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 「ミカもアトスも言いたいことは一杯ありそうね。」
ナバダ砂漠から少し離れたところに転送されたアトス、ミカたちに、同じく飛んできたセーナが二人の様子を見て言う。特にアトスは今まで見せたことのない表情をしている。あまりのショックに気を失っているのか、アトスに背負われているリディアに気付いてセーナは言う。
「彼女はアトス、あなたが面倒を見てあげて。まだナバダ残党は別の箇所で戦っているから、彼らと合流させる。だけれども、真実は絶対に伝えてはならない。それこそここで彼らが死んだことが無に帰するのだから。」
どことなくセーナも苛立った口調をしていることにミカは気付いた。やはり心のどこかではエバンス以上の殺戮を起こしたことが引っかかっているのだろう。
「アトス・・・。」
ミカが返事を促すと、息子は明らかに不承不承のような表情ながらも頷いた。
「アトス、あなたはハルトムートと合流して、行動を共にすること。命令としてはそのまま海岸線を進んでいくこと。」
セーナの命を聞いたアトスは軽く頷いて魔法陣に身を委ねて飛んで行った。
「セーナ様・・・。」
今度はセーナに対して危ぶむ視線を送るが、この頃にはセーナも気持ちを切り替えたのか、いつもの口調に戻っていた。
「私は一度リーベリアに様子を見に行ってくるけど、あなたも一緒に来る?」
(行った所業が変わるわけではないから、開き直ったところかな。)
ミカはそう判断するも、やはり1人にするには危険と見た。
「もちろんです。それからはルーファスと合流するわけですね?」
一応どう考えているのかをミカは聞く。何も考えなしに行動していないか、確認するためである。
「そう、そして上陸場所を見極めて、侵攻拠点を固める。」
「了解しました。」
「じゃあ、行きましょうか。」
そしてミカと共にリーベリアへ飛んだ二人はアルドとクレスの戦いに乱入して、セーナはついに父を討ち取った。どこまでも運命は苛酷であった。

 一方、ラオウと言う絶対的な柱を失ったラグナ軍も少しの間、対応策をどうすればよいのか、見失っていた。ラオウ軍の応援に向かっていたネクロスはミュー共々、援軍に間に合わなかったことを後悔し、復仇のための戦いのためにナバダへの進撃を続けようとしていた。しかしそれをミューは止めた。
「やめなさい、ネクロス!どのような手を使ったかはわからないけど、ラオウ様が敗れたのは事実。そのような手段をまた使われれば、私たちとて手足が出るはずがないわ!」
「だが、あのラオウ様を討ったのだ。セーナとてまともであるはずがないだろう!」
「そんな希望的観測で進んで、最悪の展開となれば私たちは何もできずに瞬殺されるのよ!?」
「グ・・・じゃあ、どうすればいいんだ。」
「とりあえず、まず私たちも態勢を立て直して、自分たちの有利なフィールドに敵を呼び込むことが大事。だから私は北方で待ち構えるつもり。」
一瞬なるほどと頷くネクロスだが、ハッとしてミューに返す。
「ち、ちょっと待て。お前はそれでいいが、俺の有利なフィールドってどこだよ。」
「フフ、ようやくいつものあなたに戻ってきたみたいね。ま、そこはあなたに任せるわ。」
どうやらミューはネクロスにいつもの思考に戻ってもらうために、敢えてからかっていたらしい。それに気づいて、ネクロスは軽く舌打ちする。
「やっぱりお前には敵わないな。わかった、俺は南方で適当に迎え撃つ。」
そして二人はそれぞれの道へと向かっていく。この間、二人は主君ラグナに対して何も打診はしていない。あくまで彼のために戦ってはいるものの、竜殿から動こうとしない彼の指示は受けない意向を決めた瞬間であった。
 「お、そうだった。」
といってネクロスはある者を呼び出した。
「お呼びですか?」
出てきたのはネクロス軍で四炎に代わって急速に力を付けてきた火竜ヤアンだった。
「前のサウス・エレブでラオウ様が取り逃がしたという残党は見つかった?」
「ハッ、実は西海岸沿いにそれらしき一団がいるという情報が入りました。奴らは謎の塔に潜んでいるということです。」
「なら、ヤアン、お前はそいつらを捕えてこい。セーナたちへの人質としてやる。殺しさえしなければどうやっても構わない。」
「かしこまりました。すぐに向かいます。」
「頼むぞ。俺はサウス・エレブ付近で待っている。」


