リュナンがセーナとの会見をしていた時、ソラの港より北にあるイスラ島でも一つの戦い、いや縄張り争いが終わろうとしていた。その戦いは言うまでもなく、ホームズ率いるシーライオンと、メルヘン率いるイスラ海賊の戦いであった。シーライオンは数こそイスラ海賊の3分の1であったが、その精強さはイスラ海賊と比べようもなかった。それもそのはずである。彼らの頭領であるホームズの弓矢の腕はグラナダいやリーヴェ一であり、その親友シゲンはゾーアの魔剣士との異名を持つヨーダの息子であり剣の腕も言うまでもない。もう一人、ゼノという剣士もいる。いつもはリュナンのように心優しい人間である彼も戦の時になると研ぎ澄まされたスピードと技で海賊達を斬っていった。もちろんホームズたちの下で働く者たちもイルの島で鍛えられたためか、イスラ海賊の攻撃を臆せずに突っ込んでいく。そしてシーライオン有利でイスラ島の縄張り争いは最終局面を迎えた。ホームズたちが島中央部にある砦を包囲したのである。
連日のホームズ軍の包囲でイスラ海賊の士気は地に落ちた。しかもメルヘンの思考も錯乱しつつあった。そしてついにメルヘンは暴挙に出た。
「野郎ども、もう我慢ならねぇ。あの小僧らに本当の俺らの力を見せてやるんだ。」
その直後、拠点をホームズ軍から守っていた門がゆっくりと開けられた。その直後イスラ海賊は勢いよく飛び出してきた。やはり鬱憤がたまっていたのだろう。イスラ海賊の勢いはすさまじくその時に砦を包囲していた一小隊も壊滅してしまった。幸いにもその部隊にはホームズもシゲンもゼノもいなかったためにその三人に危険は及ばなかった。だが一つの小隊を討ち破ったというきっかけをつかんだイスラ海賊の勢いはさらに増して、第二陣として詰めていたシゲン隊に突っ込んだ。そしてイスラ海賊と衝突する直前、シゲン隊の頭上を越えて何百もの矢が飛んでいった。今まで連敗続きだったイスラ海賊の勢いを潰すのはこれで十分であった。まるで騎馬の突撃のようにさえ見えたイスラ海賊の進撃は瞬く間に鈍った。そこを今度はシゲン隊が仕掛けた。シーライオン一、接近戦の上手い部隊の攻撃にイスラ海賊の旗色がさらに悪くなる。だがホームズはさらに攻勢の手を緩めようとはせず、側面に控えていたゼノ隊を動かした。これには先ほどまで怒り心頭だったメルヘンも頭が冷めたが、時すでに遅く、イスラ海賊がようやく陣形を戻した時には砦はイスラ海賊を突破したゼノ隊によって制圧されていた。メルヘンは何とか難を逃れるためにこの島を捨てることにした。彼らは方向を西へ転じて自分達の船目掛けて、逃げ始めていた。だがホームズたちは彼らを追おうとはしなかった。連日の戦いでシーライオンの兵も疲れていたからである。しかも敗れたとはいっても兵数はまだ互角、もしくはそれ以上あり、先ほどのようにメルヘンが常軌を逸した行動を取った場合に対処が難しくなる場合もあるからだ。ホームズ隊はシゲン隊と合流して砦へと向かった。途中、メルヘンに敗れた最初の小隊の残党も収容してホームズたちもゼノの待つ砦に入っていった。だが3人はまだ眠るわけにはいかなかった。イスラ海賊に何の罪もなく囚われた人々を解放しなければならないからだ。だがホームズとシゲンはそんな役割をゼノに任せて眠りこけてしまった。役割を押し付けられたゼノであったが、こういうのは慣れているのか地下牢にいる善良な島民かを判断して開放していき、最後にとある少女に出会った。その少女はいままでに囚われていた人とは違い、神聖な雰囲気を出していた。ゼノはその少女に事情を話して開放しようとしたが、行く宛てがないと言ってその砦の一室に泊まることになり、次の日にホームズと話し合おうことにした。

「だから俺らはちがうって!」
ホームズのその助けを求めるような声で朝が明けた。何事かとシゲンが見てみると昨夜、ゼノが砦に泊めていた少女がホームズともめあっていた。
「お、シゲン。ちょっと言ってくれよ。俺らは海賊じゃないってよ。」
さすがのホームズもこの少女の前では前日のような勇ましさはなかった。
「俺は海賊だと思っていたが・・・」
シゲンの言葉がホームズの希望を打ち砕く。そしてその少女がそれを聞いたように祈り始めた。
「やっぱり海賊だったんだ。ああ、ユトナ様。」
「ああ、シゲン、どうしてくれるんだよぉ。せっかく落ち着いてきたのに。」
そんなどうしようもない状態の三人のもとにゼノとユニがきた。ユニはこのイスラ島侵攻の際にゼノに惹かれてらしく、行動を共にしている。
「どうしたんだ、ホームズ?」
ゼノが明るく聞く。
「おお、ゼノ。ちょうど良かった。この子はお前が面倒見ろ。」
「うん?」
と言いながら、ゼノがホームズとシゲンに隠れて見えなかった少女を見つける。そしてゼノが
「あ、その子ならいいよ。」
と明るく答えた。ホームズとシゲンは少し離れてゼノがその少女をなだめているのを眺めていた。実はこの光景は今までもよくあった。だがこの時のホームズは何か考え事をしているようでさえあった。しばらくして
「なぁ、お前のその指輪、ちょっと見せてくれよ。」
ホームズがそう言いながら、その少女にまた近づいた。
「あっ、取らないで。その指輪は大切なものなの。」
「別に取ろうってわけじゃない。見せて欲しいんだ。」
しかし少女の態度は変わらず、指輪を見せようとしない。次第にホームズにも苛立ちがつのり始めたが、逆にゼノに
「ホームズ。カトリをそっとしといてあげようよ。」
といって丸く抑えられてしまった。さらにいつのまにかその少女がカトリという名前だということも、なぜ囚われていたのかも聞き出していたのだった。そしてゼノは
「ユニ、カトリと一緒に外に連れて行ってあげてよ。」
と指示する有様だった。ユニはもともとホームズから島の宝を回収するよう命じられていたので、そのついでとするのだろう。同じ女性同士だから気が合うとゼノは思っていた。それがうまく当たり、カトリもユニを信用して一緒に外に出て行った。そしてその右手には一本の杖が握られていた。それがこの島の運命を大きく変えることになる。
一方残ったホームズもいまだに何か考え事をしていた。
(あの指輪の紋章、どこかで見たことがある)
そうやはりその対象はあの指輪である。ホームズは砦の窓からそとを眺めていた。日が真上に届きつつある頃、突然
「あっ!」
という叫び声が砦内をこだました。
「今度は何だよ!」
いつのまにか自室に戻っていたシゲンが声を荒げて戻ってきた。
「あの指輪のことだよ。」
「ああ、あの子の指輪のことか。まだ考えていたのかよ。それで何かわかったのか?」
「俺ら、何年か前にサリアの神殿に行った事があるだろう。」
「魔獣の住みかになってたところだな。」
「そこの入り口にあった紋章があの子の指輪の物と同じなんだ。」
珍しくホームズの顔が真面目になっている。
「ちょっと待て。ということはカトリはサリアの王女ってことなのか?」
「そうなのかもしれないな。」
二人は目を見合わせてから再び外を見た。小鳥がさえずりユニとカトリのものであろうにぎやかな声が響く、このイスラ島が今、激変しようとしていた。

 

 

 

 

 

最終更新:2011年07月07日 02:43