マルスユニオン軍は長い航海の果てにガルダ島にたどり着いた。先日のガルダ決戦からまだそれほど経っているわけではないので、まだまだ復興作業が続いているが、アルドたちの帰還に気付いてそこここで歓声があがった。
「やっぱりここに来ると色々と考えさせられてしまうな。」
ガルダに上陸したアルドの第一声がこれであった。付き添うミルは何も言えなかった。それだけこのガルダにはあまりにも多くの思いが篭もった地になっていたのだ。母を飛躍させた地、人と竜が命を賭けて戦った地、忠臣たちの死に涙した地、さすがに他のものもここでは静かになっていた。
アルドはそんな思いを隠しながら、島東部の市街地を訪れていた。彼らが帰還していることを知って、リーベリアの次代を担うアルクたちが待っていたのだ。アルドは彼らとの再会を喜びつつ、今までの経緯を説明しながら全てが終わったことを伝えた。これを聞いたときの彼らの反応は様々であった。犠牲の非常に多かったレダのティーネやカナンのセトは静かに目を閉じ、苦労を共にしたヴェルスとレオンは彼らに配慮しつつも終わったことを喜びあった。アルクもまた難しい局面を終えて、ほっとしたという表情をしている。
そして、次にセーナもラグナと共に亡くなった事実を知ると、さすがに一同は驚いた。それだけ彼らにとっても大きな存在だったのだろう。もともとセーナは一度復活してから今回の戦いでラグナと相討ちになると公言していたが、実際に世界を引っ掻き回した彼女がいなくなるとこれからどうなるのかと不安になりつつあった。しかし、彼らがざわついたところで現実が変わることもないので、アルドの言葉に従い、これからのことを話し合うことにした。
リーベリア大陸もアカネイア大陸でも戦前からは表向きは大きく変わったことはなかった。しかし、リーベリアでは確実に世代交代が進んでいる。リュナン世代で唯一セネトが第一線に残ることになり、ユトナ同盟盟主としてリーベリアを見守ることにはなったものの、リーヴェのアルク、レダのティーネ、サリアのヴァルス、カナンのセト、ウエルトのレオンがそれぞれの国を引っ張ることになった。今回の戦役による被害が著しいレダとカナンはしばらくは対外活動に出ることはないが、それぞれリーヴェ、サリアの支援を受けて、急速に復興していくことになる。
アカネイア大陸では今回の戦いでアイバーの発言力が大きく増した結果、先年の戦役で失墜したアカネイアの勢威が復活した。また、グラの女王ジャンヌも今回の戦役で活躍した経緯もあって、アリティア・グラ・アカネイア・マケドニアの四大国体勢が確立することになる。ミューのおかげで国内をかき回されたグルニアは人心の掌握が鍵となり、騎士団の再建とあわせて急務となる。なおガルダ決戦で降伏したガルダ神軍はロキと共にドルーア地方やアンリの道に移り住み、人類の復興を影ながら見守ることになる。
この間にいち早く北大陸を脱したレクサスはマディノを経由してアグスティーへと到着しつつあった。マディノで分かれたフォードには戦準備をするように伝えて、ついにアルド相手に仕掛ける覚悟を決めていた。しかし、しばらくしてもたらされた思わぬ情報にレクサスは動くに動けない状態となった。その要素は二つあった。
まず一つ目が、何よりも驚くべき情報で、ヴェスティアで諜報を担っていた一つの足・クロノスが独立し、トラキアとヴェスティアに対して反乱を仕掛けてきたというのだ。現時点で暴れているのは元々由来となったミレトス地方のクロノスであり、ちょうどその時に通過していた軍勢や貴族の隊列が襲われていた。当然、この情報はガルダにいるアルドたちにも届けられており、フィリップと対策を練っていたのだが、あろうことかそのクロノスからレクサスに対して同調するよう誘ってきたのだ。とはいえ、レクサスはその誘いを断った。彼らが決起した理由は先日のサカでの失態とブラミモンドへの処分に対する反発と公言しているが、それだけでユグドラルの二大国を相手にするには私情が勝りすぎており、誰もがまだ裏があると感じていたのだ。
だがレクサスが同調しなかったのはクロノスを信じ切れないないだけでなく、もう一つの要素が何よりも大きかった。レクサスがアグスティー城の城門をくぐるとその要素となる人物が出迎えてきた。
(この御仁をアグスティーに寄越すとはな。時間を考えるとすでにガルダの決戦後には動いていたのだろう。)
レクサスはその時点でアルドに対して兵を挙げることを諦めざるを得なかった。何しろ兵を挙げた時点でレクサスは窮地に陥ることになるからだ。
レクサスは本心を見せないように無理に笑顔を作ると、下馬をして労ってくるその人物の手を取った。この瞬間、一つの戦火の発火は防がれた。