カナン東部にあるガルダ列島は今やすっかりセーナの統治に人民が心酔していて平
和で安らかな日々が送られていた。ユグドラルとの交易も始まったことでガルダ列島の中心ガルダ島には島の景観を崩さないように配慮して市街から離れた所に
港が作られた。ただ、今はユグドラル義勇軍の水軍クロスマリーナとオーガヒル海賊の船によってほとんど埋め尽くされている。そして有事に迅速に行動できる
ように島の北山にある本拠地からその港への道も整備された。こうしてガルダ島は当面は軍事都市として発展していくこととなる。
だがガルダの発展とは裏腹にユグドラル義勇軍の上層部は不安にかられていた。
セーナの婚約者ライトが麓にある市街に篭もっていて、セーナの登城要求にも答えずにいた。当のセーナはこれにこたえたのか政務に励むようになり、しかも唯
一のグランベル軍であるセーナ直属の精鋭グリューゲルを引き連れ、コープルさえも知らない極秘軍事訓練を行うようにさえなっていた。その真意は定かではな
いが、何も知らないコープルはただとまどうだけであった。
ある日、セーナは砦の書庫を訪れていた。政務も軍事も一段落し、何か読み物を探
しに来たのだろう。ただそれまでセーナが両手で抱えていた分厚い本、つまり『流星指南』はすでに彼女の頭に入っていた。ここでセーナはある古書を見つけ
る。その本にはガルダの守護竜フォースドラゴンのことについて書いてあった。フォースドラゴンとは光のナーガ、闇のガーゼルやロプトウスなどの特定の属性
を極めた竜族とは異なり、竜騎士の竜のように属性を持たない竜の中でも最強の竜としてユグドラルでも知られるほどであった。もっともユグドラルでは竜族の
帝王バハムートと呼ばれている。それがなぜガルダにいるかはわかっていないが、リーベリアの歴史に何らかの形で介入していたのは確かであろう。だがセーナ
の見つけた古書にはフォースドラゴンはリーベリアを他勢力からの圧力から守るために存在すると書いてあったのだ。
リーベリア大陸は二度、他大陸の侵攻を許している。一度は今回のユグドラル義勇
軍であるが、もう一つは今も何百年と続いているアリティア連合王国であった。初代盟主マルスのリーベリア侵攻時はセーナとほぼ同じルートを採ったとされて
いる。ただマルス軍はなぜかこのガルダ島で足止めを喰らっていた。ほとんどの史実ではマルスの后シーダが過労で倒れたとされているが、ひとつの史書だけは
白き竜と神君マルスの死闘を述べていた。この白き竜がフォースドラゴンであることは言うまでもない。結果的にはフォースドラゴンはマルスの実力を認め、彼
のリーベリア制圧の足となって動いたとされる。余談だが、この時のマルスが竜騎士の最上級ドラゴンロードの由来になるのである。この後、今のリーヴェ四王
国の基礎である国ができたのは言うまでもない。
そしてセーナがこの古書を読み終えたとき、彼女を呼びにコープルが来た。彼の話
によるとガルダ島の長老がセーナに『白き竜』のことで話があるという。セーナはライトの代わりにガルダにいるフィードと共にその長老の家へと向かった。偶
然にもその家はライトのいる宿屋であった。ライトはセーナと会うのにはためらっていたが、長老に言われてはと約一週間ぶりに恋人と再会することとなった。
セーナは彼の疲れた表情を見て、しばらく言葉をかけることが出来なかった。とにかくガルダの長老の機転で再会を果たした二人に一晩かけて『白き竜』のこと
について語っていた。
次の日、久しぶりにライトとセーナの二人でいる姿が砦に現れた。これで安堵する
ものも多くなかった。特にコープルの喜びようはひとしおだった。だがセーナはライトの姿を確認するとフィードを呼んで、自分も戦準備を始めた。周りの人も
それに気付いて、戦いが始まるのかと感じて戦準備を始めたが、セーナに止められ呆気にとられていた。
「ライト、大丈夫?今回は私とフィードで頑張るから、ライトは休んでいて良いのに・・・。」
戦準備を整えたセーナがライトを気遣いながら話していた。
