ここはユグドラルにある大砂漠地帯イード、そこにある小さな町で仲の良い双子の兄妹が寄り添う形でひっそりと暮らしていた。名前は兄ロキ、妹のユキと言う。そして二人の傍にはいつも銀色の髪をなびかせた長髪の男の姿もあった。名はホルス、二人の親代りをしていた優しい青年であった。だが彼を含め三人には忘れられない悲しい生立ちを持ち、過酷な運命を背負う事となる。そして、それが後の全世界をまたにかけた大戦争にまで発展しようとは誰が想像していただろうか・・・.。
その町にある小さな家、そこに三人が住んでいた・・・「ロキ兄ちゃん、どうしたの?窓の外ばかり見て・・・」銀色の髪をした少女ユキが、同じ色の髪をした双子の兄ロキに軽く囁いた。だが彼は窓の向こうの景色をぼ~っとしていたのか彼女の声に無反応だった。何度も彼に囁いても彼は窓のほうを見ているばかりだった。これに頬を膨らませたユキは彼の竜族の特徴である長い耳を持って
「お兄ちゃん聞いているの~!」
と直接耳の穴目掛けて大声を出した。彼女は兄を始め、他人に無視されるのが嫌で、時たまこの方法などで無理やり聞かせる悪い癖を持っていた。これにロキはたまらず悲鳴を上げて転倒した。
「な、なんだユキか、また耳鳴りがし始めてきた・・・」
ロキが起きあがりながら言った。彼は何度もこれに悩まされており、い い加減止めてくれと何度も言っているのだが、天然な彼女には全く聞く耳持たずであった。
「お兄ちゃんが悪いの、それより外ばかり見ても何にもないの。故郷と違ってこの町一帯は砂漠だらけだから・・・」
ユキが言うとロキが
「ユキ!それ以上言うな!!」
と怒鳴るように言った。これに彼女の顔が一瞬こわばった。これを見てロキはユキをたしなめるように
「・・・すまない、昔の事を思い出したんだ。そう、あいつら『光の悪魔(ラグナ神軍のこと)』に故郷も親も仲間も奪われたあの日のことを・・・」
と彼女に言った。それを聞いてユキは
「ねえロキ兄ちゃん、何時になったらお家に帰れるの?」
と突然涙ながらに聞いた。ユキの言っているお家とは故郷であるタリス諸島の事であった。二人は本島より少し南にある名もなき小島で誕生した。そしていつしか竜族の間では<神竜の隠れ里>と呼ばれ、その名の通り神君マルスと共に戦ったあのチキの他にも神竜族がいた。ロキ、ユキの兄妹はその族長で昔王ナーガに仕えていた神竜ラディンの子として生まれた。始め彼ら竜族はドルーア付近で住んでいたのだがナーガ死去後何かを恐れるかのように土地を離れた。そして400年以上にも及ぶ長い放浪の旅の末、その小島に行きつき、しばしの平和を満喫していた。しかし当時のタリスは人間の部族同士の争いが激しく、さらに大陸では暗黒竜メディウスの反乱等があり平和という平和は来なかった。あれから100年以上の月日が流れようやく彼らにも安らぎの日が訪れた。勿論神君マルスの登場であり、彼らの活躍は「人」のみならず「竜」をも救ったと言われている。
だが月日が流れ、その思いが打ち砕かれる魔の侵略がおこった。正体不明の軍がこの里を襲撃し始めたのだ。始めは近頃暴れていたドルーアの残党だと思っていたが背後にいる強大な「闇」に気付き、族長ラディンは彼の命の元その子ロキ、ユキを始めとする当時戦争に向かなかった者達を地下にあるワープ型魔法陣で大陸の外へと逃がし、自分らは侵略者を迎え撃つ決心をした。しかし数や戦力がラディンを上回り、さらに今まで見たこともない「竜」の圧倒的な強さの前に敗れ去り、里は制圧、彼らの行方も知れなかったと言う。一方ロキ、ユキ達も一時はリーベリアに脱出するもゾーア人に変わって大陸を支配していたユグド人(その内の特にリーヴェ人種)の徹底した迫害、さらに里を襲った軍の襲撃に遭い逃亡、ユグドラルへと亡命した。その途中謎の詩人ホルスに助けられ彼の実家があるイードに留まる事が出来た。しかし度重なる逃避行の末ユグドラルに渡れたのはロキ、ユキだけで、他の者達は途中またしても里を襲った軍隊などに襲われ行方知れずとなってしまった。現在二人はそのホルスの実家に居候と言う形で住んでおり、生活は豊でないとは言え一時の安らぎを味わう事ができ、今に至る。後の彼の証言により里を襲った軍隊の正体は昔父ラディンが仕えていた主君ナーガによって追放された神竜ラグナ、そして彼らに従う「ラグナ神軍」である事が判明した。
