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 後にティルナノグの星祭りと謳われた戦いはクリードの彗星に、セーナの流星、アルドの星屑が激突し、その凱歌は受け継がれた双竜旗の下であがることとなった。夜もわずかに白み始め、先帝セーナと皇帝アルドは星見の丘で再び会っていた。しかし昼に会った時とは違い、母の顔には笑みが溢れていた。
「『星屑の雨』大したものだったわ。」
夫ライトから口伝に聞いただけだったが、アルドの必勝戦術はセーナの流星に匹敵すると言われるだけあって凄まじい威力を示した。単純な拙攻と見せかけて、更に後方から精鋭をぶつけたことで横からセーナの流星を凌いでいたクリードはまさしく抵抗する術をなくして、そそくさと撤退していった。結局、その後、クリードの行方はわからなかったものの、今の二人に攻めかかる愚は犯さないとセーナもアルドも見ていた。だからこそ、今のうちにお互いに言いたいことを言っておこうと会見に臨んだのだ。

 「アルド、あなたはリーベリアに行って、皇帝の器を見つけてこようとしてたのでしょ。」
セーナの不明によって巨大なヴェスティアはアルドの双肩に重くのしかかってきたとき、彼は一人でその重荷を背負いこもうと気負っていた。そのためにまずは母に負けない声望を得ようと他の意見を容れずにひたすら突き進んだ。その結果、人類史上稀にみる大敗北を喫することになった。それを振り返ったのか、アルドは唇を噛みながら静かに頷いた。それもこれも父ライト、母セーナがいつの間にか身に付けていたとアルドが見ていた『皇帝の器』をアルドは懸命に探していたからなのだろう。
「いい、アルド。今のあなたならばもうわかっているかもしれないけれど、皇帝の器を手に入れて皇帝になったところで民が幸せになるとは限らない。その器を持ったものはただ覇道を突き進むだけ。それを知っていたからこそ私もライトもあくまで民の上に立つものとして振る舞い、皇帝の器を自ら投げ捨てた。」
これはなかなかに難しい言い回しではあるが、次のアルドの言葉が全てを表している。
「母上はだからこそ、我らに儀式として旅に出させたのでしょう。孤高の皇帝ではなく、民の気持ちを理解する皇帝にしようとして。」
皇帝の器となった皇帝はすでに自らを神のごとく扱い、いくら他人を慈しんだところで孤高の存在なってしまったためにその内の気持ちなどわかるはずがない。2年前までの皇帝ライトがそうであった。確かに皇帝としての威厳は今のセーナでも比ではなかったが、そのせいで孤独の世界で生きることを強いられた。セイラがその命と引き換えにライトの皇帝の器を叩き割ったことで昔の飄々としていた彼が戻ってきたが、またアルドもそのライトに近づこうとしていたのだ。
「ここまで世界がまとまったところで覇道のものは世界を混沌に導くだけ。これからの時代に必要なのは覇道でも王道でもない、凡であること。」
凡であるがゆえに、周りのものもそれを助けようとしてくれる。それを受け入れる度量さえあれば、極端な話、治世の皇帝など誰でもいいのである。だからヴェスティア建国時にも当時まだ凡人だったライトを皇帝に据えて、少しばかり己の道へ邁進しつつあったセーナ本人は一歩下がったところで見ていたのだ。
「アルド、あなたはもう道を誤らないわ。ヴェスティアの後を任せたわ!」
これにアルドは何も言わずに、しかし母をしっかりと見据えながら頭を下げていた。


