一方のリュナン軍はノルゼリアを離脱した直後、リーヴェ王都に向かわずに真っ直ぐリーヴェ郊外のリムネーの村へと向かった。あの大乱戦後のために軍勢の体を為していないので、立て直しの意味も込められている。ナロン、サーシャ隊の到着を皮切りに、リュナン本隊が、リーヴェ王都の戦いから加わっているヴェーヌ隊に守られながらリムネーに入った。それからはノルゼリアでばらばらとなった部隊をまとめていた将たちが次々と到着して、徐々にリュナン軍の数が整い始めている。ノルゼリアからさほど離れていないこともあって、軍勢の立て直しはわずか一日で完了した。
その夜、リュナンは将兵を集めて、今までの事情を整理して伝え、改めて邪神の祭壇へと向かうことを伝えた。そしてセーナと同様に軍勢を2つに分けるべく指示を与えようとしていた。
「これからは屋内の戦いになるから天馬騎士団、騎馬部隊はリムネーに待機すること。」
と、リュナンが言うと、すぐにサーシャが異を唱えた。彼女が言うにはノルゼリアの戦いでケイトが失踪したため、その捜索を自身の手で行いたいらしい。もちろんサーシャが来るというからには主従のウエルト天馬騎士団も愛馬から降りて主君に付いていくことになる。屋外の戦いであったからこそサーシャの強さである機動力が存分に発揮されていたが、これから始まる屋内の戦いはその機動力がなくなり下手をすれば足を引っ張る可能性すらある。オイゲンはそれを危惧してサーシャに自重を求めようとするが、それよりも早くリュナンが条件付きで了承したために話がまとまってしまった。ついでにその条件とは配下のウエルト天馬騎士団をサーシャのファルコンを含めた愛馬の世話をさせるためにほぼ全軍をリムネーに残すこと、そしてサーシャはリュナンと共に行動をすることであった。特に最初の条件は大事であった。というのも天馬騎士とその愛馬は強固な信頼関係で結ばれているために、ペガサスは主君である天馬騎士か、その身近な人の与える餌しか食べないという習性がある(これはドラゴンも同じ)。つまり天馬騎士団全軍が天馬を置いて、サーシャについていった場合は最悪の場合、天馬騎士団自体の壊滅につながる可能性があるのである。それをヴェーヌが進言したためにリュナンがこの条件を付けたのである。もちろんサーシャはその条件を快諾したのは言うまでもない。
次の日、リュナン軍本隊は主将ロファール、副将ナロンとしたリムネー駐留軍に後を託して水の神殿へと入っていった。予想したとおり、ガーゼルの暗黒魔道士団が展開していたが、ラゼリア領主館の奪取戦で屋内戦を経験しているだけあって進軍はいたって順調に進み、瞬く間に神殿の半分を制覇した。だがその快進撃はそこで頓挫してしまうことに。グエンカオスがドラゴンゾンビの一頭に聖竜のウロコを装備させていて、そのドラゴンゾンビにいいように押されていたのである。聖竜ほどでないにしろそれでも圧倒的な戦力を持つドラゴンゾンビはリュナン軍の先鋒を壊滅させ、いよいよ本隊に切り込んできた。誰もが危うし、と思った瞬間、光の矢がドラゴンゾンビの右翼を突き破った。思わぬ光景にリュナン軍の将兵ですら何が起こったのかわからなかったものの、そのすぐ直後にまたしても光の矢がドラゴンゾンビを襲い、今度は見事に胸を貫いた。地に倒れ伏したドラゴンゾンビをよく見れば、聖竜のウロコは見るも無残に破れている。この光の矢を放ったのは聖弓イチイバルをセーナから託されたラケルである。一発でドラゴンゾンビを仕留めるはずだったのだが、まだ使い慣れてなかったために右翼の的中に留まってしまったのだ。しかしその光の矢を放った当のラケルですら、その威力に目を見張ったのは言うまでもない。
ドラゴンゾンビのために壊滅した先鋒の立て直しを後回しにして、リュナン軍本隊はすぐさま祭壇の制圧に乗り出した。ここもガーゼルの妖術師ネブカに翻弄されたが、リュナン軍随一の剣豪パピヨンとヴェガの剣の錆びとなった。ネブカの死をきっかけに大勢は決した。残った暗黒魔道士たちは先を打って水の迷宮へと逃走を始めた。リュナンはすぐの追撃はせずに、ホームズ軍から急遽駆けつけてきたサリアのクラリスの助言を受け、エンテから託されたリングオブリーヴェを使って聖剣リーヴェを蘇らせて、そしてさきほど壊滅したリュナン軍先鋒の立て直しを図った。
