トーラス山賊を撃退して、ジュリアやバーツなどの新戦力を得ることができたリュナンとマーロン率いるウエルト解放軍はその翌日、ついにコッダからの最初の鋭鋒であるエリッツ率いる騎馬軍団と対峙すべくソラの港へ向かい、ヴェルジェを後にした。ソラの港への途中にも解放軍にもコッダ派にもつかずに静観を決めていた諸侯もいたが、王女サーシャを擁していたこともあり、ソラの港までは大規模な戦いをせずに進むことができた。ヴェルジェを発って3日後、解放軍はソラの港の東部に到着した。リュナンは騎馬部隊をまとめるラフィン、後方支援部隊をまとめるサーシャ、作戦を練るオイゲンとマーロンを呼び、軍議を開くことになった。
「オイゲン、偵察隊からの報告は?」
「偵察隊からの連絡によると敵騎馬部隊は四日前にすでにソラの港に着いていて、英気を養っていたそうです。どうやらわれわれが到着するのを見て、一気に突撃してくるのでしょう。」
「そうなるともう我々の存在に気付いているのかもしれないな。」
そう言ってリュナンが黙り始めて、何か考え事を始めた。しばらくの時が経ちリュナンが口を開いた。
「これから軍を二つに分ける。ラフィンはクライスやアーキスら騎馬部隊を率いて西に5キロくらい低速前進してくれ。僕たち歩兵は南にある森の中を通って騎馬部隊に平行して前進する。敵の騎馬軍団はその特質上、ラフィンの騎馬部隊に攻撃を仕掛けてくるはずだ。ラフィンたちは彼らをできる限り引き付けて後退してくれ。ある程度後退したところで僕達歩兵部隊が横から攻撃を加えて壊滅させる。もちろんその際にはラフィン達も戦線に参加してもらうつもりだ。」
「なるほど敵騎馬部隊に敢えて突撃させて負ける様子を見せて深追いさせ、それを横から攻め入る策ですか。これなら確かに対騎馬には有利ですが・・・。」
オイゲンが次を言いかけたときにリュナンが指摘した。
「そう、この作戦には重大なデメリットがある。味方騎馬部隊が敵の攻撃を受けるからどうしてもダメージが大きくなってしまうんだ。僕たちにはエンテやプラムなどのシスターもいるけれど、彼女達にはあまり負担をかけたくない。できれば盾なんかあったらいいのだが」
「それならありますよ。」
サーシャの言葉に軍議に参加していたみんなが振り返った。
「リュナン様が山賊討伐に行っている間に、革の盾を200個ぐらい調達してきました。」
「に、二百個!」
リュナンたちは驚きを隠せるはずもなかった。革の盾は一個でも2000ゴールドするが、200個ともなるとかなりの金額になるからだ。
「一体、どうやって・・・。」
「私はケイトと一緒にヴェルジェ以南の諸侯のもとに行ってもらってきたの。二人で手分けして動いたから3時間ほどで集まったの。だってリュナン様たちがウエルトのために戦ってくれているのに自分だけ動かないのはどうしても我慢できなかったの・・・。」
「ありがとう、サーシャ。」

