アリティアに集結しつつあるセーナ軍は再び軍勢の再編成を行った。詳細については下の通りとなる。
| 勢力 | 部隊指揮官 | 所属騎士 | 構成 |
| ヴェスティア軍 | セーナ | セーナ、レイラ、レクサス | アルバトロス+レイラ天馬騎士団+グラオリッターなど 1万5千 |
| アルド | アルド、レナ、エルマード | Iグリューゲル+ヴェスティア軍+バーハラロートリッター20万 | |
| エレナ | エレナ、セーナ十勇者 | Pグリューゲル(サルーンとリーネ含む)5千 | |
| アーサー | アーサー、サーシャ | バーハラ軍20万(大陸東部へ後退中) | |
| 海軍 | ノア | 大型戦艦20艘余り | |
| シレジア軍 | ライト | ライト、フィー、ライ | テルシアス 5万 |
| リーベリア軍 | リュナン | リュナン、ナロン、カリナ | 40万(ウエルト軍を含む) |
| マケドニア軍 | ガーラント | ガーラント、アイリ、フレディ | 50万 |
| カダイン軍 | リュート | リュート、ミリア | 10万(グルニア黒騎士団含む) |
| グラ軍 | ジャンヌ | ジャンヌ | 25万 |
| アリティア軍 | カーティス | カーティス | 10万 |
| トラキア軍 | デーヴィド | デーヴィド | 2万?(現在所在不明) |
アリティアに合計150万近くの超大軍が集い、当然この再編成には思いのほか時間がかかった。まずシレジア軍の大半が冬越えのために精鋭テルシアスを残して全軍が撤退していくための船を手配し、そして今度はオレルアンから撤退してきたエレナ軍を迎える。いくら歴史の古都といえどもこれだけの大軍はさすがに収容しきれず、隣国グラに駐留させることとなったが、おかげで連絡に多少の時間がかかり更に再編成は手間取った。
この合間に、セーナはライトの今までの戦いぶりを本人に激しく糾弾し、本人のヴェスティア皇帝退位を認めさせた。さすがにフィーがいたためにシレジア盟主の座から下ろすことは出来なかったが、シレジアの方は意外とライトを中心にまとまっているので、セーナもこちらには手は深く出さなかった。一時はリーベリアとユグドラルをまとめる総大将となったライトだが、今回の合戦でついにその権威は失墜したこととなる。仮にも妻であるセーナは哀れみを感じたが、あえて夫には厳しく接することで昔のライトに戻って欲しいと願うしかなかった。
またこの合間にセーナは南カダインの戦いの後に降伏してきたプラウドに面会した。
「あなたがカイが見つけ出した、ロイト軍最高の騎士ね。顔を見せて。」
すでにハルトムートとの戦いを聞いているセーナは純粋にプラウドのことを知りたがっており、ミカも珍しく彼に興味を持っていた。そしてプラウドが顔を上げた瞬間、二人は思わず息を呑んだ。
(エルト・・・。)
プラウドはかつてのセーナの初恋の人、エルトシャン2世と見紛うばかりの容貌だったのだ。
(エルト・・・。ああ、あなたの魂は滅んでいなかったのね。)
心の中ではもうプラウドに飛びつきたい衝動に駆られているセーナだが、ミカの視線に気付いて辛うじて頬を赤らめる程度に抑えることができた。だが鼓動が高鳴るばかりである。
「プラウド殿、あなたが来られてセーナ様も嬉しく思われております。これからあなたはリュート様のカダイン軍の元で更なる武功をお励みになってください。」
余りにもセーナの様子がおかしいと感じていたプラウドに、ミカは誤魔化すように取ってつけたような言葉を出してその場を強引に閉じた。不思議がりながら退出するプラウドを見て、ミカはふぅと溜め息を一つついてセーナに言った。
「エルトシャン(2世)様の魂は未だに健在のようで。本当に私もビックリしました。」
周囲にはまだ状況を理解していないアルドやルゼルもいるが、セーナは彼らにも構わずに嬉し涙を流した。
(エルト、あなたはまだ私を見守っていてくれたのね。ありがとう。)
これから大勢の人の命が亡くなるかもしれない大戦に突入するかもしれないこの時機に、セーナは誰よりも心強い味方を得たような気分であった。