 翌日、ルーファス率いる海軍艦隊の元にセーナとミカが戻ってきた。
「セーナ様、お帰りなさいませ!」
元気よく挨拶をするルーファスに、セーナは久しぶりに良い笑顔を見せた。
「ふふ、やっぱりあなたの笑顔には癒されるわね。・・・ちょっと疲れたから船の中で休んでるわ。今後の方針についてはミカに聞いてちょうだい。」
さすがにナバダで巨大な魔力を解放し、レダで実父を討った直後であるためにセーナは疲労困憊していた。船の苦手な彼女でも今ならばすぐに睡魔に身を委ねることが出来た。今の感覚に忠実に従ってセーナは船室に戻っていった。
「セーナ様、ひどくお疲れになっておられますね。」
「ああ、表向きは笑顔を取り繕っておられたが、どう見ても精神的に憔悴されてるように見られた。あんなセーナ様は見たことがない。」
ハノンとバリガンが小声ながら会話している間に、ルーファスはミカから今後の方針を打ち合わせしていく。
「ずいぶんと北上しましたが、やはりこれだけの船が上陸できる場所はなかなかありません。気がつけば西にも大きな島が出てきたのでそろそろ上陸した方がいいかと、ノア提督と話ししていたところです。」
「そうね、小舟を使っての上陸は効率が悪いけど、そろそろ上陸しないと兵たちも使い物にならなくなっちゃうかもね。」
「では明日、明後日にでも。」
「ええ、それでお願いするわ。セーナ様には私から伝えておきます。」
こうして簡単な軍議を終えた海軍艦隊は今まで通り、大陸の海岸に沿って北上を続けていく。


 そして翌日、ルーファスたちの目にある巨大な塔が見えてきた。
「あの塔は?」
船員たちが少しばかりざわめいていると、目のいいハノンがその塔にいる軍勢に気付いた。
「あそこの軍勢に双竜旗が見えます!」
「だが、よく見ろ。麓にはラグナ軍と思える竜たちが群がっているぞ!」
その竜の軍勢こそが今日の朝に着いたばかりのヤアン隊であった。
「す、すぐにセーナ様に連絡を。」
ルーファスがそう言うが、肝心のセーナは騒ぎを聞いて上がってきていた。
「全く、何のためにルーファスをこの艦隊の大将にしているんだか。私のことも気にしない指揮してくれたって構わないのに。」
小言を言うあたりは彼女もようやくいつもの感じに戻ってきたのだろう。苦笑してルーファスは誤魔化すが、それを見てセーナは
「まぁいいわ。とりあえずハノンにロングボウ部隊を任せて上陸させて。レイラがその上陸の援護をすること。」
と即座に命を下していく。
 ふとセーナはファルシオンが光輝いていることに気付いた。
「セーナ様のファルシオンも輝いているんですか?!私の持っている杖も同じなんです。」
そう言ってきたのはエリミーヌであった。彼女の持つ杖は聖女の杖と呼ばれており、ファルシオンほどの歴史はないものの、代々カダインに継承されてきた杖である。その杖もまたファルシオンと同じように共鳴するかのように輝いている。そればかりではなかった。ファルシオンと聖女の杖の光に合わせて、目の前にある巨大な塔も光り輝き始めていた。
「あの塔がファルシオンと同じ魔力の波動を放っている・・・。まさかあれもファルシオンが生み出した副産物というの?」
考え始めるも、セーナはその可能性を信じてみた。
「エリミーヌ、その杖に魔力を注ぎ込んで、あの塔に送ってみて。私の勘が正しければ、恐ろしい武器になるはず。」

 そして謎のヴェスティア軍残党を攻めようとしていたヤアンたちも急に輝き始めた塔に戸惑っていた。ただでさえ、後方からセーナたちが来ていることを知ったばかりだから、尚更である。
「おい、この塔について知っている奴はいるか?」
ヤアンの問いに、このあたりに詳しい者が話してきた。
「現地の民に聞いたところによりますと、20年前突如として地中からニョキニョキと生えてきたそうです。」
「具体的にはいつのことだ?!」
「リ、リーベリアでガーゼルが再誕する直前とのこと?!」
これにヤアンがハッとする。
「ということはこいつはファルシオンが復活したとほぼ同時に出てきたということなのか?!」
その直後であった、塔の頂上にある宝玉から魔法光線が発射されて、ヤアン軍を攻撃し始めたのは。

