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 リーベリアでリュナンの父グラムドたちがレダに向かっていた頃、ユグドラルではセリス解放戦争における最後の聖戦が始まろうとしていた。その名もヴェルトマー平原の決戦。この戦いの帝国側指揮官は二代目皇帝ユリウスの正室ティナであった。彼女はシレジア在住時に未だ賞金首だったセリスをかくまい、よしみを通じていた。それどころかお互いに惹かれあった関係である。明らかに解放軍側のティナをあえてユリウスは総指揮官にした。それは彼女を試すためであった。
 ユリウスの妻となったティナであったが、ことさらユリウスの政策に反対してついにはヴェルトマー領を与えられてユリウスとは別居状態にある。ユリウスはフリージのイシュタルとの関係を重視するようになったが、その間にティナを無視することができなくなっていた。ヴェルトマーに封じられたティナは義父アルヴィスの初期の政治を再現していた。それは誰から見ても非の打ち所のない素晴らしい善政であり、圧政で荒廃していく都市が相次ぐ中、ヴェルトマーには活気がたえなかったという。そしてティナ直属の部隊、ロートリッターも日に日に巨大化して、ユリウス直属の十二魔将を凌ぐまでに至っていた。彼らの脅威は自分たちの命をティナに捧げているからに他ならない。そのためにどんな戦いでも鬼神のごとき活躍をして、『ブラッディーソード(血まみれの剣)』の異名を取るようになる。ユリウスは彼女を離反させないために、魔剣ガラティーンをティナに賜った。何も知らずに受け取ったティナはガラティーンを通じてユリウスに洗脳されしまうのであった。その頃、ティナの逃がしたセリス率いるセリス解放軍がイザークで蜂起したのである。
 今、ユリウスの洗脳はすでに解けていた。ではなぜ出陣してきたのか?ティナは人質を取られていたからである。その人質とは大陸で唯一ナーガを操ることができるユリアである。そして平和を愛するティナはロプトウスを生かしておいてはいけないと感じていたためにティナはユリアを生かしておかなければならなかった。

 「ティナ様、布陣が完了しました。ユリウス様も平原南東に出陣してきています。」
ティナの第一の側近リクードが報告をする。
「ご苦労様、あと二時間後には軍議を開くので、今のうち休んでいて。」
ティナがねぎらいの言葉を払う。他人には自分の不安を悟られないためにしているのか、表情はいつもより明るかった。しかしリクードが本陣を出た直後に、ティナが一番恐れる人間が現れた。ユリウスである。
「ティナ、布陣が完了したようだな。明日の決戦、動かなければ、ユリアの命はないと思えよ。」
まるで妻に言っているように感じない言い草だった。ついでにユリアは一人で出陣していて周りに守る人がいない状態である。マンフロイに洗脳されたユリアはティナ率いるロートリッターをぴったりくっついて動くように命令されている。
「ですが、あれでは動いても死んでしまうではありませんか?」
ティナがユリウスに質問する。セリス軍がユリアに気付かなかった場合はセリス軍の遠距離攻撃の脅威にさらされる。
「安心しろ。そのために後続がいるのだ。」
ティナ隊の後ろには暗黒教団の部隊が二部隊でていた。彼らが弓矢からユリアを守るように命じられていた。
(ユリア様も殺すつもりね)
ティナはもはや夫の言うことを信じてはいない。
「そう恐い目をするな、ティナ。別にお前の部隊に組み込んでも構わないぞ。」
「えっ!」
予想外の言葉である。ユリアをティナ隊に入れておけば、護衛のための兵を割いてユリアを守りきることができる。ただ今まではマンフロイの言われるままにならざるを得なかったために、単騎で動いていた。それが可能になる。だがユリウスの狙いがわからなかった。
「あとはお前に任せる。」
ユリウスは不敵な笑いを残して、ワープで去った。その直後、南東のユリウス、イシュタル隊の布陣が終わったとの報告が入った。
(ユリア様を生かすためにはあの戦法しかない)
ティナのそのとき目は覚悟を秘めた目であった。
 一方のセリス陣営でも指揮官セリスが苦悩していた。その時の光景は親友エルトシャンとの決戦を控えた父シグルドの時となんら変わらなかった。
(ティナもユリアも盾にするのか、ユリウス!)
バーハラを包囲するためのプロセスであるヴェルトマー陥落のためにセリスはここまで軍を進めていたが、予期しないティナとユリアの出陣で足止めを余儀なくされた。
(ダメだ。できない二人を殺すことなんて)
セリスはフリージへの撤退さえ考えるようになっていた。しかし撤退しても二人がでてくれば、弱みを付け込まれるだけである。それを見守る軍師オイフェ、レンスターのリーフも言葉をかけられるはずもなかった。まさにティナ、ユリアへの愛情を犠牲にして、大陸の平和を取るのか、二人を守るために圧政をつづけさせるのか、という選択であった。ティナも同じ気持ちだったのはいうまでもない。
そこへシレジアの王女で天馬騎士のフィーが入ってきた。
「セリス様、ここにティナ様からの密書が届いております。」
フィーとティナは直接面識がないが、おなじシレジア人というよしみを通じて、この書状を届けていた。セリスはそれを聞くと、すかさずその書状を奪うようにとって、中身を読もうとした。しかしそこには
『明日、正々堂々、戦います。』
と記してあるだけだった。だがこの裏にはティナの悲壮な決意が記されていることにはセリスでさえ気付くことができなかった。

