無の侵攻を食い止めたロイは、隙を突いたカナンや、それに乗じてロイに反旗を翻していたリーヴェ・ウエルト連合に対して、反撃を始めた。しかし、ロイの出番は既に終わっていた。フェレ傘下にあったレダの獅子王リカルドがサリアと共同して、リーヴェ・カナンの背後を突いたのだ。ここに体勢を立て直していたセーナ率いるヴェスティア軍が正面から襲い掛かって大勢が決することになった。
 リーベリア盟主たるリーヴェの失墜によって、再び混沌が訪れるかと思われたが、これを抑えたのが誰あろうロイであった。ロイはリュナンとメーヴェの末裔にあたる妻リリーナをリーヴェ女王に添えて、実質的にフェレ直轄領に組み入れ、カナンの北半分をレダに、南半分をフェレの直轄、ウエルトをサリアの直轄領とした。
 これによりトラキア、シレジア、アカネイア、サリアを除いた、四大陸を制することになったロイは返す刀でそのまま東方ヴァナヘイムの三国家に対して、同盟を申し出ることにした。これにサーガが同盟に乗り出したものの、ヴァーナとユトランドの二国が抵抗した。しかし、すでに覚醒したロイの敵ではなく、手を結んでいたはずのバスコ諸島の海洋国家に寝返られたのが致命的になって、最終的にクラウンエッジまで追い詰められた二国は滅亡への道をたどっていく。
 リーヴェ・カナン・そしてユトランド・ヴァーナと相次いで厳しい対応をロイが取った理由はただ一つである。禍根渦巻く世界を一度リセットするためであった。

 世界の再統一を果たしたロイは世界の再編に取り組む。まずユグドラルであるが、戦前に残っていたエッダの復興こそ果たせなかったが、それを除いた勢力は昔に戻ることとなった。フェレの傘下に入っていたヴェスティアもセーナを皇帝とすることで、再独立させた。最初の元凶とも言えるシレジアを残したのはヴェスティアとトラキアの二大勢力に分割する愚を恐れたためで、結局はかつてセーナが目指した三国鼎立が再現されたことになる。
 リーベリアもまた、一段落すると再編成が行われた。さすがに土壇場で寝返ることになったリーヴェ・ウエルトは許されることはなく、リーヴェがフェレの衛星国家として、ウエルトはサリアの一部として扱われたが、レダ、カナンはすぐに王家独立が認められ、ロイに終始通じていたサリアに至っては前述の通り、大きく勢力を伸ばすことになった。
 ただし大きな変化があったのはアカネイアである。カダインの暴走によってアカネイアとタリスを除く国家が滅ぼされていたため、再建はなることはなかった。しかもアカネイアも大乱で受けた傷跡が思いのほか深かったため、国内の対処も満足にできない状態にあった。といって、かの地はフェレからも遠すぎることから、衛星国家建設も厳しかった。そのためこの地はヴェスティアが主体となって、シレジア・カダイン戦役で活躍した勇者たちがその故郷を中心にして新たな国家を作ることとなった。その時に作られた国家の一部が後のイーリスやフェリアに繋がることになる。
 そして最後にロイの出身エレブ大陸であるが、こちらでも大きな動きがあった。ロイのために尽力していたサカとイリアがリキア王国に組み入れられることになったのだ。これでロイはエレブ大陸内における実力的優位も手に入れることとなり、事実上のエレブのトップに立つことになった。
 こうして、ロイはその生涯を通して、世界の再編成と安定に力を注ぎ、やがて天寿を全うすることになる。そしてロイとリリーナが遺した唯一の娘ルイと、その後見を務めたセーナによってかつてのアルド時代に劣らない繁栄を取り戻すことになる。


