アットウィキロゴ

 ラグナと神々の戦いは、かつて共に苦闘して闘っていたアウロボロスを封印した直後から始まっていた。
 難戦の果てに人と竜の垣根を越えて、心を許せる間柄となったカルバザンやガレがアウロボロスの断片を取り込んだこと、その決断をした二人に敬おうとしない人類、そしてそれを見て見ぬ振りを始めたナーガたちに対して強い憤りを感じていた。そして遂にラグナはナーガたちに戦いを挑んだ。最初はラグナ一人が先陣を切って、それこそ言葉通りに身を削る戦いが続き、ラグナ軍は圧倒的不利な状況が続いていた。しかしその転機となったのが、今セーナが対峙しているラオウの加入である。彼がラグナ軍に参入した理由はただ一つ、生涯のライバルとも言える男シレンとその息子フォルセティがナーガ軍に身を投じていたためだ。しかしアウロボロス戦から竜族ナンバーワンといわれていた男の加入によって多くの竜族がラグナ軍へと加わることになり、戦線は一進一退へと移行していく。なおこのときにネクロス四炎筆頭のレイヴンも参加し、今の四竜神に伍する地位を与えられている。この戦乱は激しく、アウロボロスで荒廃していたアカネイア大陸を更に荒廃させることになり、ナーガたちとラオウは協議の結果として、戦場をエレブへと移して闘うことになった。
 この戦場の移動の際にラグナは更なる力を二つも得た。クラウスとブローの持つ強大な闇の力、そしてミューの持つ理を歪める力である。しかしこの二つの力はラグナ軍を対ナーガ戦に対して圧倒的なアドバンテージをもたらしたものの、その代償も高くついた。まずクラウスとブローの残虐な行動によって、竜族の中でもラオウ軍に敵対するものが多く現れるようになり結果としてナバダの台頭を許すことになった。またミューの力はそれこそラグナ軍の大幅な戦力増強につなげたものの、その理を歪ませることにより今までラグナの言い分にも比較的理解していた大地母神ミラドナや、十二神の一人ブラギをナーガ派に参加させる事態となった。
 その後の戦いは更にネクロス一派の参戦や、ナーガの老いもあってラグナ軍優勢に進んでいくものの、決定的な一撃を加えられないままでいた。それはナバダのような枝葉組織による妨害が大きかった。戦力的に優位に立つラグナはそれらの枝葉を一つずつ地道に削っていったものの、やがてその枝葉がナバダに集まりいつの間にやら巨大な大樹としてラオウ軍に立ちはだかることになり、長大な膠着状態が続き、業を煮やしたラグナは神々が過大評価する人類へとその矛先を変えてセーナという英雄が登場することになる。ここまでが現代に至るまでの経緯であった。


 その長い歴史で続けられた激戦の跡が刻まれた大地を眺めていたセーナはナバダの援軍に間に合ったという安堵の表情は全くなく、非常に厳しい表情をしていた。長く仕えているミカとしてもついぞ見たことのない険しさに、周りも静かになった。
(何百年という長い間、この地で絶え間なく戦いが繰り広げられていたようね。血の匂いが酷い・・・。)
実際に匂いがするわけではないのは当然なのだが、セーナはこのナバダの地が異様な雰囲気になっていることをすぐに理解した。
「仕方がないか・・・。」
セーナは自分を納得させると、すぐ後ろに付いてきていたハルトムートとミカに対して手元の地図をなぞりながら言う。
「ミカはこれよりナバダにワープに飛んで、後はこの紙切れに従った行動を取ること。ハルトムートにはラオウの背後を断つためにこのルートを取って進撃すること。だけどミューとネクロスがここに向かっているというのだから、極力急ぐことね。」
ミカはどこか危なげな感じがしていたものの、景気よく返事をするハルトムートに流されるまま、セーナ軍本陣を後にした。彼らが去った後、いつの間にか姿を現していたレヴィンがセーナの横に立つ。
「お前、この地をどうするつもりだ?!」
レヴィンの問いにセーナは涙を流して答え、彼を驚愕させた。だが彼女のやりたいことの真意は彼にも何となくわかっていた。だからこそ止めようとはしなかった、それこそが新しい世界のために必要なことであったから。

 一方のラオウはセーナ軍の到着に備えて、本陣を一気に後方へと下げた。これでナバダ、セーナ両軍が突っ込んでこようとも付近に伏せている竜たちで殲滅させようというのが狙いだ。単純な策だが、それだけに相手は楽に動けるものではない・・・はずだった。しかし見え透いていた罠にも反応するものがいた。それが何百年とこの地を守ってきたナバダのものたちである。
「これより反撃に移る!!全軍、ラオウに向かって突撃だ!」
勢いのいい声は懸命に諌止するアトスの言葉もかき消して、我が先にと拠点としていた砦を飛び出していった。彼らにとってずっと守らざる得ない場面が何百年と続いてきて、更に最近はラオウの苛烈な攻撃を受けていたために、セーナ到着、ラオウ後退というわずかな情報でも飛び出してしまうほどに精神的に追い詰められていたのだ。張りつめられた弦はわずかなきっかけで緩み、暴発する。それはもうそれなりに理性あるものでも止めることは不可能であった。唖然とするアトスの元にセーナの命を受けたミカが飛んできた。
「これはどういうこと、アトス!」
問い詰めるものの、アトスは首を振るのみであった。簡単な罠にかかるほど彼らが追い詰められていたことを知ったミカは思わず天を仰いだ。その直後である、後方から地鳴りのような轟音が響いたかと思えば、巨大な地竜部隊がナバダの砦を急襲したのだ!最初の一頭目こそミカとアトスの合体魔法であっさりと打ち砕くことができたものの、その後も物凄い数の地竜たちが猛烈な勢いで砦へと入ってくる。砦に残ったナバダの要因はといえば、リディアと彼女に介抱されているホルスなどの負傷竜ばかりである。とても彼らだけで凌げるレベルではなかった。ふとミカはセーナから渡された紙切れを見て、行動を仰ぐことにした。それを読んだミカはしばらく黙りこくるしかなかった。その間に空はいつの間にか漆黒の闇が包みこもうとしていた。

