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 アルドと紅髪の剣士、マーニと黒髪の少女剣士の4人が力を合わせて、ギリング相手に比較的有利にこそ戦いは続けていたものの、決定打がないまま30分近くが経っていた。
「なぜあいつの魔力が切れないのよ!」
戦う前から苛立ち続きのマーニに紅髪の剣士が冷静に返す。
「もともと奴の魔力はこの時空を隔てるにも至らない魔力でしかなかった。だが奴はシレジアが開発した『マジックブースター』でそれを大幅に補っている。」
慣れない言葉にアルドやマーニが首を傾げるが、彼は苦笑して続ける。
「要は魔力増幅器だ。あるものを媒体にして、彼は解き放つ魔力を桁違いに増幅しているんだ。」
「それだけの増幅をさせる媒体って一体?」
これには意外な人物が答えを出した。ミルである。
「まさか、精霊?!」
さすがに魔法に関してはユグドラルでも指折りの一族出身だけあって、彼女はギリングとの戦いが始まってからの変化に気づいていた。
「その通り、精霊の命をマジックブースターは餌としている。」
「・・・信じられない。最も魔法に造詣の深いシレジアが自らの力の源を殺すなんて。」
ミルの言葉に紅髪の剣士が静かに続ける。
「私も初めて聞いた時は耳を疑ったさ。だけれど、真実は目の前にある。」
実際に辺りから精霊の気配が大いに薄くもなっていた。
 この会話を聞いていたギリングは居丈高に言う。
「何を言うのかと言えばそんなことか。残念だが、我らの生きるシレジアは既に余所のことなど気にしている余裕などないのだ。さっきも言ったであろう、賽は投げられたのだと!我らは力で自立の道を探るか、共に滅びるしか道はないのだ!!」
そして一際強力な火球を一同に解き放つ!その瞬間、ギリングの両耳にしているイヤリングが怪しげな光を放っていたことにアルドは気付いた。
「あれが・・・・マジックブースターか。」
そう呟きながら虚空に視線を移した。
 辛うじて先ほどの火球を一刀両断にした紅髪の剣士に対して、今度はギリングが問う。
「リキアの王よ、貴様こそどうしてそこまで戦える。手勢はレダの裏切りで孤立し、本国はエトルリアに蹂躙され、愛する妻も我が手の前に倒れたというのに、何がお前をそこまで戦わせる。」
「くだらない質問だよ、ギリング。皆が僕を信じてくれているのに、僕がこんな悪暴に屈してはならないだろう!」
その答えが癪に障ったのか、ギリングが血を流すほどに唇を噛んだ。だが紅髪の剣士は続ける。
「それに君には申し訳ないが、ここまでは想定内の出来ごとといっていい。だから十分に対応できている。」

 「レダの寝返り、元々かの国は信用していなかったから、密かにサリアとは戦いながらも交渉を持っていた。今はもうサリアの援軍も到着して、逆にレダ軍を挟撃しているだろう。」
紅髪の剣士は静かにギリングの策を打ち破る方策を敢えて語る。
 「エトルリアとて、まだ腰が据わっていないことなどわかっていた。だからセシリアさんを敢えてミスル半島に遣わし、クレイン殿を西方三島に派遣させている。」
これにギリングは何も返せないでいた。元々二人をエトルリアから離すのは彼の策略だったのだ。まさかそれに紅髪の剣士も乗っていたとは思いもしなかった。
「これも敢えてエトルリアから最後の膿を出すためさ。こちらも国王と大軍将パーシバル殿が立ちあがって王宮の守りを固めると共に、外からは残りの二軍将とイリアの傭兵たちが外から攻め上げれば、さしものエトルリアもまとまることになろう。」
 「だがリキア侵攻軍の攻撃は止まらないぞ!」
「妻と父には苦労をかけてしまったのは事実だが、オスティアはそんなことでは落ちないさ。聞けばまだ西半分を掌握しているにすぎないし、これからフェレ・アラフェンなどの諸侯がサカの諸部族・ベルンの援軍を得て反撃に転じる流れになっている。エトルリア本国で自分たちの居場所がなくなっている侵攻軍がこの状態で戦い続けることができるとお思いか?」
ギリングは紅髪の剣士の問いに答えられなかった。完全にしてやられていたのだ。
「・・・なぜだ、なぜここまで読まれたのだ!」
「正直なところ、私もエトルリアの侵攻程度しか読めていなかった。だけど私の軍師は凄い女性でね、さすがに父の頭脳としてずっと采配を振るってきた方だけあるよ!」
「グッ、あの小生意気な女魔道士か。」
 「ただし私の軍師でも読めなかったことがあった、それがあなたが時空を壊そうとしたことだ。もっともこれはフィルが感付いてくれたから何とか間に合ったけど。」
その言葉を聞くと、黒髪の少女剣士が頬を赤らめながら照れてみせた。どうやら彼女の名前がフィルというらしい。

