あの大戦から一年余り、久しぶりにヴェスティア宮殿にグリューゲル全軍が召集された。戦が起こる気配が全くないこの時期での召集にはあるわけがあった。もちろんグリューゲル将兵にはそれが何かはわかっている。とりわけ戦好きのサルーンやボルスは人が変わったほどに反応が違っていた。自身の武器を大事そうに抱えながらさも嬉しそうに大改修が進むヴェスティア宮殿の石畳を進んでいくのだ。やがてヴェスティア宮殿の大広間に数多の大戦を経て若干減少したグリューゲル全将兵5700人あまりが集まった。ミカ、フィード、ゲインの離脱によって新しく十勇者に任命されたリーネやフリード、そして大戦後に加入したミカの腹違いの妹ミキもいた。よく周りを見渡すと、リーヴェ王国の武を支えるナロンやウエルト王女サーシャもいる。二人ともセーナに招かれたようだ。
しばらくして広間を見渡すバルコニーからセーナが姿を現した。今日の出で立ちは従来のプリンセスドレスではなく、ブラウスにスカートという大戦時に毎日のように着ていた軽装である。今ではグリューゲルの主はセーナからライトに移っているが、ライトは最近完成したシレジアの新王都レヴィングラードに行っているので別段不自然ではない。だがグリューゲルの者にしてみれば、やはり彼らの心はセーナあってのものであるのか久しぶりにみるセーナの姿にただでさえ昂ぶっているボルスなどはウォ~と叫び声をあげた。しばらくして周りの苦笑交じりの視線に獣たちが落ち着いたのを見届けたセーナは高らかと宣言した。
「みんな、お待たせしたわね。大戦を挟んだせいで2年もの間があいたけど・・・」
セーナの言葉に広場が静まる。
「あさってよりグリューゲルトーナメントを行うわよ。」
そして歓声がグリューゲル宮殿にこだまする。
グリューゲルトーナメントとはグリューゲル将士たちが己の武勇とセーナへの忠義を同士にぶつけあう大会である。毎年グリューゲルにある国立闘技場で行われてきており、カイン対サルーン、アベル対ミーシャなどの数多くの名勝負が演じられてきた。また凄いところは一歩間違えれば死をも招く真剣勝負の連続にも関わらず、優勝しても賞品がないのだ。唯一、優勝者は大会最後にセーナとの決闘が出来るという特典があるが、あとはグリューゲル十勇者への昇格へ弾みがつくだけだ。しかしサルーンやボルスに見えるように多くのグリューゲル将兵はこの大会を楽しみにしていたのだ。やはり戦以外に己の武を発散し、忠義を示す場所が欲しかったのかもしれない。ついでに大戦前のグリューゲルトーナメントではカインとボルス、サルーンがそれぞれ1回ずつ優勝していた。
しばらく続いた歓声が収まったのを見計らってセーナが続ける。
「今回からはルールを変えて二人でタッグを組んで戦ってもらうわ。タッグを組んだものは明日、アルバトロスの隊長レイサスに知らせること。日程を知らせるようにしておくわ。それから・・・。」
明後日の大会開催までの詳細を説明した。
「今回の特別参加者はいつものミーシャに加えて、ウエルト王国のサーシャ王女、リーヴェ王国のナロン殿に加えてトラキア王国のフィリップ王自ら参加してもらうことになったわ。もちろんミカ、ゲイン、フィード、レイラに、あと一人ゲストを加えることにしているわ。ついでにサーシャはナロンと、フィリップは私と組むことになるわ。ミーシャに関しては言うことはないでしょうけど、アベルと登録してあるわ。」
この言葉に聡明なグリューゲル将兵は驚いた。いつもは優勝者としか戦わなかったセーナが今回は最初からトーナメントに参戦するのだ。主のことを心配するものの声に、主と剣を交わえる喜びの歓声が入り混じった。それを鎮めるようにセーナが大声で言う。
「皆の心配する声はわかるわ。でも今回からはMPが加わることを忘れちゃいけないわ。」
