竜殿の最終決戦はいよいよ佳境を迎えつつあった。
「あの先だったな、竜殿は・・・。あれはさっき戦った火竜部隊じゃないか?!」
遅れて到着したのはハルトムートが率いる東部戦線にいた八神将たちであった。彼らはハルトムートの竜騎士部隊に乗って、ようやく着いたばかりである。しかし南には先ほどハルトムートたちが戦ったはずのネクロスの火竜部隊が陣取っていた。まだリザレクションが猛威を振るっていることを知らない彼らだが、すでに取るべき行動は決まっていた。
「突破するぞ!」
ハルトムートの号令に、ローラン、バリガン、ハノン、そしてアイやナーシャらが頷く。そして彼らの猛攻の前にネクロス火竜部隊は文字通り霧散した。
その異変は当然リザレクションもわかった。これで脱出路は確保されてしまったわけであるため、彼女も早急に決着を着ける必要があった。
「フフ、さすがはセーナと双璧を為したフィーリア殿ですね。では名推理のご褒美として、このミューのフィンブルを差し上げましょう!」
南西のクラウス部隊、南のネクロス部隊が壊滅したこともあって、リザレクションにかかる負担が減っていたため、彼女自身も戦える魔力を確保しつつあった。そして両手をフィーリアに向けて、吹雪の魔法を解き放つ。
『フィンブル!』
氷竜ミューの真骨頂たるフィンブルに、フィーリアは先ほどのブレスで負傷しており、重いトールハンマーを使うことができずにいた。他のものも同じである。
(セーナより先に天上に行くのか・・・。)
さすがのフィーリアも足掻くことを諦めていた。
だが、突如白く輝く船が一同の前に現れたかと思えば、リザレクションのフィンブルを打ち消した。
『何っ?!』
リザレクションもフィーリアも驚くが、すぐにその船を見てリザレクションは何が起きたのか悟った。
「ブラギ神、あなたが出てくるとはね・・・。」
気がつくと、フィーリアたちの前に一見特色のない老人が飄々と佇んでいた。彼こそがリザレクションを暴走させたきっかけを作ったブラギ神であった。
「リザレクションよ、何がそこまでさせるのじゃ。天上まで破壊しようとしおって。おかげでわしは後でセーナに怒鳴られるわい。」
実はブラギ神、今回の責任を追及され、対リザレクションの時間稼ぎとして援軍に来るようセーナから半ば脅されていた。もし履行しなかった場合は天上を荒らしまくると、本気とも冗談ともつかないことをセーナは言い放っていたのだ。これには両者の会話を仲介したコープルとヴェルダーも苦笑はしていたが、さすがに責任を感じていたブラギ神も諾と返事をしていた。
しかしリザレクションはこれも予測しており、天上にも魔の手を伸ばしていた。レダを侵略していたエインフェリアたちに暴れさせたのだ。天上を管理するブラギ神はこの対応に追われ、肝心の参戦が遅参することになった。彼がもっと早く来ていれば、アルドの命が奪われることはなかったと言えただろう。
「そのまま天上で眺めていれば良かったのよ。そうすれば生も死も考えずに済む、静かな世界に出来たというのに・・・。」
「リザレクションよ、そんな世界の何がいいのじゃ?生き死にがあるからこそ、人も竜も神も、その時を懸命に生きようとするのじゃ。」
「生きていれば苦しみや悲しみがある。なんでそんなものを敢えて受けようとするの。」
そのリザレクションの問いには思わぬところから返答があった。
「だって、つまらないでしょ!」
思わず声の聞こえる方に振り返ると、金色の竜に乗ったセーナがいた。
『セーナ!』
ブラギもリザレクションもフィーリアもイーリスもこれには驚いた。
「ちょっと眠り過ぎちゃったわね・・・。もっともそのまんまのんびり寝ているつもりだったけど、彼女に起こされちゃったのよ。」
そして自身が乗っている竜の頭を撫でた。
「神竜チキ・・・、やはり竜殿の封印を解いたのね。」