ロキはそれらの事を思い出したのかまた考えこんでしまった。それを見かねたユキがまた耳をつかもうとしたが、家の玄関のドアの方から「ただいま」と言う声が聞こえた。
「!?ホルスお兄ちゃんだ」
ユキが真っ先に玄関の方へ駆け寄った。その後にロキが続く・・・。そしてそこには、まるで長旅から帰ってきたような格好をした銀髪の青年ホルスがいた。
「ホルス兄さん、おかえりなさい」
笑顔のロキが真っ先に言った。そして同じく笑顔のユキも嬉しそうに言った。二人の出迎えを見て初めは旅の疲れを見せていた彼の顔にも漸く笑みをこぼし始めた。
「二人ともお元気そうで・・・」
「うん、ここの町のみんなは私達に優しいし、何よりも私達を『人』として扱ってくれてる。かつていたあのリーベリアとは大違いよ」
「ユキ、他人の悪口はやめろと言っているだろう」
「だって本当のことだもん!私達を異教徒だとかゾーア人だとかで散々な目に遭ったんだから・・・。あんなとこ、二度と行きたくないもん!!」
ユキが膨れた顔をして言った。これにはロキもため息をつくしかなかっ
た。これを見てホルスは苦笑いするしかなかった。
「まあまあ、それより私を中に入れてくれませんでしょうか・・・」
これを聞いてユキが慌てて彼を部屋の中に入れた、そして彼女は「飲み
物を持ってくる」と言い台所のある方へ向かった。これを見て、
「ユキは元気ですね」
とホルスがロキに聞いた。
「元気過ぎるだけだよ、何度叱ってもけろっとしてるし、物覚え悪い
し・・・でも僕にとってはたった一人の妹さ」
大の妹思いであるロキが言った。これにホルスの表情が暗くなった。
(何とかしてあげたいのだが、こればかりは私でも・・・)
ここは部屋の小さな一室・・・
「ロキ、ユキ、二人がこの家に居候してからかれこれ五年以上は経ってはいますが、もうこの生活には慣れましたか?」
ホルスが改めて二人に聞いた。するとユキが
「平気よ、ホルス兄ちゃんも帰ってきたし、ロキ兄ちゃんもいるし、町のみんなもユキ達に優しいから・・・」
「あの時は里に帰りたいって言ったくせに・・・」
ロキが言うとユキは頬を膨らませて
「あのときはあのとき、いまはいまだもん!!」
と、始めロキに言った発言を撤回するような言い方をした。これに彼は軽く溜め息をついた。
「ホルス兄さん、旅はどうだったの?」
ロキの問いにホルスが暫く沈黙を保っていたが
「・・・一応平和なのですが、『光の悪魔』ラグナの侵攻は着実に進んでいます。現に旅先だったリーベリアで二つの町が滅ぼされました。あそこの人間達はあのゾーア人のせいだと噂してますが、明らかに奴らの仕業ですよ」
「じゃあ人間はラグナの存在には・・・」
「ええ、おそらく誰も気付いていないでしょう。私も出来る限りの事は尽くしましたが・・・」
ホルスが軽く溜め息をついた。
「だったらあのチキ様に頼めばいいじゃん。あの方は私達と同じ神竜さん、しかも神君様の仲間だった方だからきっと力を貸してくれるよ」
「あのなユキ、それが可能だったらとっくにやってるよ。それが出来ないからこうしているんだ」
「何で、お兄ちゃん?」
事情も知らないユキがロキに詰め寄った。するとホルスが彼に代わってこう話した。