 そして天上に召されたロイたちだが、そこでは安息のときはなかった。天上で好き勝手に暴れているセーナの格好の標的となってしまい、大軍同士のやりとりを行うハメとなってしまう。幸い天上でのロイには彼女の懐刀ミカがサポートしていたため、うまく交わしていたものの、戦好きな彼女の対応にはほとほと困っていたとリリーナやミカはしばしば周りに語っている。それだけセーナの戦い方も豪快で恐ろしいものだったのだろう。そんな中でロイはかつて神君と讃えられるマルスとも会い、共にセーナに立ち向かうことになる。
 そんな落ち着かない日々をすごしていたセーナたちだが、突如として運命を司る神ブラギから時の最果てに結集せよという依頼を受けた。そこでは異界マギ・ヴァルから連れて来られた魔王が異界と天上を結ぶ、この時の最果てを破壊しようとしていたのだ。この地が破壊されれば、光も闇も理も時空も次元も制御できなくなり、あらゆる摂理が破壊されてしまう。それを食い止めるべく、三英雄は戦を止めて、共同で魔王撃破のために時の最果てを訪れた。
 そもそも論にはなるが、ではどうして魔王は時の最果てに現れたのか。直接的な原因はその魔王と共に連れてこられたエフラムの妹エイリークが魔王に取り込まれて、手に負えなくなってしまい、更なる光を求めるためにここに送り込んだのだ。しかしもともと魔王もエイリークを取り込むことは当初は予定していなかったことであった。魔王自身はエフラムとエイリークの幼馴染リオンを媒介として復活を果たし、それだけで彼らを圧倒できると思っていたのだ。だがそこに思わぬ存在が現れて、魔王に警告する。
「奴らはまだ聖石を持っている。その程度の力で奴らを倒せるとは思わない方がいい。・・・そうね、リオンの幼馴染の片割れでも取り込んではどうかしら。」
そう囁いた魔王は最初は聞く耳を持たなかったものの、自身を上回る禍々しいオーラに圧迫されてすぐに翻意することになった。そのものこそが今回の事件の元凶となる、アウロボロスを宿したエレナであった。
 (迂闊だった。あのとき、天上とマギ・ヴァルを繋ぐ『扉』がこじ開けられていたのを甘く見てしまっていた。)
そう振り返るのはエレナの母でもあるセーナであった。実を言うと、セーナはマルスやロイと共に天上の主となって、その管理も行っていたのだ。それは現世と天上を繋ぐ管理もそうだ。三英雄はその扉が何者かによってこじ開けられていたのを確認していたのだが、それ以上の詮索をしなかったのだ。何しろ『扉』が開いたとて、現世に戻るには想像を絶するエネルギーが必要となることから到底戻れるわけがないと思い込んでいたからだ。しかしアウロボロスを覚醒させたエレナならばそれも可能だったのだ。そしてマギ・ヴァルの覚醒したばかりの魔王に触れて、エイリークの取り込みを画策したのだ。では魔王を更に強力にさせたとて、エレナに何の利があるのか。
 実はエイリーク取り込みから、エフラムが魔王を時の最果てに転送することも、そしてセーナたちがエイリークたちを救うために先に封印されていたギムレーを解放して、相争わせることもエレナの想定内であったのだ。エレナの狙いは魔王とギムレー、どちらか片方が相手を取り込んだ瞬間に、更に自身が残ったものを取り込んで、三英雄に抗する力を手に入れることだったのだ。
 今の三英雄が持っている運命の鍵『キー・オブ・フォーチュン』は周りにある武器に加護を与え、その戦闘力を跳ね上げる力を持っている。現世ではセーナが八神将に対して行い、ロイもリリーナのフォルブレイズやレオパルドのミストルティンに施した実績がある。しかも跳ね上げる量は元となるキー・オブ・フォーチュンの力に依存する。それが何を意味するのかというと、実は2本以上の運命の鍵が揃ったときには互いに高めあって、無限に力を跳ね上げることが出来てしまうのだ。ただし、それに使用者の力量という上限はもちろんあるが、相手はマルス、セーナ、ロイという世界を平らげた巨星、エレナにとってはまさに勝ち目はなく、それゆえに天上でも敢えて大人しくしていた。しかし、ギムレーが封印され、マギ・ヴァルで魔王が復活すると知るや、すぐに行動を起こしたあたりはさすがにエレナの行動力もセーナ譲りのものがあった。こうして時の最果てに多くの絆と運命が集うことになる。ここで誰もが予想していなかったのは、ブラギ神が後のアカネイアで建国されたイーリス聖王国からクロムとルキナを連れてきたことであろう。
 しかしセーナたちも後手に回るわけにはいかない。魔王の出現を知ったセーナはエフラムを救出したその夜に、ようやくエレナの深謀を察知した。元々、彼女はロイが天上に来た時点でエレナが彼に討たれたことを知っていたのだが、まったく姿を現さないことから疑問に思っていたのだ。そして急に現れた魔王と、その魔王がエフラムから事情を聞いてもエイリークを取り込んだ理由がわからないでいたセーナは背後にエレナがいるのではと考えた結果、エレナの策を全て理解したのだ。しかし、絆を守らねばならないセーナは敢えてエレナの策に乗ることになる。要はエレナを食い止めれば良いのだから。そして、セーナは影武者リベカと、両親セリスとユリアにエレナの足止めを依頼し、その間に魔王とギムレーの解放をそれぞれ目指すことにした。
 結果としては苦戦はしたものの、魔王よりエフラムの妹エイリークと幼馴染リオンを救い出し、邪竜ギムレーもクロムの妻ルフレの正気を取り戻させることに成功した。これによりエフラムとクロムたちはそれぞれの世界に戻っていった。

