資産査定解説

金融行政



不良債権処理の歴史
1. 時系列の区分
不良債権の処理手順は、以下の2つの時期に分かれています:

1997年3月期決算まで
金融機関は、大蔵省による資産分類に従って、債権を分類し、処理していました。
大蔵省による資産分類
借入人の債権は「I(正常)」「II(要注意)」「III(回収懸念)」「IV(回収不能)」のいずれかに分類されます。

IV(回収不能)

債権が回収不能と判断された場合、貸出金は「償却」されます。
III(回収懸念)

債権の回収が懸念される場合、損失見込額を「債権償却特別勘定」に繰り入れます。
II(要注意)

債権に要注意の問題がある場合、「一般貸倒引当金」を計上します。
I(正常)

債権に特に問題がない場合、一般貸倒引当金を計上します。


借入人 → 金融機関 → 大蔵省による資産分類
           │
           ├── IV(回収不能)
           │       │
           │       └── 貸出金償却
           │
           ├── III(回収懸念)
           │       │
           │       ├── 債権償却特別勘定に繰り入れ
           │       │
           │       └── 貸倒引当金を計上
           │
           ├── II(要注意)
           │       │
           │       └── 一般貸倒引当金計上
           │
           └── I(正常)
                   │
                   └── 一般貸倒引当金計上



1997年9月中間決算以降
自己査定基準が導入され、金融機関が独自に回収可能性を判断して処理することになりました。

自己査定基準
金融機関が独自に、回収可能性に応じて以下のように分類します。
回収不能: 債権の回収が完全に不可能。
⇒ 損失見込額を貸倒引当金として計上し、「貸出金償却」を行う。
回収不能懸念大: 回収が極めて困難な債権。
⇒ 同様に「貸倒引当金」を計上し処理。
正常債権: 問題なく回収が見込める債権。
⇒ 貸倒引当金の計上は不要、または最小限。

借入人 → 金融機関 → 自己査定
           │
           ├── 回収懸念なし
           │       │
           │       └── 正常債権
           │               │
           │               └── 一般貸倒引当金計上
           │
           └── 回収懸念あり
                   │
                   ├── 不良債権(回収不能懸念大)
                   │       │
                   │       └── 個別貸倒引当金計上
                   │
                   └── 不良債権(回収可能)
                           │
                           └── 個別貸倒引当金計上


3. 自己査定基準導入の背景
1994年以前の問題点
従来の不良債権の認定基準は曖昧であり、特に「要注意債権」や「回収懸念債権」の取り扱いが甘かったため、不良債権の処理が遅れていました。
1997年の改革
銀行が独自に自己査定を行うことで、実態に即した引当金計上や債権償却が進むようになりました。
4. 自己査定結果の公正性・透明性の確保
自己査定結果は金融監督当局(当時は大蔵省、現・金融庁)が確認し、公正かつ妥当であるかを監査します。
これにより、銀行の不良債権処理が透明化され、金融システムの健全性が向上することを目指しました。




新アクションプラグラム終了後
2007年終了後は恒久的な対応として中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針を策定
「事業価値を見極める融資手法をはじめ中小企業に適した資金供給手法の徹底」
「地域の情報集積を活用した持続可能な地域経済の貢献」
「ライフサイクルに応じた取引先企業の支援強化」
の3項目を上げ、付加価値の高いサービスを提供し、それに応じたリターンの確保を図ることを求めている

新BIS規制(2007年3月)バーゼルⅡ
自己資本比率規制だけでなく新たに「監督上の検証」「市場規律」
監督上の規制の中に、自己資本比率に反映されない金利リスクと信用集中リスク(業種偏重や大口化)監督上の検証として組み入れ
抵当権付き住宅ローンはリスクウェイト35%

金融検査マニュアル(2019年12月廃止)
金融検査に関する基本指針が解釈や運用
金融検査 10項目のチェックリストがありAからDの4段階評定
金融機関には当該マニュアルを網羅した内部監査実施要綱の策定が求められている


自己査定

資産査定と自己査定

資産査定~金融機関の保有する資産を個別に検討して、回収の危険性または価値の棄損の度合いに従って区分すること
自己査定~金融機関が自ら行う資産査定のこと

自己査定方法

先ずは債務者区分を判定し、後はルールに基づき債権分類をする。
例)債務者区分を正常先に判定すれば、延滞している債権でも非分類債権に分類
なお、地方公共団体は債務者区分の対象外で、全額非分類となる
旧金融検査マニュアルは、極力「保守的な」自己査定であることは要求されていない。「適切な」自己査定を行えば足りる、としている。

自己査定の行う基準日

自己査定の基準日は銀行は9月末と3月末、信金・信組は3月末であるが、実務的には決算月の数か月以内に随時査定を行っていくのが一般的である。随時査定後から決算までにクレジットイベント(信用事由)が起こった場合は必要な修正を行うことが必要となる。

担保評価の見直し頻度

破綻懸念先以下~半期に1回見直しするのが望ましいが少なくても年一回は行う
要注意先~年一回が望ましいが、それが出来ない場合には評価時点より1年を経過したものは時点修正を行う