「チキ様の周りにもラグナ神軍の息のかかった奴らが取り囲んでいるのです。何時だったか、ラグナに滅ぼされた竜族の生き残りの家族がチキ様にこれらの実態を伝えようと、当時彼女がいたアリティアに駆込もうとしたのですが寸前で兵士達に抑えられました。こうしてその家族はチキ様はおろかアリティア王に会える事なく、しかも貴族の勝手な判断でドルーアの残党扱いされ島流しにされたとか・・・」
「殺されたんじゃなかったの?」
ユキが不思議そうに聞いた。
「ええ、ですがある意味死ぬほうがマシだと思います。なぜならその流刑所が奴等の根城の一つなのですから・・・」
「それってまさか・・・」
「そうです、彼らの中にもラグナの息のかかった者達もいるという事です。さらに言うなら、チキ様や神君様の子孫たるものもその存在には気づいていないのが現状・・・」
ホルスが淡々と話したそれに対してロキが
「兄さん、一つ聞きたいんだけど・・・かつて人間たちの中にラグナの存在を気づいた者はいなかったの?」
「多分いないはずです。ラグナは用心深い男、決して表舞台には出てこず、世界各国に派遣している工作員によってこれらの混乱を遂行しているのです。それゆえ今まで奴の姿を見た者はいません。仮にいたとしてもそれらは洗脳されラグナ神兵にされるか、逆賊扱いされ消されるか、もしくは『闇の世界』に落されるかのどちらかでしょう・・・」
「闇の世界って父さんから聞いた事あるけど、確か神君様が使っていた封印の盾によって・・・」
ロキが父と一緒にいた頃を思い出しながら言った。
「甘く見てはいけません。あの男の身分は未だ神竜、しかもかつてはあのナーガ様と肩並ぶ権力を持っていた男です。それゆえ封印の盾なぞ奴の手にかかれば何時でも・・・」
「ホルスお兄ちゃん詳しいのね・・・」
ユキが感心した。するとホルスが
「私の本職は旅の詩人、この事ぐらいは風の便りなどで自ずと耳に入ります。まっ、それだけではありませんがね・・・」
と何かを思い出したのか暗い表情となった。
「ねえねえホルス兄ちゃん、ふと思ったんだけど、何でチキ様だけは無事なのかな?ナーガ様の娘だからかな・・・」
「そこまでは私にも分かりません。言えるただ一つ、奴はチキ様をまだ利用価値があるとでも思っているのでしょう。何に利用しているかは私にも・・・」
「それより兄さん、さっき言っていたよねあの家族の事、あれからどうなったの?」
ロキが少し前に彼が話していたアリティアに駆込んで捕まった竜の家族のことを思い出したように言った。
「あれですか、たしか親は処刑されたと思います。そして残された子供の方は一時は兵士として洗脳されていたのですが、それが解除されてからは『闇の世界』に捨てられ、地獄を見ていたと思います・・・」
ホルスはその事を話すのか辛いのか言い方がぎこちなかった。
「地獄か・・・だとすると父さん達はもういないと言う事か・・・」
「お兄ちゃん・・・お父様は・・・きっと生きてるよ・・・」
ユキが突然泣き声になった。二人はかつて心の中に封印されたあの忌まわしい出来事を思い出したのだった。ロキはそれを思い出したのか
「ユキ、僕もそう信じたい。でも今までの話を聞いてどうしたらいいか・・・」
と言い、彼の目が涙で光った。昔、里を追われてから、決して流してはなるまいと思っていた涙が再びこぼれ始めたのだった。
「お兄ちゃん涙・・・」
「なんでだろう、里を追われたあの時でもう全部流れ尽くしたはずなのにどうして・・・」
するとホルスが二人が泣き出す前に涙を拭いた。すると、
「ありがとう・・・それよりホルスお兄ちゃん、何で私達に優しいの?家を貸してくれたり、それに剣術や魔術とかを教えてくれたり・・・」
ユキが半分泣き声で聞いた。
「それは、私だけでなくここの者たちがあなた方の苦しみを一番よく知っているからです。これ以上我々竜族に不幸をもたらしたくありませんから・・・ですが奴らに阻まれチキ様達の支援が得られない以上、自分の身は自分で守らなくてはなりません」