 「この魔法を持ち出してくるとはな。すっかり忘れておったわ。」
空を見上げながら、ラオウは静かに呟いた。しばらくして上空に一つの黒々とした穴が開かれ、強烈な魔力が辺りを圧し始めた。
「アビスゲート、冥界の扉が真の力を発揮しようというのか・・・。しかしセーナよ、今この魔法を使えば頼りとしているナバダも滅ぼしかねんぞ。」
最後の言葉は冗談のつもりでいったのだが、ふとラオウがその言葉に疑問を持った。
「・・・そういうことか。血は血で洗う、ということか。」
そして部下が駆け寄ってきて報告する。
「申し上げます、セーナとレヴィンが二人のみで参りました。」
「フ、よかろう会ってやる。」


 「しまった!砦が襲われている!!」
ラオウ軍への突撃を敢行したナバダ竜たちもようやく背後で拠点が襲われていることに気付いた。この突撃を指揮する将エルフィンもまた己の決断を心から悔いていたが、そのような暇は全くなかった。とにかく今から戻らねば、守るべきものたちを失ってしまうのだ。しかしラオウは非情にも彼らに対しても伏兵を用意していた。四方八方から襲われた突撃部隊も完全に陣形を乱されて、進むも退くもできない状況へと押しやられ、やがてエルフィンともども突撃部隊は霧散することになった。ここにナバダの剣は何百年という時を経て、ついにラオウの元にへし折られた。

 そしてナバダ拠点も同じように危機的状況が続いていた。懸命にホルスとアトス、ミカが圧倒的な魔力で制しているものの、未だに数ではラオウ軍が圧している状況は変わりそうにない。すでにホルスとて戦えるのが不思議なほど消耗しているはずなのに随一の戦闘力を持つ地竜とたたかっているのは壮絶の一言のみであった。一方のミカは既に負けが見える状況で撤退の時期を窺っていた。すでにナバダへの義理も十分果たしており、あとはセーナからの指示、
(ナバダを含むこの半島から離脱せよ)
というものを守るだけであった。それを察してかホルスが言う。
「もういい、我らは自ら滅ぶ道を選んだのだ。君たちは逃げるんだ。」
しかしミカは思っていた、セーナはナバダに敢えて自爆の道を選ばせたのではないかと。あまりにもここナバダへの進撃が単純であったし、先ほどのセーナの表情からしてもこうなることを予見していたかのように振舞っていた。しかも今襲いかかっている地竜たちもセーナの持つ封印の盾を用いれば一瞬で事は済むはずであった。となれば、セーナ様はやはり・・・。そんな推測をかき消すようにホルスが続ける。
「すまないが、最後の願いを聞いてくれないか。このリディアを共に連れて行ってくれないか。」
「それならばあなたも。」
アトスが言うが、ホルスは首を振る。
「私はもう無理だ・・・。エーギルを魔力に変えて闘ってきたが、そのエーギルも尽きているんだ。」
そして目に涙を浮かべているリディアに向かって言う。
「お前は生きるんだ。生きて、同じ悲劇を繰り返さないように竜族を優しさで導くんだ。」
「そんな私はこの戦いで泣いていることしかできなかったのに・・・。」
目を真っ赤にして言うリディアに、優しくホルスが頬を撫でて言う。
「それでいいんだよ、リディア。お前にはそれが似合っている。お前の涙が世界を浄化させるんだ。」
そしてミカに首を頷いた。されたミカはもう何も言えなかった。彼らも覚悟を決めている以上は何を言っても無駄であった。
「ホルスさん、長い戦い、お疲れ様でありました。」
ミカが敬意の籠った言葉を吐いて、一気に魔法陣を呼び出してアトス、リディアと共にナバダを離脱していった。見届けたホルスは澄み切った瞳を迫りくる地竜たちに向けて言い放った。
「我はホルス、貴様らの仲間であるブローによって授けられた力を皮肉にも最後に貴様たちに見せつけてやる!」
直後、ホルスは己の魔力の全てを解放し、周りにいた地竜たちと共に文字通り吹き飛んだ。これが彼の壮絶なる最期であった。

 その直後、『冥界の扉』から落ちた黒き雷が、ナバダもラオウ軍も全てを破壊していった・・・。
 その魔法を解き放ったのはセーナであった。

 

 

 

 

 

 

最終更新:2011年10月08日 21:53