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 ラゼリアの太守グラムドは水の神殿を訪れていた。毎年行われる聖竜ミュースを崇めるための儀式のためだ。グラムドは儀式を終えると、水の神殿の内部を歩いていた。神殿内はその名の通り、清い水がさらさらと流れていた。ふとグラムドが上がっていない跳ね橋を見つけた。持っていた橋のカギを使い奥へ進むと、信じがたい光景があった。やせぼそった一人の少女が座っていたのだ。その少女は息子のリュナンと同じ年齢のように見えた。グラムドは彼女のことをリーヴェ国王バドウムと水の神官家エレナの間に生まれたメーヴェ王女だと気付いた。メーヴェのことは王宮に仕えている人間でもその存在を聞かされていないというほどである。おそらくグラムドのことを信頼していた国王が彼に打ち明けたのであろう。少女はしばらく驚いてからこう言った。
「お・・・そ・・・と・・・に・・・い・・・き・・・た・・・い。」
グラムドは悩んだ。メーヴェ王女だとわかっているからなおさらであった。彼女が監禁されているのは王国の身勝手な理由であるものの、王国に忠義の厚いグラムドは従わずにはいられなかった。だが今回は一人の少女が心から祈っている。グラムドは王国の方針に初めて抵抗したのだった。彼はその少女を連れて、ラゼリアに戻った。もちろん彼女のことは秘密にしてある。ラゼリアの領主館に戻るとグラムドは息子のリュナンを呼んだ。
「何ですか、お父様。」
5歳になったラゼリアの公子リュナンがそういいながら父親の執務室に入ってきた。まだ物の良し悪しもわからない純粋な少年であった。
「お、来たか!お前に新しい友達を連れてきたぞ。この子と一緒に遊んでやってくれ。いいかあんまり人がいないところで遊ぶんだぞ。特にグラナダのホームズとは一緒になるなよ。あいつは口が軽いから。」
「でもどうして秘密にするの?」
リュナンの鋭い質問も
「そ、それはこの子の両親に頼まれたからだ。」
とごまかした。
「わかりました。それじゃー行こうよ。」
リュナンが少女を誘う。少女はうれしそうな表情を全面に出してリュナンと共に部屋を出て行った。グラムドはその少女の笑顔を見て、安堵した。

二日後、メーヴェはリュナンの部屋の隅で泣いていた。彼女はもうすぐあの忌々しい神殿に戻されると感じていた。リュナンは彼女のことを探していた。彼はまだ彼女の名前を聞いていなかい上に、秘密の仲だったため、なかなか探せずにいた。リュナンがあきらめて自分の部屋に戻ってきた時、彼女の泣く声が聞こえた。リュナンは彼女のいるところへ行った。
「どうしたの?」
「もうすぐ戻るかもしれない。」
「家に?」
少女が首を振った。表面上は家である水の神殿だが、彼女にとっては地獄である。
「もっと怖いところ」
「大丈夫だよ。」
「何で?」
「だって僕が守ってあげるんだもん。心配することはないよ。」
「本当?」
「もちろんだよ。約束するよ。」
「でも・・・・」
メーヴェがうつむいた。
「私、いつか大きな青い竜になってリーヴェ王国を滅亡させてしまう、ってお父さんから聞いたの。」
「気にすることはないよ。だって僕が君と一緒にいるんだもん。一緒にいれば竜になんてならないでしょ。」
「リュナン様。」
嬉しさのあまり再び目から涙が零れ落ちる少女の顔を見ながらリュナンがこう言った。
「約束だよ。僕は君を守るから、君は僕から離れないって。」
その言葉を聞いた少女は満面の笑みを浮かべてこう言った。
「はい、リュナン様」


だが
それから間もなく
少女は
ラゼリアから
姿を
消した!


一人の
少年の心に
深い傷を
刻み付け


そして
ここから
闇が
広がってゆく

最終更新:2011年07月07日 02:28