 ほぼ同じころ、ミカの描いた本陣内ではセーナと共に行動していたルーファスとエリミーヌが集結しつつある諸将を見つめていた。
「凄い運気を持っている方々ばかり・・・。」
エリミーヌには魔力とは別の何かを感じ取る能力が最近芽生えてきたらしく、出会う諸将を見渡してはしみじみと感じていたらしい。そんな二人にある人物が抱きついてきた。
「ルーファス、エリミーヌ王女、久しぶりね!!」
人好きのする声から二人はすぐにその人物を察した。東大陸での決戦・バッカス峠での戦い以降、完全に別行動となってしまったエレナその人であった。
「エレナ様!!来られたのですか?!」
「当たり前でしょう。兄上にハルもいて、お母様もいるとなれば来ないわけにもいかないでしょ。」
そして後ろにはいつもの一行も付き従えているが、どうもエリミーヌにはエレナをまとう雰囲気が変わっていることに気付いたものの、まさかその体内に闇の神を宿しているとまでは気付かなかった。小首を傾げながらもエリミーヌはまたルーファスとの談笑へと戻った。
 また別の一角では思わぬ対面が叶っていた。
「ずいぶんと今回は思い切ったことをしたな、リュナン。」
こちらもエレナ、セーナと行動を共にしていたホームズと、ローランを介してアルドと行動をしていたリュナンである。
「さすがにホームズにもばれてるのか、だが他言はしないでくれよ。」
リーヴェの王位継承についてのことである。ホームズもまたリュナンが故意に己を貶めて、アルクに王位を継がせたことを理解していたのだ。
「それにしてもヴェスティアにいたのなら、連絡くらいしてくれよ。」
強引に話題を変えたリュナンにホームズが苦笑いするが、
「悪いな、何しろラグナの追及が厳しくてな。リーヴェに寄ってる暇がなかったんだ。ヴェスティアでもいることは秘匿させてもらっていたのさ。」
「ということはラグナに関する何かを掴んだのか?」
「うんにゃ、何も。裏世界で暗躍する俺のことをうざったく思ったのだろう。」
確かにホームズは妙にナバダとの繋がりも強く、かつ、セーナやリュナンと親しいこともあって、ナバダとセーナの潤滑な連携を嫌ったラグナによって新大陸から追い出されていたのだ。最もその後、ナバダとの繋がりはふらりと訪れていたアトスによって回復のきっかけとなり、あちらからリディアが訪れて同盟が結ばれたことでついに手を取り合っており、もうホームズを付け狙う理由はなくなったために比較的行動は自由になっている。
「なぁに、もうセーナもラグナ討伐に出るから、いい意味でも悪い意味でももうすぐには決着が出るだろうさ。そうすれば飽きるだけリムネーに顔を出してやるよ。」
「悪い意味で決着したら意味ないだろうに。」
リュナンの悪態に、ホームズはハッとしたしぐさをしたものの、すぐに笑い飛ばして去って行った。


