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 ヴェルトマー平原を南西から臨める山から一人の老人がこの「聖戦」を傍観していた。その老人は老体とは思えないくらいに魔力が溢れている。よほどの賢者であることがうかがえる。
「この戦で千云百年に渡った『光と闇の戦い』が終結し、世界は新たな『局面』を迎えるのか・・・。」
その声を聞きつけたのか、風のように一人の吟遊詩人が現れた。イード砂漠でもふらっと現れたレヴィンである。彼の姿を見つけ、その老人が続ける。
「私の役目はもうすぐ終わる。まぁマルス様やエリス様に再会出来るから私としては楽しみだがな。」
その老人こそマルスと共にアカネイア暗黒戦争を戦い抜いた大賢者マリクその人であった。あれから千年以上経っているにも関わらずこの地に足を付けていた。
「君に会ったことは天上へのいい土産話になりそうだ。だが・・・。」
そういいながらマリクは再びヴェルトマー平原に視線を移した。
「今は私の最後の使命を果たさなければな、『歴史の見守る者』として・・・。」

 「レイラ、西の戦況はどうだ?」
シレジア軍の本陣ではもはや目の前に広がっている戦いよりもセーナたちの西部戦線にしか注視していなかった。ハンニバル2世軍とフィリップ軍が2方向から猛烈に締め上げているためにシレジア・ヴェルトマー連合軍にかかるスカサハ軍の圧力が弱まっていたのだ。すぐにライトはレイラを使って西部戦線を偵察に出していた。
「大変です!応援に駆けつけようと反転したフリージ軍が寝返ったミレトス軍に背後から襲われて大混乱に陥っています。」
第一のマリク軍の伏兵の攻撃を知ったフィーリアはすぐに反転して駆けつけようとしていたが、何分大軍のために時間がかかっていた。反転したと思えば、トウヤ率いるブルーバーズとサーシャのウエルト天馬騎士団が駆けつけてすでに戦いは終わりかけていた・・・。フィーリアが落胆しかけた時、新たなる伏兵がセーナ直卒軍を急襲した。驚きつつも、手柄を上げる機会を手に入れたフィーリアは勇躍して采配を振ったのも床の間、味方と思っていたミレトス軍に背後を突かれた、ここまでがレイラが伝えてきた戦況である。
「クッ、すでに彼らを援軍に派遣しているが、数が少なすぎる・・・。ならレ・・。」
レイラをセーナへの援軍に送ろうとしたのだが、ここで思わぬ言葉が入った。
「ライト殿、ぜひ我らに行かせてください!」
シレジア・ヴェルトマー連合軍の副将グスタフであった。フィーリアの兄としてヴェルトマーの執政をしているが、彼も妹に似てなかなかの器を持っている。そしてその『血』の宿命から今回の一連の大戦にかける思いはセーナやライト以上に熱い。援軍の将としては格が大きすぎるが、そんなことに頓着するライトではない。すぐに即決して彼を送り出した。
「よし、我々も彼らがスムーズに行けるように目の前の敵に総攻撃だ!」
ライトの采配が一閃。イードの戦いを経て、自信を付けたライトに迷いはなかった。
 一方、セーナの援軍か、目の前のスカサハ軍を叩き潰すか迷っているのは南部戦線を支えるフィリップであった。とりあえず敵に迷いを悟らせないためにスカサハ軍に遮二無二攻撃を繰り替えさせているが、百戦錬磨の副将サルーンの目はごまかせなかった。自身のグリューゲル空軍をフリード、カイ、リーネの3人に託して、彼はフィリップの前に飛んできたのだ。
「フィリップ様、ぜひ我らにセーナ様の援軍に向かわせてください。」
サルーンは冷静に戦況を見ていた。シレジア軍が北から猛攻を仕掛けている以上、ここで兵数を多少減らしても十分スカサハ軍を翻弄できるのだ。まだ戦機の読みづらいフィリップは己の未熟さをよくわかっている。だからこそセーナからサルーンを借りたのだ。彼の言に反対するつもりも毛頭なかったのだが・・・。
「サルーン、その援軍、我々にやらせてくれないか?」
この言葉にサルーンが驚いた。まさか南部戦線の主将が自ら危険な援軍に行くのは普通からすればありえない。
「もちろんこの戦線はサルーン、君に任せる。」
「しかし、なぜ?」
「トラキアはすでに彼女から数え切れないほどの恩をいただいている。その少しでも返したいのだ。」
もちろんそれだけではない。だが言えなかった、フィリップ自身もセーナのことを好いていることを。もともとはフィリップの配下であったサルーンが昔の主の思いがわからないはずはなかった。
「ならばフィリップ様、お願いいたします。」
その言葉を受け取ったフィリップは笑顔で采配をサルーンに託して、すぐに手勢をまとめて大乱戦となっている西部戦線に向かっていった。

