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 一方、圧倒的多数のデルファイ軍を懸命に防いでいるのはジーク率いるエインフェリア軍であった。しかし遊軍となっていたアルド軍の中からウエルト軍がジーク軍に背後から襲いかかったことで完全に均衡は崩れていた。
 そしてジークの元に懐かしい女性が現れた。
「お前は・・・ケイトか?!」
ジークも彼女の目も紅く腫れるまでには時間はかからなかった。
 サーシャがトウヤと結婚して、そしてサリア執政の座に着くようになってから、ケイトはウエルトに戻って弓兵長として支えていた。そしてその一方でパピヨンと共にサーシャの年の離れた弟の後見役となってその成長を、アカネイア動乱時には留守を守って、二人の主の活躍を遠くから見守っていた。
 だがその裏でケイトはこの時も待っていた・・・、分かりあえず離れることにあった彼と会うことを。そして会うはずのなかった彼はついにミューが歪めた理によって皮肉にも目の前に姿を現した。
 驚きのあまり槍を持つ手が震えているジークは問いかける。
「まさかウエルト軍が出てきたのはお前の一存なのか?!」
「そうよ、あなたがいると聞いて、レオン様とアルド様に無理を言ったわ。どうしてもあなたに会いたくてね。」
そして静かにケイトは続ける。
「ジーク、私はもっとあなたを理解してあげたかった。あの時、私たちは流されるまま、結局お互いの気持ちを偽り続けて終わってしまった。」
「何を今更・・・。」
「もう終わりにして、ジーク!もうゾーアとかユトナとか言う時代ではないの!両者は今、団結して、巨大な脅威に立ち向かっている。それはあなたにもわかっているんじゃないの?」
ボウガンを構えるケイトに対して、ジークは構わずにジャベリンを放り投げる。しかし彼女はわずかに身体に動かしただけで、ジークの投擲を悠々と交わす。
「なぜだ・・・なぜ、お前は俺を恨まない。あの時、俺はお前を心から裏切ったのだぞ!?」
「ええ、あの時は確かにあなたのことを許せなかった。・・・だけどね、今になって思えば、どうしてあそこまであなたがしたのか、もっと考えてあげるべきであった。ゾーア人が私たちのことを憎んでいたことすら、私たちは考えていなかったもの。」
「・・・・」
「だけど、あなたのお姉さんがそのわだかまりを解消してくれた。」
今ではゾーアの母と称えられるカルラのことである。皮肉にもジークが亡くなったのを機に彼女の人生は反転した。息子シゲンの懸命な活躍もあって、ゾーア人の旗頭となった彼女は茨の道を踏みしめながら、ついにゾーア人の人権を取り戻していたのだ。さすがのジークも蘇って戦ってきたときはそれを知り、驚きもした。
 更にケイトは言う。
「それなのに、あなたがゾーア人を苦しめてどうするの?!これじゃ命を削ってきたお姉さんのやったことが無に帰するのよ!」
「黙れ!今の俺はミュー様の槍となって戦うのみ。そこにゾーア人のことなど関係ない!!」
その言葉にケイトの目が冷やかになった。
「やっぱりあなたは変わっていない。結局、自分よがりのままだったのね。ならば私があなたを天上に送り返してあげる!」
解き放った矢がジークを襲うが、彼は軽く避けると一気に間合いを詰めて、デビルスピアを突き出した。すぐさまケイトは剣を抜くと、彼の突きを受け止める。
「やるようになったな、昔は何度も俺が守ってやったというのに。」
「私だってサーシャ様とレオン様を見守ってきた騎士、戦わねばならない時は戦うわよ!」
 だがその時は意外に早く訪れた。もう片方の手で短剣を引き抜いたケイトが体ごとジークに突進し、不意を突かれたジークの胸に深々と突き刺していたのだ!しかしそれに驚いたのは当のケイトであった。
「どうして、ジーク!あなたの実力ならば、こんな攻撃なんて・・・。」
「いいんだ。やはり俺は色々と間違っていたんだ。それを教えてくれたのは、お前だ、ケイト」
「ジーク!!」
「俺もお前に会えなけば、不毛な戦いを繰り広げていたのかも・・・しれないな。」
そしてジークはケイトの胸の中で安らかに息絶えた。
 しかしジークの死後もエインフェリアの抵抗が止むことはなかった。結局、彼らを全滅させるまでデルファイ軍の大半は拘束された。