そんなこともあって、1週間あまりの再編成を終えて、数多の騎士たちをアリティア王宮に招いて出陣式を執り行った。ここでセーナは神剣ファルシオンを掲げて神君マルスの末裔であることを宣言、そして未だにロイトの引渡しに応じないアカネイアに対してついに宣戦布告を行った。
セーナの宣言から翌日、グラに駐留するグラ軍とマケドニア軍が先導するように新生セーナ軍が始動した。グラ・マケドニア軍の次にはアルド・エレナ軍が続き、そしてリーベリア軍がそれを見守るように後続する。この後にセーナとリュートが統べる中軍(上表セーナ軍とカダイン軍)が全体に指示を出し、最後方からはシレジアのテルシアスが固める。一方のアリティア軍はこの地に残って、周辺地域の治安維持にあたり後方の確保を任せられた。
セーナ軍はまずアカネイア傘下のオレルアンを攻め立てたが、アルド、ジャンヌ、ガーラント3人率いる先鋒が、当地に残ったオレルアン軍を一掃して、瞬く間に制圧している。もっともオレルアン軍の本隊はすでにアカネイア軍に吸収され、中央公路にいるために歯ごたえがないのは当然であった。そして中央公路入り口では先日、アカネイア軍に急襲されたアーサー軍が合流。中軍に配されることとなり、セーナたちと共に遊軍となる見込みだ。これで把握しているセーナ・リュート派の全ての軍勢が集結したことになり、アカネイアとの決戦に向けて準備は整いつつあった。
「何ゆえにロイトを突き出さないのです。」
中央公路の要衝レフカンディに陣取るアカネイア軍に、戦争に最後まで反対していた四名臣の【蒼天騎】アイバーと【白衝貴】アディルスが国王以下に詰め寄っていた。
「現在、兵力は互角なれど、敵の陣容は豪華絢爛そのもの。とても勝ち目などありません。」
アカネイア軍の現兵力は140万ほど。しかもまだ王都に先ほどの二人の手勢40万が残っている。だが実績のある騎士は四名臣とロイトくらいなもので、あちらはそれこそ両手があっても溢れるほどいるのだ。これでは同じ兵力でも軍勢の機能性は格段に劣る。それを二人は言っているのだ。
「あなた方は陛下の命令で謹慎のはず、早々と王都に戻られよ。」
【紅翔姫】フレイが鬱陶しい仕草で追い払おうとするが、
「お言葉だが、あの時受けた謹慎処分は平時のもの、甘んじて受けますが、戦時とあれば我々も大人しくしているわけにはありません!」
アイバーも負けじと返す。
「陛下、戦端が開かれればもう遅いです。どうか、戦だけは回避ください。」
だが国王も散々諫言してきたアイバーにはウンザリしていた。
「いい加減にしろ、アイバー。これは余が決めたことぞ、口出しするな!」
と、怒鳴る始末であった。これでアイバーたちは項垂れながら出て行くだろうとフレイは踏んだが、アイバーは叩頭して思いもかけない言葉を言い放った。
「さすがは陛下、お覚悟のほどは感じ入りました。ならば私の策をぜひお聞き願えますか?」
まさかアイバーから自身を敬う言葉が出るとは思っておらず、目を白黒している。が、策と聞いて飛びついた。
「何と、策とな。そなたはそれを用意しておったのか、ならば早く披露せい。」
その言葉から伺うに、フレイはただロイトを引き入れただけで、セーナ軍に対する策はこの要衝で地の利を活かして迎え撃つ程度にしか考えていないようであった。
「お言葉ですが、陛下。私は陛下から下された謹慎の身。この策はアディルス殿と立てたものでありまして、とても謹慎の身から陛下にご披露する程のものではございません。」
暗に謹慎を解除するようにアイバーは国王に求めたが、あっさりと国王はアイバーの策に乗っかった。
「何を言っている、アイバーよ。そなたのような忠臣を謹慎にした覚えはない。万が一のために王都に置いておいただけだ。」
アイバーの口調は巧みで今までの不信が一気に払拭されたようだ。苦い表情をするフレイを無視して、調子の言い事を国王は言い始めた。これでアイバーは再び戦列に正式に復帰したことになる。
「ではフレイ殿、戦地図はどこにありますか?」
フレイは唇を噛みしめながらも、しまってあったレフカンディの地図を取り出すのであった。
「陛下には無断で話を進めてしまい、恐縮ですが・・・。」
そう言って、四名臣随一の知謀を持つアイバーの策が動き始めた。