 しかし、その裏ではすでにエレナの進出も始まっていたのだ。天上最大の勢力を持つセーナ軍が、セーナと共に魔王たちとの戦いにほとんどいなかったのはこのエレナを食い止めるためだったのだ。しかしいくら大軍勢を用意してもエレナを止めることはできないだろう。だから、実質的にエレナと戦う役目を自身の影・リベカに任せ、セリスとユリアにその支援をさせていた。しかし、それでもエレナは強力であり、リベカは終始押されていた。その気になればワープを使ってエレナも突破することが出来たのだが、彼女はそれをすることはなかった。しかも途中では魔力を補助してくれていたユリアがふらっと現れてきたライトと共に魔王戦線に向かってしまったために、リベカの命すら危うい状態になっていた。
 だが、魔王から二人を救出して、役割を終えたセーナが戻ってきたことでエレナはその時を永遠に失うことになる。それはエレナの好奇心から発生した油断であった。彼女とリベカは言うまでもなく世代が違うものの、エレナが物心付いてからも幾度か交流はあった。しかし真剣に剣を交えたことのないままリベカが死んでしまったことから、セーナの影を務めたリベカの真の力量を知ることはなかった。だからこそ、エレナは彼女の力を知りたかった。
 つまり、天上にいるエレナは生前同様にアウロボロスと共存を続けていたのだ。意識もギムレーのルフレよりははるかに覚醒していた。何よりもアウロボロスがギムレーのルフレを封じこめるためにかかりっきりになっていたというのもあるのだろう。

 ともあれ、セーナとエレナは再び対峙した。しかし既に戦端を開かれているため、お互いにかける言葉はなく、剣を持ってぶつかり合う。これを見たセリスとユリアはセーナ軍をまとめて撤退に入る。ユリアはもの惜しそうに一度振り返るが、セリスは再び彼女を促した。
「さようなら、セーナ。」
これが母から娘にかける最後の言葉となった。

 「セーナよ、おぬしも薄情なやつじゃな。」
直接テレパシーのように話しかけてきたのは先ほどクロムを戻したばかりのブラギであった。
「ルキナが残念がっておったぞ。」
「仕方ないでしょ、こっちだって限界なんだから。エレナの気まぐれだって、いつまで持つかはわからないんだから。」
そして会話している間にわずかに動きが鈍くなってきたのか、エレナがそれを見逃さずに黒き剣ダーインスレイヴを一気に振り下ろす。
『ブラックスライサー』
これをセーナが受け止めるが、ダーインスレイヴの剣圧が彼女の肩を切りつけた。やはり剣の力も覚醒しているためか、以前セーナが戦ったときよりも遥かに強くなっていた。更にエレナは強烈な蹴りを母の腹に食らわす。これでセーナは一気に吹き飛ばされた。
「ならば、なぜ『運命の鍵』を使わないのじゃ。あれを使えば、アウロボロスなぞ・・・。」
「私は何度も言っているでしょ、絆を断ち切る世界なんていらないって。それは光と闇に分かたれても、私とエレナの間にある絆は変わらない。」
「・・・わかった、マルスもロイも承諾した以上はわしからは何も言うまい。そなたのような美女に会えたことをわしの自慢にしとくわい。」
この間にようやくセーナは体勢を立て直して、キー・オブ・フォーチュンを下段で構え直している。
「ありがと、ブラギ様。」
そしてエレナに対して反撃の剣技を解き放つ。
『ディヴァインスマッシュ!』