 いまや戦前の予想を裏切って、大激戦になっている西部戦線はといえば、すでにセーナ軍の陣形はボロボロになりながらも辛うじて持ちこたえている。その手前でも何とか態勢を立て直したフィーリア軍がミレトス軍と衝突し、さらにミレトス軍の背後を反転したガーディアンフォースとジョセフ率いるグラオリッターが衝くといった具合だ。そして最前線では後方が気になりながらもハンニバルⅡ率いるトラキア本軍がスカサハ軍を圧倒している。
 もはや散り散りとなりながらも抗戦しているグリューゲルは思わぬ苦戦を強いられていた。十勇者筆頭カインの離脱などでシアルフィ決戦より戦力が落ちているとはいえ、これほどの苦戦をしているのは誰が見ても異様としか思えなかった。今まで云十万という大軍を蹴散らしてきたグリューゲルが云千たらずの敵と互角にやっているのだから。それだけマリク軍も戦力を凝縮してきたのだが、それには秘密があった。
 十二魔将。20年前のこの地の戦いで大半が戦死したユリウスが抱えた十二人の将軍であるが、今回の戦いにおいてもその子供たちが集ってマリクのために奮戦していた。しかもここにいる十二魔将は20年前の彼らよりも格段に身体機能が強くなっており、それでいて武具も桁違いに強力になっている。彼らをセーナ側の十勇者と同義に考えるとしたらマリクが操る舞台はまさしく闇のグリューゲルといっても過言ではないのだ。いくら云十万の敵を蹴散らしたグリューゲルを持ってしても闇のグリュゲルをそう簡単に破れるはずはない。
 すでにセーナは動いていた。十勇者を展開させて敵の十二魔将を討つように命じたのだ。真っ先に敵に突っ込んだのが魔法騎士ゲインだった。敵中を駆け抜けてついに一人の十二魔将、ゲインと同じ魔法騎士のゼクスと対峙した。敵の十二魔将もこちらと同じ戦術で十勇者を狙っていたようで、他のところでもアベル、ボルス、ミカ、グーイ、シャルもすでに見つけているようで各所で火花が散っていた。炎、風、いかずち、光、4種の剣を使い分けるゲインに対してゼクスはルーンソードを振り回す。ルーンソードの効力であるリザイアは本来は光なのだが、彼が放ってくるものは闇のオーラがそこら中に散っていた。
(何という闇の力だ)
ゲインはうならずにはいられなかった。彼は確実にゼクスに対して優位に戦いを進めていたものの、あと一歩のところでリザイアを喰らってしまうのである。リザイアは敵の体力を吸収して、自身のものにしてしまうもの。属性が闇に変わっても本質そのものは変わっていなかったが、それこそがまさに厄介極まりなかった。短期戦で済ませたかったゲインだが、思わぬ攻撃にそれも不可能になるどこか、長期戦に持ち込めば命すら危うくなる事態となった。
(こうなればこの身を削るか)
ゲインの得意戦術は自身を極限にまで追い込んだ時に現れる。敵のその意図を読まれないようにじっくりとその身を削っていくゲインだが、ある一撃からゼクスの攻撃に重みが加わった。
(化け物め、まだ魔力が伸びているのか。)
これだけの戦いになると魔力は枯れていき威力が落ちていくのが普通なのだが、ゼクスはどこからか魔力を受け取っているようだ。こうなるといくら身を削る戦術を取っても、機をミスれば命が危なくなる。ゲインは迷わずここで仕掛けた。
 地面に跪き、なにやら瞑想を始めた。一瞬ゲインの出方を窺ったゼクスはすぐに彼の仕掛けを読んで、一気に斬りかかってきた。あと少しでゲインにその刃先が突き刺さるところまできて、彼の目がクワッと開かれた次の瞬間、ゼクスの背後に飛んでいた。そして自身が持つ4本の剣を天に捧げて合体魔法を解き放った。
『ブライトニングカルテット!!』
火・風・雷・光、4属性をまとめた魔力はゼクスに直撃して数十メートルと吹き飛ばした。だがゲインは光の剣を上段に構えて容赦なくゼクスにトドメの一撃を放った。
『ディヴァインスライサー!!』
セーナの乳兄として共に剣術を学んだゲインにとってセーナが操る剣技は朝飯前である。ゆるやかな放物線を描きながらゲインはついにゼクスを斬りつけ、そして打ち破った。ホッとするゲインだったが、十二魔将の脅威はセーナのすぐそばにまで迫っていた。