「それってまた旅に出ちゃうの?それに私達は『竜』になっちゃ駄目なの?」
ユキの問いにホルスが軽く頷いた。
「・・・いずれにせよ、『竜』の力だけでは対抗できないでしょう。それに人間と言う種族も満更すてた生き物ではありません。ひ弱な種族とは言え時として『竜』、いえ『神』をも超える力を発揮する事だってあ
るのですよ・・・」
「どう言うことなの?」
「いずれそれがわかる時が来るでしょう・・・」
ホルスはそう二人に言い聞かせた。
さてところ変わってここは未開拓の地エレブ、その東方に位置するベルンの遥か奥に立派な神殿が建てられていた。その神殿内では・・・
「竜狩りの方は進んでおるか?」
白きローブを身に纏い、そこにいるだけでも威圧感を感じる竜族らしき男が彼の前に立っている竜族の少年に問いかけた。
「はっ、抵抗する輩もいましたがそれ以外は順調に進んでおります」
「そうか、それはご苦労、だがわしの野望のためにはまだ足りぬ、特に神竜族だ、わしの計画が完全な物にするためには神竜の力が必要なのだ!!」
「ですがラグナ様、もはや神竜と呼べるのはあのナーガの娘のみ、でしたらあの小娘も狩ってしまった方が・・・」
少年はその男-ラグナに尋ねた。するとラグナは
「ブローよ、あの娘にはこの先起こる混沌の時代のために働いてもらわねばならぬ、奴を狩るのはその後でも遅くはあるまい。とにかくそのための『破壊者』が必要なのだ、もはやガーゼル、メディウスのような木偶どもでは役に立たぬわ!!」
と言い放った。その時二人の前に赤髪の少年と青髪の少女がやってきた。何れもその井出達は部隊長のような格好をしていた。
「お前達は我に仕えるラグナ四竜神の火竜ネクロスに水竜ミューか、どうした?」
「未確認ですが、我が担当しているユグドラル大陸にて神竜らしき子供らの姿が目撃されたそうです」
赤髪の男-ネクロスが言った。この報告にラグナの顔色が変わった。
「なんだとそれは真か!!」
「未だ未確認ですからなんとも言えません。既に我が工作員や火竜部隊を使い実態を探らせているところです・・・」
「だが例えそうだとしても、お前の担当しているあのユグドラルは、既に竜狩りが済んだはずではなかったのか?」
ブローがネクロスに聞いた。
「それは・・・」
ネクロスが言いかけたとき青髪の少女が
「恐らく地竜クラウス達が昔滅ぼしたあの里の竜族ではないかと・・・」
「あの里?ああ、ラディンとか言う神竜とその輩どもがいたあのちっぽけな島にいた奴らか・・・確かその残党どもはミュー、貴様が全て狩ったはずではなかったのか?」
「確かに、ですが少し気になることがあり、現在私が担当しているリーベリアにて工作員を使いその後も続けておりました・・・」
「その取りこぼしがユグドラルヘ逃げ込んだと言うのか?」
ラグナが二人に問うた。そして二人が軽く頷いた。
「ネクロスよ、おまえは我が直属筆頭ブローを連れ今すぐユグドラルヘ向かいその真意をこの目で確かめて来い!!もしそれが真実ならわしの元へ連れてくるのだ、もし逆らうならブロー、お前の能力を使い『魔』にしてしまえ!!」
「はっ!!」
ネクロス、ブローはそう言って神殿を後にした。
「ミューよ、わしは何度も言ったはずだ。あそこはゾーアの豚どもを使えば良いと、何ゆえ貴様の部隊のみ使う必要があろうか?」
二人が立ち去った後、ラグナがミューに問質した。
「それは・・・彼らが役に立たないからです。今のゾーア人のそのほとんどがガーゼルから離れてしまったのです。その彼らにどう利用せよと・・・」
「ならば奴らにそれを思い出させれば良かろう。貴様がその気になればあの木偶どもを復活させ、さらに例の奇跡をも生み出す事くらい出来るはずだが」
「ですがそれは・・・」
ミューが口を濁すと