 アルドとセーナの二人っきりの会見が終わって、セーナの子供たちやルーファス、デーヴィドなどが呼ばれて奇妙な配置で座るように促された。その配置はセーナから見て、右からアルド、クレスト、ルーファス、そして少し空いてデーヴィド、エレナ、ハルトムートという順である。この配置だけでセーナの言おうとすることを理解したのは既に真相を知っているデーヴィドとエレナである。それを知ってか、セーナも言う。
「デーヴィドとエレナはもう察しているかもしれないけど、これから歴史を覆す一つの事実を言うから、残りの皆は心して聞くように。」
何も知らないルーファスはこのような錚々たる面々の中にいることに正直気後れしていたものの、続くセーナの言葉に更に驚かされることになる。
「アルド、クレスト、あなたの母親は私ではなくて、本当の母は私の影武者リベカであったのよ。」
まさかヴェスティア皇帝となったアルドが実の兄だとは全く予想外の事実に、アルドたち同様に腰を抜かさんばかりに驚いた。それはセーナの実子たちの中にいるハルトムートも同様であった。一方でエレナやデーヴィドの二人の落ち着きぶりが逆に目立つほどであり、当然アルドたちも気になった。
「エレナとデーヴィド皇子はもう知ってたのか?」
エレナは頷き、デーヴィドは更にセーナが言うべきことを先に言う。
「もちろん知っておりました。何しろ私の母が目の前にいる女性なのですから。全てわかっております。」
そう、ここにいるのはリベカの子供とセーナの子供にそれぞれの実親をわからせるためにセーナが集めたのだ。しばらくアルドもクレストもハルトムートもルーファスも日頃見せないような慌てぶりをしていたが、やがてセーナに促されてようやく元の座に着いた。そしてあの夜の出来事を語る、かつてエレナにしたのと同じように。
 それは20年近く前のことである。セーナがリーベリアから大返しをして、彼らの叔父にあたるマリクと戦って、エバンス、シアルフィと連勝してヴェスティアへと凱旋してきた時のことである。嵐の夜、セーナは自身の影武者リベカを呼び出して、彼女の出生の秘密を暴いていた。そしてそれと同時に彼女に眠る血脈を表舞台に戻すべく、ヴェスティア皇后としてすり替わることを提案したのだ。その間に何をしているのか、とリベカが聞いた時、セーナはこう言ったらしい。
「ライトの他にもう一人、好きな人がいるから、その人の元で幸せに暮らしているわ。」
その相手がフィリップであり、その幸福の結実がデーヴィドであるというのだ。一方でリベカはライトと共に愛を結び、長子アルドと次子クレストを設けた後に、ゲインと結婚してプルミエール、ルーファス、コーデリアの三姉弟を産んだ。
 余りにも身勝手ともいえる歴史にアルドたちは空いた口が塞がらなかった。エレナやデーヴィドはまた聞いた話とはいえ、やはり苦笑しているあたり気持ちは同じなのだろう。そんな一同を見て同じように苦笑しているセーナはまた衝撃の一言をいう。
「お説教はもう結構よ。私だってもうそう長くない命なんだから。」
その一言に呆然としていた一同が息をのむ。事実上、彼女を救ったハルトムートが聞き返した。
「それはどういう・・・。」
「私の中を駆け巡っている自分の魔力が、己で制御できなくなってきたのよ。何ていうのかしらね、既に魔力の大洪水が起こっていて私の体という名の大地を削っている、っていえばわかりやすいかしら。」
それなりに魔法に造詣の深いクレストやエレナには何となく理解できた。
「まぁそれだけなら私だけが被害を受けるからどうでもいいんだけど、調べていくとこの果てに壮絶な魔力暴走が起こる恐れがあるらしいのよ。」
「魔力の暴走?!」
「簡単にいえばかつてアゼルが行った自爆の何百倍もの威力を持った爆発が起こるということ。」
ヴェスティア決戦の直前にネクロス配下の一人を道連れに自爆したアゼルのことは既に彼らも知っている。その際に付近の森林が灰と化したことも。
「だからこそそれが起こる前に私は全てを決してから天上に召されることにならなければいけないのよ。だから皆に今回の事実を話したの。」
本当ならばもっと一人一人に話してあげたかったのだろうが、残念ながらセーナにもアルドたちにも時間がある。
「だけどリベカも死んでしまった以上、ここにいる皆はもちろん私の子供よ。」
そう言って、衝撃の場は母によって閉められることとなった。


 「アルド、クレスト、もう後はあなたたちの好きなように戦いなさい。ラグナは私が何とかするから。」
ある程度落ち着いて、アルドとクレストはミカのワープによって激戦の続くリグリア要塞へと転送する時間となった。もちろん今回の成果の象徴となっている『金縁の双竜旗』も持っていく。二人の力強い頷きを見て、ミカは己の魔力で魔法陣を作り出して、二人を激戦の地へと飛ばしていった。
 次にエレナ一行を東大陸のヴァーナに飛ばして、残るはセーナたちとアルド連れてきた軍勢が残るのみとなった。昨晩の戦いで奮闘したフィーリアにはすでにヴェスティアに向かってもらっているのだ。
「あなたたちにはこれから最も厳しい戦いが予想される新大陸へと私と向かいます。さぁこの魔法陣に乗って、海軍が待機している島に飛びましょう!」
残ったものたちの将は錚々たるメンバーである。これからセーナたちが向かう新大陸で八神将と呼ばれることになる将はその名の通り八人おり、ハルトムートを筆頭に、アトス、テュルバン、ブラミモンド、バリガン、ハノン、ローラン、エリミーヌがそれに当たる。しかしユグドラル以南の世界では彼らに加えて、更にセーナ、ミカ、レイラ、ラケルの四人の戦女神が加わって十二神将と謳われることになる。
 ティルナノグからついにセーナたちの反撃が始まった。敢えて動きを控えて、彼女たちの出方を窺っていたラグナはこの動きに対してどのように動くか、その直接対決はそう遠くないことだろう。

 

 

 

 

 

最終更新:2011年10月08日 21:34