 「な、何ですの、この塔は?!」
訳がわからないのは塔に籠るヴェスティア残党も同じであった。彼らはサウス・エレブを辛くも脱出したアルサスとティーゼ率いるヴェスティア・レダ連合軍で、ボロボロにながらもここに籠っていたのだ。
「ティーゼ様、同じような光があの艦隊からも二筋見られます。」
「あちらは敵ではなさそうですわね。」
ティーゼの口調は相変わらずではあるが、やはりあの日以来、ずっと上擦ったままである。アルサスもこの頃には彼女の操縦方法が分かってきたため、まずは安心させることを優先させる。またテンパるようなことになれば、何をしでかすかわからないからだ。
「あの艦隊の登場と、塔から発射される光の矢の攻撃で敵勢は明らかに浮き足立っているので、もう大丈夫でしょう。」

 実際にこの戦いは塔から放たれる光の矢と、上陸を終えたハノン隊のロングボウ攻撃によって、ヤアン隊は次第に犠牲が大きくなっていった。
「申し上げます。艦隊から更に後続の騎馬部隊が上陸しています。」
それはルーファスが追加で上陸を指示したバリガン率いる槍騎士団であった。数はそれでもヤアン隊が上だが、精強さを考慮すると押される恐れすらある。すぐにヤアンは決断した。
「残念だが、これで撤退だ。全軍、ネクロス様のところまで下がるぞ!」
さすがに四炎の後釜とされるヤアンだけあって、その手勢もなかなかまとまっていた。ヤアンの命があれば、すぐに撤退が始まっていた。そしてバリガン隊の突撃を直前に、いつの間にかヤアン隊は消えていた。
 戦後、ルーファスはこの地に全軍を上陸させ、アルサス軍のもとに遣いを送って、身元の確認と負傷兵たちの収容を行った。

 「アルサス、あなたには苦労をかけたわね。」
セーナはまずは彼の苦労を激賞した。彼は仮にも腹違いの弟になるから、自然と言葉にも力が入っていた。
「とんでもございません。むしろリーヴェやカナンの方々を止められなかったことが痛恨でなりません。」
さすがにアルサスも騎士の中の騎士である。この期に及んで、なおもサウス・エレブで失ったものたちへの思いを忘れていなかった。
 ふとアルサスはセーナの思わぬ行動に驚くことになる。跪いて顔を下げていた自分を敬愛する主は抱きしめていたのだ。
「そんなことは仕方ないのよ。今はあなたが生きていてくれて、私は本当に嬉しい。」
多くの死をつい昨日までやり取りしていただけに、セーナにとって彼の生存は本当に嬉しいことだったらしい。もともと気分的な行動をとることの多い彼女ではあったが、公の場でこれだけの行動を取ることはほとんどなかった。それだけにアルサスも主君の行動に戸惑うことしかできなかった。
「セーナ様、アルサス殿が困っておられます。とりあえず落ち着きください。」
苦笑しながらミカが彼に助け船を出した。
「そうね、ごめんなさいね、アルサス。ちょっとばかり厳しい戦いが続いていたから、感情的になってしまったわ。」
「と、とんでもございません。」
やや顔を赤らめているあたりは彼も完璧騎士ではなく、男子的な部分も残っているらしい。場を引き取ったミカはついで、ティーゼに向き合った。
「ティーゼ王女もご無事で何よりです。」
「よくぞ助けていただきましたわ。さすがヴェスティアの騎士たちですわね、とでも言っておきますわ。」
ようやく落ち着いたのか、ティーゼの声音も以前のものに戻っていた。さすがに歴戦のミカも彼女の扱いは慣れたものである。
「王女にお褒めいただき光栄にございます。」
そして続ける。
「では王女はこれからどうなされますか?ご希望であればレダにお送りしますが、まだかの地は戦いが続いております。もし王女さえよろしければ、アルサスのもとでヴェスティアの戦い方をお学びされると宜しいかと思いますが。」
これには思わずアルサスも「えっ?!」というような表情でミカを見ていた。もちろんミカはアルサスのことなど気にしない。当のティーゼは少し考える風を装ったが、答えは決まっていた。
「まぁ本来ならば私もレダに戻って、お姉様のお手伝いをしたいところだけど、ミカ殿がそう仰っていただけるのであれば私もそうさせていただきますわ。」
これを聞いて、アルサスは周りの視線も気にせずにガックリと項垂れた。セーナは一同のやり取りにくすりと笑っていた。
 この頃には海岸線に沿って動いていたハルトムートたちも合流してきたため、一同揃って野営の準備を始めることにした。


