意則猶云「不待言」也。於是等処或作「云迄無」「謂迄無」等。其「迄」宇或写「迄」字、或写「マデ」                     な(直訳すれば「言迄無」と為る。意を訳せぱ、則ち猶ほ「不待言」(言を             ここ   お待たず)と云ふがごとくなり。是に於いて等しき処に、或いは「. 云迄無」「謂迄無」等に作る。其の「迄」の字は、或いは「迄」の字に写し、梁啓超『和文漢読法』(盧本)簡注古田島洋介或いは「マデ」に写す) 。◇間違ナク 直訳之為「無間違」。訳意則猶俗語這個自然之義。其用処                            これ与「言迄無」略同而小異。如中国今固積弱矣、然猶可図強、則云〔之を                   な直訳すれば「無間違」と為る。意を訳せば則ち猶ほ俗語の「這個自然」                  ほの義のごとし。其の用ゐる処は「言迄無」と略ぼ同じうして小さく異な        もと   ビきじやく             なるのみ。「中国は今固より積弱なれども、然れども猶ほ強きを図るべし」の如きには、則ち云ふ) 。     ま◇程ナク 直訳之為「無程」。訳意即「少頃」之意。猶言「無幾時」也これ(之を直訳すれば「無程」と為る。意を訳せば即ち「少頃」の意なり。ヒよ                 ロくざく猶ほ「無幾時」(幾時も無く)と言ふがごとくなり) 。◇去レドモ 解釈見第六表〔解釈は《第六表》に見ゆ) 。◇左レバ 解釈見第六表去字行下(解釈は《第六表》「去」の字の行の下に見ゆ) 。 ○相間 かわるがわる互い違いになる。一つに語句に漢字と仮名が入り交じること。 ○無論 たとい.であっても。 ○如云此事雖難成、而我必為之、則云 このような一句は、「雖も」を「拘ハラズ」に置き撰えて、「此の事、成り難きにも〈拘ハラズ〉…… 」と言うこともできる、との意であろう。 0 這個白然 これは当然のことだ。これが自ずからそうなることは間違いない。 ○如中国今固積弱矣、然猶可図強、則云このような一句は、「固より」を「間違ナク」に置き換えて、「中国は今〈間違ナク〉積弱なるも:…・」と言うこともできる、との意であろう。○少頃 しばらく。 ○見第六表 《第六表》「ム」部「去リサレ」の釈義の割注に次のようにある。   去字左字、其音皆読為「サ」。故書写時、毎用此両字。去レバ63 左N 工工一Eleotronio  Library  
Meisei University NII-Electronic Library Service Meisei  university 明星大学研究紀要【日本文化学部・言語文化学科】第十六号 二〇〇八年   レバ皆然則也。去レドモ左レドモ皆雖然也                   みな   一去Lの字、「左」の字は、共の音、皆読んで「サ.一と為す。故         つね    に書写の時、毎に此の両字を用ゐる。「去レバ」「左レバ」は皆   「然則」(然らば則ち)なり。「去レドモ」「左レドモ」は皆「雖   然」(然りと雖も)なり。《校》* 之ヲ換言スレバ 底本は「換 之ヲ言」に作る。今、適宜に改めた。 * 言マデモナク 底本は「言マデナク」に作る。今、「モ」を補                  セった。 *直訳之為「無程」 底本は「直訳為之為無程」に作るが、上の「為」一字は衍字であろう。今、これを省いた。丁本は当該「為」を斜線で抹消…している。第四十二節 *日本独特の漢字和文中有写漢字而其字実中国所無者。其数頗多。今択其常用者列之於下。    うち                       じつ 和文の中、漢字に写して其の字実は中国に無き所の者有り。其の数すこふ                     えら   これ  しも頗る多し。今其の常用する者を択んで之を下に列せん。《第八表》 *国字と国訓 ナド◇抔 サ◇捌テ ナ◇偖テ ヤガ◇軈テ ウワサ◇噂 ハヅ◇筈等也(「等」なり) 。ポ却説也(「却説」なり) 。与扨同(「扨」と同じ) 。頓也。忽也(「頓」なり。「忽」風説也(「風説」なり) 。想像之意〔「想像」の意な)り。なり) 。64  ノ◇丹  即廿共字(即ち「其」の字なり) 。 マデ◇逍 即「迄」字(即ち一、迄L の字なり) 。 コシへラ◇拵ル 做作之意(「做作」の意なり) 。 ソロ◇揃ヒソ卩フ 湊集之意(「湊集」の意なり) 。 アンカ◇扱ヒァッヵフ 弁理也。処置也。調停也(「弁理」なり。一. 処置Lなり。「調停」な)り。 コメ                        ピ                  ざう         うち◇込コム 猶云蔵在其中也(猶ほ「蔵在其中」(蔵して其の中に在り) と云ふがごとくなり) 。 ノジ◇辻  十字路(「十字路」なり) 。 サカキ◇榊  神木之名(神木の名なり) 。                    夢花盧氏増刊 ○噂・筈 振り仮名「ウワサ」「ハヅ」は底本の仮名遣いママ。正しくは「ウハサ」「ハズ」である。《校》*却説 底本は「却」を「. 郤」に作るが、これは「却」の本字「卻」を俗に誤って「郤」に作ることによるもので、もと「却」と「郤」は別字。今、改めた。丁本は「卻」に作る。《按》本表には、いわゆる国字と国訓とが入り交じっている。右のうち、取り敢えず国字と見なせるのは「扨・軈・升・込・辻・榊」の六字のみ。その他は国訓の例である。【奥付必翻】究刻毎本三角N 工工一Eleotronio  Library  

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最終更新:2023年05月06日 07:52