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 ヴェスティア特務諜報衆の後釜アジャスに捕まったエレナだが、プラウドやレイン、ラティ傭兵団たちを引き連れてウエルト王国南部の町マゼランから王都を経由して北の港町ソラに向かっていた。仮にも1000近い部隊が通り、しかも行動を束縛されているとはいえ、セーナの長女エレナが指揮する部隊とあって道中は地元領主が必死に売り込もうと宴の連続で、さしもの陽気者ばかりの彼らも辟易しつつあった。これならばアリティアでヴェスティア海軍が来るのを待っていた方が遙かに早かったと思えるほど、行軍は遅々と進まなかった。当然、エレナも知らないうちにストレスを溜めて行った。
 どうにかウエルトを脱して乗り込んだ船で、サリア領セネーに渡り、一息つくことができた。ついでにセネーは20年前の戦いでは自治を誇り、ユトナ同盟、ゾーア帝国双方にも付かずに中立を宣言していたが、リュナンとエルンストの熾烈な戦いを見過ごしたことで戦後、ユトナ同盟を始めとする諸侯から白い目で見られるようになる。それでも自治都市として存続していたのだが、サリアにおいてヴァルスが国王になってリーヴェから再独立を果たすとその初仕事としてセネーを併合しようとしたのだ。当然、セネーはレダを頼りにして傭兵団まで雇って抵抗しようとしたものの、サリアにリーヴェが付き、更に当時から隆盛を始めていた新興傭兵団『フリーダムウイング』が倍する勢力を誇るセネー傭兵団を蹴散らしてしまったためにセネーは結局サリアに下ることになった。これでセネーとブラードという経済都市を双璧としてサリアは大きく立て直っていくことになる。
 このセネーに着いたエレナたち一行だが、ウエルトと違って申し訳程度の歓迎があるだけで大袈裟な宴などは一度も開かれなかった。これも国王ヴァルスの威厳が届いている証であった。まだまだ復興途上のサリアにおいて贅沢は禁止として、サリア国中を引き締めていたのだ。特に自由経済都市として栄えていたセネーは重点がおかれ、かつての華やかさはなくなっていたが、それとは別に今を懸命に生きていく人々の姿が美しく見えるようになっていた。
「ヴァルスもすっかり王として板についたようね。」
かつては一緒に旅をしてきたエレナが静まり返った市中を見て、軽く唸っていた。サーシャですらほぼ半生をかけても未だに終わらず、かつての英雄レオンハートも命を削ってまで行っていたサリア復興が今は若きヴァルスが一人で引っ張って、結果として軌道に乗っているのだ。彼の政治力の高さが伺える。
「本当ですね。数年前は彼が加わると聞いた時はエレナ様と似たのがまた増えるので、どうなることかと思いっきり頭を抱えましたが、それも夢みたいですね。」
フォードがしみじみと返答し、レインも頷く。聞いているプラウドはとんでもないメンバーで旅をしていたもんだ、と本気で驚き放しである。まず自分の娘を旅に出させるセーナの教育方針に一度驚き、それに悪乗りして未開拓のエレナに二度驚く。そしてサリア現国王と旅をしているのだから、エレナもとんでもない行動力と運勢の持ち主である。プラウドはしばらく空いた口が閉まらなかったが、そんな本人もかつての旅のホームズ・ヴァルス親子と同じ立場にあることをまだ理解出来るはずもなかった。

 セネーで2日ほど自由行動を取った一行のもとに、一人の女性が駆け込んできた。いつの間にか諜報衆に復帰していたカリンだった。
「エレナ様、戦場にもう一度、立ってみたいですか?」
カリンがエレナを煽り、ウエルトで欝憤の溜まっていたエレナは当然笑顔になって頷いた。
「実はバルトで近々戦いがあるのです。『ブルーウイング』がリーヴェの依頼を受けて、サリア国王の母君をブラードへ送り届けることになっているんですが、その地で四竜神が傭兵団をかき集めているという情報が入りました。彼らはリーヴェ騎士団を含めても2千、敵は5千。どうでしょうか、エレナ様も。」
「『ブルーウイング』ってアルのところじゃないか。戦が終わったのにもう仕事か。」
プラウドがつい割り込んでボヤくが、別段周りも気にする様子はない。
「私たちの手勢はラティのも含めれば1千だから、面白い戦いにはなりそうね。」
乗り気になるエレナに、フォードが慌てて制止する。
「ちょっとお待ちください。敵には四竜神がいるのでは危険過ぎます。」
が、これに反論したのは意外にもプラウドだった。
「なら俺たちが行かなければアルはもっと危ない目にあうんじゃないか。目の前で苦闘を見届けているほど、俺は丸くないぞ。」
フォードはあくまでエレナの身を考えて制止したのだが、まだエレナ一党に入ったわけではないプラウドはアルフレッドを見据えた発言をして、互いの思いが微妙にずれていたことになる。
「フォード、心配はいらないわ。私たちはもう十分強いわ。クレスト兄さんとアトスで四竜神の一人と互角に戦っていたんだから、皆で戦えば怖くはないわ。ね、アジャス。」
賛意を促されたアジャスも今はエレナの目付役だが、本来の特務諜報という役目上、バルトに参戦して敵に触れるのはいい機会だと思っている。
「これは姫の言うとおりだな。フォード、姫は私がしっかりと守るから心配するなって。幸い、アカネイア最強の傭兵王もここにいるんだ。」
言われたラティもニヤニヤしている。戦がなくなるアカネイア大陸にいれば傭兵団は生活に困るというわけでユグドラルに帰還中であるために、戦となれば否定する理由はなかった。
「また俺が一人か。」
レインはいつも中立役で意見を聞きわけているので、ボヤくフォード一人が反対となってしまった。
「フォード、お前みたいな奴もこういうグループには必要なんだぜ。いざ戦となったらしっかり目付を頼むぞ。」
プラウドがフォードを煽てあげるのを見て、一同も軽く頷いた。
「なぐさめなどいらん。」
不貞腐れて、今度はふくれっ面をするフォードに、次に一同は笑いを爆発させた。ともあれ彼らの方針はすでに決まった。