「そういうわけにはいかないよ。セーナが神君マルスにどれだけ近づけるか見届けるって決めたんだからな。」
ライトの表情は昨夜のものとは別人のように明るくなっていた。それらを遠くから聞いていたフィードが
「お二人さん、そろそろ行きましょうぜ。」
と急かす。フィードならではの言葉である。これにはセーナもライトもさっきまで緩んでいた表情を引き締めた。と、ここでアレスとコープルが砦から出てきた。
「ちょっとお待ちください。どちらに行かれるのですか?」
ライトがいなかったのでおせっかい症の復活したコープルがセーナたちに聞いた。アレスも同じことを聞きたいようだ。
「私たちはこれから南山の洞窟の奥にある『竜帝の祭壇』を訪れるつもりです。」
「! それじゃ昨日、少し言っていた『白き竜』に戦いを挑むというのですか?」
昨夜行われた会談は偶然にもその日に読んだ書物から知った『白き竜』について語ら
れた。リーベリアの地をそのうち踏まねばならないと思っていたセーナは『白き竜』と相見えることをここで知り、その『白き竜』の表れる場所を聞き取ってい
た。彼女は自らその身を修羅の道に捧げ、神君マルスしか破られていないというフォースドラゴンに挑むことにした。その覚悟を知ったフィードもライトも彼女
に付いて行くことになった。これには義勇軍一の武闘派アレスもぜひとも付いていきたいのだろうが、彼には三人の留守の間に義勇軍をまとめなければならない
義務がある。
「戦えと言えば、戦うだけ。でも出来る限り、戦いではなく話し合いで終わらせたい。」
コープルとアレスをなだめたセーナはようやくガルダ島南部にある洞窟を目指して旅立った。
南山の洞窟は島民にも知られた有名な洞窟であるが、オープスの最東端生息地であ
りスケルトンも出てくることがあり多くの島民がここを敬遠している。そのために奥地にあるといわれる『竜帝の祭壇』の存在を確認した人間も神君マルス以
来、現れていない。厳密に言うとそこまで行こうとした人間こそいるが、帰ってこないのだ。セーナたちはその洞窟へと足を踏み入れることになる。フィードの
事前調査や島の伝承である程度は道がわかっているために最短距離で地下4階あたりまで降りられた。その途中、もちろんオープスやスケルトンらと遭遇した
が、モンスターに不慣れでもその義勇軍でも五本の指に入るほどの武勇を持つライトやフィードの前にはただ動く物体であった。その後も古書から取り出した情
報を頼りに歩みを進めるセーナたちはついに『竜帝の祭壇』に到着した。彼女達は予想以上に早く到着したので偽りかと思ったが、古書と情報を合わせるとどう
やらあたっているらしい。しかし祭壇には『白き竜』をかたどった像らしきものと、そのとなりには神君マルスを思わせる像があった。と、突然背後に人の気配
を感じた。すかさずその気配の方に体を向けたが、そこにはだれもいなかった。しかし今度はさっき向いていた方向から
「お主たちがリーベリアを侵そうとするものだな。」
セーナが声のするほうを向くと、一人の青年剣士が立っていた。見た目は彼の背後にある神君マルスの像と見た目には違いがなかった。
「私たちは侵攻する気はありません。ラゼリアのリュナン公子、グラナダのホームズさんを援護してこの大陸の戦乱を一日も早く終わらすためにここにいるのです。『白き竜』フォースドラゴン、この話をこのガルダで聞いてこのことをわかってもらうために来ました。」
「なるほど確かにマルス殿と同じ瞳をしておられる。だがそれだけではリーベリアを、いや世界を救うことはできない。何だかわかるな?」
「それは信頼と、真に善と悪を見分ける力です。これがなければ私たちは永久に戦いを終わらすことはできないでしょう。」
「その通りだ。ではそなたらにその力があるか試させてもらうぞ。出て来い!」
そう言った直後、二人の戦士が出てきた。だが彼らの表皮はウロコのようなもので覆われている。
「彼らは私が竜人と呼んでいるものだ。そしてマルス殿と私の力を受け継いだもの。お主たちは一対一で戦ってもらう。2勝したほうが勝ちだ。いいな。」