両陣営にとって眠れない夜は過ぎていく。


 そして決戦の日
「昨日話し合った通りにいきますよ。」
ティナが自分の作り上げた部隊に向かって叫んだ。彼らのほとんどはティナに命を救われた人であった。そのために今回の作戦にも命を賭けて従ってくれる。
「グランベル、いいえ、ユグドラルに栄光あれ。」
ティナがそう叫ぶと
「ユグドラル万歳」
ロートリッターはそう叫んで、ついに動き始めた。ただ彼らは何に向かっているのかわからないままだった。だが兵は満足していた。ティナの命がけの戦いを一緒に戦えるからである。彼らの目は少年少女のように輝いて見えた。
 ロートリッター進撃
この知らせがセリスにもたらされた。しかしセリスたちは思いもがけない光景に遭遇する。今知らせが入ったばかりだというのに、すでにロートリッターが400mの所まで接近していたのだ。まさに電光石火。しかもあろうことか、他の部隊に目もくれず、セリス本隊に向けて突撃してきていた。セリス軍が迎撃態勢を整えた直後、またロートリッターは予測できない動きを取った。まるで何かに割かれたかのようにロートリッターが三つに分裂したのだった。その異様な動きが百戦錬磨のセリス軍を混乱させる。もう勝敗はついた。3つに分かれたロートリッターはそれぞれセリス軍を見事に貫いていた。だがセリス軍に負傷者はいなかった。それどころか10騎ほどがセリス軍に取り残されていた。その中にはティナの右腕リクードとユリアも含まれている。ユリアはリクードによって気を失っていた。状況がわからないセリス軍はそろってロートリッターに視線を合わせた。その部隊は引き返してくることなく、南東の戦場に向かっていた。一方、戦線に参加していなかったオイフェ隊とリーフ隊はロートリッターの後方に控えていた暗黒魔道士隊を討伐しに向かっていた。
(ティナは自分の命を賭けて私とユリアを助けようとしていたのか・・・)
ティナとロートリッターを見送っていたセリスはこう結論付けて、オイフェ、リーフにヴェルトマー攻略を任せていた。
 『ティナ寝返り、ユリア生死不明』
この報告がユリウスの下に入ってきた。ユリウスは表情を変えようとはしなかったが、心の中ではかなり動揺していた。
(なぜガラティーンが発動しない)
ティナに渡した、洗脳効果を持つ魔剣ガラティーンはユリウスの意志により一時期、洗脳を解除していた。それはティナを油断させるためであって、こういうときに再び洗脳させようと企てていたからである。だがそのガラティーンが言うことを効かなくなっていた。それはティナの持つ、ユリウスの予想以上に強大化した魔力にガラティーンの魔力が勝てなかったことが原因である。突然の出来事でユリウスの思考が少し鈍っていた。いろいろと考えを巡らせていたとき、前線から絶叫があがった。
「ユリウス様!ティナ様が我が部隊を襲ってきています。どうか援護を。」
十二魔将の一人、ツヴァイがユリウスに救援を乞いにきた。
「バカな。さっき知らせが来たのだぞ。」
ユリウスが先ほどの使者を睨む。だが彼は悪くない。ロートリッターが速すぎるのだ。ティナは洗脳が解けてからはロートリッターの育成に力を込めて、この奇跡的なスピードを得るに至ったのだ。この戦法を後にセリスはシューティングスターの奥義・流星陣として称えることとなった。
 ロートリッターの突撃で十二魔将の部隊は大混乱状態にあった。肉体、精神共に鍛えられた部隊も命を賭けて戦う部隊の前では無力に近かった。唯一の救いは彼らが大兵団を有していたことであろう。そのために彼らは崩壊するまでにユリウスの援軍が到着したのである。ただイシュタルは動こうとはしなかった。それはティナの決断に対する敬意の表れかもしれない。ユリウス隊の到着と、解放軍のアレス・セティ隊の加勢で戦線は膠着状態となったが、ロートリッターはすでに3桁の兵数を切っていた。ティナはこうつぶやいた。
「私の役割ももう終わり。セリス様、この命をあなたに捧げます。」
そしてティナと彼女の育て上げたロートリッターはヴェルトマー平原に消えていった。