MP=メディカルパーティは宰相ミカ直卒の部隊で世界でも例がない回復専門部隊である。その実力もミカが隊長についてからは急速に付いてきた。そして今回のトーナメントでも凄惨な現場になるであろう裏方を支えることになる。
「では明後日、ヴェスティア国立闘技場で会いましょう!」
そういって身を翻して宮殿へと戻っていった。
翌日、トーナメントを勝ち抜くためのパートナーを連れたグリューゲル将兵たちが登録のために宮殿の一室に列をなしていた。カインの永遠のライバルを自他共に認めるサルーンはこのトーナメントをを最後にグリューゲルを引退する№0010カイが組み、サルーンの妻リーネはリーベリアで親交を深めたヴェスティア天馬騎士団長レイラと組むことになったようだ。さらに列を眺めていると怪力自慢のボルスがカインの長男エルマードと、闇魔道士シャルは同じくヴェスティアの裏を司るグーイと組むことになったのだが、十勇者入りしたばかりのフリードの姿はなかなか現れなかった。十勇者唯一のリーベリア出身だけあって知己が少なく、タッグを組むほど知っている人がいないからだろう。仕方なくガルダで知り合った№5500代のものとタッグを組んで登録をしたが、その者が後にユグドラルはもとい世界に災いをもたらす者の一人だとは今のフリードは知る由もない。
グリューゲルトーナメントはヴェスティアの一大祭典でもある。初回トーナメントでは誰が優勝するのか賭け事まで行われていたようだが、これを知ったセーナはさすがにマズいと判断して厳しく取り締まった経緯もあって今となっては完全に鳴りを潜めて露店が並んでいる程度だ。それでも民衆はセーナや数多くの勇者見たさに国立闘技場へと足を運び、開場まもなく席は一杯まで埋まった。
その大観衆に見つめられながら行われたセーナの開会宣言と共にグリューゲルトーナメントは始まった。第一試合はアベル&ミーシャが出場して華麗なる連携技で敵コンビを圧倒した。その後も順当に新旧十勇者が格下を圧倒し、サーシャとナロンの新造コンビは№0100内のセンチュリオンコンビを下して一応は順当なスタートを切っていく。そしてリーネ&レイラコンビが勝利した後の試合で、緊迫していたグリューゲル内の空気がさらにピリピリすることになることが起きる。その原因はカインがコンビを組んだ相手に原因であった。
その者はボルスと同じ斧を振るう戦士のようだが、ボルスのように筋骨隆々ではなく盾の中には剣も収められているらしく、その外見にはカインにも似たスマートな感じが見受けられた。が、そのギラギラとした殺気は敵方はおろか観戦しているほかのグリューゲル将兵にもチリチリと感じていた。セーナのそばで観戦していたミカもさすがにマズイと思ったのか立ち上がろうとしたが、セーナによって止められた。彼女の目はいつになく優しげであった。
それは1年前、マリクとライトが対峙するヴェルトマー平原に向かう途中のこと、ドズル北部で夜営をしていたセーナ軍に一人の戦士が斬り込んで来た。万が一に備えて守備もしっかりしていたセーナ軍だが、よもや一人の戦士が斬りこんでくるとは夢想だにせず、一部では同士討ちを始めるほどの大混乱に陥った。その戦士の名はジェネシス。エバンスの大戦でセーナが行った虐殺のために両親を失い、彼女を心の底から憎んでおり、今夜その憎悪の炎が張本人に向けられたのだ。ジェネシスはセーナの眠るテントを急襲したものの、その夜はなぜか眠れずにヴェスティア産のワインを傾けていたセーナ自身に武器である斧を弾き飛ばされ、駆けつけたサルーンとグーイによって取り押さえられることになった。だがセーナはジェネシスを殺そうとはせずに
「あなたが私を殺せるほどの力を持った時、私があなたをしかるべき舞台に招待するわ。」
と言って、彼を解き放った。そしてその舞台が今年のグリューゲルトーナメントであった・・・。
