アベルが指揮するカイン・アベル隊はヴェルダン軍右翼に斬り込んだ。中央への攻撃を予測し、薄くなっていた右翼は瞬く間にグリューゲル最強騎馬部隊に蹂躙された。やがて体勢を取り戻して、反撃しようとした時にはすでに離脱していた。中央から駆けつけた部隊はあまりの速さに唖然としたが、彼らはまた駆けることになる。カイン・アベル隊に後続していたボルス隊が中央に切り込んだのだ。総合力のカイン・アベル隊に対して、破壊力のボルス隊である。瞬く間に中央部隊が血の海と化した。そして先程右翼に駆けつけた部隊が戻ってきた頃にはボルス隊もまた戦線を離脱していた。だが時は待ってくれない。さっき右翼にあたったばかりのカイン・アベル隊が左翼に攻撃を仕掛けたのだ。愚痴を言いながらも彼らは左翼に駆けつける。しかしやはり空手形に終わったばかりか、さらに中央部隊が後続から猛烈な攻撃を受けているという報せを受けて座り込んだ。果たして彼らはセーナ軍と一戦もせずに終わる事になった・・・。
さて全体の戦況はと言えば、変則車懸かりを行って右翼と左翼に斬り込んだカイン・アベル隊の活躍でヴェルダン軍を散々に翻弄して、後続のボルス隊以下が中央部を豪快に切り崩していく。カイン・アベル隊の効果が薄れた頃に第二の変則車懸かりが発動する。ミカ・ゲイン隊が仕掛けたのだ。彼らはもちろん騎馬部隊になっているが、全くぎこちなさを見ることはなく見事に敵勢を翻弄していく。そしてその後続が中央を引き剥がしにかかる。グリューゲル全部隊が一回りしただけでヴェルダン軍の重厚な陣はすでに中央部で裂け目が入っている。ここにじっくり休養したカイン・アベル隊が突っ込む。前の変則車懸かりを想定してさらに中央部を薄くしたが、これがセーナの仕掛けた罠である。カイン・アベル隊は今度は真っ直ぐに中央部に斬り込んだ。予想外の事態に混乱も起き始め、ついにカイン・アベル隊が重厚な陣に楔を打ち込んだ。こうなれば彼らの独壇場である。ボルスがその楔をさらに強烈に叩き込んで、後続もさらに打ち込んでいく。そしてミカ・ゲイン隊が変則車懸かりで中央から敵勢を散らして、ついに後続の部隊がヴェルダン軍を分断した。
その瞬間を逃さずにセーナ直属の精鋭アルバトロスが動き出す。リーベリアの戦いでは伝令役に終始して華々しい戦いをしていない部隊だが、一騎当千の猛者ばかりで構成されているためにわずか200名といえどもかなりの破壊力を持っている。それがグリューゲルが作った穴をすり抜けて、一気にレスター本陣に斬り込んでいた。この頃になると、車懸かりの弱点である側面を守っていたサーシャとレイラの両天馬騎士団も攻撃をはじめてセーナ軍は総攻撃に移った。車懸かりを解いたグリューゲル各部隊は火の出るような猛攻を加えて、自分たちがこじ開けた穴を閉じないように奮闘した。そしてアルバトロスもまたグリューゲルに負けてなるじとレスター本陣に猛攻を仕掛けた。彼らの意気を感じたセーナも久々に前線に出て、ライトニングを放っては彼らを援護していた。主従一緒の猛攻にさしもの勇将レスターはついに追い込まれた。まだ圧倒的多数を誇ってはいるものの、それぞれで分断されているだけでなく肝心の本隊がすでに壊滅しているのだ。もはや彼に残された命令は1つしかなかった。
「全軍、退け!」
これで40万を誇ったヴェルダン軍は瓦解した。退却には殿を置くのが必定だが、ヴェルダン軍にはレスター以外に武勇の士はいなく結局バラバラのままで退却した。そしてこれが被害をさらに甚大にしていく。セーナの迅速な命令ですぐに追撃に入ったグリューゲルとアルバトロスは徹底的にヴェルダン軍を打ち崩した。レスターはその激しさにエバンスを打ち捨てて、そのままマーファまで引き返す事にした。セーナ軍の追撃はエバンスの手前まで繰り返され、わずか1万たらずの兵で5万近くのヴェルダン兵を討ち取り、負傷者もそれに匹敵するほどだったという。
だがエバンス大戦はまだまだ続く。すぐにセーナは勝った勢いでエバンス城を取り囲んだ。ここに篭城するのは名もない武将だが、さすがにエバンスの留守を任されただけあって骨がありセーナの降伏勧告を頑として聞かなかった。確かにヴェルダン軍は大敗したが、エバンス東にはマリク派筆頭のユングヴィがあるのである。今こそエッダに向かっているものの数日中に来るだろうという希望的観測があったため、セーナの勧告を即座に蹴ったのだ。ついでにエバンスに篭城しているのはセーナ軍と同じ1万。エバンスの城の規模からすれば明らかに物足りない数だが、そこから考えるとレスターが先程の野戦にどれだけ力を入れていたのかがよくわかる。とはいえ、そういう感慨に浸っているときではない。いつまたレスターが体勢を立て直して逆襲に転じてくるのかがわからないのだ。大打撃を与えたとはいえ、未だに大軍を有しているのは事実である。しかも今度は復仇の念を誓って、猛烈に仕掛けてくるだろう。そしてエッダに篭城しているオイフェたちも気になる。だからこのエバンス城は早急に落とす必要があるのだ。
次の日からセーナ軍はいつもの慎重さを捨てて、猛烈に攻め上げた。さすがに弓の名家ユングヴィの分家だけあって弓の扱いは長けているのでサーシャとレイラの天馬騎士団は第一線から退き、先日の戦いまでの疲労をなくすことにした。野戦に絶対的な力を持つグリューゲルだが、スーパーオールラウンダーだけあって篭城戦でもその強さは揺るがない。次々とエバンス城の拠点を落としていき、いよいよ残すは天守のみ。エバンス大戦はまもなく終わりを迎える、衝撃的な結末で・・・。