 実はこの時の最果てではもう一つの戦端が開かれていた。反転しようとしていたセーナ軍にその背後からもう一人のセーナが率いているはずのヴェスティア軍が襲い掛かっていたのだ。それを指揮するのはミカの最後の子マークである。彼はセーナとレオパルドを捕らえると、軍勢をそのまま掌握し、エレナを足止めしていたセーナ軍の背後を襲ったのだ。
 「性懲りもなくまた寝返りをするなんて。」
憤る母ミカはロイ軍を借りて、裏切ったヴェスティア軍に更なる背後から襲い掛かる。更に自身はワープを使って一気にマークのところに躍り出る。すぐに気絶しているセーナとレオパルドをワープで転送するとミカはマークと対峙した。
「あなたのおかげで私はセーナ様にもロイ殿にも会わす顔がなくなったわ。」
だがマークはフフと笑って、返す。
「僕を真に必要としてくれたのはエレナ様だけ。だから僕はエレナ様のために戦う、それだけのこと。」
「残念ね。少しはわかりあえたと思っていたけど、やっぱりまだ心はエレナ様に掴まれたままだったようね。・・・いいわ、覚悟しなさい!」
「それは僕のセリフですよ、母上。」
『フォルブレイズ!!!』
同時に解き放った業火の理が時の最果てに炸裂する。

 約一時間後、ミカは気絶したマークを連れて、白銀に輝く船に到着した。
「ロイ殿、馬鹿息子を捕まえてきました。あとは好きにしてください。」
「それは私が決めることではない。あとでセーナに決めてもらおう。・・・恐らく彼女ならば許すのだろうけどね。」
「相変わらずお優しいのですね。」
「それもそうだろう。これで彼は心のよりどころを失うのだから。それだけでも十分な罰さ。」
これにミカもうなづく。そして船に乗り込もうとする。
「それよりも君の方こそいいのか。」
ミカはわずかに足を止める。
「構いません。今、会いにいけばそれこど未練を残すことになります。」
「・・・ミカは強いんだね。」
だが、彼女の肩がわずかばかり震えたことをロイは見逃さなかった。ロイは、しかし、ミカを気遣って何もそれ以上は言わなかった。
「だけど、アウロボロスが闇の神に留まってくれて助かった・・・。ここでは『ライフストリーム』も発生し得ないから、間違いなく『虚無』になっていれば手も足も出なかった。」
すると、逆に船を下りてきたマルスが今度はロイの横に立つ。
「とりあえずノアの方舟の準備は出来た。あとは天上に戻るだけだ。」
「マルス殿、ありがとうございます。・・・これで本当に終わってしまうんですね。」
「彼女が決めた道だ。もう誰も覆すことなどできないだろう。」
「ええ。」
そして二人は船に乗り、それを確認したのか、ノアの方舟は静かに地面を離れた。


 既に戦場はセーナとエレナの二人だけになっていたが、相変わらず激しいやり取りが続いていた。そんな中、先ほど離陸したばかりの方舟が少しばかり姿を現す。これを確認したセーナが方舟に声をかけた。
「リベカ、いるの?」
これにすぐにリベカが出てきた。まだエレナとの戦いの傷が癒えずにいたが、どうにか甲板の縁にたどり着く。それを確認したセーナはエレナに対して強烈なライトニングで目を潰して少しばかり時間を稼ぐと、あろうことかキー・オブ・フォーチュンを鞘に閉まって、リベカに対して放り投げたのだ。
「セーナ様!何を?!」
「それはあなたが持っていきなさい。あなたならば使えるはず!」
だがこれでセーナをまとう魔力が桁違いに落ちてしまい、ただでさえ押され気味だったエレナとの戦いが決定的に不利となる。
「ロイ、マルス、もう私がやるべきことは彼女を止めるだけになった。為せることを為せるうちに早く離脱を!」
これにセーナの思いを無駄にせんと、方舟を転送する準備に入る。方舟がさらに輝きを増していく。この間にリベカが同じような質問をセーナにする。
「セーナ様!何故?!」
これにセーナが静かに答える。
「・・・今まで私の影を務めてくれたお礼よ。それだけ。」
そんな彼女の腹に黒き剣が襲い掛かる。辛うじてセーナは避けたものの、やはり動きも鈍ってきたのか、わき腹をえぐられる。激痛をセーナが襲うが、もうある境地に達しているのか、セーナの表情に変化は見られなかった。
 そして方舟は時の最果てから姿を消した。