グリューゲルの張り詰める視線を全身に受けながらもジェネシスは1年前とは比べ物にならない位に逞しくなったその肉体を躍動させて、初戦の相手を圧倒した。ただ最後に戦闘を放棄して武器を投げ捨てた相手に対してさらに斬りつけようとして場を極限までにピリピリさせたが、カインが彼を押し留めて何とか事なきを得た。この試合後、カインはセーナの元に行き、呟いた。
「あの少年をこのままにしておいたら、またグレンの二の舞を招くかもしれません。」
カインの言うグレンとは初回のグリューゲルトーナメントで半身不随になってしまった悲運の竜騎士である。もともとグレンは当時、グリューゲル空軍ではサルーンと双璧を為すほどの騎士であり、そのグリューゲルトーナメントにてライバル・サルーンとの死闘の代償として騎士生命を絶たれてしまったのだ。それ以降、原因を作ってしまったサルーンはグレンの分も精進を重ねるようになり、2年後の第三回トーナメントにはもう一人のライバル・カインを打ち負かすほどになる。またセーナもこの事件を深く痛み、今もなおヴェスティア軍の顧問を務めてくれる彼に対して頭が上がらないようだ。そしてその悲劇が今また繰り返されるかもしれないのだ。
「仕方がないわね。それじゃ、今日の夜、決着を付ける事にするわ。」
その言葉にカインは頷いて、セーナの元を去った。
その夜、誰もいない闘技場で、ジェネシスはセーナと対峙した。それを見守るのはミカとカイン、グーイのみである。
「あなたはこの1年で何を得たのか、試してあげるわ。」
セーナのその一言で一人の青年の運命を賭けた戦いが始まった。セーナはフォルセティを城外に投げ捨て、光の剣を鞘から抜き放つ。一方、ジェネシスはそれを侮られたと激昂して斧を構えて、一気に突進する。一年前の夜襲もそうだったが、彼の攻撃は恐ろしいほど直線的である。それなのに一年前に防ぎきれなかったのはそのスピードにあった。この日もいつの間にかセーナの目の前に届くやいなや、鋼の斧を振り回す。想像以上の素軽さにグーイとミカは思わず驚かされたが、セーナはその攻撃をひょいとかわしてカウンターとしてライトニングを放つ。たかがライトニングといえどもセーナが放てば超破壊魔法と化す。案の定、ジェネシスが跳躍して避けるものの、彼の想像を超えた凄まじい爆風に見事に吹き飛ばされた。そしてセーナが剣を中段に構えて、ジェネシスを襲う。辛うじて体勢を立て直して着地したジェネシスは辛うじて彼女の斬撃をかわす。だが彼の凄いところはこのかわすために捻った体を利用して、反撃を仕掛けてきたところだ。並の戦士ならば何が起こったかわからずに体の上半分と下半分が分かれていたかもしれないが、目の前で戦っているのは人智をも超えようとしているセーナである。彼女はいつの間にか先ほどの攻撃を解除してひょいと跳躍していた。そして驚くことにジェネシスの振り回した斧にちょこんと乗ったではないか。懸命に振り払おうと力を入れようとするが、セーナが乗った斧は微動だにしない。
「ふふ、女の子に対して重いなんて言葉を言わないのは褒めてあげるわ」
見下ろすジェネシスの額には汗が浮かんでいる。
「あなたにもう一度聞くわ。まだ私を殺すつもり?」
その問いにキッとなって反駁する。
「もちろんだ。」
フゥと溜め息をついて言う。
「もしあなたが私を殺せたとしましょう。その後はどうするの?」
「・・・・」
思わぬ問いに一瞬怯む、ジェネシスにセーナが一気に仕掛ける。風のように斧から降りて、振り向き様に彼の斧を弾き飛ばしたのだ。そして剣を彼ののど元に突きつけた。
「たとえ私を殺しても全ては終わらない。誰かが私の弔いと称して、ふたたびエバンスに血の河が流れることになるかもしれないわよ。」
セーナへの憎しみに捉われるあまりにその事実を忘れていたのだ。たとえここでジェネシスがセーナを討ち果たしたとしてもセーナは何らかの形でエバンスへ手を出さないように残った者たちに伝えるかもしれないが、今のジェネシスを見て分かるように巨大な憎悪は人を狂わす。
「あなたには素晴らしい素質と器を持っている。それなのに、どうして、それを私にだけに向ける。どうして世界のために使えないの!」
