アットウィキロゴ

 時はサリア王国内で王族同士の戦いが始まり、ウエルト王国がその進退を決めあぐねていた頃、ソラの港にこぢんまりとした船が入ってきた。外見からはリーベリアにはない船であったが、ソラの市民はその船のことなど気にする余裕もなかった。それほど今のウエルトは混乱した状態にあった。その船は一組の男女を下ろして、そそくさと港を出てしまった。その後部にはユグドラル大陸の北部にあるシレジア王国の中のトーヴェ領を治める一族の家紋が貼り付けてあった。
 船から下りた男女は二人とも盗賊のように身軽な風貌であった。しかし女性の方は一つ、立派な弓を持っていた。彼らの名前はデューとブリキッド。ユグドラル大陸で仁義の旗の元に集ったシグルド軍の勇者である。しかしバーハラの戦いでリーダーのシグルドはだまし討ちにあい死亡して、残った者たちは散り散りになってしまっていた。そして彼らも命からがらシレジアに逃れた二人は後にティナが台頭してくるトーヴェの領主の助けでこのウエルト王国まで来たのだ。ただ逃亡の途中、ブリキッドは二児を授かっていたが、彼らはもともと配下にあったオーガヒル海賊によってマンスター地方に送られていた。その過程で聖弓イチイバルも彼らとともにあり、ブリキッドが手にしているのは義理の弟ジャムカから預かった勇者の弓(リーベリア大陸でいうマスターボウ)である。もちろん彼らの父親は彼女の側にいるデューである。
 二人は安息の地を求めてグラムの森のはずれにある村を訪れた。その間、二人は幾度か混乱に乗じて暴れているトーラス山賊に遭遇していたが、シグルド軍最強のスナイパーに、すばしっこいだけでなくシグルド軍にいるうちに磨きぬかれたシーフファイターの前には軽く蹴散らされるだけだった。しかもデューはどさくさに紛れて彼らから現地のお金を盗む始末であった。おかげで二人はその村で約一ヶ月、宿屋に住みながら現地の人々となじむことができた。二人はその村が気に入り、村のはずれに小屋を作り、ここに住むことにした。しかし彼らは戦うことが出来ても家を作ることをできるはずがなかった。結局、二人は村人の助けを借りながらも半年かけて小屋を作り上げた。二人で住むにはいささか不便だったのかもしれないが、その村に住めることが二人にとっては満足だった。だがそこには弓神ブリキッドの姿はなくなろうとしていた。

 二人がグラムの村に住み着いてから2年後、サリア王国の内紛を見守るウエルト王国は以前の安定を取り戻しつつあり、イスラ海賊とトーラス山賊の討伐に全力を注いでいた。まずウエルト軍はイスラ海賊にとってウエルト侵攻の拠点だったマルスの町を解放した。それからも休むことなくトーラス山賊の本拠地のトーラス山を包囲した。だがこの行為が逆にトーラス山賊の行動を激しくしてしまうことになる。逆上した山賊はロトの村を中心に活動を激しくしていった。もちろんブリキッドたちのいるグラムもこの山賊の脅威にさらされていた。だがその間もデューによりその情報を逐一村に届けつつ、デューと心を共にする村人と共に撃退されていた。ところが
「大変だ、ブリキッドさん!デューさんがひどい手傷を負って戻ってきました。」
「なんだって!」
村人がブリキッドの小屋にこう叫びながら入ってきた。ブリキッドはその知らせに驚き、デューが介抱されているという小屋にはいった。そこには斧で腹をえぐられたのか、血まみれになっているデューの姿があった。ブリキッドの姿を見つけたデューは弱弱しく言った。
「姉貴、すまねぇ。まさか山賊が伏せていたなんて思っていなかったんだ。とにかく今は一刻も早く皆を裏山へ避難させてくれ。」
山賊もデューとの戦いで知恵をつけて、伏兵という戦法を身につけていた。そして普段のデューなら気付くはずだったが、今までの余裕がデューを油断させ重傷を負わせた。村にはもう戦える人間はブリキッドだけだった。それで勝ち目はないとふんだデューは彼女に村人を避難させて欲しかった。
「わかった、デュー。でもあたいは戦うよ。あんただって今まで戦ってこれたんだ。聖戦士のあたいに出来ないはずなんてない。」
その言葉にデューが反論しようとしたが、ブリキッドのその目を見ては言えるはずもなかった。それは5年前、シグルドと共に戦っていた時と同じ目をしていた。そう『弓使いウル』の血がこの異郷の地で、恋人の危機によって、再び燃え上がったのだ。
 デューたちを打ち破った山賊たちは勢いに乗り、村に襲い掛かろうとしていた。ウエルト軍はようやくグラム砦を出たばかりで、もはや村が襲われるのは誰の目から見ても確実だった、彼女がいなければ・・・。村の門には一人の女性が立派な弓を構えて立っていた。もちろんブリキッドである。次の瞬間、ブリキッドに目掛けて50もの弓矢が一斉に飛び出していた。
(弓神ウルは矢の雨の中を無傷で通り抜けた。)
彼女の出身であるユングヴィ家に伝わる逸話である。妹・エーディンから聞かされたこの逸話をブリキッドはこの時、つぶやいていた。その逸話をつぶやいたからなのか、矢はブリキッドを避けるように飛び去っていった。もちろんブリキッドにかすり傷一つもない。次にラケルが勇者の弓を構えた。山賊はさすがにひるんだ。
「次はあんたらの番だよ。あんたらには本物の矢の雨を見せてやるよ。覚悟しな!」
そう言って、ブリキッドは神技ともいえる50連射を始めた。彼女の弓からは休むことなく、矢が発射されていく。しかもそのスピードも山賊のものとは比べ物にならなかった。それをその名のとおり、矢継ぎ早に50本の矢を放っていた。これらの矢は見事に山賊の足や腕を捕らえていた。わずか50本の矢で100人いた山賊のうち半分が戦闘不能になっていた。山賊はそういった者を収容して我が先にと逃げ出した。もしここで怒りに任せて攻めてきていれば、ブリキッドは負けていた。矢が尽きていたからだ。たとえ優秀な弓があろうとも矢がなければ、木の棒となんら変わらない。だがブリキッドに矢の雨をくぐられ、それどころか逆に矢の雨を全弾命中させられたら、どんな死兵でも追い詰められてしまうだろう。ましてや相手はただの山賊である。ブリキッドはこれを狙っていた。
 誰も殺すことなく村を守ったブリキッドはもちろん村の英雄となるどころか、後のウエルトに広がっていった弓神ブリキッドの伝説にまで発展した。だが平凡な生活を望むブリキッドはそれから村を去り、グラム郊外の山中で傷の癒えたデューと共に密かに暮らした。こうしてブリキッドは歴史の表舞台から完全に姿を消した。ブリキッドはその後、ユグドラルに戻ったとされるが、その前に二人の子供をこのウエルトに置いていった。その名をラケル、もうひとりをルカという。特にブリキッドの面影を残すラケルは後にリュナン軍で弓神と称えられる活躍をしたことはいうまでもない。

 

 

 

 

 

最終更新:2011年12月30日 18:43