カナンとリーヴェの戦争は両王国に甚大な被害をもたらしていた。そのためもともと親交の深いグラムドとアーレスのもと和平が行われることとなった。だがこの和平を望まないものがいた。
ガーゼル教国の中心部の暗黒の祭壇で教皇グエンカオスが一人の少女を洗脳していた。
「ククク、愚かな人間どもめ。まんまとあの二人がわしの策略にはまりおった。さぁメーヴェよ、聖竜ミュースへと変身して、ノルゼリアの和平会場へと向かい暴れるのだ。」
そう、その少女こそリーヴェ王女のメーヴェであった。彼女はラゼリアでグエンカオスに誘拐させられてそのまま約10年間、グエンのもとにいたのであった。
リーヴェ王国を支える4公国の一つであった、ノルゼリアはカナンの猛攻に耐えきれずに陥落していた。両王国の代表はこの地で行われることとなった。リーヴェにも負けず劣らない大都市であるノルゼリアの中心にある領主館前の広場に両代表の部隊が集結していた。そして領主館内ではグラムドとアーレスによる和平調印が始まろうとしていた。
「やはりお前と戦うのは気が引けるな。」
「そうだな。レダ解放戦争の時の約束だって果たしていなかったもんな。」
二人はこの時を持てて、満足そうであった。
「それじゃー調印と行くか?」
「まぁ待て、条件を確認しないとなぁ。」
「全く相変わらず固い人間だぜ。」
「軟派人間よりはマシだろ。」
「言うようになったな。条件は両王国の領土は開戦以前の状態に戻して、ガーゼル教国への共同戦線を張る。これでいいんだろ。」
「ああ、OKだ。」
そう言って側近を呼び伝えた。
「全軍に告ぐ、これより調印式を行う。よってリーヴェ軍は王宮まで移動しろ」
「シルヴァにカナンに戻るように伝えておいてくれ。」
二人が命じると、即座にノルゼリアにいた全軍が市街から抜け出した。これはお互いの国に信頼してもらうための行為であり、和平交渉ではよく用いられていた。しかもこれは大体が交渉成立を示すものであった。二つの部隊が歓声と共に、市街を出ていく様を見ていた二人はお互いに調印をした文書を交換した。和平が成立したのである。
「さてお二人様、無駄な調印、ご苦労様です。ここからは我がガーゼル教国が主役ですよ。」
背後からグエンカオスが不敵に笑いながら現われてきた。
「グエンカオス!!残念だったな。もう調印は終わった。あとはそれぞれの国に戻るだけさ。」
「何をおっしゃっているのですか。この地響きがわかりませんか?」
グエンカオスがそう言った直後、あの時に味わった地響きがノルゼリアを襲った。そして次の瞬間、リーヴェの守護聖竜ミュースが強烈な青い光を発して現れたのであった。
「あれはミュース。グエンカオス、貴様があの子を。」
「ククク、まさかラゼリアにいるとは思わなかったが、神殿の中より誘拐するのが楽だったぞ。感謝するぞ、グラムド卿。」
そう言ってグエンカオスはワープをしてノルゼリアを離脱した。
二人が領主館をでると、そこは火の海であった。そしてさらに奥にはクラニオン程の大きさではないものの、巨大な聖竜ミュースがいた。この混乱のノルゼリアにいたのはミュースだけではなかった。二人を逃さないためにノルゼリアの四方を教国軍が包囲していたのであった。事態を察した二人はミュースを鎮めようと聖竜へと向かった。聖竜はそんな二人に目もくれず、破壊を繰り返した。その中には罪の無いノルゼリアの市民も含まれていた。それはもう魔竜であった。二人は剣を構え、何年もの前にクラニオンを撃退させた連携技を放った。
『天聖剣一閃』
だがクラニオンを撤退させた最強剣技も、物理攻撃を容赦せずに守り抜く聖竜のウロコの前では無力だった。その直後、詰まり過ぎた間合いを嫌ったミュースが二人に灼熱のブレスを吐いた。間一髪交わした二人はクラニオン戦以降に編み出した連携技を瞬く間に放った。
『ドラゴンバスター』
さっきの物とは全く違う剣の軌道がミュースを襲った。その一部はミュースの目を斬った。苦痛に叫びを上げるミュースは突然、長い尻尾を回し始めた。その突発的な行動に不意を付かれた二人はその尻尾に吹き飛ばされる。民家の壁に当たった二人はそのまま身を崩し、もはやブレスを避けられなくなった。この瞬間にもミュースが灼熱のブレスを二人に放とうとしていた。
「くっ、ここまでか。ヴァルス提督よ、わが息子を守ってくれ。リュナンよ、こんな父を許してくれ。」
「まったく最後までお堅いねぇ。これでこの大陸も戦乱の時代になるのか。」
そういい終えた直後、ミュースのブレスが二人を直撃した。

ノルゼリアに残ったのはグラムドの愛剣・銀の剣と、アーレスの愛剣・ルナの剣だった。そしてこれよりカナンとリーヴェは再び戦いを始めるようになる。そう、グエンカオスの思うがままに。

 

 

 

 

最終更新:2011年07月07日 02:27