軍議を終えたリュナン達は早急に陣を畳み、慎重に軍を進めた。そしてついに彼らの思っていたとおりにエリッツ率いる騎馬部隊が砂煙を上げて突撃してきた。エリッツは歩兵部隊がいないのをただ遅れているだけと判断していた。そうこれこそがリュナンの狙いだったのだ。ラフィン達は押されているように見せながら、徐々に後退していった。しかし実際はサーシャの調達してきた革の盾が功を奏し、ほぼ被害は出ていなかった。それでもエリッツはリュナン達がすぐ横に潜んでいるとは思いもよなかった。エリッツが解放軍の兵力を過小評価していたからであった。エリッツの騎馬部隊は聖騎士ロジャー率いる騎馬部隊には劣るものの、その勇猛さはウエルト中に知れ渡っていたほどである。エリッツがこの戦いの勝利を確信した時、南の森から新手の軍勢が突撃しきた。もちろんこの部隊がリュナンらの歩兵部隊であることは言うまでもない。エリッツは裏をかかれたことをやっと知りながらも、ラフィンの部隊も攻勢に転じ、二部隊に挟撃を受けて混乱している部隊を再びまとめることはできずにいた。それどころか歩兵部隊に後方をも取り囲まれ退却もままならなかった。騎馬部隊をまとめていたラフィンはクライスとアーキスに部隊を任せ、精鋭を引き連れてエリッツに向けて突撃した。彼はこの戦いで手柄を上げたかったのだ。もちろん彼が考えているのはエリッツの首であった。ラフィンは敵陣に切り込み、エリッツの姿を血眼になって探し始めた。ある程度、切り込んだラフィンにひときわ立派な装備をしている武将が目に入った。もちろんエリッツである。
「国賊エリッツ!その首をもらうぞ!」
ラフィンがそう叫びエリッツに近寄っていった。彼の手元にはすでにニードルランスが握られていた。エリッツはそんな言葉でようやくラフィンの存在に気付いた。
「国賊は貴様のほうだ。覚悟するんだな。王家に刃を向けるものに死を。」
そういい二人は槍を交し合った。ラフィンはエリッツの力を込めた突きを交わし、エリッツもまたラフィンのスピードのある突きを窮していた。二人の一騎打ちはお互いの家来も援護にまわることができずにいるほどの激戦であった。しかしもう大勢は決まっていた。猛将とは言えラフィンよりはるかに老けているエリッツにとって体力の差は如何としがたいものであった。時が経つにつれてエリッツの槍さばきの衰えを感じたラフィンはエリッツを罠にかけることにした。ラフィンが勝負を決めようと一気にステップを前に出し、エリッツとの間合いを断った。それを嫌ったエリッツはそのステップ中の足を狙い突きを放った。だがこれがラフィンの巧妙な罠であった。前に勢いよく出した足はエリッツの槍が出た瞬間に勢いを殺し、即座に元の位置に戻っていった。もちろんその際に足を狙っていた槍も空気を切り裂いたに過ぎなかった。ラフィンはステップを元に戻したらその瞬間にそのニードルスピアーをエリッツに向けて突きを放った。エリッツもさっきの攻撃でかがんでいた体勢を戻して槍を避けようとしたが、不幸にもその槍は自分の心臓を突かれる結果となった。ラフィンはエリッツの首を斬ようとしただけでもなく、避けられた時の場合を考えていたのである。
「敵の大将エリッツの首は我ラフィンがもらった。」

エリッツの死により敵騎馬軍団はさらに混迷を深め、絶望の声をあげていた。
「これ以上の殺し合いは無駄だ。降伏した奴は解放軍の傘下に入れば命を助けると伝えておくんだ。戦意のない人を殺すのは虐殺と同じだ。」
リュナンはそう叫ぶと、味方の陣形は元の形に戻り、敵の残党は降伏をしたりグラムまで退却するなどまさに騎士というには情けない惨状であった。だがリュナンもホンの少し前には同じ事を経験していた。リュナンは複雑な思いで戦場を見渡した。包囲を解いたために敵軍は瞬く間に撤退していき、戦場にはおびただしい量の死体が並んでいた。ソラの港からプリーストを借り、死体の処理を全軍を挙げて行い、2時間ほどで戦場は元の平和な原野に戻った。味方の被害は予想していたより少なく五千のうちの百人に過ぎなかった。そうまさに大勝であった。しかしまだこれはウエルトの経済の中心を制圧したに過ぎず、まだ王都は遠かった。リュナンはこの戦勝にも浮かれることはなく、次なる戦いに身を案じることになった。次なる地は黒幕コッダの領地であるグラムであった。そこにはウエルトの聖騎士ロジャーが守りを固めていたのであった・・・。

 

 

 

 

 

最終更新:2011年07月07日 02:32