 ルーファス指示の元、後にアクレイアとなるこの地での夕方には簡単な野営の準備が完了した。バリガン、ハノン、テュルバン、レイラの部隊や、ラケル率いるバイゲリッターが周囲を守り、一同はようやく地面の上で落ち着いた夜を迎えることができるようになった。
 だがその夜、セーナは近臣たちを連れて、昼に謎の矢を解き放った塔を登っていた。ファルシオンの輝きが止まらず、まるで呼んでいるかのようで気になっていたのだ。今はエリミーヌが魔力を注ぎ込んでいないため、静かにしてはいるが、時折、ぼんやりと塔全体が輝いているのは変わってはいなかった。
「セーナ様、この塔は一体何なのでしょうか?」
ミカの問いにセーナは答える。
「アジャスに聞いたところだと、ちょうど私がファルシオンを復活させたのとほぼ同時に地中から出てきたみたいね。」
そう言い終わると同時に、別のところから声が上がる。
『その通りです!』
セーナから魔力体のようなものが出てきたかと思えば、女性の姿を為した。
「ミラドナ様、まさか知っていて教えてくれなかったのですか?」
『ごめんなさいね、セーナ。私も人伝に聞いていたから、断定はできなかったのよ。』
実はセーナの中にはロプトウスの他に、リーベリアを守護する大地母神ミラドナが同居していたのだ。

 そのからくりはセーナの魂を救出する頃にまで戻る。アトスを送り出したものの、ミューによって退路を塞がれたハルトムートとアジャスに、思わぬ助けが入って竜殿からの脱出に成功した。実はその助けこそがミラドナであったのだ。彼女は大地母神の座をユトナに譲り、身軽な立場となった上でついにセーナ側としての参戦を決めたのだ。以後、ミラドナはセーナと共にあり続け、静かに彼女の戦いを見守っていた。
 だからセーナは、孫娘の四人の巫女たちが関わった魔法も使うことができるようになっていた。アウロボロスとの戦いなどでウォーミンウインドなどの魔法を仕えたのはこれが理由である。