「そういうこと、先代ナーガ亡き今、その名を継げるのは彼女だけだからね。解放してあげたのよ。」
それはまだ前のアウロボロスが猛威を振るっていたときである。圧倒的な力の前に劣勢が続いていたナーガたちは次代を担うチキを守るべく、この竜殿に封印していたのだ。しかし、その明るい性格で神竜族のみならず竜族の心の支えとなっていた彼女が不在となることで、士気が低下してしまうのは否めない。それを憂慮したナーガは彼女の影武者として、かつてマルスやチキと共にメディウスと戦ったことのあるナギをチキに仕立てた。このナギについても出自は定かではないが、成長したチキとは見た目はより似るようになっていた。一説によれば別時間軸から何らかの理由で飛んできたチキという説も出ているほどだった。
こうしてチキとなったナギは時を経てラティらと出会い、数多の戦いに参加した。そして最後は本物のチキが眠る竜殿でセーナを救うために最期を遂げたのであった。
また、ナーガとラグナの抗争において、序盤は優勢だったナーガがラグナに対して押し切れなかったのは本物のチキの身を案じて、竜殿を抑えていたラグナを攻め切れなかったことが原因だった。その間にラグナは四竜神やブローの力を得て、押し返すこととなっていき、今回の人竜戦役へと繋がっていった。
それほどの影響力のあるチキが竜殿に封印されていたことをセーナが知ったのは、ラグナの慢心が原因であった。先日のヴェスティアの奇襲でセーナの魂を竜殿に連れてきたものの、その時に魂の形でありながら本物のチキの存在を知ったのだ。その後、復活を遂げたセーナは幾度かラグナとの和平交渉で竜殿に乗り込んで来ては、チキが封印されている裏づけを取っては救出方法を探っており、豪快にもこの檻ともいえる竜殿ごと破壊する手を考えついたのだ。
この間にもセーナはリザレクションを牽制しながらも、回り込んで竜殿に着いていたライトたちと合流することに成功した。フィーリアたちも辛うじて体を動かせるアトスとブラミモンドによって、ワープで竜殿に逃れた。
「しかしあなたもよく生きていたものね。どうやらミラドナを盾にしたのかしら。」
リザレクションもただ単にセーナとライトたちの合流を見守っていたのではない。既にセーナにはリザレクションに対抗できる力がないと見破っているのだ。
「ミラドナ様のおかげで助けられたわ。だけれども見ての通り、もう私には魔力は残っていない。」
セーナの体からは蒼い光があたかも漏れているように絶えず流れ出ていた。これこそがセーナが無限に生み出していた魔力そのものであった。
「魔力の器を自ら破壊するなんて愚かなことをしたものね。もっともそれで生きていられるのがあなたたる所以かしら。」
リザレクションの言う通り、セーナは己の一撃・シューティングスターによって己の魔力の器も破壊してしまっていた。セーナの魔力が蒼い光となって流れ出ているのはこれが原因なのである。大なり小なり生物の中に内包しているこの器が壊れれば、自然と生命も終焉を迎えることになるのだが、何の因果かセーナは辛くも生き続けることが出来ていた。そんな感想をしみじみと述べるリザレクションだが、だからといって攻勢を緩めるわけにはいかなかった。時間をかければリザレクションの魔力負担のかかる彼女が不利になるのは明らかで、早急にセーナたちをまとめて屠る必要があった。だからこそここでリザレクションは更に仕掛けた。
彼女は更にリザレクションを使用して、ネクロス、クラウスを呼び出した。これで立場こそ変わっているが、ラグナと四竜神が一同に会したことになる。
「誰か、時間を稼げる人はいない。少しの間でいい!」
セーナは周りを見回すが、すでに多くのものが満身創痍となっていた。無事なのはデーヴィドやサーシャ、セリアくらいで、竜たち相手に時間を稼げそうなのはライトくらいであった。だがここで思わぬところから声がかかった。
「セーナ、私たちが盾になろう!」