それから3日後、山岳に挟まれた細長い街道にセーナ軍とアカネイア軍が睨みあった。想像以上に急峻な地形で、セーナ軍は恐ろしいほど縦長になってしまっている。対するアカネイア軍が布陣する方は微妙に開けているのか、セーナ軍よりも倍ほど横に展開することが出来るために傍目にはアカネイア軍の方が大軍に見えた。
「これではなかなか手出しはできないわね。」
セーナはそう言いながらも、ガーラントのマケドニア軍にアカネイアの側面につくように命を出した。地形の影響を受けないマケドニア軍を利用しようとしたのだが、アカネイア軍は山上の要所にシューターが配置していたためにこの策は難航した。しかしフレディとセーナ十勇者フリードの決死の攻撃によってシューター隊は壊滅、無事にアカネイア軍の横腹を突ける態勢は出来た。しかしこれで前衛が薄くなったので、グラ軍とアルド軍を合わせて第一軍としてエレナ軍はセーナらのいる中軍に下げることにした。
その夜、とりあえず最善の陣形が出来たセーナが眠りについていると、ブラミモンドがワープして飛んできた。
「セーナ様、お眠りのところ、申し訳ない。」
今日のブラミモンドの人格は武人肌なのか、やたら豪傑風で口調が生意気な風すらあった。苦笑しながら起きたセーナはブラミモンドに聞く。
「何かあったの?」
「デーヴィド様から返書を。」
そう言って懐から書状を取り出した。セーナが開いて、まずサインを確認すると紛れもなくそれは見慣れたデーヴィドのものであった。読み進むにつれてセーナが興奮していくのがわかった。
「デーヴィド、さすがね。私もそこには気付かなかったわ。」
そしてブラミモンドに向き直り、
「デーヴィドに伝えて、私はあなたに合わせると。」
と伝えた。いつの間にか人格が変わっていたのか、今度は御意にという堅苦しい言葉を残してブラミモンドは闇に溶けていった。そして再び寝息を立てようとしたところに今度はルゼルが訪れてきた。
「お休みのところ、申し訳ありません。カリンから急報が入り、参りました。」
今ではブラミモンドはセーナ直属、カリンはアルドというよりルゼルに情報が行くように諜報衆を二分していたのだ。すぐにセーナは起き上がって招き入れた。思いのほか寝起きのいいセーナにびっくりしたルゼルだが、すぐにカリンを促して報告をさせた。
「中央公路入り口からある軍勢が南下中。その旗印はレダ王国軍と思われます。」
「レダが?!何のために。」
「カリンに追加で調べてもらった結果、どうやらアカネイアに呼応するようです。明日明朝にはこの地に着きますので、急ぎ防戦態勢を。」
ロイトには申し訳程度の出兵で終わったレダが、どうして縁のないアカネイアと戦うのか、セーナはどうしても分からなかった。下手をすれば今度こそユトナ同盟は崩壊し、レダは四方を敵に回すことになるのだ。
「アカネイアの四名臣アイバーの策のようです。リーベリア勢力とは不戦でも構わないから、ユグドラル・アカネイア勢を駆逐してくれ、という要請をリチャード王は容れたようです。」
何とも図々しい要請だが、逆にリチャードは小気味よく感じたのだろう。船を仕立てて南カダインの戦い頃にはアカネイア大陸に渡って、息を潜めていたのだ。
「アイバー・・・、いつぞやヴェスティアに親書を届けてきたことがあったみたいだけど。なかなか切れた女性だったみたいね。」
セーナ自身は会ったことはないが、ライトやゲインからその聡明さは聞いている。しかし今アカネイアで奮闘しているアイバーはセーナの言ったアイバーの娘である。この一族は世界でも珍しく女系一族であり、代々アイバーを名乗っているのだ。なおアイバーの血筋を遡るとマルスと共に戦ったアカネイアの女聖騎士ミディアに当たる。
「謹慎と聞いていたけれども、いつの間にか復帰したようね。これは油断できないわね。カリン、ルゼル、リュナンの軍を後方に回すように要請して。これでアカネイア軍が動くかもしれないけど、その間はアルドたちに頑張ってもらうしかないわね。」
リュナン率いるリーベリア勢が最後方、つまり背後から来るレダ軍からすれば最前列に来れば、アイバーとの約束にあるリーベリア勢同士の不戦が生きてくるので後方が脅かされることがなくなる。だが、兵站の補給が厳しくなるので長期の戦いは苦しくなる。
