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 パレスの戦いが始まっていた頃、アカネイア大陸からリーベリア・ユグドラルを超えた、最果ての地エレブにあるコロニー・サウスエレブでは妙な緊張感が流れていた。この地はレダ王国が主導で周辺地域の開拓が行われてきていたが、他にもヴェスティアやシレジア・カナンなども微小ながら支援していたのは過去に触れたが、レフカンディでレダがセーナ軍の後方を脅かしたことでレダへの支援が打ち切られることになっていた。すでにシレジアとカナンが国許へ戻っていたが、ヴェスティアのアルサスはその時機を逸してレダの姫君に捕まっていた。しかし決して捕虜とか後々に大きな問題になるような話ではない。

 このサウスエレブにはかつてエレナがこの地を去った直後からリチャードとティーエの次女ティーゼという女性がやってきて、牛耳っていた。この王女、決して才能に乏しいわけではなかったのだが、姉のティーネにはやはり劣る部分が多く、反発するかのように家出してきて、なぜかこの領主を名乗っていたのだ。レダのものはいつの間にかティーゼによってこき使われはじめ、もともとの役目であるはずの周辺地域の開拓などなかなか進まなくなってしまっていた。しかしティーゼのおかげでサウスエレブのコロニー自体は大きく発展して、城塞へと変貌しつつあった。リチャードもティーゼのことに関しては何も言わず、ティーエも好きにさせるように達しが来たので、本当にやりたい放題になっていた。そんなティーゼが最近になって気に入っているのが、ヴェスティアのアルサスである。
 最初の出会いはティーゼがすでに壊滅していた西のコロニーへ向かおうとした時のことである。エレナが行って山賊団に襲われたこともあって警戒していたアルサスは目の色を変えてティーゼの後を追ったところ、案の定、山賊団に襲われていた。カインの次男アルサスと彼に率いられた手勢は数は少ないものの、精強で鳴らしたためにあっさりと3倍以上の山賊団を蹴散らしてしまった。ここからがアルサスのケチの付けはじめであった。彼はティーゼの野駆けに護衛として付き合わされる羽目となり、いつの間にかヴェスティアの家臣でありながら、ティーゼの家臣にもなってしまっていた。
(こんな姿を親父には冗談でも見せられないな。)
かつてエレナがトラブルを持ってきて以来、アルサスは周りから翻弄されっ放しであり、最近ではつい上のようなことを愚痴ってばかりであった。


 そして今回のレダの不審な行動でヴェスティア本国から帰還せよとの報せが届いたものの、そういうところには敏感なティーゼによってレダ領主館から出られなくなってしまった。捉え方によっては監禁という形になるが、ティーゼはアルサスを大いにもてなしていたために、アルサスも何ともしようがなかった。ある日、ついにアルサスはティーゼに切り出してみた。
「ティーゼ王女、お父君がアカネイア大陸でしたことはご存じでしょうか?」
一応オブラートに包んで、レダの姿勢を非難しているのだが、ティーゼは全く聞く耳を持たずにあっさりと話題を振った。
「そんなことよりも明日は北の方に野駆けに行くわよ。あなたももちろん付いてくるわよね。」
このサウスエレブに来てからというもの、今までのうっ憤を晴らすかのように人使いが荒くなっている。なのになぜか反発する人物がいないのはやはり彼女の背後にいるレダの獅子王の存在なのだろうか。ここでもアルサスは
「わかりました・・・。」
俯きながら返答するしかなかった。しかしアルサスは決してリチャードを恐れているわけではない。目の前にいる高飛車な少女がどことなく憎めず、放っとけないように見えるらしい。エレナの性格を極端にして図々しさを混ぜたようなのが、アルサスがティーゼに下した性格判断であった。
 翌日、アルサスはレダの臣に囲まれながらティーゼの野駆けに付き合わされた。ヴェスティア領事館に辛うじて連絡出来たために遥か後方でアルサスの手勢が見守っているが、やがて意を決したアルサスが剣を抜いてティーゼに突きつけた。そして猛烈な勢いでアルサス勢がレダ勢を取り囲む。
「ティーゼ王女、手荒な真似はしたくありません。我々は国許に戻らせていただきたい。」
ティーゼは事の成り行きに茫然とするかと思われたが、意外としっかりとした視線を返してきた。
「やっぱりヴェスティアの勇者カインの息子ね。私に向って剣を向けるなんて度胸のいいこと。」
すると次の瞬間、刺していたレイピアを抜くや、アルサスの剣を一瞬で弾き飛ばした。何が起きたのかわからないでいるアルサスにティーゼが
「さ、無粋なものは弾き飛ばしましたわ。早くわたくしとのデートを続けましょ。」
と笑顔に返してきた。この瞬間、アルサスはティーゼに眠る素質の高さを理解した。そして静かに手勢を下がらせると、ティーゼの野駆けに付き合うことになった。下手に逆らうと本気で斬られるかと思ったアルサスはさっきまでの勢いはどこへやら借りてきた猫のように静かにティーゼに従っていた。その日は何事もなく、サウスエレブに帰ることが出来たティーゼたちに新たな報せが届いた。ティーゼの姉ティーネがリチャードに代わってレダ女王となり、ヴェスティアやリーベリア勢力と和解したというのだ。これでアルサスもヴェスティアへ帰還する必要はなくなったことになる。これを聞いたティーゼはすぐにアルサスを解放した。
「これでもうヴェスティアには帰らなくていいわよね。」
このティーゼの言葉にアルサスはもう苦笑するしかなかった。
 その後、ヴェスティアへ帰還しなかった(出来なかった)アルサスの行動が本国で問題視されたが、臨時宰相ゲインが出したのはあくまで報せであって命令は出していないこと、そしてティーゼの姉ティーネからの取り成しもあって不問に付された。そしてそのティーネからティーゼに対して今度はレダへ帰還するように言われたが、ティーゼはそれを黙殺していつの間にかヴェスティア領事館とレダ領事館の双方に籠もって、本国からの遣いをまくようになった。結局、ティーゼはそのまま居座り続け、サウスエレブの女主人としてアルサスを始めとするサウスエレブ駐留の諸将を国境に関係なくこき使うことになる。


 しかし自由奔放な彼女たちに禍々しい災いが襲い掛かることになるのは、もうまもなくのこととなる。

 

 

 

 

 

最終更新:2011年09月11日 02:06