バルト戦役における帝国軍の圧勝は帝国軍に勢いを与えてしまい、リュナン・ヴァルスが篭城するグラナダにもその軍勢が着こうとしていた。グラナダでは帝国軍の侵攻を食い止めるべく、堀をつくり、城壁を再整備して、防備を整えていた。またリュナンは配下の部隊により良い武具を与えるため、港町の武器屋を全員召集して、必要なものを買い揃えた。武器屋の一部はリュナンに希望を託し無償で譲ってくれるのもいた。もともと海運国であったため武器屋の品揃えも良く、リュナン軍の装備は帝国軍に匹敵するほどになった。そしてリュナン軍が防備を固めているうちに、グラナダが帝国軍に包囲されてしまう。しかしもともと防御力があるグラナダ砦に攻めてくるという様子はなかった。リュナン軍は同時に買い占めたクインクレインで包囲していた帝国軍への攻撃を始めた。対する帝国軍はアルカナ砂漠を越えてきたため、大掛かりな武装もしておらずこのクインクレインの攻撃は甚大な被害をこうむった。リュナンは城門の封印を急いだ。この封印をすることにより門の耐久度が何倍にも上がるが、その代償としてその城門は使えなくなる。そんなリスクを背負ってまで城門を背負ったのはそのリスクを別のものに代用できたからである。先にも述べた通り、グラナダは海運で成り立っている。よって港湾設備が充実している。しかもグラナダに接しているセネー海はまだ西部諸侯連合軍とイル島が制海権を持っていて通商もまだ行われていた。そして陸運を排除しても、海運で国が成り立っていたためそれほどの痛手はなかった。リュナンはこのことを知っていたため城門を封印した。ヴァルスは彼の手腕の高さにただただ感嘆するだけだった。
「さすがはグラムド公のご子息。」
しばしばヴァルスはこうもらすことがあった。しかし帝国軍もこうした動きを知ってか、攻勢に出てくるようになった。しかしその都度、戦闘経験が豊かなグラムドの旧近衛隊とアーキス隊とクライス隊の騎馬部隊が疲弊していた帝国軍を各個撃破したので城門も破られることがなかった。一時はグラナダを包囲していた帝国軍が撤退する事態まで追い込んだ。しかしリュナンは深追いをせず、グラナダでの準備を怠らなかった。
「リュナン、さすがだな。まさかここまで持つとは思わなかった。もう包囲を受けて半年も経つというのに城門の一つも破られていないとは。」
「それはみんなが一生懸命守ってくれるからここまでやってこれたのです。僕の力など微々たるものです。」
リュナンが謙遜しながら部下の功績を称えていた。
「しかし一個だけ不安なことがあります。」
「なんだ?」
「今までの帝国軍は歩兵と騎兵の混合部隊だったので楽に戦えましたが、もし旧ソフィア公国の竜騎士団がこのグラナダを攻めてきた場合、いままでして来たことがほとんど無効になってしまうんです。」
「なるほど竜騎士団か。確かに地をはう連中なら楽に蹴散らせるが、空を飛ぶ連中にはこの城壁も無力になるな。」
「ええ。一応シューターがあるのですが、専用の槍が少なくなってきているんで持ちこたえられないと思います。」
「そうか。もしその時が来たら、我々の負けと言うわけだな。」
「残念ながら・・・。」
その言葉を聞いたヴァルスは意を決したように
「何、負けるとわかっているのならそれなりに対策が打てるだろう。」
「?」
「つまり竜騎士団が現れれば、そなたがここを離脱すればよい。バカ息子の組織した「シーライオン」を使って。」
「! そんな提督はどうするんですか?」
「わしはここから逃げるわけには行かぬ。逃げるのはラゼリアの若い騎士団とそなただけだ。いいか、よく聞くんだ。わしが見たところ、竜騎士団が来ずともいずれここは陥落する。それが早いか、遅いかだ。だがお前は生きなければならない。お前はこの大陸を昔のように平和な大陸にするという使命を帯びているのだ。そのために陥落直前にウエルト王国に行くのだ。あそこはバルト戦役では大敗したものの、まだ戦力はそれなりに残っている。リーザ王妃に軍備の増強を頼むのだ。そして新しく再編した軍でリーヴェ王国、いやこの大陸を解放させるのだ。」
リュナンはヴァルスの意見に考えていた。
「リュナン、わしの命などどうでもいい。わしの命を救おうとすれば、さらに何千倍の人の命が失われてゆくんだ。」
「提督、わかりました。ただそれは竜騎士団が訪れてきた時です。それまでは私は提督と共に戦います。僕としてもこの戦いで悔いを残すわけにはいけませんから。」
「よし決まりだ。ホームズにいつでも出発できるように一応、伝えておくからな。」

その後も帝国騎兵団がグラナダを攻撃しようとしたが、リュナン軍の抵抗によりいまだに城門も破られていなかった。それからさらに半年、しびれを切らした帝国軍がついにシオンの竜騎士団をグラナダに派遣した。
「ふん、グラナダも上空からの攻撃にはさすがに対応できまい。」
一方、シオンの竜騎士団を発見した見張り番がちょうど軍議中だったリュナンとヴァルスにこのことを伝えた。
「ヴァルス提督、ついにこの時が来てしまいました。僕は提督の言われたようにウエルトへ行き、兵を募りたいと思います。提督もお元気で。」
「リュナンよ、この一年間とても面白い一年だった。わしもそなたのような息子が欲しかったな。リュナン、ホームズを、あのバカ息子をよろしく頼むぞ。」
二人は言葉少なげに別れた。それが騎士という悲しい運命。そしてここにも。
「アーキス様、私はここに残ります。」
「リィナ、何を言っているんだ。お前も来るんだ。」
「ごめんなさい。やっぱり私はこの大陸から離れられないんです。」
「アーキス、妹は一度、言い出したら聞かないんだ。仕方ないが、行かないか?」
「お前、正気か?妹が危ない戦場に残るって言ってるんだぞ。」
「いいんです、アーキス様。これは私のわがままなんです。まだやらなければならないことがあるんです。それをやらなければアーキス様と一緒にいることはできません。」
「ごめん、リィナ、ちょっと言い過ぎた。クライスにもな。」
「みんなピリピリしているから仕方ないさ。さ、船に乗ろうぜ。」
「それじゃあな、リィナ、気をつけろよ。」
「はい、アーキス様こそお元気で。」
しばらくしてラゼリアの若い騎士団が全員乗り込んだ。
「全員乗ったか?それじゃーシーライオン出航するぜ。目的地はウエルト王国の玄関ソラの港だ。それじゃー出航。(あーあ何か定期船になっちゃったぜ)」

こうしてリュナンはウエルトへ向けて旅立った。そしてこのことが世界を救うための本当の一歩になるとは誰もが思わなかった。

「ぐはっ!ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、さすがだな。ジュリアス王子子飼いのシオンが自ら出てくるとはな。」
「帝国もまさかわたしを送り込むとは思ってもいなかったようですがね。さてリュナンはどこに行った。」
「リュナンなぞ、ここにはいない。一足遅かったな。ハハハハハ。(頼んだぞ、リュナン、ホームズ)」
それからまもなくグラナダ砦は陥落する。

 

 

 

 

 

 

最終更新:2011年07月07日 02:31