気が付けばセーナの言葉も熱を帯び始めていた。
「そうさせたのはあなただ!!」
そういって、盾から剣を取り出して、自身の喉に突きつけられた剣を振り払う。そして続けざまに上段から斬りかかるものの、やはりセーナの姿は消えていた。必死に探すジェネシスに、上空からセーナが言い放つ。
「わかりました。もしあなたがそこまで禍根に捉われるならば、私はあなたを斬らなければならない。禍根が新たな悔恨を生む前に。」
着地するや否や、一直線にジェネシスに斬りかかった。だがジェネシスも負けじと剣を構えて、技を解き放つ。
『ディヴァインブレード!!』
『グレネイドスライサー!!』
そして二つの光が収束した時、一本の剣が宙を舞った・・・。
グリューゲルトーナメントは一つの佳境を迎えていた。順調に勝ち進めていたサーシャ・ナロンのコンビがいよいよ最強の強敵を迎えた。レイラ&リーネ組を打ち破って勢いに乗っているはずの二人が息を呑んで相手を見るしかできないのだ。その相手はカイン&ジェネシス組。あの夜、ジェネシスは結局セーナに完敗した。しかもそれはただ単に戦いに負けただけではない、生き方、考え方など全てにおいてセーナに負けたのである。そして己の行動が更なる悔恨を生むことも悟って、エバンスの呪縛からようやく解放されたのだ。そしてその日からジェネシスはその才能を覚醒させることになる。次からの戦いではグリューゲル最強の戦士カインとの連携技に挑戦し始めて、都合数戦で二人の息は完全に合っていた。
サーシャ&ナロン組とジェネシス&カイン組の戦いは凄絶を極めた。サーシャとナロンは二人の連携を絶つために別個行動を立てて、サーシャはジェネシスに、ナロンはカインに戦いを仕掛けた。華麗な槍捌きを見せるサーシャだが、セーナと二度も戦っているジェネシスから見ればサーシャには十分隙はあった。その隙を華麗に突いていくことでやがてサーシャは攻め手を失い、守りを固めなければならなくなってくる。そうなれば力も速さもあるジェネシスが有利になる。あえてジェネシスは攻勢を解いて、何かとサーシャを簡単な攻撃で挑発し始める。そしてサーシャが焦れて突いてきた槍をかわし、その避けの姿勢から生まれた捻りを利用した攻撃で彼女の槍を弾き飛ばした。当のサーシャと言えばわずかな一瞬に何があったのかわからず、しばらくして手首のしびれから己の負けを悟るのみだった。
一方のナロンとカインはまさに一進一退の攻防を繰り広げていた。共にノルゼリアの戦いでその実力を認め合った、言わば戦友の仲である。しかしカインは仮にも病み上がりである。それでも若い【リーヴェの剣】と互角に戦えるのはさすがというものである。だがこの二人にはそれ以上に決定的な差があった。年齢の差である。二人の間にはほぼ一世代分も開けられており、これだけ開くと年長のカインの方が体力的に幾重にも不利になってくる。力と力のぶつかりは数時間にも及び、さすがにカインの動きが次第に鈍くなってきた。しかしナロンの攻撃は未だに非常に重く、それでいて間断がないので守勢に回わざるを得なくなる。カインの不利に観客からざわめきが広がり始め、彼のライバルを自認するサルーンやボルスは戸惑いを隠せずにいる。
「リーベリアにも武神がいたか。」
誰かがこう漏らしたことで、ユグドラルではナロンは【リーベリアの武神】と称えられるようになる。そして直に戦うナロンにも情勢が己に有利に傾くことを悟り始め、次第に心の余裕が生まれてきていた。しかしこの余裕というものは得てして油断に直結することがある。ナロンの剣からわずかな心の変化を悟ったカインはその余裕を油断に変化させるべく手を打った。つまり己の力をナロンに悟られない程度にじっくりと落としていったのだ。あまりに急に力を落とせばナロンに疑われ、力を維持しつづけてもナロンの油断を誘えないという考えだ。果たしてこの策にナロンは見事に嵌まった。次第に弱々しくなるカインの剣にナロンは己の勝ちを信じ、一気に決着をつけるべく全ての力を込めてカインの剣を粉砕しようとした。その時、カインの姿がふわっと消えて、ナロンの剣が空を斬る。その直後、背後に回ったカインがナロンの背後から斬りつけた。必死に態勢を立て直そうとするもカインもこの一撃に全てを賭けていたようで凄まじい気迫が剣に篭もっていた。そして次の瞬間、ナロンが見たのは刃先の飛んでいった剣の柄だけだった。