 「さぁ最終ラウンドと行きましょ、エレナ。」
血を流しながらもセーナはもう一つの剣シュヴァルツバルトをエレナに向ける。
「お母様、一体何のつもり?」
その全てを達観した瞳を見て、エレナの動きが止まっていた。
「エレナ、あなたも今まで一人だけで大変だったでしょ。でも、もう、これからは一人きりにはしないわ。母として、私があなたとずっと一緒にいてあげる。」
 そして天上に戻ったマルスとロイは、時の最果てへの入り口に立ち、それぞれキー・オブ・フォーチュンを掲げていた。
「さようなら、セーナ。」
「そのまま彼女との絆を守ってやってくれ。」
直後、時の最果てへの入り口を務めていた門が凍結された・・・。
「ああ・・・、セーナ様。」
それを見届けたリベカは思わず地面に泣き崩れた。

 直後、時の最果てに流れる時間が止まった。ロイとマルスの力によってセーナとエレナ、そしてその空間ごと封印されたのだ。これこそがセーナが絆を守るためにロイとマルスに依頼した最期の策だった。
 ブラギが指摘したようにキー・オブ・フォーチュンの力を結集すれば、セーナたちはアウロボロスを倒すことは出来た。しかし相手はセーナが自らの腹を痛めて産んだ子であり、自身もアウロボロス復活に寄与していたこともあって、それを討ち滅ぼすにはエレナが余りにも不憫であったのだ。しかしこのままのさばらせておけば、おそらく今回の魔王の件がまた出てきて、他の絆を断ち切らねばならなくなる事態が発生する恐れは多分にある。倒さねばならないが倒したくない。恐らく凡庸な理想主義者であれば、己を殺して娘を倒していただろう。それをしない甘さがマルスやセーナ、ロイにはあり、それが人の心を掴み、英雄たらしめたと言える。
 この矛盾を解決するために、セーナは己の身をエレナと共に封印する手段を考え出した。ロイやマルスもこれを聞いた時はさすがに返答に困った。だがセーナの決意が揺るがないことを知り、翻意をあきらめる。この一連のやり取りは昨夜、エフラムやクロム・ルキナらが寝た後に密かに行われており、セーナはミカなどの自身を慕ってきたものたちにも同様に別れを告げている。

 (これでもう離れないからね、エレナ。)


 しばらくして天上は落ち着きを取り戻した、わけではなかった。今度はリベカがセーナ軍をまとめて、ロイやマルスたちに戦いを挑んできたのだ。
「セーナは眠っても、その意思は眠らずか。」
顔を引きつらせながら対応するマルスやロイは、それぞれシーダとリリーナにこう漏らしていた。
「そもそも本当に封印したのはセーナだったのか?!」
頭の切れるカミュやレオパルドはそう穿ったりもするほどだった。
 ともあれ、天上と時空・次元、あらゆる摂理は守られることになった。


 ここでセーナは眠い目を開けた。
「夢だったのね。ふふ、随分とリアリティのある夢だったこと。」
今、彼女がいるのはリーベリア大陸の大都市ノルゼリア。かつて自身が発した言葉より、運命の交差点とも言われている都市である。
 眼下には人と竜の軍勢が整然と並び、それを取り囲むようにリーベリア諸国の兵やヴェスティア軍がいた。
「ヴェスティアで私たちが勝っていたら、ああいう未来もあったのね。それにしても闇の神だとか、運命の鍵だとか、大げさなこと。」
クスりと笑うセーナに、傍らにいるミカが不思議そうな視線を返してきた。これにコホンと咳払いをして、ごまかす。
 今、セーナは自身のグリューゲル、一人目の夫ライト率いるシレジア風魔道士、二人目の夫エルトシャン2世率いるクロスナイツを束ねているだけでなく、ナバダの竜部隊に、ラグナ軍残党のラオウ、クラウス、ミューの三隊も掌握していた。対抗するのはヴェスティア皇帝を継いだばかりのシグルド2世と、その妻ナディア率いるヴェスティア軍に、リュナン、セネトらが率いるリーベリア連合軍である。まさに世界中の戦力がここに集結していた。
 「さ、あの夢のようにこっちでも全てを終わらすわよ!ミカ、予定通りに進めていくわ!」
ミカの力強い頷きを見て、赤き瞳を開けたセーナは二振りの神剣を手にとって天にささげる。
 ここにもう一つの世界が形を変える瞬間を向かえる。

 

 

 

 

 

最終更新:2012年10月08日 20:35