 「エレナ様、突入をお願いします。」
バルトよりやや遠目のところで控えていたエレナ勢に戦機を睨んでいたブラミモンドが飛んできて、出陣を促した。
「任せて、プラウドあなたからお願いするわ。」
エレナの命を受けたプラウドが精鋭フォーゲラングを出発させる。かつてロイト陣営にいた時にグラ率いるロートリッターを打ち破ったことから見ても森林での戦闘にも問題はなく、その機動力と衝撃力は500という数とは考えられない実力を持っている。次にラティ傭兵団が急いで後を追い、エレナもこの中で懸命に付いて行く。あとは苦戦しているであろう『ブルーウイング』を救うまでだ、とエレナたちは誰もが思っていた。
 突如としてプラウド軍の陣容が乱れた。
「どうしたっ?!」
尋ねるプラウドに、確認しにいった将士が直後に血飛沫を出して倒れた。その背後にはすらりとした剣士が立っていた。
「貴様、噂に聞く四竜神とかいう手の者か。俺の領土を荒らそうとした報いを忘れたわけではないぞ!」
「まぁお待ちあれ、プラウド殿。我が名は四竜神ネクロスが配下・炎刃のレイヴンと申す。先日のフォーゲラングでは同じ四竜神クラウスが勝手にやったことをまずネクロス殿に代わってお詫びする。」
思わぬ言葉にプラウドも抜きかけた剣を止めた。これを見たレイヴンも殺気を和らげて静かに続ける。
「プラウド殿、どうか今すぐにフォーゲラングにご帰還あれ。さすれば我々も今後一切アカネイア大陸には絡まないと約束しよう。」
「何だとっ!」
レイヴンは何とこの場で取引を持ちかけてきたのだ。一瞬呆気に取られるプラウドだが、何となくだがその意図は読めた。クラウスが仕掛けなければプラウドはまずヴェスティアに行くことはない、つまりはそれ以上の上積みはないまま萎んでいくところだったのだが、彼の暴挙によってふたたび獅子の眼を覚ましてしまったのだ。これ以上、厄介ものを増やしたくないネクロスとミューはこの戦を利用して、彼に驚くべき好条件で土俵から下りてもらおうとした。だがあまりにも条件が良すぎたのでさしものプラウドも裏が読めていた。
「お前たちは俺が怖いのか?」
が、レイヴンは根が真面目なのか
「有態に申せばそうなります。では、返答は如何?」
「確かに悪くない条件だな・・・。」
目を閉じたプラウドはなおも続ける。
「だが友を苦しんでいる姿を見て、そして血と汗を流して共に闘ってきた戦友が斬られるのを目の前で見せられて、背中を見せるほど俺は薄情じゃないんだ!」
そしてツヴァイハンダーを抜き放って、レイヴンに斬りかかった。が、彼は身軽な動作であっさりと斬撃をよけると、片方にしか刃のない剣を抜いて驚くべき早さで振り下ろした。だがプラウドとてアルフレッドとの仕合で剣士との戦い方はわかっていた。馬を巧みに操ってはレイヴンの斬りを交わしていき、反撃にツヴァイハンダーを振り回す。しかしレイヴンも素早さが際立っているので当然、プラウドの行動は緩慢に見えてくるので避けるのも造作のないことだった。そんな戦いがしばらく続いた。
 傍目から見るとその圧倒的な素早さで掻き回しているレイヴンが押しているようにも見えるが、想像以上にプラウドの肝が据わっているのか隙を見せないために互角の戦いをしていた。ふとレイヴンが何かを感じたのか、一瞬だが動きが止まった。プラウドは罠かと訝ったが、一気に巨剣を振り下ろした。この間、2秒ほどの間である。無駄に隙を作ったレイヴンはハッとして身を投げ出して、プラウドの剣を避けた。追撃の突きを行おうとしたプラウドに、レイヴンは高く跳躍して木の枝にとまる。
「逃げるのか?!」
憤るプラウドに、レイヴンは静かに返す。
「決着を付けたかったが、私にも事情がある。今日はこの場で去るが、次は容赦はせぬ。」
そしてレイヴンは姿を消した。この直後に前線の異変を感じていたレインとフォードが駆け付けてきた。
「プラウド、大丈夫か。今、剣士の影が見えたが、四竜神か?」
「その手下らしい。だが敵にしては惜しいやつだった。・・・・あいつの剣もまた真っ直ぐだったな。」
とりあえず息を整えたプラウドは隊列を立て直すと、一気にバルト要塞へと突撃を命じた。