それは先ほどフィーリアたちを守るために盾となった白き船であった。その声にセーナは懐かしさが思わず懐かしさが込み上げてくる。
「お父様・・・。」
「再会を喜ぶのは天上でいいだろう。今はここで出来ることを急いで為すのだ!」
現世に降臨すると同時にブラギ神は神の方舟にセーナの父セリスや共に戦ったものたちを連れてきていた。相手が不死の力を得るのならば、こちらは天上の力を借りるべきとブラギ神が判断したのだ。
また、神の方舟から思わぬ人物が竜殿で傷を癒していたフィーリアとグスタフに声を掛けていた。
「フィーリア、グスタフ、あなたたちの怒りはそんなものなの?これほどまで命が蹂躙されていて、黙っていられるの?」
「誰?」
そして目の前に自身によく似た風貌の女性が降り立った瞬間、フィーリアはすぐにその正体を悟った。目頭が熱くなるのにそう時間はかからなかった。
「フィーリア、グスタフ、わたしとあの人の力を託します。どうか限りある命の美しさをリザレクションに見せ付けてあげて!」
そしてその光に包まれた女性は再び白い光となって、フィーリアとグスタフを包み込んだ。
この間、セーナも手を拱いているわけではなかった。
「ブラギ様、リザレクションに妨害されたのでしょうけど、遅れた責は今すぐ取ってもらうわよ。」
言われたブラギ神もさすがに申し訳なさそうな顔をしていた。
「なんとなくは察しておる。アルドを生き返らせろと言うのじゃろ。」
セーナは頷くが、ブラギは首を横に振る。思わぬことに放心状態だったミルが両者を見る。
「申し訳ないが、それはできん。もうアルドもわし一人の力でも蘇らせられないのじゃ。それほどに彼のエーギルは大きくなり過ぎたのじゃ。」
これにミルは俯いた。
「そんな・・・。」
「ブラギ様、誰もただでしろとは言ってないわよ。私の魂を、エーギルをアルドに渡して。」
手を胸に当てて、セーナがブラギに言う。その決然とした瞳にブラギは心を大きく動かされるが、すぐに首を振った。
「セーナよ、それが出来ないのはお主が一番わかっているのじゃろう。今のお前は生きているのが不思議な体じゃ。出来てもアルドの魔力の器を復活させる程度であろう。」
「ならば私の魂を合わせてもらえばどうです?」
そう言ってきたのはライトであった。
「ライト・・・。」
「お前が天上に行くとなるのなら、私も現世に未練はないからな。」
二人は頷いて、ブラギ神を見たが、それでもとブラギ神は首を振る。どうやら二人を合わせても今のアルドには足りないようだ。
場が沈痛な空気になりつつある最中、ついに盾となっていた神の方舟も限界を迎えつつあった。
「ブラギ様、もうこの船も限界だ。何か手立てはないか。」
セリスの声にブラギは頭を抱えたい衝動に駆られた。すでにユリアがナーガを使ったりしたが、やはり腐っても相手はラオウやラグナである。牽制程度にしかならず、神の方舟の防御力を盾にするしか出来なかったのだ。
しかしここでリザレクションの背後に二人の影が魔法陣に乗って現れた。フィーリアとグスタフである。
「フフ、またラオウたちのブレスを喰らいたいのかしら。」
相手を押し込んでいることもあって、リザレクションは上機嫌になっていた。
「私たちは負けられないの。お母様からもらったこの力であなたを止める!」
いつしかフィーリアの美しい銀髪がやや薄い黄金色に、グスタフの紅蓮の髪も色が薄くなり、強烈な魔力が辺りを占めるようになっていた。
「バーストアウト状態・・・。あの二人がなるとはね。」
セーナは魔力は感じないが、ついさっきまでラグナとの戦いでなった状態であるから、よくわかっていた。
