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 「全くここまでガルダの海賊たちは逃げていたのか。でもこれで一通り決着が着いたな。」
蒼髪の英雄は傍らに控える女性に話しかけた。場所はリーベリア東端の半島。ここにアカネイア大陸極東を根城にするガルダ海賊が十年前の戦いで追い出された一党が原住民たちを追い出して、ガルダと名付けられた地である。
「タリスを出た私たちの最初の相手がガルダの海賊だったことを考えると、なんだか不思議ですね、マルス様。」
側に付き添う妻シーダが静かに感想を漏らした。

アカネイアの二度に渡る大戦争で、アカネイア女王ニーナや他国王の要請により、大連合王国アカネイアの盟主の座に着いたマルスはついにアカネイア大陸外への進出を始めた。しかしその前に一つ障害があった。
二度の大戦争により放置されていたガルダ海賊が再び勃興し始め、制海権を脅かし始めていたのだ。マルスは妻の実家タリス家の水軍を強化して、一大海戦を仕掛けた。ここにマルスは秘蔵のアリティア水軍を投入して、ガルダ海賊を打ち破った。彼らがリーベリアに逃れたのはこの後である。
その後、制海権を握ったマルスはユグドラルへと渡った。距離的に近いリーベリアではなく、ユグドラルになったのは海流の都合である。アカネイアからユグドラル、またその逆に強力な海流が流れていたためである。そこで今のヴェスティ・グランベルの祖にあたる国を作った。マルスは現地住民との融和は重視し、時間をかけて国家の建設を行っていった。そしてようやく昨年、民による自治が行われる最初の国家グラン共和国が出来上がった後に、ついにリーベリア進出を始めていた。マルスはこのリーベリア遠征を生涯最後と決めていた。すでに40を超え、祖国アリティア、タリスもそれぞれ子供たちに継がせている。アカネイア大連合もこれを機に解体して、各国に権限を戻すつもりでいた。
そして今、マルスは自慢の水軍を率いて、ようやくガルダ海賊を壊滅させていたのであった。


周りの諸将との宴も切り上げたマルスは宿営地から抜け出して、風を感じていた。傍らにはしっかりとシーダも付いてきていた。
「やっぱりここの風は気持ちいいな。」
しかし背後に謎の空間が飛び出したかと思えば、一組の男女が飛び出してきた。
「何者?!」
驚くマルスは神剣ファルシオンを抜くが、男はすぐに女から離れるとマルスに背を向けた。敵対の意志はないという表示である。
「申し訳ありません。あなたの力を借りるために私は未来からやってきましたトウヤと申します。」
「私はアウロボロス封印後の世界をと要請したのですが。」
静かな口調でマルスとトウヤに対することになった女性が話し出した。
「悪いが、ミュー、お前の目論みはここで終わるのだ。そのために神君マルスのいる時代に飛んできた!」
そして巨大な斧ヴォルフバイルを構える。
「愚かなことを。今の私に彼らの力を借りて勝てるとでも思っていたの。」
すると、ミューと呼ばれた女性は己で持っている竜石に力を込める。直後、巨大な竜が姿を現した。
「彼女はマムクートなのか。」
驚くマルスは、ふと幼いマムクート・チキを思い出したが、トウヤの言葉がそれを遮った。
「仰る通りです。彼女は過去を変えようとしているのです。ですが、個人の都合で歴史を変えることなど許されません。どうか、力を貸して下さい。」

トウヤはミューによって人質に取られることになった同じ時空剣の継承者ジェシカを救うために、彼女を過去に飛ばすことを仕方なく同意した。しかし彼女の目的は過去の改変にあり、時空を護るものとしては到底容認できることではなかった。ならば彼に出来ることは一つであった。過去でミューを倒し得るもののところに向かい、共同してミューを討ち果たすしかなかった。それが彼の時代に異大陸で神君と崇められるマルスであったのだ。

だがこれにミューが口を挟んだ。
「マルス様、これは私からの警告なのです。1000年後、人と竜、神、それぞれが血で血を洗う熾烈な戦いが行われてしまうのです。私はそれを止めて、人と竜が手を取り合う世界に作り変えようと考えています。」
「人と竜、神の戦い・・・、そして人と竜の融和。」
「そうです。そのためにも彼の力が必要なのです。どうかマルス様からも彼を説いてくれませんか。」
ミューはマルスならば彼女の思想を理解できるかもしれないと踏んでいた。だがここで思わぬ横槍が入った。
「マルス様、私は反対です。」
「シーダ?」
「確かに彼女の言うことは本当に起こることなのでしょう。でも、だからと言って過去を変える権利はありません。そんなことをしていれば、今を生きている人が蔑ろにされてしまいます。・・・それがたとえ絶望の未来を招くとしても。」
マルスはミューの言う意味も理解できたが、理はやはりトウヤやシーダにあると判断し、剣をミューに向けた。
「ミューといいましたね。申し訳ないが、彼やシーダの言うことの方が正しいな。」
「そうですか・・・。あなたならばおわかり頂けると思ったのですが。」
そしてマルスたちとミューの戦いが始まる。