「ならばこうすれば良い、『ユトナの四人の娘の血を引く巫女を生贄にすればガーゼルが降臨し、それを倒せるのはユトナが遺した聖剣のみ』と世間に流せ!」
「ラグナ様!!いくら何でもありもしない事を・・・」
「これは命令だ!なぁに、その演出くらいあいつがいれば十分だ、分かったな!」
「・・・分かりました・・・」
ミューは悲しげな表情で立ち去った。彼女はただユグド人らに迫害されているゾーア人が不憫でならなかっただけであった。それゆえ実際ミューは竜狩りには自分の部隊しか使っておらずゾーア人らを利用した事は一度たりともなかった。ミューが立ち去るのを見てラグナは
「相変わらず反抗的な小娘よ・・・」
と愚痴をこぼした後四、竜神筆頭風竜ラオウを呼び出した。
「ラグナ様、お呼びでしょうか・・・」
そして緑髪のしたセイジの男-ラオウが風のように現れた。彼はこの竜殿の最強の守護者にしてラグナに絶対忠誠を誓う忠義の者、そしてラグナの娘魔竜イドゥンの身の回りの世話をやっている男でもる。そしてラグナは
「四竜神ラオウよ、イドゥンの様子はどうだ?」
「はっ、なんの変わりもなく安静ですが・・・それより先程ミューが悲しい顔をして持ち場へと戻られましたが・・・」
するとラグナはこれまでの事を話した。
「そうですが、ですが彼女は未だ子供です。後で私がこの事を説き伏せておきましょう、ついでにリーベリアでの件もゾーアのせいにしておきます」
「うむ、任せたぞ・・・」
ラグナが軽く頷いた。用心深いラグナにとってラオウは絶対的な信頼をおける男であるため。この男の前では上手く話すことが出来るのだ。
「それよりラグナ様、あのブローとか言う少年、余り重用なさらぬ方が・・・」
「何故だ?」
「あの男は『人』を甘く見てます。ラグナ様もご存知のはず、人間は時として我らを凌駕する力を発揮する事を、いくら能力に優れた『魔』とは言え・・・」
ラオウが説き伏せるように言った。
「確かに貴様の言う通りだ。人間はひ弱だが恐ろしい生き物でもある。下手するとこのわしまで倒される可能性はあろう。あの木偶どもが敗れたのは人間を甘く見ていたからだ。ならばその力を発揮させなければ良い。そのための竜狩りでもあるのだからな・・・」
ラグナが言った。彼はメディウスらのような破壊者の力を掌握する方法で解決しようとしていた。つまり破壊者達は確実に倒れるように体内に爆弾を仕掛けたり遠隔操作で操ったりと色々な方法で奴らを何時でも消せるようにしようと考えていた。
「ブローにもきつく言っておく、人間を侮るなとな・・・」
「分かりました、それでは失礼致します」
ラオウはそう言うなり立ち去った。
「愚かなるナーガよ、見てるが良い。貴様のような甘いやり方では竜は繁栄しないのだ。人間どもは常にわしの監視下にある。精々貴様らの作り上げた伝説、利用させてもらうぞ。わしの野望確立のためにはその伝説が必要なのでな・・・」
ラグナは腰にかけてある強大な光剣を天に掲げながら高笑いして言った。
そしてその夜・・・
ホルスは一人町の外へと出て、少し北にあるオアシスの方へ向かった。そしてそこに着くな否や彼は天を仰いでこう言った。
「神君マルスよ、どうかロキを始めとする残されし『竜』を、ラグナの支配よりお救い下さい、そして・・・」
ホルスが次の言葉を言いかけたとき明らかに山賊だと分かる風貌の男達がやってきた。そしてその手には剣や斧などを持っている。
「少し前、ロキ達が話していた賊どもですか、何しに来たんですか?ここは貧しい者達しか住んでいませんが・・・」
ホルスがそう言い放つと
「そうじゃねえ、俺らが用があるのは神竜とかいう『竜』の方だ。この付近に住んでいるって言う受け売りがあったからな・・・それに、そいつらを高く買ってくれる商人がいるって話しだからよ・・・」
頭目らしき男が不気味そうに言うと
「(ラグナの仕業か、ならば・・・)生憎ですがここにはそんな竜いませんよ。『魔竜』ならいますがね」
