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 光と闇の壮絶なる戦いはすでに始まっていた。場所はいうまでもなく、バーハラとフリージの中間にあるヴェルトマー平原。20年前にセリスとロプトウスの化身ユリウス、そしてセリスの永遠の恋人ティナの3人がそれぞれに戦った哀愁の地である。
 北と西からセーナ・ライト軍が数を得意にマリク軍を押しに押していた。しかし包囲されているとはいえ、マリク軍も仮にも30万を誇る大軍であり、それでいてここを死に場所と覚悟したスカサハの壮絶な采配の前に決め手を欠いていた。ならばとセーナはヴェルトマー平原の南部にある山岳地帯に陣しているフィリップ率いるトラキア飛行部隊とグリューゲル空軍を動かした。こうなれば3方向からの攻撃になる。だがスカサハは数少ない手勢を巧みに遣り繰りしては隙を見せずにいる。何がスカサハにそうさせるのかはわからないが、セーナ軍についた彼の養子ジョセフも恐れを抱かせるほどの凄まじさであった。だがほとんど者たちはその事実をまだ知らない、肝心の敵総大将のマリクが眼下の軍勢にはすでにいないということを。

 「想像以上に粘り強いわね。」
セーナ軍本陣にてマリク軍の奮戦振りを見ているセーナがつぶやいた。するとそれを傍らで聞いていた軍師役のミカと、緊張気味に出番を待っているエルマードが応えた。
「本当にマリクはいないようですね。」
本陣に詰めている者たちはすでにマリクがセーナ軍の「背後」に隠れていることを知っていた。ヴェスティアからグーイが合流したことで全能力を発揮できるようになったグリューゲル諜報衆が見事に索敵してきたのだ。
「前方のスカサハは明らかに目くらまし。これくらい頑張らないと私たちを騙しきれないからね。」
言葉同様に、セーナには余裕が見えた。しかし単純に済まないのが戦の恐ろしさである。今までは仕掛ける側であったのが、今回は仕掛けられる側であることにミカは不安を隠せない。しかも今回はカインがいないだけにその分の負担が彼女自身に降りかかっていた。すでに開戦前後からミカの双肩がブルっと震えることが少なくなかった。それを影で支えていたのがヴェスティアでこっぴどくミカに怒られて、彼女の監視下に置かれていたラティであった。仮にもアカネイアの傭兵王の異名を取るだけあって彼女の心理の変化を敏感に読み取ったラティは、表面上はミカの言うとおりにしたがって大人しくしつつも、逆に彼女のことを見守っていた。そして今回もラティは
「まぁ何とかなるさ、な。」
と言って、隣にいたエルマードに絡む。彼の素性を知らないエルマードはうざったくしているが、戦時とセーナの面前にいるということで引きつった笑いを返すしか出来なかった。このほのぼのとした新コンビを見てセーナはくすくすと笑い、ミカもまた表面上は渋い顔をしているが内心では妙に落ち着き始めていた。
 そしてそのラティの言葉が伝わったのかどうかはわからないが、セーナ軍全体の攻撃が一時的に緩んだ。これはセーナ軍の先鋒を務めるトラキア軍副大将ハンニバル2世や南部戦線を束ねるフィリップが作戦を単なる総攻撃から波状攻撃に切り替えたことによる間に入ったためである。もちろんセーナの指示であるが、これによりセーナ軍の半数が待機状態に入り、後方に隠れているマリク本隊が動いても柔軟に対応できるようにするためのものである。ただしセーナ軍の圧力が減ったのは明らかにこれ幸いとスカサハは戦力を北に集中させてシレジア・ヴェルトマー連合軍に猛烈に仕掛けた。思わぬ強襲に驚いたライトはすぐに態勢を立て直させるべく軍を一旦引かせようとしたが、これが更にマリク軍に付け込まれることになる。止む無く、レイラ・セイラ部隊を迂回させてマリク軍を横撃し、鋭鋒をそらすことで被害を最小限に留まることができたが、マリク軍に付け込まれたことで陣はバラバラになっており立て直しにしばらくの時間が必要となってしまった。
 そうなればスカサハは今度こそセーナ軍一本に絞って攻撃できるようになった。南方からのフィリップ軍をあしらいながら、ハンニバルⅡ軍をひた押しに攻め始めた。もともと守備には定評のあるハンニバルⅡ軍だが、北のシレジア・ヴェルトマー連合軍を蹴散らしたマリク軍の勢いは凄まじく、総勢を持って今の地を踏みとどまるのがやっとというほどになっていた。
 波状攻撃をしつつ後方に隠れているマリク本隊の出方を窺うというセーナの策はライトとの連携ミスにより破綻し、戦場はマリクの望みどおりの様相を呈していた。
「動く!!」
セーナが確信したのとほぼ同時に、グリューゲル後方で待機していたアルバトロスの将兵が大慌てで入ってきた。
「後方より敵軍襲来、マリク自身が出張ってきた模様!!」
グッと拳を握り締めたセーナはすっと立ち上がり、すぐに対策をその者に託して戻っていった。セーナ直卒軍はセーナ軍の最後方にあり、マリク本隊の襲来に際して何のクッションもなくぶつかるのだ。セーナ軍の前には順にフィーリア率いるフリージ軍、シアルフィ決戦後に降伏したミレトス隊、ミーシャとリュナンが率いるガーディアンフォースとジョセフ率いるグラオリッターが並び、その前にハンニバル2世率いるトラキア軍という布陣になっている。一方の南部戦線は先ほどの言ったとおりフィリップ直卒のトラキア竜騎士団とグリューゲル空軍がいるのだが、いつもセーナ軍に華を添えていたサーシャとその天馬騎士団がここにも姿を現していなかった・・・。

