セーナ達がガルダで動き始めた頃、アカネイア大陸では一人の少年がある決心をしようとしていた。ここでこの大陸の情勢を説明しておこう。この大陸全土をまとめあげるアリティア連合王国は、アリティア(グラも含む)、アカネイア、グルニア、マケドニア、タリス、ガダインの六つの国から成り立つ。神君マルスが亡くなってからも、大規模な戦も無く平和であった。しかし平和は長く続かなかった。ドルーア地方に魔物の大群が現れたからだ。だがアリティアの王族リュートとその部下ミリアの率いる精鋭テンプルナイツ、傭兵王ラティの傭兵部隊、そしてマルスの時代から生き続ける神竜族の生き残りのチキによって難なく撃破された。リュートは調べたところ、その原因はアカネイアにあるのではなく、別の大陸にあることに気づいた。そして現在リュートはあらたなる戦いに備えてガダインで魔法の修行をしていた。
「リュート様、いつまで修行を続けるの?」
「いつまでもさ。いつこの前のように魔物が現れるかわからないからね。」
「王族の自覚を持ってほしいものね。」
リュートとミリアの会話である。リュートは王族なのに一人で各地をまわっているからである。どの大陸にも似た人物はいるものだ。
「ロイト王子がいるだろ。僕は王になる気はないよ。」
「ロイト王子はあまりよい噂を聞きません。それでもいいのですか?戦争が起こるかもしれません。王にふさわしいのはあなたしかいません。」
「あんまりめったなことを言わないほうがいいぞ。」
ロイト王子は野心が強く、リュート自身も実際あまりいい噂を聞いていない。
「ミリア、魔物の大群をどう思う?」
「リュート様が言っていた、別の大陸に原因があるということですか?ユグドラル大陸でメディウスの子孫と言われるロプトウスと関係があると言う・・・」
「そうだ。僕の仮説を聞いてくれ。魔物が大量に出現するその原因は別の大陸で暗黒竜が復活しようとしているからだ。そう考えれば納得いく。」
「リュート様、冗談ですよね。」
アカネイア大陸では、暗黒竜によって三度の大戦が引き起こされた。つまり暗黒竜を恐れている。アンリの直系もファルシオンもないからだ。こういう会話を交わしながら修行を続ける二人の前に、美しい女性とたくましい青年が現れた。リュートは二人が何者か知っている。ふたりは・・・。

 その数日前、傭兵王ラティはラーマン神殿をチキの要請で訪れていた。ラーマン神殿は、神竜族の神殿で三種の神器や封印の盾を始めとするマルス時代の秘宝が納められている神聖な場所である。もちろんそんな世界遺産級の秘宝を盗賊たちが見逃すはずもない。ラティが神殿に入ったとき、この聖地は盗賊達によって荒らされようとしていた。宝物庫を探していた盗賊の頭が今、神殿に入ってきた青年を見てこう言った。
「あれは、傭兵王ラティじゃないか?やつを倒せば名が上がる。野郎ども、やっちまえ。」
盗賊達が、ラティに襲いかかる。しかし傭兵王と称えられるだけあってラティの剣技は華麗で、策もなく斧を振るう盗賊たちは次々と斬られていく。そしてラティが必殺技七星剣を放った瞬間、盗賊の数が半分になり、残ったものは皆、戦意を喪失した。
「やつは化け物か?みんな逃げろ、殺される。」
そう言って、我先にと逃げていった。ラティは彼らを追おうとはせずに神殿の奥に入っていく。なかにチキがいた。チキは、神竜族の生き残りで、今日までラーマン神殿を守り、そしてマルスをよく知る人物であった。
「ラティさん、盗賊を追い払ってくれてありがとうございます。」
「そんなことより、チキ様、俺に何か用ですか。」
「実はこのアカネイア大陸の北にあるリーベリア大陸で暗黒竜に似た邪悪な気を感じるのです。それで、あなたに協力してほしいのです。」
「どういうことだ?」
チキはラティに、最近邪悪な気を感じ、それはリーベリア大陸に原因があり、アカネイア大陸で魔物となって現れ、それを食い止めるために力を貸してほしいと頼んだ。
「そういうことなら協力しましょう。」
「ありがとうございます。」
「とは言っても、二人で行くのには無理があるな。リュートでも誘うか。」
「ええ、彼なら力を貸してくれるでしょう。」
リュート、ミリア、ラティ、チキは、ドルーア地方の戦いの後、仲間として認め合った仲になった。まるで神君マルスとその当時の仲間のように。そしてチキは神殿の奥からなにやら持ってきた。
「それは、三種の神器にファイアーエムブレム、そんなものを持ってっていいのか?」
「暗黒竜に生半可の武器では歯が立ちません。だからこれらが必要になるのです。」
暗黒竜はマルスの持つファルシオンによって倒された。しかし今ファルシオンは無い。そんな状況で暗黒竜の前に普通の武器では傷一つ付けられない。倒すすべがないように思えるが、三種の神器なら太刀打ちできるようになる。それでもあくまで食い止めるだけで真の力を奪う力はない。
「その魔道書は?」
「これはホーリーライトで、これはファルシス。ファルシスは神竜族に伝わる光魔法でリュートなら使えると思います。」
一通りの武具をそろえたチキはラーマン神殿に結界を張り、リュートのいるガダインへ向かった。