 一通り種明かしが終わったが、ギリングからは更に怒りの波動が溢れてきた。
「貴様ら、どこまで我を愚弄すれば気が済むのだ!もう許さんぞ!!」
そしてマジックブースターもその波動に反応するかのように強烈な光を放ち始める。この瞬間、辺りで辛うじて残っていた精霊たちの生気が吸い込まれていくのをミルは感じた。
「アルド様、急いであれを止めてください!これ以上、精霊たちがいなくなってしまえば、レダの地が再生できなくなります!」
だがアルドはしばらくしてギリングに言い放った。
「そのマジックブースターを見ていて、彼(紅髪の剣士)がシレジアに敵対した理由がよくわかったよ!あなたたちは自分たちで犯してきた罪を世界中の血で洗い流そうとしている。あまつさえそれが出来なくなれば時空ごと葬り去ろうとする。・・・私もシレジアという名には尊敬の念を抱いていたが、1000年かけてそんな姿勢になったのならば全身全霊を込めてあなた方を潰しにいく!!」
口調こそ穏便ではあったが、その断固とした覚悟を口にするのは彼にしては珍しいことであった。これは彼なりにギリングとシレジアに切れている証であった。
「どうにかして奴に隙を作らせてくれ。あのマジックブースターさえ何とかすれば我らの勝ちなのだろう?」
アルドの問いに紅髪の剣士は静かに頷いた。わずかの間ではあるが、二人の間で作戦が決まっていた。そして目でマーニとフィルに合図を送る。
 刹那、マーニとフィルが蒼き閃光と化してギリングに切りかかる。
『W次元斬!』
しかしギリングは軽く身体をひねって、蒼き閃光二筋をかわす。通り過ぎていく閃光を上から見ている形でいつの間にか高く跳躍していた紅髪の剣士が斬りかかる。
『ブレイズストライク!!』
一気に振り下ろしたその斬撃は、しかしやはり空振りに終わる。だが既にマーニとフィルの追撃が始まっていた。
『ディヴァイン・フレアリング・ブレード!!』
そして二羽の蒼き不死鳥がギリングに襲いかかった。壮絶な爆発が起こるものの、さすがにギリングも歴戦の魔道士であった。高く跳躍してかわしていた。しかしそれこそが彼らの狙いである。跳躍している間はそうそう上手く動けるものではなく、つまりは最大の隙が発生するのだ。
「この時を待っていた!行くぞ、ギリング!!」
『ディヴァインスマッシュ!!』
アルドは一気にギリングに対して突進して、剣を一気に振り上げた。多少身体をひねろうが、彼の剣がギリングの胸をえぐるのは時間の問題、はずだった。しかしアルドが斬ったのは空気であった。
 「愚か者どもが!我がワープを使えることを忘れたか。」
ワープを使えるものは決して多くはないものの、それが使えるようになれば非力な魔道士でも凄まじい機動力の上昇になるのは言うまでもない。奇襲もでき、今回のように緊急回避も可能と、それを使いこなせる魔力さえあれば恐ろしい武器にもなる。それをギリングは使えたのだ。一同を見下ろしながら、ギリングは勝ち誇ったように言う。
「ここからならばまとめて消し炭に出来よう!!死ぬがいい!」