人を巡る魔力がある量を超えると、理を超越した存在となる。ミカやゲイン、アトス、ブラミモンドもこの段階にいたっている。セーナはこの状態を更に突破することをバーストアウト(爆発的突破)と名付けた。上述のようにラグナと戦ったセーナがそうで、ネルガルと戦ったエリミーヌが成し遂げている。しかし消費する魔力は爆発的に増えるが、安定しないことから体への負担が非常に大きく、セーナは魔力の器を破損、エリミーヌこそその破損は免れたが、既に体の言うことが利かなくなっている。この状態を解消し、バーストアウトでも安定的に戦えるようになったのがラオウである。彼の好敵手であったシレンもこの域に達していたといわれ、やや概念が異なるがラオウを倒した冥界の覇王ハデスはこれを更に進化させた域にいたとされる。話が逸れたが、フィーリアとグスタフは今まで理を超越したレベルにも達していなかったが、あの力を得て一気にバーストアウト状態まで昇華させたのであった。
フィーリアとグスタフが手を合わせて、詠唱を始める。
「これが生きるものたちの輝きよ。」
『フォトン!』
穢れのない白き光がリザレクションに襲い掛かった。光はネクロスやクラウスを一瞬で葬り去り、ラオウとラグナのブレスをあっさりと跳ね返し、リザレクションへと炸裂した。
(まだこれでリザレクションが倒せるわけではない。一気にバーストアウト状態になった以上、すぐに二人も限界を迎えるはず。)
セーナは冷静にそう分析して、ブラギに迫った。
「どうにか出来ないの?!アルドさえ復活すれば、リザレクションを止められるの。」
「先ほども言ったが、無理じゃ。二人では今のアルドのエーギルの代わりにはならん。」
冷静に事実を突きつけるブラギに、セーナはどうにか出来ないか、頭を振り絞る。そんな一同にエリミーヌが苦しそうに胸を押さえながら言った。
「ブラギ様、セーナ様、私の、魂を使ってください!」
「エリミーヌ!」
「私はもう、長くは生きられないのです。でも、この、体が役に立つのであれば、喜んで捧げます!」
セーナもエリミーヌの体がもたないことは知っていた。だからこそこの戦いが終われば、この辺りに隠棲させて穏やかな時間を過ごさせてあげようと考えていたりもしていたのだ。
「ブラギ様、私の、エーギルでも、足りませんか?」
ブラギ神は一瞬、返答に詰まった。だが心を鬼にして言った。
「足りる。」
その一言でエリミーヌを覚悟させることになるのはわかっていた。命と運命を見守ってきたブラギ神にとって、年若い少女に命を失わせるその一言を伝えるのはあまりにも辛かった。
「本当ですか!?」
一方のエリミーヌはその言葉で満面の笑みを咲かせた。最近は魔力の制御で苦しんでいたので、ついぞ見たことのない笑顔であった。
「セーナ様、ライト様、もう父との別れも、もう済ませていますので、悔いはありません。どうか、私も、天上への旅をお供させてください!」
これにセーナもやはり返答に戸惑った。が、やはりブラギ神と同じように結局はエリミーヌの意志を尊重した。
「ありがとう、そして、ごめんね、エリミーヌ。」
「セーナ様、謝らないで、下さい。私は、セーナ様のおかげで、色んな、世界を見ることが、出来たのです。私こそ、お礼を申したい、くらいなのですから。」
さすがのセーナもエリミーヌの健気さには正視できなかった。が、時間は限られている。声を震わせながら、ブラギ神に言った。
「これで足りるのならば、早くアルドを蘇らせてちょうだい。」
ところがここに思わぬところから声がかかった。竜殿でフィーリアやアトスたちを見ていたサーシャである。
「お義姉さん、それは駄目!」
セーナも思わぬところから横槍が入ってきたのには驚いていた。
「お義姉さんの策はアルドにキー・オブ・フォーチュンを使わせることが眼目なんでしょう。他にキー・オブ・フォーチュンを使える人がいれば、すぐにアルドを蘇らせる必要はないんじゃないの?」
「アルド以外に・・・?」
「ここにいるでしょ。」
そしてサーシャが肩を置いたのがデーヴィドであった。これには当のデーヴィドも驚いた。確かにセーナの子であれば、有り得なくはなかった。