 セーナはラティ、ミカ、エルマードを送り出した後、本陣でのんびりとしていた。この3人を送り出してココに残っているのは近侍しているもののみとなってかなり緊迫した状態にも関わらず、口笛を吹く始末であった。よほど戦が好きなのかどうかは分からないが、その本陣に一人の剣士が斬り込んで来た。どう考えても敵、しかも十二魔将にしか思えなかった。セーナは無駄な流血を防ぐために近侍するものを下げて自ら前に出た。
「巨大な剣を振るう十二魔将といえば、最後の魔将ツヴァイね。」
さすがにセーナは十二魔将に関する知識も豊富だった。ツヴァイは20年前の戦いで唯一生き延びた魔将である。結局バーハラ攻略戦で命を落としたものの、聖戦士たちを最後まで苦戦させたことで十二魔将でも随一の知名度を誇っていた。
「さすがはセーナ皇女ですな。父の仇を取れなかったのは残念だが、あなたで我慢することにしましょう。」
そういって自身が鍛えた巨剣ツヴァイハンダーを抜いて、いきなりセーナに斬りかかってきた。だがそんな簡単にやられるセーナでもない。ひょいとツヴァイの斬撃を交わし、久々にファルシオンを抜いてすぐに真空波を放った。ツヴァイは自身の剣を盾にして真空波を打ち消し、その余力を使ってツヴァイハンダーを振り回した。が、すでにセーナの姿はここにはなく数メートル離れたところに着地していた。
「チッ」
舌打ちするもすぐにツヴァイはセーナに向けてファイアを放った。予期せぬ魔法攻撃だったが、彼女に最下級魔法が喰らうはずもなかった。軽くファイアを弾き一気に切り込んでいくセーナだったが、火球を弾いた直後にツヴァイの姿がきれいに消えていた。次の瞬間、目で探しながら切り込むセーナに真上からツヴァイはツヴァイハンダーと共に降ってきた。辛うじて避けたセーナであったが、巨剣ツヴァイハンダーの衝撃波はセーナを逃さなかった。不幸中の幸いかその傷は浅かったが、腕から足まで傷をつけられてしまった。だがツヴァイの攻撃は留まることを知らず、一気にトドメを刺すべく斬りかかってきた。妙に単調な攻撃だったのがセーナには気になったが、彼女は後方に飛んでその攻撃をかわした。この瞬間、ツヴァイは勝利を確信し心の中で歓喜した。
(かかった!)
 セーナが後ろへ跳躍した直後、セーナに一本の矢が襲い掛かった。弓矢を扱う十二魔将フュンフが放ったものである。ツヴァイとフュンフはセーナと戦う前からこの瞬間を狙っていたのだ。矢はまっすぐにセーナを襲い掛かる。さすがにセーナ自身も覚悟したのか瞳を閉じていた。しかし運命の神はこの奔放な少女を見捨てるはずがない。セーナの胸を貫くかと思われた矢はその寸前のところで「シュッ」という音と共に軌道を逸れていった。
「何ッ!」
それがツヴァイの言った最後の言葉だった。知らぬ間に背後に来ていた騎士によって胸を貫かれて絶命したのだ。またセーナを狙ったフュンフも次の瞬間には矢に貫かれて倒れていた。当のセーナも何が起こったのかよくわからないが助かったのは確かなようだ。そしてツヴァイの背後から出てきた騎士の顔を見ておもわず叫んだ。
「セシルじゃないッ!!」
そこにはイードで散ったマリアンの旧臣筆頭の聖騎士セシルの姿があった。そうなればセーナを救ってくれたのがスナイパー・ディルだと納得がいく。すぐに風のように颯爽とディルもセーナの元に飛んできて無事を確認しに来た。
「セーナ様、ご無事で何よりです!」
「セシルにディル、本当に久しぶりね。マリアンには可哀相なことになったけど、あなたたちが来てくれて本当に助かったわ。」
実はこの戦いが始まる前に二人率いるダーナ軍はライトの許可を得て、シレジア軍を抜け出してこっちに向かっていたのだ。不幸にしてセーナ軍が到着したのと同時に戦が始まったために遅参となったが、肝心なところで参戦できたので十分に満足したようだ。
 数こそ少ないがマリアンによって鍛えられたダーナ軍は乱戦を切り裂いて、縦横無尽に暴れ捲くった。ようやく戦いの趨勢が明らかになったと思ったのだが、依然としてマリクの存在がわからないのが不気味であった。しばらくすると十二魔将を苦戦の末に破ったのか、アベルやミカたちもやや息を乱して戻ってきた。寝返ったミレトス軍もほぼ壊滅し、スカサハ軍も序盤の奮闘が影響してもう息切れ寸前である。

 ヴェルトマー平原の戦いもまもなく最終章を迎えようとしていた。

 

 

 

 

最終更新:2011年07月23日 20:09