 そしてナディアはと言えば、すぐに夫の死を察して逃亡を図っていた。アルド軍がバラバラに配置されていたこともあって、ナディア隊はクレスト率いるテルシアスへの攻撃をやめて西へと去っていく。
 クレストは反撃するべきであったのだが、テルシアスは機動力が乏しく、また激しい攻撃を受けていたため、追撃する余裕はなかった。また周りに布陣していたアルド軍の別軍も距離を置いて配置していたため、あっさりとナディアはサイの地からの離脱に成功した。
 しかし安心するのも束の間であった。目の前に想像もしていなかった軍勢が姿を現したのだ。数は40万、旗印にはグルニアとアリティア、マケドニアの国旗が掲げられていた。そして更によく見るとヴェスティア宰相の旗も混じっていた。これこそがセーナがルゼルに依頼した、アルドへの援軍であった。

 長女エリミーヌとグラのジャンヌにわずかばかりの兵を預けてユグドラルに送ってからのリュートはアリティアの復興になおも力を入れていたが、リーベリア戦線の苦難・グルニアの内訌・アイバーの出陣という度重なる報せを受けて、ついにアリティアからもリーベリアに兵を出すことを決めていた。この時点でセーナが復活した直後のことであり、ヴェスティアのルゼルからは何の要請も受けてはいない。
 これに前年の戦いからの再興を賭けたいグルニアとマケドニアが同調し、3カ国で100万からなる軍勢が発行された。ウエルトやセネーに続々と上陸した連合軍の元にようやくセーナの意を受けたルゼルが訪れて懇願した結果、この大軍をルゼルが掌握することになった。
 この頃には各地の戦線は好転しており、すでに勢いのままにかつての防衛線にいる兵力は薄くなっていた。そのためルゼルは各防衛拠点に20万ずつの兵を派兵し、その上で戦意の高い兵を厳選した40万を決戦地であるサイの地へと急行させていた。結局、大勢は決した後にはなってしまったが、こうしてナディアの退路を断つという貴重な役割を担うことになった。もちろん担う以上はルゼルにとってナディアを逃すという失態を演じるつもりはない。全力で彼女率いる部隊へと攻撃を下す。