その後もカインとジェネラスは快進撃を続け、勢いのままボルス&エルマードのコンビを撃砕。さらにはサルーン&カイ組とも名勝負を繰り広げてついには破っている。もう一方の優勝候補、セーナ&フィリップ組も他のコンビの追随を許さず圧勝を続けていったが、途中で大波乱があった。何とセーナとフィリップが一敗地にまみれたのだ。この二人を破ったのはゲイン&リベカ組である。最近、長い休暇から戻ってセーナの影武者に復帰したリベカは見事にフィリップを翻弄してセーナとの同士討ちに巻き込んだのだ。またセーナのお腹の中にもう一つの命が宿っていたのも敗因の一つであろう。また波乱はそれに留まらず、その優勝候補を破ったゲイン&リベカ組がその次にぶつかったミカ・ラティ隊に敗れたのだ。変幻自在なラティの剣技の前にリベカもゲインも己の戦いをすることができずに、その挙句ミカの圧倒的な魔力の前に下されたのである。
果たしてグリューゲルトーナメントの決勝はミカ&ラティ組とカイン&ジェネシス組というグリューゲル十勇者同士(+α)の戦いになった。ミカとカインの大戦戦績は2戦2勝とカインが圧倒しているが、今回に限っては大衆は5分と5分で見ている。その理由として今大会では魔道士が大いに活躍していることがあげられる。ゲインやミカは言うまでもなく、その他センチュリオンの魔道士の中でもフリードやアベル&ミーシャ組を破る金星をあげるものもいるほどなのだ。これは大戦前のトーナメントでは考えられないことであり、それだけ大戦を経て魔道士勢が強化されたことになる。
ミカとカインの師弟対決はまたも熾烈を極めた。見た目には攻勢に回っているカインが、ワープで逃げ回るミカを圧倒しているように見えるが、その実はミカがカインを追い込んでいたのだ。ミカはカインが最も苦戦したナロン戦をじっくりと研究して、自身が油断をする前にカインの余力を削ぐ作戦を取ったのだ。真剣勝負というにはあまり褒められた作戦ではないが、激戦続きのカインに対してはこの上のない策であろう。そしてその策を取ったミカにカインも心の中で感心していた。
(立派な女になったものだ。これなら私ももう未練なくいけるだろう・・・)
そう思いながらもカインは必死にミカの策に抵抗する。何もしなければミカの業火に焼かれるだけなのだ。だがその抵抗も空を切り、それと同時にカインの体力が削がれていく。普通の人が見てもカインが疲れているように見えるようになってからようやくミカが仕掛けた。魔力を注いで解き放たれたサンダーは見事にカインに命中して、そして彼を場外へと吹き飛ばした。すぐにMPの一人が駆けつけるもカインはすぐに起きて立ち上がり、ミカをじっと見つめた。気が付けば闘技場は最後の波乱に静まり返っている。何しろ相棒のジェネラスもセーナやサーシャのものとは全く性質の異なる剣技に翻弄されてラティの前に完敗しており、もはや勝負は付いているのだ。
「ミカ、見事だった。お前の優勝だ。」
カインの叫びが闘技場に響いて、その直後割れん限りの大歓声が勝者を包み込んだ。カインはその足で舞台に戻って、ジェネラスと共にミカとラティの腕を掲げた。当のミカはといえば師に打ち勝つことができた感動にむせび泣いていた。やがてセーナも舞台に上がっていきミカを大いに称えて、そして熱く抱きしめた。
いくつもの波乱があり、数多くの名勝負を残して今年のグリューゲルトーナメントはその幕を閉じた。