わずかな異変が続いていた世界。だがそんなものはまだまだ軽微なものであった。突如として超弩級の衝撃がヴェスティアから発信された。その内容にユグドラル、リーベリア、アカネイアの三大陸が激震する。
『セーナ昏睡』
わずか5文字、この5文字だけの報せなのだが、世界は大きく鳴動を始める。
その悲劇を見ていたのはセーナの侍女を務めていたミルである。ヴェスティア宮殿に警報の合図が打ち上げられ、ミカが慌てて駆け付けてきた頃には全てが終わっていたのだ。夥しい血の海にあまりの恐怖に震える娘ミル、そして激闘の末に減らず口も叩かなくなった主セーナ、それはミカにとってあまりにも凄惨な現場であった。
この事件でミカもまた精神に変調をきたして塞ぎ込むようになった。結局、ミルから事情を聞くのは彼女の叔母ミキが担当した。辛い役目なのはわかっているが、このままではヴェスティアは間違いなく倒れると感じていたミキは心を鬼にしてミルに迫った。そしてミルもそんな叔母の思いを理解してか、振り絞るように事の次第をゆっくりと語っていく。
セーナとミルはヴェスティア宮殿内の庭園をのんびりと歩いていた。しかし突如として何かを察したのか、セーナがミルを茂みに隠れさせる。直後、巨大な魔法陣と共に壮年の男がセーナの前に現れた。その右手には身の丈の倍ほどもある巨大な剣を持ち、しかも放つ魔力は尋常でない威圧感を醸し出していた。セーナも危機を感じたのであろう。魔力を抑えるハチマキを取って、神剣ファルシオンを鞘から引き抜いた。
だが戦いは一方的であった。ティルフィングの斬撃は男に届くことはなく、魔法も何かの力で打ち消されていった。それだけならばまだ良かった。ライトニングなどの光魔法を解き放った時は何とその威力を吸収してしまったのだ。一方、男の持つ巨剣は一振りするだけで周りの木を微塵としていき、しばしばセーナの身をも傷つけていく。が、これだけ派手な戦いを繰り広げていて、他が気付かないはずがなかった。合図のライトニングや矢が各所で打ち上げられていき、宮殿内が騒々しくなっていく。その合図に一瞬だが男の視線が逸れた。これを見逃すことなく、セーナは己が作り上げた風魔法『ギガスカリバー』を解き放ち、強靭なる風の刃は男に炸裂し、大爆発を起こしていく。だが直後、煙の中から竜の尾が飛んできて、それにセーナは直撃され吹き飛ばされた。木に叩きつけられ、身動きが取れなくなったセーナに、男は謎の魔法を解き放って、その魂を身体から剥ぎ取っていく、そして隠れているミルに対してこう言い放つ。
「これは我らからの宣戦布告だ。神という名をありがたく信奉し、その手先となり敵対するものを一方的に排除してきた人間たちよ。我らの積年の恨みを受けるがいい。そして滅びるのだ。わが名はラグナ、『神々の黄昏』・巨神剣ラグナロクを駆る者なり。」
直後、ラグナと名乗った男は再び魔法陣へと飛び乗って去って行った。ミルがセーナに駆けつけるも、すでに彼女の体は魂の抜け殻と化していた・・・。
宰相ルゼルは急遽としてセーナの子供たち4人を招集し、事態の掌握に努めることとなった。だが賽はすでに投げられていた。無用な混乱を避けるために『セーナ昏睡』の報せをあえて秘匿しなかったルゼルだが、新たなる衝撃の急報が更に届いた。
『レダ王国、竜の大軍に急襲され、各地で大敗。女王ティーネは父・母らと共に脱出に成功しリグリア要塞に立て篭もるも、義父ノール5世が撤退戦で戦死。至急、援軍求む。』
『ドラゴンの群れがゾーア地方を襲撃。ソニア要塞以北のカナン軍はほぼ壊滅し、国王セネト率いるカナン本軍がソニア要塞で食い止めることに成功も、戦力が足らないために援軍を頼みたい。』
ミルの言っていたラグナの仕掛けがついに始まったのだ。先日のサウス・エレブからの音信不通もこのための布石、ルゼルは目の前が真っ暗になる衝動を抑えながら、今は宮殿に詰めているゲインと共に今後の方策を考えると共に、トラキア帝国・シレジア魔法王国・アカネイア大陸にむけて助力を請う書状を送ることにした。もちろん付け焼き刃にすぎないだろうが、何もやらないよりはマシという思いが彼らを動かしていく。
果たして彼らは大いなる野望に打ち砕かれるのか、人と神、竜、それぞれの運命をかけた壮絶なる戦役がついに始まった瞬間である。