『フォルブレイズ!!』
地獄から現れた業火が一堂に襲いかかるが、すんでのところで食い止められた。ミルが最後の魔力を振りしぼって、巨大な魔法防御を展開させたのだ。
「小賢しい小娘め!」
しかしミルの魔力を持ってしても、ギリングのフォルブレイズを止めるのは厳しかった。ここでギリングはマジックブースターの力を解放し、一気に押し切るべく魔力を注ぎ込む。
 だがフォルブレイズは目に見えて、弱くなっていた。
「馬鹿な!なぜだ!!」
驚くギリングは、一瞬だが黒い影が目の前を通り過ぎたことを思い出した。そして耳にしていたイヤリング型のマジックブースターがただのイヤリングにすり替わっていたことにようやく気付く。
「俺からのプレゼントだ。こんな無粋なものをつけてちゃ、女なんか付いてこないぜ!」
すり替えたのはいつの間にか影となっていたフィードであった。先ほど虚空を睨んでいたアルドは密かにフィードにこの瞬間を狙ってマジックブースターを取り外すよう頼んでいたのだ。元々シーフであるフィードからすれば、多少の隙さえあればそれは容易である。だからアルド、紅髪の剣士、マーニ、フィルは華麗な連続攻撃を放ちながらもこの瞬間を作り出していたのだ!
 やがて魔力を一気に失ったフォルブレイズはギリングでも使いこなすことができなくなり、ミルが食い止めていた火焔も消滅した。そしてマジックブースターを失ったギリングもまた、今まで乱用してきた魔力の代償から既に魔力が枯れている状態になり、立つこともできなくなっていた。
「ギリング、あなたはこのようなものが使わなくとも智謀で私を追い込む寸前までいったではないか。なにゆえ理を壊すマジックブースターに身を委ねた。」
紅髪の剣士が静かに聞く。
「黙れ、我には実績が必要だったのだ!三大魔道家は何もせずとも国を動かす地位にいるが、我らにはそれを手に入れるためには常人のままではならなかったのだ!・・・・だがこれでそれも終わった。この魔力では元の時代に戻ることすらままならぬ。ならば!」
一気に殺気を取り戻したギリングはまだ鞘に入ったままであった、アルドのシュヴァルツバルトに手をかけると一気に側にいたミルに斬りかかる。
「このままこの女も道連れにs・・・」
結局、ギリングはそのまま物言わぬ屍となった。しっかりと様子を見守っていたアルドが一気にティルフィングを振りおろしていたのだ。
「ミル、大丈夫か?」
アルドの問いに、不意を突かれたミルは一瞬キョトンとしていたが、すぐに首を縦に振った。
「良かった・・・。」
心からの声にアルドもようやく表情を和らげた。
「結局、彼が地位を得て何がやりたかったのかはわからないままだったな。」
アルドの言葉に、紅髪の剣士は頷いて続ける。
「だけれども、マジックブースターを使ったまでして得た地位ですることなど、いいもののわけがありません。」
「恐らくは更なる破滅なのだろうかな。」
結局その疑念は晴れることなく、彼らを静かに見守っていた太陽が地平線の彼方に沈んでいく。