 まずは雪辱を晴らすために異常に戦意の高いグルニア軍が突撃を敢行、対するナディアは足を止めて時間を稼ぐと、あっという間に伏せていた伏兵をもってグルニア軍を待ち構えた。わずかに勢いがそがれたものの、それでもグルニア軍の足は止まらずにナディア隊へ突っ込んだ。世界に名だたるグルニア黒騎士隊はグルニア国王の懇願で指揮を取っていたミリアの采配で、衝撃力のほかにアリティアの柔軟な用兵を身に付けていた。これで変幻自在なイザークの用兵にも対応したグルニア軍は次第にナディア隊を押していく。更にルゼルはマケドニアのフレディに側面を襲わせて、これでナディア隊の逃げ道は後方のみになった。
「こうなれば後ろに退くしかないか。」
隙のないルゼルの攻勢に、すでに戦を放棄しようとするナディアであったが、それを許す局面ではなくなっていた。
『後方より敵襲!!トラキア・デルファイ竜騎士隊とヴェスティア・グレッグ竜騎士隊です!』
「っ!」
すでにナディアの退路は完全に閉ざされたことになった。
 だがナディアもまた軍神が選んだ妻だけに、強かった。後に竜騎士四天王に数えられるデルファイ、フレディ、グレッグの3人(残り1人はデーヴィド)を相手にしてナディアは一歩も引かない戦いを繰り広げる。しかし既にラシディはグルニア軍という大津波の前に、そしてアラニスはデルファイ軍の勇者によって討ち取られており、ナディア隊の受ける圧力はすでにナディア1人にかかっており、さすがにその細腕で全てを抱えるのには厳しくなっていた。そして彼らの死闘の背後に一つの魔法陣が降り立った・・・。」
 「お三方、申し訳ないですが、この戦い、私に引き取らせてください!」
そう言って、デルファイたち三人がその女性を見ると、思わずデルファイとグレッグが驚いた。
「フィーリア殿!」
「私にはこの世に迷い出てきたエインフェリアたちを許すことはできません。すでに大方の方がいなくなってしまいましたが、あなたが最後のエインフェリアの将ということは皮肉としか言えないけど、存分なお相手ね。」
「かつては共にセーナのライバルと言われた同士というのも皮肉なのものね。あなたとならば楽しい戦いになるわ。」
三人の竜騎士はフィーリアの申し出を受けて引き下がり、周りはナディアとフィーリアを囲んで静かになった。
 「では行きます。」
先制を取ったのはやはりナディアである。神速を持ってなるイザーク剣技は火力を重視する魔術士であるフィーリアにとって天敵である。しかもしばらく実戦を離れていた彼女はあっさりと背後をナディアに取られた。
『月光剣!!』
青白く光りながら振りおろした斬撃はフィーリアの作った魔法剣トールハンマーによって止められた。さすがに彼女も魔道三家の一当主であった。そして空いた片手から追撃の雷魔法を解き放つ。
『サンダー!』
これにはナディアもたまらずに攻撃を解除して、必死に回避する。しかしこれをきっかけにして、攻守は完全に逆転する。一気にフィーリアは突進してきて、魔法剣トールハンマーを振りおろす。
 しかし剣の戦いではナディアに一日の長がある。すぐに最小限の動きでフィーリアの慣れない斬撃をかわすと、すぐに態勢を立て直して神速の剣技を解き放つ。
『流星剣!!』
剣すら確認できない、神速の斬撃は勘の優れたフィーリアはぎりぎりのところでかわしていたが、四撃目をかわしていたところで足がもつれて転倒してしまった。
「これで終わりにしましょう!」
勝ちを確信したナディアがすぐに必殺の斬りを解き放つが、その剣は思わぬ横やりで弾かれてしまった。
「何っ!」
そしてすぐに放たれたファイアの魔法の直撃を受けて、ナディアは吹き飛ばされた。
「全く、お前も無茶をし過ぎる!そんなことをして天上に言っても父上も母上も喜ばれないぞ。」
それはフィーリアの双子の兄グスタフであった。
「セーナ様からお前の様子がおかしいから、ずっと魔力の跡をたどっていた。まさかここまで来るとは思わないから追うのも大変だったぞ!」
しかしすぐにグスタフは言葉を続ける。
「まぁお前の気持ちもわからないわけでもない。」
 グスタフとフィーリアは今はそれぞれで離れているが、思いは同じである。すぐに態勢を立て直した二人は肩を合わせ、それぞれの得物をナディアに向ける。
「邪魔をして悪かったな。続きといこうか。」
グスタフの言葉に、ナディアは苦笑いをして再び剣を構える。
「無駄ですよ、あなたたちには私の速さを捉えることは出来ない!」
そして今度はナディアの身体が緑色に輝き始める。
「この神速を極めし剣技を受け止めきれるものですか!」
『流星神剣!!!』
光と化したナディアが一気に二人に襲いかかった。しかし、その斬撃は初撃で止められることになる。
「力と速さは相反するもの。力を極めたものには速さで翻弄すべし、速さを極めたものには力で受け止めるべし、それが世の真理!」
ナディアの剣はグスタフの魔法剣ファラフレイムと、フィーリアの魔法剣トールハンマーによって完全に止められていた。そして二人のそれぞれの手から一気に魔力が凝縮されていくのをナディアはしっかりと見ていた。
『ブレンストスパーク!!』
エルファイアとエルサンダーの合体技がナディアの身体を見事に貫いていた。吹き飛ばされるナディアに対して二人は容赦しない。
「これが今を懸命に生きてきた結実!」
『トールハンマー!!』
「死を超越したというお前たちに俺たちの力を刻みつけてやる!」
『ファラフレイム!!』
それぞれの聖魔法がついにナディアに炸裂した。


 後にはもう何も残っていなかった。しかし神速剣士団が消えたことからナディアはもう息絶えたと見るのが妥当なのだろう。残ったフィーリアとグスタフは戦場を邪魔したことを三人の竜騎士たちに詫びて、静かに魔法陣に身を委ねて消えていった。
 その知らせはすぐにアルドの元に届けられた。
「フィーリア殿が出てこられたのか。」
馬を寄せてきたアベルはこう付けくわえる。
「あの方は人一倍エインフェリアに対しては複雑な思いを抱いていたことでしょうし。」
「そうだね、これで彼女も少しは溜飲を下げることができたんじゃないかな。」

 サイの決戦は当初の想定を超えて、色々な思いが交錯する戦いとなったが、結局のところは人類の勝利に終わった。これでリーベリアに侵攻してきたミュー軍の大半は壊滅したことになり、ようやくリーベリア大陸は解放されることになった。しかしまだラグナ軍が存在する限り、リーベリアが狙われることも有り得るため、防衛・復興双方に力をかけていかねばならず、相変わらず油断のできない日々が続く・・。

 

 

 

 

 

最終更新:2011年11月27日 00:42