 「チキ様に、ラティさん、お久しぶりです。」
そしてその二人とはもちろんチキに、ラティであった。魔物の大群との戦いの後、しばらく会っていないため、久しぶりというのは仕方ない。
「ちょっと待ってください。二人が私達に用があるということは何かあったのですか?」
さすがとでも言うかミリアは鋭い。チキは二人にここまでのいきさつを話した。
「僕の仮説が正しかったということか・・・。それなら喜んで協力します。マルス様の血を引くものとして黙って見過ごすわけにはいかないからな。それに放っておいたら、遅かれ早かれアカネイア大陸にもっと大きな害をもたらすからな。」
久々の冒険を目の前にしたリュートにミリアが諌止した。
「リュート様、いくら私達が強くても四人で行くのは無謀じゃないですか。」
確かに戦争中の大陸に少人数で行くのは多くの危険が付きまとう。
「いや、大勢で行ったら民衆を不安にさせるし、他国との干渉となり無意味な戦争が起こるかもしれない。少数で行った方がかえって安全だ。」
この説得力のある言葉でリュートはミリアを丸め込んだ。そしてチキは神殿から持って来た、光り輝く武具をリュートたちに差し出した。
「リュート、あなたにこのファルシスとファイアーエムブレムを授けます。あなたにはその資格があります。」
そう言ってファルシスと一つのオーブが欠けているファイアーエムブレムをリュートに渡した。
「こんな大事なものを・・・必ず使いこなしてみせます。」
さらにチキはミリアにグラディウス、ラティにメリクルソードを渡した。ラティが、チキを見て
「ところで、パルティアはどうするのですか?」
この四人の中に弓の腕に自信を持つものはいない。
「リーベリア大陸に、この弓にふさわしい者がいればいいのだけれど。」
宝弓は後に弓神ブリギットの血を引く者の愛弓になることを知る者はいない。だが着々と準備を進めていくリュートたちにミリアが新たな疑問をぶつけた。
「リーベリア大陸のどこへ行くのですか。その大陸広いですよ。」
最もな質問である。
「東方のガルダ島あたりだな。」
ラティは、意外と地理に関してその辺は詳しい。
「ガルダ島?」
リュートが当然のように疑問に思った。
「ガルダ島というのは・・・」
チキが詳しく説明した。そうマルスがリーベリア大陸の遠征の拠点になったところである。
「つまり、情報収集に適しているということですね。」
「そうだ。」
ラティがうなずいた。
「じゃあ、リーベリアのガルダ島を目指していこう。」
そう言って、海の向こうを指差した。
「リュート様、そっちはユグドラル大陸ですが。」
「・・・」
しばらく沈黙が続いた。とにかくリュート、ミリア、ラティは竜石で神竜に変身したチキに乗ってリーベリア大陸を目指した。しかリュートを始め、この四人ははこれから始まる大きな運命にもまれることは知らない。

 

 

 

 

 

最終更新:2011年12月30日 18:23