「デーヴィド・・・、確かに使えないわけでないかもしれない。でも、こんな状況で可能性に賭けるのは危険すぎる。」
「それじゃ、あんな適当な別れの挨拶だけで天上に行ってしまうつもりなの?」
サーシャの言葉は普段の温厚さが嘘のように辛辣であった。
槍玉にあがったのが、ブルガルでセーナに意を通じるものたちだけで行われた軍議であった。アルドをベルンに封じ込める策、己がラグナを打ち破った後に出てくるであろうミューに対する策を目の前にサーシャやミカに託していた。その後にその限られた面々にだけ最後の別れの挨拶をしていたのだが、サーシャには不満が残っていた。しかし、場の雰囲気に流され、結局サーシャはセーナに何も言えずにここまで来てしまった。
それを悟ったセーナは何も言えずにいると、サーシャは更に捲くし立てた。
「こういう世界になってしまったのも別れを適当にしてきたことが要因の一つだと思うの。世界をここまで変えておきながら、最後は何も言わずにアルドに任せるつもり?」
「だけれど、もしデーヴィドがキー・オブ・フォーチュンを使えなければ、もう時間的に間に合わないわよ。」
「それならそれでもう世界が私たちを必要としていないのと同じでしょ。駄目だったら皆で天上に行きましょ。ブラギ様には迷惑を掛けるかもしれないけど。」
半ば自棄にも取れるサーシャの言葉に、セーナも思わず苦笑する。心からの叫びに命をも平気で捨てるつもりだったセーナの心を溶かした瞬間であった。
セーナはキー・オブ・フォーチュンを取り出すと、デーヴィドに差し出した。
「あなたも私の子供。これを使いこなしてみなさい。」
サーシャの言葉はデーヴィドにも届いており、迷いはしなかった。母から剣を受け取り、柄に手をかけようとした。
(キー・オブ・フォーチュンよ、力を貸してくれ。世界を引き継ぐ時間を守るために。)
デーヴィドはそう願いながら柄に手をかけて、剣を一気に引き抜いた。刹那、彼を光が包み込んだ。
「やった!」
サーシャは会心の笑みを浮かべるが、まだセーナは楽観視しない。
「まだよ。キー・オブ・フォーチュンにはリザレクションを打ち破る秘策だけでなく、私や神君マルスの記憶や思いが全て込められている。下手をすればそれに呑み込まれて、廃人となってしまうこともあるわ。」
実際に光が収束しても、デーヴィドはまだ微動だにしなかった。
(デーヴィド・・・。)
不安のあまりに、嫌な汗が流れるのをセーナは感じていた。
しかし次に発した彼の言葉で、彼女の不安は霧散した。
「ライト様、ライトニングの合図を打ち上げてもらえますか?」
これにセーナの顔が和らいだ。すぐにライトがライトニングの魔法を空に打ち上げる。その直後であった、強力な結界が竜殿一体に張り巡らされた。
『ディメンションセパレータ』
その結界は南西戦線から放たれる闇の魔力から形成されていた。かつてナバダの地を破壊した、闇の究極破壊魔法アビスゲート最初の能力である。これを解き放ったのがロプトウスの力を得たロキである。これによって竜殿一体は一度本来の次元より隔離されることとなった。
「何事!?」
フィーリアとグスタフの放つフォトンを凌ぎきったリザレクションは魔力を消費し過ぎて動きが取れない二人に逆襲しようとしていたが、アビスゲートが形成した結界にその動きを止めた。
「アビスゲートを使って、この辺りを切り離したのよ。こうすることであなたは元の次元の死者たちを蘇らせることはできなくなった。」
セーナはリザレクションに言い放った。神の箱舟も退避したことで影になっていた一同を再びリザレクションが見下ろすと、光輝くキー・オブ・フォーチュンを見て驚いた。
「だ、だが次元を切り離したとて、私たちには勝てないわよ!」
そしてラオウとラグナにブレスを吐かせて、己もフィンブルでセーナたちを吹き飛ばそうとした。しかしキー・オブ・フォーチュンを持ったデーヴィドは果敢にも立ち向かい、フィンブル以下をあっさりと打ち払った。その光景を頼もしそうに見ていたセーナが続ける。