そしてリュナン軍は光の届かない迷宮へと足を踏み入れることに。視野のあまりの狭さに、リュナン軍は各所で分断されていきなり三手に別れてしまうが、そこはリュナンによって満遍なく鍛えられた軍勢である。リュナン軍と同じように迎撃のために三手に分かれての攻撃のために薄くなったガーゼル軍の攻撃を跳ね返したリュナン軍は次々とガーゼル軍の小隊を撃破していった。そしてその途中、リュナンとサーシャは無事にケイトを見つけ出して保護したのだ。己の不覚から主君サーシャに無断で行動を起こした上で、それでいてサーシャを危地に招いてしまったのだからケイトはとにかく惨めに感じたのだろう。しかしリュナンとサーシャの優しい言葉に己を立て直し、改めてサーシャと共にリュナン軍として奮闘することになった。
ついでにケイトの一時の離反は以前リュナン軍の猛将として働いていたジークと深い関係があった。とにかく寡黙だったジークだが、ケイトにはなぜかその過去を語っていたという。それにケイトは徐々に心を開いていって、しかも惹かれていったのかもしれない。サリアの隠れ里でジークが離反することになり、それがきっかけでケイトはさらにジークへの思いを深くなっていった。そしてノルゼリアの戦いの時、ケイトはジークの姿を見止めてしまい今までの衝動から勝手に軍を離れてジークを追跡した。彼に追いついたものの、そのジークから自分に接近してきた本当の狙いを知り、そしてガーゼル軍に捕らえれてしまうことになったのである。
戦いながらサーシャとケイトからその事情を知ったリュナンはいつになく怒りを心の中に秘めつつあった。そしてそれは別れていた部隊が合流していき、まとまっていく軍勢と比例するように徐々に大きくなっていた。暗黒魔道士を斬り、ゾーネンブルメらを蹴散らしていったリュナンの目の前にその怒りの対象、ジークが現れた。ジークはリュナンの姿を認めるや否やすぐに突撃し、リュナンの懐に入り彼を討ち果たそうとした。しかし怒りに燃えるリュナンはその心の内とは対照的に冷静に聖剣リーヴェを横に凪いで、見事にジークのデビルスピアを弾き飛ばした。ならばとジャベリンを構えてリュナンに放り投げるも、彼は冷静に最小限の動きでかわした。ジークはひたすら焦った。まさか初めて会った時に助けた相手が、今、目の前で自分よりも対等以上の戦いをしているのである。それだけリュナンはこの大戦を通じて、大きく成長していたのだ。一世代前の英雄グラムドの血が今まさしく覚醒しているリュナンの前にジークは圧倒されているのは確かである。次第に攻勢に出ていくリュナンの前にジークは己の身を守るのが精一杯になってきた。手にしているジャベリンも聖剣リーヴェによってボロボロになり、まさしくジークの命は尽きようとしていた。その時、リュナンはジークから離れた。あと一撃で決まる、はずなのに、リュナンはその瞬間を捨てた。しかしその目はまだ戦う時の目をしていた。そしてリュナンが口を開いた。
「ジーク、君は人の心をもてあそび過ぎた。君はその報いをこれから受けてもらおう。」
それは世間一般で言われている人の良いリュナンの言葉とは到底思えなかった。そこには悪しき者を厳しく対処したと言われているカーリュオンの姿があった。リュナンは聖剣リーヴェを上段に構え、そして言い放った。
『ラゼリア流剣技 最後の1つ 奥義ブレイヴスマッシュ!!』
すると聖剣リーヴェが白い光を発した。リュナンはその光を確認すると、すぐにジークに向けて振り下ろした。と、さきほどから剣にまとっている光がジークを襲ってきて、ジークはその光によって壁に激しく打ち付けられた。そしてその直後に見えたのは高く跳躍してジークに斬りかかろうとしているリュナンの姿だった・・・。
敵対したとはいえ、バルド要塞の戦いなどで輝かしい戦功を挙げたジークである。リュナンは部下にそんな彼の遺体を丁重に葬るように命じた。そしてその目を邪神の祭壇の方へと向けた。するとそこには目を覆い難い光景が広がっていたのであった。
「エンテ!!」