直後からセーナ軍が慌しくなり、これをアカネイアの【黒硝鬼】レギンに捉えられた。その称号の通り、レギンはアカネイアの諜報衆を統べる存在で、すぐにフレイに届けられた。
「いくわ、全軍で突撃!」
骨組みがアイバーに仕組まれたのは癪だが、国王がそのアイバーの策を採用した以上、フレイはアイバーの駒となって戦うしかなかった。このアカネイア軍の吶喊に第一陣のアルド・ジャンヌ軍は必死に防衛した。
「ジャンヌ女王、大丈夫ですか。」
Iグリューゲルやバーハラ・ロートリッターといった精鋭を持っているアルド軍は順調に追い返していたが、グラ軍は戦経験が乏しく数でも劣っていたために押されてきていた。
「アルド皇子、ご心配なく。このジャンヌ、聖女王と伊達に呼ばれていないわ。」
アルドの言葉に、ジャンヌは手を振り上げて返す余裕を見せていた。ふと山腹から新たな軍勢が現われ、グラ軍に押し寄せるアカネイア軍を横撃したのだ。彼らはオレルアンでエレナ傘下で戦ってきた部隊で、戦闘力は多少付いている。この部隊はセーナに無断でいつの間にか伏せており、当然軍勢が少なくなっていたために素で負け気味になっていたのだが、それこそがジャンヌの策である。味方すら欺いたジャンヌは二つの軍勢をニ弁の鞭の如く操って、次々と襲い来るアカネイア軍を撃退していった。こうなると、アルド軍も憂いなく采配することが出来た。アルド軍先鋒エルマードは縦横無尽に剣を振るい、レナは機略縦横に兵を差配する。ここに援軍として飛んできたPグリューゲルのサルーンとリーネが殺到してくれば、もはやアカネイア軍に勝機はなかった。いや、勝機どころではない、いつの間にかアカネイア軍の背後に予期していない敵が現われたのだ。
「急げ、急げ!アカネイア軍の尻を火を付けてやれ!!」
そう叫ぶのは【双龍星】の【英龍】デーヴィドであった。彼が率いるのは精鋭ドラゴンナイツ2万に、自治都市ワーレンの兵20万。これらが一斉にアカネイア軍に襲い掛かったのだ。
「まさか我々とは手を結ばなかったワーレンが敵と手を結ぶとは・・。」
アイバーは先ほどレダの襲来を知ったセーナと似たような言葉を呟いていた。港町ワーレン、アカネイアの支配を拒み続けた自治都市として知られ、かつては神君マルスたちが激戦の疲れを癒したところでも知られる。貿易都市としても知られ、この部分をデーヴィドは的確に突き、独立を保障する上で更にトラキアとの貿易を強化すると申し出ることでワーレンの町衆を説き伏せ、セーナ側に付くことを宣言していた。そしてこの時点でブラミモンドと繋ぎを取って、セーナに報告したのだが、更にレダ軍の後方襲撃の連絡を受けたデーヴィドはワーレン自治軍と共に出撃して、あっという間にアカネイア軍背後に来ていたのだ。
決してデーヴィド軍の参戦は大勢を決するほどの数ではないのだが、このレフカンディという特殊な地形では20万という数で十分逃げ道を封じることが可能だった。袋の鼠となったアカネイア軍に対して、セーナは総攻撃を命令。マケドニア軍も加わって3方向から攻められたアカネイア軍はたまらず後退することに。
「さすがはセーナ様、ですがまだアカネイアは死にません。予定は狂いましたが、まだ第二段の策が残っております。それでセーナ様と交渉の余地を引き出してみせる。」
アイバーもまたかつてのロイトのように最終的な勝ちは求めておらず、いかにしてセーナと対等な結果で戦を終わらせられるか腐心していたのだ。アイバーは呟きながらも全軍を南へ軍を向けさせて、デーヴィド軍に襲い掛かる。これにはデーヴィドもたまらずに
「山腹へ退避。呑み込まれるぞ。」
と命じて、あっさりと戦場を放棄した。軍勢の体を為していないとはいえ、やはり100万を越える奔流を止めるのは20万では少なすぎたのだ。一方セーナは、
「追撃よ、一気にパレスまで追い込むのよ。」
と、一気に決着を付けるべく追撃を命じた。
懸命に逃げるアカネイア軍に、その尻を喰らいついたまま離さないセーナ軍。その流れは全てが始まった地アカネイアの中心パレスへと向かっている。1000年という長いときを経て、歴史はその都へと戻ってきた、大いなる戦火を連れて。