「なにやら面白そうなことになっておるな。」
彼らの戦いが始まる直前に、割り込んできたのはフォースドラゴンであった。実は先日マルスとフォースドラゴンは戦っており、マルスはリーベリア進出の儀式に打ち勝ったばかりであった。それ以来、二人はすっかり旧知の仲になっていたのだ。
「ちょうど良かった。背中に乗せてもらおう。」
マルスから事情を知ったフォースドラゴンはすぐに援護を快諾した。しかし、ミューの強さは彼らの想像を遥かに超えていた。


辛うじてフォースドラゴンが盾になっていたが、すでにマルスもトウヤも虫の息になっていた。シーダは天馬に乗って、アリティア軍を呼び込もうとしたが、ミューの作り出したフィンブルの壁によって止められてしまった。
「さぁ、トウヤ、もう一度チャンスをあげましょう。このままではここから歴史が変わってしまいますよ。私とて神君マルスを殺める者にはなりたくありません。」
斧を支えにしてようやく立っているトウヤはすでに万策尽きていた。だがここでマルスが再び立ち上がる。
「勝手に私を殺さないでくれないか。」
これにミューは苦笑するが、マルスは神剣ファルシオンを天に向けて構えた。構わずにミューが再び竜となって、氷のブレスを吐き出した。
「私に足りないのは力だ。天よ、我に時を護る力を!」
そしてこれに応える声があった。
『ナーガの牙を継ぐ者よ、我が名は大地母神ミラドナ。その思いを力として授けましょう。必ず時を護るのです。』
そして金色のオーラがマルスを包みこむ。直後、ミューのブレスが炸裂する。
「マルス様!!」
ようやく駆けつけたシーダが叫ぶ。しかし金色のオーラがブレスを打ち消し、マルスがその姿を現す。
「何っ!?」
「マルス様!」
慌ててシーダが駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?!」
これにマルスは人を惹き付ける笑みをシーダに向けた。
「ああ、何とかね。それに大地母神が力を貸し与えてくれた。そうだ、シーダ。軍勢をあっちに戻しておいてくれ、ここは危険だ。」
そう言いながら、マルスは金色の剣を振り下ろす。そこに先ほどトウヤが出てきた扉と同じようなものが開かれた。そしてそこから蒼髪の女性が現れた。これに驚いたのはトウヤとミューであった。
「セーナ様!」
「セーナ!」
1000年後の世界を導いた英雄セーナが降臨したのだ。
「そんな・・・、あの剣が導いたとでも言うの?!」
ミューの言葉に、ようやくセーナが話し出した。
「はぁ、時空の旅は本当に疲れるものね・・・。これで三回目かしら・・・。あら、神君マルスもやっぱりカッコいいわね。」
くだける言葉を話すセーナだが、すぐに話を戻す。
「キー・オブ・フォーチュンは運命と運命を繋ぐ奇跡の鍵よ。ミュー、あなたは命の摂理だけでなく、時空の理をも壊そうと言うのならば、私も相手になるわよ。」
セーナとマルス、キー・オブ・フォーチュンをそれぞれ構え、一気にミューへと突撃する。


形勢は完全に逆転した。セーナの圧倒的な魔力とマルスの知恵がミューを追い込む。何よりも二振りのキー・オブ・フォーチュンがそれぞれを補い合い、セーナとマルスに絶えず力と魔力を送り込んでいた。
ミューはセーナのギガスカリバーによって地面に叩きつけられた。
「ミュー、あなたは私のいる未来にいるあなたとは違う『元の』ミューだったようね。・・・今すぐ、過去の改変を止めるというのであれば、命だけは助けるわ!」
セーナからの最期通牒である。
「ちょっと待ってくれ。どうしても命を取らなければならないのか?」
マルスはミューの命を取るつもりはないらしい。
「残念だけど、彼女は遅かれ早かれ、今なんかよりも恐ろしいものに取り付かれてしまうわ、人の命をもなんとも思わない化け物にね。そうなれば、時空の危機どころではないわ。この星から命というものがなくなってしまう。」
これからその化け物とセーナは本来の時空で戦うつもりなのだ。
「どうなの?」
セーナがミューに答えを促す。
「どうしてあなたこそ、わかってくれないのです。人と竜の融和こそ、世界に安寧をもたらす原動力となるはずなのに。」
「そう私も同じ考えよ。だけれども、だからといって歴史を変えて言い訳ではないのよ。頭を冷やしなさい、ミュー!」
そして覚悟を決めたマルスとセーナが止めを刺すべく、大きく跳躍する。そしてマルスとアイコンタクトを交わして、ライトニングをマルスに解き放つ。マルスはライトニングをキー・オブ・フォーチュンで受け止めると、その剣を通じて自身の魔力をセーナのライトニングに注ぎ込んだ。
「いくぞ、ミュー。これが私の答えだ!」
『ツインズ・フォーチュン・ブレイザー!』
そして剣を振り下ろして、ライトニングを解き放った。ミューも氷のブレスを出すが、無理な体勢から離れて力が発揮できずにすぐに霧散した。そして強烈な閃光と爆発がガルダの地に響き渡る。