 『かつてアウロボロスを封印するために私はアビスゲートを使用して、彼の力を削ぎました。しかしあくまで削ぐだけ。その力を封じ込め、分断させるためには相当する力も分断する必要がありました。』
八神将やミカ、レイラ、ラケル、ルーファスらの前でミラドナは静かに語る。
「それが当時、ファルシオンの上位にあったという剣ですね。」
『その通りです。ただし、その剣はファルシオンよりそれほど強化されるわけではなく、それ単体ではアウロボロスを打ち砕く力はありません。』
「それじゃ、その剣はあくまでアウロボロスを封印するためのもの?」
『それもまた違います。その剣は確かにアウロボロスに匹敵する力は持ちますが、本来の使い方はその力で運命を切り開いていくためのもの。言わば、『運命の鍵』です。』
「・・運命の鍵・・。」
『この塔はその『運命の鍵』の部品の一つ。元々は古代帝国の遺跡だったみたいだけど、ここにナーガは『運命の鍵』の心を封じ込めた。・・・セーナ、あなたの剣ファルシオンは心を込めるための器、そしてエリミーヌ、あなたの持ってる杖はこの塔の心を開くための鍵となり、ファルシスは『運命の鍵』を呼び覚ますための触媒のようなものなのです。そう、ようやく『運命の鍵』の部品が揃ったわけです。』
「私の持っている二つの武具がそんな役割を持っていたなんて・・。父上もそんなことは教えて下さらなかった。」
エリミーヌの言葉にセーナは言う。
「おそらくリュートも、いえ、かなり先祖に遡ってもこんなことは知らなかったのでしょう。何しろ、私のファルシオンだって、『運命の鍵』なんて知らなかったのだから。」
『これは仮説ですが、森羅万象の運命を司るのが『運命の鍵』なのですから、おそらくこれが分断された時に、当時の世界の人々の記憶をクラッシュさせてしまったのでしょう。』
「まさに我らの運命そのものということですね。」
ミカの的を射た言葉にミラドナは頷く。
『そういうことです。』
 しばらくの感慨のあとにミラドナがセーナを促した。
『さぁセーナ、『運命の鍵』の部品が集まってきたことで私の記憶も少しずつ戻ってきました。あの宝玉の手前にあるくぼみにファルシオンを差し込むのです。』
しかしセーナは少しばかり躊躇っていた。
「セーナ様・・・?」
「ミラドナ様、私に果たして『運命の鍵』を復活させる資格を持っているのでしょうか?」
セーナはいつの間にか昨日まで見せていた難しい表情になっていた。
「セーナ様、まだ昨日のことを・・・。」
ミカの言葉にアトスがちらっとセーナを見た。
『セーナ、私からすればあなたもマルスに匹敵する立派な人。マルスはあくまで和による世界の統一を目指し、半ばまではそれを達した。一方であなたは明日のために自ら進んで血を浴び、世界中に蔓延する憎しみの連鎖を止めるべくその鎖を巻き付けた。やり方は違えども、他の人間は誰もやろうとはせず、私ですら出来なかったことをやろうとしている点ではマルスもあなたも十分素晴らしい方よ。それはアウロボロスのために己を滅ぼす決断をしたカルバザンやガレもまた同じ。』
ミラドナの言葉に、ミカがセーナを叱咤する。
「セーナ様、確かに厳しい戦いが続いたのは事実ですが、それで歩みを止められれば、命を失った者たちに対して失礼になります。」
しかしまだセーナの表情は晴れ切っていない。本当にここまで逡巡する彼女はミカの目の前では初めてであった。
「・・・アトス、あなたはどう?一番、あなたが私のやり方に対して疑問に思っているのではないの?」
指名されたアトスはいつもは明朗な回答を即座に出すのであるが、やはり彼女と同じように鈍かった。
「・・・正直、私はナバダが終わった直後は、このまま同じようにセーナ様が突き進むのを見ていて良いものか、本気で考えさせられました。」
ミカやハルトムートが何か言おうとしたが、セーナが手で彼らを制した。
「ですが、ミラドナ様が仰られたように、セーナ様がやろうとしていることは今まで誰も出来ず、やろうとすらしなかったことです。今、セーナ様がやり遂げなければ、もし今回勝てたとしても歴史はまた同じことを繰り返すことになるでしょう。」
アトスの最後の言葉は迷う前のセーナが言っていた口癖である。
「だけれども、私が頑張ったとて、人は変わらないかもしれない。」
今日のセーナは幼少時の愚図がうつったかのようである。
「しかしセーナ様の御覚悟で光と闇の戦いは終結を迎えられたのです。人と竜と言う新たな局面になってはしまいましたが、セーナ様がおられなければ、今度こそ完璧なるアウロボロスが蘇って世界が滅んでいたことも有り得たのです。」
こういう時こそ己がしっかりせねばと、ミカの言葉にもいつになく熱が籠もっていた。
「私がいなければ・・。」
そしてセーナは周りのものを見る。ハルトムートやローラン、エリミーヌら次代の勇者たちはもちろん、レイラ、ラケルといった同世代の英傑らもセーナがいなければ、輝くことすらできずに時に埋没していたかもしれない。いや、今の言葉を投げたミカこそ最たる存在なのであろう。
「もうこの戦を閉めることができるのはセーナ様しかおられません。」
 いつの間にか俯いていたセーナはやがて顔を上げて、無言のまま先ほどミラドナが指したくぼみに向かっていった。
「・・・これだけの面々が揃っていながら、結局は私頼みってわけね。全く皆、子供なんだから。」
この言葉に周りのものは少しばかり穏やかな表情になる。
「でも、ありがとう。おかげで吹っ切れたわ。」
 そしてセーナは勢いよくファルシオンをくぼみに差し込んだ。
「いいわ、エリミーヌ。また魔力を解放して!」
セーナの指示にエリミーヌも力強く頷く。それと共に再び塔が輝き始め、やがて強烈な光と魔力が放射された。

 一同の目が暗闇を映し出した頃には、セーナは再び剣を取っていた。簡単に見た感じには変化は見られなかったが、目が光に慣れていった頃には刀身が金色に輝いていることに気付いた。
「これが『運命の鍵』・・・。」
『そうです、これが『運命の鍵』キー・オブ・フォーチュン・・・。だけれども、これで終わりではありません。みなさんもそれぞれの得物を差し出してください。』
セーナがある魔道書を天に捧げると同時に、周りの者もそれに合わせて掲げていく。
『あなたたちに、ラグナと四竜神に対抗する力を分けます。しかしこの力もまた使い方次第では運命を狂わすこともできます。それを忘れないないように。』
そして再びまばゆい光が辺りを包みこむ。


 この日、エレブ大陸に伝わる八神将が実質的に誕生することになる。エッケザックスを駆るハルトムート、フォルブレイズを操るアトス、デュランダルを振り回すローラン、アルマーズを振りおろすテュルバン、マルテを突くバリガン、パルティア改めミュルグレから光の矢を放つハノン、アポカリプスで闇を呼び起こすブラミモンド、そして聖女の杖とファルシスを持つエリミーヌ。後にエレブ大陸と呼ばれるこの大陸に住む人々の伝説はここに始まったのだ。

 

 

 

 

 

最終更新:2012年01月07日 22:46