「次元を切り離すのはあなたの対策だけじゃない。かつて私がしたように次元を超えた力を持ったものを呼び込むためでもある。運命の鍵はただ時空を切り開き、運命を見守るだけではないんだからね。」
それでリザレクションはようやくセーナの意図を察したが、もう賽は投げられていた。デーヴィドはキー・オブ・フォーチュンを上段に構えたかと思うと、虚空に向けて大きく振り下ろした。その軌跡で空間に切れ目が入り、その口から一人の剣士が飛び出してきた。剣士は飛び出すや否や、すぐにラグナに対して狙いを定めて、剣を振り下ろした。このたった一太刀でラグナは一刀両断されていた。
「何っ!?」
「ラ、ラグナ様・・・。安らかにお眠りください。」
リザレクションは驚き、イーリスは夫の第二の死を静かに悼んだ。
「お前は何者だ!?」
リザレクションの問いに、剣士は静かに答える。
「神剣ラグネルを駆る者。」
そして今度はラオウの方を見た。
「ラオウか、こんな形でお前と再会したくはなかったぞ。」
言うや否や、剣士は高く跳躍して、ラオウに向けて上段から神剣ラグネルを振り下ろした。ラオウは腕を盾にして防ごうとするが、狙いとは裏腹にラグナ同様に一刀両断にされた。
「そんな・・・、馬鹿な。」
驚愕するリザレクションにセーナは静かに言った。
「彼はラオウと共に次元を超えて腕を競い合ったほどの人よ。生前のラオウならともかく、今のあなたに抑えられているラオウではとてもじゃないけど相手にならないわ。」
だがそもそもの疑問が一つある。
「なぜ彼の存在を・・・。まさか、ラオウ自身が。」
「そう、ラオウが死に際に私に教えてくれたのよ。彼も全て悟っていたのよ、いずれミューのリザレクションが暴走し、己を利用して世の理を破滅させようとすることを。だからそれを守るために、彼のことを私に知らせてくれた。」
ラオウはやはりミューのリザレクションの乱用を快く思っていなかったのである。それを止められなかった罪滅ぼしとしてセーナに対して、彼を紹介したのであった。
「もう、あなたに逆転の目はないわ。これが私たち生きているものたちの足掻いた成果。命の輝きは次元の壁をも突破するものなのよ!」
「黙りなさい!皆、まとめて滅ぼしてやるわ!?」
逆上したリザレクションはミューの魔力をギリギリまでかき集めてフィンブルを解き放った。
「行くぞ!」
ラグネルを持った剣士はデーヴィドを促すと、両者は同時に剣を振り下ろして衝撃波を解き放った。衝撃波はフィンブルの吹雪を霧散させると、ついにリザレクションに炸裂した。
決着を着けるべく、追撃の斬撃を放とうとする剣士に、デーヴィドがそれを制して叫んだ。
「フィーリアさん、グスタフさん、今です!」
しかしリザレクションはそれを聞いて、冷笑する。
「愚かな。あの二人はさっきの一撃で息も絶え絶えになっているはずよ。」
しかし後ろを振り返ったリザレクションはすぐにその笑みが凍りついた。フィーリアとグスタフ二人の魔力は前のフォトンを放った時よりも更に密度を増していたのだ。よく見れば二人をまとう魔力は前よりも赤みがかっていることを知り、さすがのリザレクションも何が起きているのか悟った。
「させない!」
リザレクションは必死にフィンブルを解き放つが、今度は魔法陣で転送してきたエレナが魔神剣ダーインスレイヴを振るって、フィンブルを打ち払った。
「見苦しいわよ。」
エレナの言葉に、リザレクションは今度こそ血が滴るほど唇を噛み締めた。
そしてフィーリアとグスタフの詠唱が終わり、その手をリザレクションに向ける。
「リザレクション、これで、悪夢を終わりにするわ。」
『フォトン!』
白き光がリザレクションを包み込み、ミューが持っていた悪夢の魔道書が、ついに燃え尽きた。悪夢が終わった瞬間である。