その言葉にセーナたちの表情が真剣になる。そしてセーナがうなずく。セーナに目で訴えたフィードが前に出てきた。
「それじゃー、最初は俺が行かせてもらうぜ。俺が勝てば、お二人さんがだいぶ楽になるんだ。」
その直後、第一の竜人カシムとフィードの戦いが始まった。
さすがに海賊育ちのフィードは生粋の素早さを生かしてカシムを翻弄していく。だ
がカシムはその動きを見切っているのか正確に最低限の動きでその斬撃を交わしていた。しかもしばしばカウンターの斬りを入れることもあり、しばらくすると
フィードの体には斬り傷が目立つようになっていた。それでもフィードは動きを止めずにカシムに果敢に攻撃を加えていく。カシムの方にも着実にフィードの剣
の跡が見られるようになり、ダメージを受けているように見えるが竜人の豊富な体力からすると、フィードの状態の方がはるかに深刻だった。すると突然フィー
ドが動きを止め、集中を始めた。カシムもその動きを見て、慎重になった。
「この時を待っていたぜ。親父から受け継いだ剣技を見せてやるぜ。」
その直後、剣を天にかざして叫んだ。
『太陽神剣』
そう叫ぶと、さっきまで灯篭だけで暗かった祭壇が外の世界のように明るくなった。
今まで暗いのになれたセーナたちはもちろんカシムもこれで何も見えなくなった。ただ何かが体をえぐっている音が祭壇に響くのみだった。しばらくして再び暗
くなった祭壇にはおびただしい血を流すフィードの姿があった。
「なぜだ。なぜ体力がもどらない。太陽神剣は確かに決まったはずなのに・・・。」
「太陽剣や天聖剣は魔物や人間に対して有効な剣技であり、われら竜族と竜人にはただの剣技だ。さすがに今のは私にもこたえたがな。」
そう言いながらカシムもわき腹をフィードに見せたそこからは人と変わらない赤い血が流れていた。
「俺の負けだ。太陽神剣をカウンターする時点で俺に勝ち目はない。」
その直後、セーナがフィードの元に駆け寄り、リカバーをかけた。その間に
「セーナ、ごめんよ。おかげでもう後がなくなっちまった。」
とフィードにしては珍しく素直にセーナに謝った。
「大丈夫。まだライトがいるわ。それに私だって負けない!」
そう言いながらセーナがフィードを担いで祭壇の隅に連れて行った。一方のライトはフィードの戦いを見て、戦術を練っていた。その集中力にはセーナでさえも近寄りがたかった。そしてライトの目前にはもう一人の竜人ジャンがすでに待ち受けていた。
「そこのお兄ちゃんよ。考え事をしていてはだめだぜ。それとも怖気づいたか?」
その言葉にライトが顔を上げた。
「どうやら久々に聖痕を頼る時が来たようだね。セーナ、マスターリングを頼む。」
という直後にすでにライトの元にセーナの指にしていたマスターリングが輝いていた。その指輪からは強力な風と魔力が出てきていた。その魔力に何か感じたのか祭壇の主がしみじみといった。
「ほう、久しぶりだな、フォルセティ。」
そういった直後、風で巻き上げられた砂煙の中から青い竜『フォルセティ』が現れ
た。ユグドラルの十二神の中で最も若い神であり、セリス解放戦争ではライトの祖父レヴィンの肉体を借りて降臨していた。そして後にまた人間界に降りてきて
セーナの才能を買い、彼女の精霊となったのである。フォルセティはその言葉に返そうとせず、黙ってライトの体と合体した。その体からは覚醒したセーナと同
じように強力なオーラが現れており、初めてセーナがこういう状態を客観的に見ることができたのであった。さすがの竜人でも神と合体したライトには敵うすべ
もなく、ジャンはわずか8分で敗北した。竜人からすると持ったほうかもしれない。その様子を見ながらセーナとフィードはそのライトの強さを改めて感じてい
た。だが当のライトは勢いを制御できないのか、依然ここの主たる青年剣士を睨んでいる。それを見たセーナが叫ぶ。
「ダメ!ライト、落ち着いて。あなたは勝ったのよ。今度は私の番。」
そんなセーナの叫びを聞いているのかいないのか、すでにライトは剣士への詠唱を始めていた・・・。