とホルスが言った。すると賊達がゲラゲラ笑い出した。
「こいつ頭おかしいぜ。魔竜だってよ、聞いた事ねえや・・・」
「おかしいのはあなたの方ではありませんか?賊の分際でここを汚そうとは・・・命が惜しかったらここから立ち去りなさい!!」
ホルスの一言に賊達が怒った。
「このおっさん、生意気な口叩きやがって・・・おう、やっちめぇ!」
そう言って頭目を始めととして賊が一斉に襲い掛かって来た。
「やれやれ、出来れば使いたくなかったのですが、こう数が多くては仕方ありませんか・・・」
ホルスはそう言って黒い石のような物を取り出した。そして・・・
「ぎゃあああぁぁぁぁぁ―――――」
終わってみれば、その丘の上に立っていたのは、多少疲れ気味のホルスだけで、彼を襲った賊達の姿は誰一人見当たらなかった。
「終わりましたか・・・」
ホルスが言うとそこへ一人のバードらしき緑髪の男がやってきた。
「魔竜さんが地上にいるとは驚いたな」
「!?」
「心配いらん。俺はあんたを討伐しに来たわけではない」
男が言った。それを見てホルスが
「あなたは誰ですか?奴の手先か、違うのか、答えなさい。返答次第では先程灰にした賊どもと同じ運命を辿ることとなります」
「奴?あの陰険野郎のことか、昔はそうだった。だが今はただのお尋ね者だ、それがどうした?」
その一言にホルスがじっと彼の目を見つめていたが
「・・・なるほど、どうやら悪者ではなさそうですね。目を見れば分かりますよ」
と少しばかり緊張が解れ出した。すると男の方も
「フン、魔竜にも色々いるものだな・・・」
「そうは言いますが、『心』を持っている竜は私だけですよ」
「『心』か?あの陰険野郎ならやりかねんな・・・」
男は突き放すように言った。
「そう言えば昔はそうだったと言いましたが・・・」
「あれか、俺は好きで加わったわけではない。うちの族長は相当無能かつ臆病でな、あの陰険野郎に恐れをなして勝手に降伏しやがった。そのせいで残された俺達は巻き添えを食らったんだ。そして俺の妻子とは引き離され奴の部下としてやむなく働かされていたのさ、そして色々あってこうしているんだ!」
「ロキ様達のお父上とは大違いですね・・・」
ホルスは小声で言った。
「なんか言ったか?」
「いいえ、なにも・・・それより妻子には会ったのですか?」
「初めは会おうとした。だが俺の脱走は奴らにも気づかれ・・・」
「会う事すらできないと言うことですか・・・」
「そうだ、現に実家の周りには人間になりすました奴らの工作員がうろついていやがる。一度知られたら俺だけじゃない、息子達まで捕まってしまう。そうなりゃ奴の手先として洗脳されるか反逆者として消されるかのどちらかだ」
「彼女達は奴の存在には気づいていないのですか?」
「おそらくな、だが如何しても息子だけにはこの事実を伝えたいのだ」
「そうですか、私の方も色々あってこんな姿にされました。ですがこの呪われた力は断じて奴のためには使いません!!」
ホルスは意を決したように言った。
「そうか、ならば心配は要らんな。できればおまえともっと話をしたいところだがそうも言ってられん、ここでお別れだ」
「・・・そう言えば名前をお聞きなさっていませんでしたね」
「そう言えばそうだったな、俺の名は風竜族の竜シレン、付け足して言うなら息子の名はセティ、風の子フォルセティだ!!」
「風竜族のシレンですか・・・私の名はホルス、昔までドルーアにいた元神竜族です!」
「元神竜族?!やはり魔竜に関するあの噂は本当のことだったか・・・ホルスよ、いずれ会おう・・・」
そう言ってシレンは風のように立ち去った。
「まさかあの風竜族に生き残りがいたとは・・・」
ホルスが軽く呟くと冷たい風が異常に強くなり始めた。
「そろそろ戻りましょうか・・・」
ホルスはそう言って家の方へと戻って行った。