 果たして後方よりマリク本隊が凄まじい勢いでセーナ軍に襲い掛かった。セーナ自身が情報を得ていたものの、それを伝える前に恐ろしい勢いで戦が移行していたためにセーナ直卒軍全体にも伝わっていなかった。それでもさすがにセーナの薫陶が行き届いている精鋭アルバトロスだけあって、混乱せずに整然とマリク本隊を迎撃した。だが不意打ちを受けたことによる士気の低下は免れず、じりじりと押されていき一部の部隊に突破されるところまでいった。その時だった・・・。マリク本隊のさらなる後方から白き翼のペガサス隊と、それに導かれるように青き鳥の旗を掲げる一団が襲い掛かった。白き翼は言うまでもなくサーシャ率いるウエルト天馬騎士団である。そして彼女たちが導いてきたのがなんと、リーヴェから長躯馳せつけてきたトウヤ率いるブルーバーズだった!
 リュナンたちから遅れること2週間、彼らはガルダ島を発った。そもそも、彼らにはユグドラルの戦いに参加する意味はないように思えるのだが、リュナンとエルンストが戦った南リーヴェの戦いで彼らは名目上セーナの傘下に入っていた。そのために表面上とはいえ主であるセーナの苦境を知り、そして義を何よりも重んじるトウヤがじっとしているいわれはなかった。しかし彼らはユグドラルの地理に関しては全くの未知であった。しかし立ち止まってもいられないトウヤがここで取った行動は常識を超えたものだった。
 適当に船を仕立ててユグドラルに上陸したトウヤはひたすら東に向けて動いたのだ。たしかにアグストリアの東を突っ切ればグランベルの中央部に出るかもしれないが、アグストリアとグランベルの国境には急峻な山脈が縦断している。にも関わらずトウヤたちはこの山脈を何と突っ切ってしまったのだ。もともと南リーヴェも起伏のあるところではあったが、それにしても恐るべき行動力と体力である。なおセーナの諜報衆に捕捉されたのはアグストリア国内をひたすら東に突っ切っていた時であったが、案内人を派遣する場合はエバンスを経由して大回りしてしまいその間にトウヤが山脈に突入してしまうために意味がないと判断して、彼らの山脈突破の機を見計らってサーシャと真の道案内役のエリーを派遣したのだ。そして彼らを後ろに控えていたマリク本隊への対応に使うことになったのだ。
 サーシャとトウヤの合流によって挟撃となったマリク本隊は浮き足立った。ここにセーナに導かれるようにグリューゲルが突撃してきたことで勝負の流れは一気に変わった。圧倒的な数に囲まれたマリク隊は至る所で分断されて、思いの他あっさりと壊滅した。
 どこかで兵士が勝利の凱歌を挙げようとしたところをセーナが急に制止した。よく見れば彼女の額に縛ってあるハチマキにはうっすらと汗が浮かんでいた・・・。彼らは重大な事実を忘れていたのだ、敵の総大将マリクが討ち取られていないことを。

 次の瞬間だった、真のマリク軍が更なる後方から襲い掛かってきたのは!

 

 

 

 

 

最終更新:2011年07月23日 20:08