 南東の戦闘もセティとの戦いでイシュタルが散ったことで、決戦は終わった。解放軍の決定的勝利である。そしてここにヴェルトマーに向かっていたはずのセリスは単騎で来ていた。ティナを探すためである。だがユリウスに倒されたティナはバーハラに搬送されていたために見つかるはずがない。セリスはそれでも探すのをやめなかった。すると夕陽に照らされて赤く輝くイヤリングがあった。それはセリスがティナにかくまわれた時にティナにプレゼントしたものだった。セリスがそれを手にとった時、彼の目からは堰が断ったように涙が溢れてきていた。

 ティナの所領だったヴェルトマーはその日のうちにオイフェとリーフの力で落とされた。しかしそこにはオイフェにとって懐かしい人物が待っていた。
「お久しぶりです、オイフェ殿。」
その人物はシグルド軍に駆けつけた最初の魔道士であり、ユリウスの叔父にあたるアゼルであった。バーハラのだまし討ちに恋人ティルテュと共に辛くもシレジアに逃れ、余生を送っていた。妻ティルテュと愛娘ティニーをフリージ家に連れ去られ、息子アーサーを独り立ちさせたアゼルはある人物の招きでヴェルトマーを訪れていたのである。その人物は紛れもなくティナであった。ヴェルトマーの治政をしてもらうために出てきてもらったのである。シレジアを中心に広大な人間関係を持つティナにとって、シグルド軍の残党の騎士が生き延びているのは知るところだった。しかしその多くが、捕らえられて死亡している。残っていたのはこのアゼルと、他大陸に逃れたブリキッドとデュー、幼少のシャナンとオイフェに付いていったエーディン、そしてレンスターのフィンらしかいない。アゼルから大体の事情を聞いている間にセリスがヴェルトマーに入ってきた。セリスはアゼルとそこそこ話をしてから床に入った。やはりいろいろありすぎて疲れたのだろう。
 この後、ナーガの力を開放したユリアの力でユリウスは倒れ、ここにロプト帝国と化していたグランベル帝国が滅んだのである。ティナの統治していたヴェルトマーは彼女の遺志通りにアゼルが当主となった。セリスはティナとユリア二人の女性に支えられ、新生グランベル帝国がここに始まることとなった。そしてセリスはティナの故郷であるシレジアの北東部トーヴェに彼女を慰霊するために慰霊塔を作ったのであった。

 

 

 

 

 

最終更新:2011年12月30日 18:19