「あちゃー、どうやらガルダが島になったのは私たちのせいだったのね。」
セーナとマルスの合体攻撃によってミューはガルダとリーベリアを分かつことになる海の底に沈んだ。これがガルダ島の起源となる。
「まったく、あなたもむちゃくちゃなことを考えたわね。マルスとミューを戦わせるなんて。」
セーナがトウヤを嗜めた。二人は途中から歴史が変わった異なる時空列の世界の住民である。セーナは自身最期となるベルン決戦の直前、トウヤはセーナの世界で言うところのヴェスティア決戦頃からこの時代に飛んできている。
「申し訳ありません。同じ時空剣のものを人質に取られてしまい、こうするしかなかったのです。」
「確か・・・ジェシカさんのことね。」
「彼女のことを知っていたのですか?」
セーナは頷いて、海で隔たれた逆側の陸地を指差した。
「知ってるわよ。1000年後、あっち側でミューと戦った時にそっちのあなたと彼女の子供を取り込むために、化け物と化したミューがリザレクションで呼び出したのよ。」
「そ、そうだったのですか。それならば今よりも辛い戦いですね・・・。」
マルスたちに迷惑を掛けたとあって、どことなくシュンとしているトウヤにセーナは励ました。
「心配ないわ。その化け物の呪縛に打ち勝ったのもあなたたちだったもの。あなたもいずれはそれくらいに強くなる。」
そして二人はマルスたちに向き合った。見ると、マルスが膝をついて、いかにも苦しそうにしていた。傍らに駆けつけてきたシーダからも心配の色がありありと見て取れた。
「大丈夫だ。こんな年になって初めて魔力を使ったんで、少し疲れただけさ。」
これにセーナは思い出したかのように頷いた。
「そういえばマルス様は純粋な剣士でしたね。ついノリのままライトニングを放ってしまって。」
「いや、これも良い経験さ。」
ようやく落ち着いたのか、マルスが立ち上がった。
「マルス様、面倒ごとを持ってきてしまい、申し訳ありませんでした。」
「いや、なにやら私も色々と考えさせられたよ。私が同じ立場であったら、もしかしたらあなたと同じことを考えたかもしれないな、特に若い頃だったら。それにしても人と竜の共生か。」
「私もそれが世界を安定させるために必要なことだと思っています。でもそれは未来のために今やること。そして未来、今のために決定した過去を改変してはいけないのです。たとえ悲劇を呼び込もうとも。」
「ということはこれから何か起きるということか?」
「数百年後、途方も無い悲劇が世界を起きます。そして私の時代でもそれを遠因とした人と竜の、血で血を洗う戦いが起こります。」
「・・・そうか、それはむごいことだな。」
「ですが、私たちの時代にも皆さんの英雄伝はしっかりと伝わっています。むしろ、それを糧にして生きていると言ってもいいのではないでしょうか。」
「それは光栄なことだな。・・・だが、それは君もいずれそうなるのだろう、この剣に選ばれたということは。」
金色に輝く剣は今もなおほのかに輝いている。
「ふふ、私は好き勝手に世界をかき乱しただけよ。」
「それは私も同じだと思うがな。」
そう言って二人は笑い合った。
やがてセーナはキー・オブ・フォーチュンの、トウヤは時空剣の力を用いてそれぞれの扉を開いた。
「では私たちも戻ります。共に戦えたことは忘れません。」
そしてトウヤも丁寧に頭を下げて、扉へと飛び込んでいった。

その後のマルスは今回の戦いで慣れぬ魔力を使ったことで体調を崩してリーベリア遠征を中止させて、祖国アリティアに帰国する。セーナの時代にはマルスとフォースドラゴンの戦いがリーベリア遠征中止の理由となっていたのだが、実際はトウヤとミュー、そしてセーナが原因であったのだ。もしマルスがそのままリーベリアに進出していた場合にはリーベリアの歴史はユグドラルに比肩するものとなり、その後の歴史は大きく変わっていたことだろう。
マルスは一度は快復したが、結局リーベリア遠征軍は発向されることなく、2年後に彼が病没することで完全に計画は棚上げとなった。その死の間際、マルスは見守るシーダにこういい残している。
「天上でしばらくはのんびりできそうだが、しばらくしてあのセーナが来たら慌しくなりそうだな・・・。」

 

 

 

 

最終更新:2013年06月16日 21:25