 ちょうどレインたちがプラウド隊に向かった頃、エレナたちにも魔の手が迫っていた。見た目はエレナと同じくらいの少女なのだが、どことなく心が見えないくらいに表情が薄かった。その少女はかつてヴェスティアでルーファスとエリミーヌを襲いかけたアスカであった。当然エレナが剣をつけるかと思ったが、アジャスが間に割り込んでいた。
「ここは私が受け持つんで、姫は戦采配を思う存分してください。」
いいところを取られたとエレナがふくれっ面するが、仕方ないと隊列の立て直しを図ることにした。
 「確か君はネクロス配下の瞬殺炎アスカだな。先日はヴェスティアで暴れ損ねたから、こっちで欝憤晴らしかい。」
優しくアジャスが語りかけるが、アスカはただ一つしか語らなかった。
「遮る者、死あるのみ。」
「おおっ、怖いこと。」
おどけるアジャスに、アスカは一気に間合いを詰めて、黒々とした短剣を振り回した。が、仮にもシュラムの剣士たるアジャスとて実力は負けるわけにはいかない。魔剣シュラムを振るってアスカの剣を凌いでいく。もうあまりにも素早い戦いで周りのものはどこを見たらいいのか、わからないでいた。慌てて駆けつけてきたカリンも二人の壮絶な戦いに割り込むできないほどだったのだ。だがそれもわずかの間であった。さっきまでプラウドと戦ってきたレイヴンがふいに姿を現して、何とアスカを制止させたのだ。
「なぜおまえが動いた。」
キョトンとしてようやく、らしい表情を見せたアスカは年頃の少女であった。
「あれは私への命令だ。お前は待機命令が出ていたはずだぞ。」
レイヴンにそう言われたアスカは微妙に顔を赤くして去って行った。振り返ってアジャスを見るが、剣を抜かないところを見ると、彼はもう戦意はないようだ。
「君がヴェガの後釜となるアジャスか。これから剣を交えることになりそうだな。今回はこれで引き返すが、あいつもより強くなって君に挑んで来よう。覚悟しておくのだな。」
「そういうお前が四炎筆頭のレイヴンか。丁寧な挨拶、痛み入る。」
軽い皮肉を混ぜてアジャスも挨拶を交わし、レイヴンも静かにその場を去って行った。


 その後、エレナたちはバルト要塞南部に展開する傭兵団を『ブルーウイング』やリーヴェ騎士団と共に攻略して、サリアへ閉ざされていた道を再び開くことに成功した。アルフレッドたちとの再会をエレナとプラウドは心から喜び、それぞれの武運を祈りあって翌日はそれぞれの旅路に発って行った。その去り際のアルフレッドの背中を見ていたプラウドはいつの間にか呟いていた
「あいつの背中もいつの間にか大きくなったものだ。俺も負けてられないな。」
獅子は心に誓い、更なる飛躍のために精進することになる。

 「バートルが戻らなかったか。やはり『闇の護符』は危険だな。」
バルトを眺める高台でネクロスは部下のレイヴンたちと戦況を報告し合っていた。
「ネクロス様、こちらも説得は無理でした。始末しようともしましたが、まさかアスカが潜り込んでいたとは思ってもなかったので。」
アスカも反省の気持ちもあるのか、どことなくシュンとしている。
「気にすることはない、あれから増援が来ていたらしいから、むしろアスカのおかげで助かったと言えよう。もう四炎も半分か。厳しい戦いになりそうだな。」
実はもう一人いた四炎は20年前のヴェスティア動乱時にバーハラ貴族たちを先導してセーナ抹殺を企みながらも、アゼルの爆殺に巻き込まれて死亡していたのだ。
「だから私が何とかしてあげようと言っているでしょ。」
そう言ってきたのは四竜神の紅一点ミューである。背後にはかつての戦いで死んだはずの元『カナンの頭脳』ヴァーサとゾーア帝国の魔女だったベロニカが控えている。二人はそれぞれ北面、南面の傭兵団を掌握していたが、アルフレッド、エレナたちの前に為すすべも敗れた。
「ミュー、気持ちは嬉しいんだが・・・。」
ネクロスが最初は言いづらそうにしていたが、しばらくして決然として言った。
「俺はお前のそういうところが嫌いだ。言いたくはないが、そういうことに関しては俺はセーナたちと同じ考えだ。」
こう言うと静かにネクロスはバルトを去って行った。


 このバルトの戦い以降、当面セーナ側も四竜神側も大きな行動は取ることはなかったが、『その時』はもうすぐそばまで来ていた。

 

 

 

 

 

最終更新:2011年09月11日 02:09