正常先

「債務者区分」とは、債務者の財務状況、資金繰り、収益力等により、返済の能力を判定して、その状況等により債務者を正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先及び破綻先に区分することをいう。原則として信用格付に基づき、債務者の状況等により次の
ように区分する。
正常先 正常先とは、業況が良好であり、かつ、財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者をいう。
要注意先 要注意先とは、金利減免・棚上げを行っているなど貸出条件に問題のある債務者、元本返済若しくは利息支払いが事実上延滞しているなど履行状況に問題がある債務者のほか、業況が低調ないしは不安定な債務者又は財務内容に問題がある債務者など今後の管理に注意を要する債務者をいう。また、要注意先となる債務者については、要管理先である債務者とそれ以外の債務者とを分けて管理することが望ましい。
破綻懸念先 破綻懸念先とは、現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者(金融機関等の支援継続中の債務者を含む)をいう。具体的には、現状、事業を継続しているが、実質債務超過の状態に陥っており、業況が著しく低調で貸出金が延滞状態にあるなど元本及び利息の最終の回収について重大な懸念があり、従って損失の発生の可能性が高い状況で、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者をいう。
実質破綻先 実質破綻先とは、法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者をいう。具体的には、事業を形式的には継続しているが、財務内容において多額の不良資産を内包し、あるいは債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがない状況、天災、事故、経済情勢の急変等により多大な損失を被り(あるいは、これらに類する事由が生じており)、再建の見通しがない状況で、元金又は利息について実質的に長期間延滞している債務者などをいう。
破綻先 破綻先とは、法的・形式的な経営破綻の事実が発生している債務者をいい、例えば、破産、清算、会社整理、会社更生、民事再生、手形交換所の取引停止処分等の事由により経営破綻に陥っている債務者をいう。

債権分類

自己査定においては、回収の危険性又は価値の毀損の危険性の度合いに応じて資産をⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳの 4 段階に分類する。
Ⅰ分類(非分類) 「Ⅱ分類、Ⅲ分類及びⅣ分類としない資産」であり、回収の危険性又は価値の毀損の危険性について、問題のない資産である。
Ⅱ分類 「債権確保上の諸条件が満足に充たされないため、あるいは、信用上疑義が存する等の理由により、その回収について通常の度合いを超える危険を含むと認められる債権等の資産」である。なお、Ⅱ分類とするものには、一般担保・保証で保全されているものと保全されていないものとがある。
Ⅲ分類 「最終の回収又は価値について重大な懸念が存し、従って損失の可能性が高いが、その損失額について合理的な推計が困難な資産」である。ただし、Ⅲ分類については、金融機関にとって損失額の推計が全く不可能とするものではなく、個々の資産の状況に精通している金融機関自らのルールと判断により損失額を見積ることが適当とされるものである。
Ⅳ分類 「回収不可能又は無価値と判定される資産」である。なお、Ⅳ分類については、その資産が絶対的に回収不可能又は無価値であるとするものではなく、また、将来において部分的な回収があり得るとしても、基本的に、査定基準日において回収不可能又は無価値と判定できる資産である。

債務者区分・(金融再生法)債権区分・債権分類の図

債務者区分 債権区分 債権分類
正常先 正常債権
要注意先 正常債権
要管理債権
破綻懸念先 危険債権
実質破綻先 破産更生債権およびこれらに準ずる債権
破綻先

債権分類の詳細
債務者区分 優良担保・優良保証 一般担保の担保処分見込額(評価額の概ね70%) 一般担保の担保処分見込額と評価額の差額(評価額の30%相当分) 担保なし
正常先
要注意先
要管理先
破綻懸念先
実質破綻先
破綻先
※決済確実な割引手形等及び特定の返済財源により短期間のうちに回収が確実と認められる債権もⅠ分類(非分類)となる。
※要注意先の場合、原則として正常な運転資金と認められる債権もⅠ分類(非分類)となる。
※破綻懸念先、実質破綻先、破綻先のⅡ分類には、経営破綻に至った場合の清算配当等により回収が可能と認められる部分を含む。



信用リスク管理態勢の図


早期是正措置の表
区分 自己資本比率 国際基準行(国内基準行) 措置の内容
第1区分 8%未満(4%未満) 経営改善計画(原則として資本増強に係る措置を含む)の提出・実施命令
第2区分 4%未満(2%未満) 資本増強に係る合理的と認められる計画の提出・実施、配当・役員賞与の禁止又は抑制、総資産の圧縮又は抑制等
第2区分の2 2%未満(1%未満) 自己資本の充実、大幅な業務の縮小、合併又は銀行業の廃止等の措置のいずれかを選択した上当該選択に係る措置を実施
第3区分 0%未満(0%未満) 業務の全部又は一部の停止命令

国際統一基準行信用格付は必須だが、内部格付手法を採用するかどうかは各金融機関の判断にゆだねられる。
早期警戒制度~自己資本比率にあらわされる収益性等の劣化をモニタリングする。
審査部門と営業推進部門を兼務することは禁止はされていない。

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最終更新:2025年01月12日 22:44