 「では我らも自分たちの時代に戻ります。」
紅髪の剣士はフィルを促して、元の時代に戻る時となっていた。
「さっきのギリングの言葉が本当ならば、相当厳しい戦いが続くのだろう?」
アルドが心配するが、すぐに訂正する。
「いや、要らぬ心配だった。君は共に闘う仲間のことを信頼していたんだった。」
これには紅髪の剣士も笑って頷く。
「その通りです。彼らがいるからこそ、私も安心してこの時代に来ることが出来たんです。何があろうと、切り開いて見せますよ、彼らと。」
強い信念を宿らせた瞳を見ながら、ミルはアルドにも同じような輝きを宿していることを見抜き、穏やかな笑顔を見せた。ふとアルドが思い出したかのように聞く。
「そういえばあなたの名は?」
「仮にもご先祖にあたる方に自分の名を名乗るのも変なので、父の名で勘弁してください。我々の未来が変わってしまうかもしれませんし。」
適当な言い訳を言って名乗りを渋る紅髪の剣士に、アルドも仕方なく苦笑いをしながら妥協した。
「我が父の名は・・・エリウッドと申します。」
そして紅髪の剣士はフィルを促して、時空の歪みへと消えていった。


 「なんだか疲れる一日だった。」
アルドは星の輝く空を見ながら、ミルに言った。
「でもいいことがわかって、良かったんじゃないですか?」
「うん?」
「だってあのギリングがアルド様をヴェスティアの皇帝として狙ってきたんですよ。ってことはこの人竜戦役は私たちが勝って、アルド様も生き残るってことじゃないですか!?」
しかしアルドはそれには肯定しない。
「う~ん、上手くは言えないんだが、それは違うと思うんだ。あくまで彼らが来たのは僕らが生き抜いた結果に出来た世界から来たんであって、それとは別にラグナが勝った結果が反映された世界もきっと出来ているんだと思う。」
このあたりのことはマーニが詳しいのだが、アツアツの二人に当てられたことで不貞腐れてここにはいない。
「母上も言ってたなぁ、歴史なんてものは人一人の決断次第でいくらでも形を変えるものだって。結局のところ、僕らがやらなければならないのは必死に戦って、戦って、戦い抜いてラグナを打ち倒さないといけないってこと。その結果が彼らの住む世界に繋がることになるんだろうさ。」
「・・・時空って難しいですね。」
ミルの本音にアルドは思わず噴き出した。
「まぁこればっかりは僕にも母上にもわからないだろうさ。」
そして続ける。
「とりあえず、ミル、今日起きたことは胸に秘めておくだけで絶対に他人に話さないようにね。」
「どうせ言っても誰も信じてくれませんけどね。」
「だけれど、さっきの場所にギリングが眠っているという事実は間違いのないこと。彼らを悼むためにも静かにしてあげないとね。」
死人に口なしとは言うが、それもあってかアルドの故人への敬意は敵だったものでも変わらない。
「さぁ今日はもう寝よう。自由に過ごせるのも、ミルと過ごせるのもあと数日だけだからね。」
そして二人は寄り添うようにして、眠りについた。


 二人の前に現れた紅髪の剣士はその後、己の時代に戻って自軍の采配を取って窮地を脱した。そしてギリングから取り戻したフォルブレイズを持ってオスティアに戻った頃には、眠っていたはずの妻リリーナが出迎えにわざわざ出てきていた。元々、ギリングが使っていたフォルブレイズは彼女の武器であったのだが、奇襲してきたギリングとマジックブースターの力に押し込まれ、彼女が倒れると同時に奪われていたのだ。すでにエトルリアでの内乱も王政派が王都アクレイアを取り戻し、リキアに侵攻してきていたエトルリア軍もベルン・サカの援護を受けた東リキア軍の奮闘で壊滅している。
 久々にもたらされた安寧を歓喜をもって受け容れる民たちの前で、紅髪の剣士は静かに、そして強く妻を抱き締めた。共に戦ってきたものたちはその光景に癒され、改めて紅髪の剣士の強さを実感することになった。そしてエレブ大陸の再統一を果たした紅髪の剣士・ロイは世界の理を壊さんとするシレジアに対して反撃を開始することを改めて宣した。
 そしてその傍らにはエリウッド、ロイと二代に渡って支える女性軍師が静かにユグドラルの方向を睨む。ロイは改めて彼女の風貌を見ていて思い出したのかのように彼女に言った。
「そういえば、あなたにそっくりな女性がフィルと一緒にいった未来にいましたよ。彼女はシスターのようで戦ってはいませんでしたが、リリーナに負けない綺麗な魔力を持ってましたよ。そういえば名前もミルって言ってましたかね、名前も似ていますね。あなたの祖先だとしたら、あなたもヴェスティアの縁戚ということにもなるんですかね。」
しかし女性軍師は素知らぬ風を装って否定する。
「残念ながら私は彼女の末裔ではありません。よくいう他人の空似というものですよ。」
ただその表情は普段の謹厳さが幾分か和らいでいたのをロイは見逃していない。女性軍師もそれを悟っているのか、静かに話題を転じさせた。
「それよりもこれからの方策についてまとめましたので、お時間よろしいでしょうか?」
仮にもリキアの王となり、戦時中となるとロイは多忙を極め、いくら軍師でもそうそう楽に会えるものではなかった。難戦をくぐり抜けて久しぶりにリキアに戻ってきたからその傾向はより顕著である。
「あぁ、そうだったね。ごめん、話が逸れてしまって。」
そして妻リリーナや、援軍として駆けつけているイリアのシャニー・ティト姉妹、ベルンのミレディ・ツァイス姉弟、いまやロイの目を担うフィルとレイらと共に軍義へと向かっていった。

 

 

 

 

 

最終更新:2011年11月05日 21:21