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 リュナン軍によるセネー市の奪回はほぼ同時期に結成されたユトナ同盟の他の加盟勢力を大いに勇気付けた。しかし当の発起人リチャードは本拠地マールで身動きが取れずにいたのだ。リュナン軍のおかげでイストリア侵攻時の障害がなくなったが、標的のイストリアがリチャードにとって好ましくない布陣を取ったのが動けない理由である。イストリア軍はマール・イストリア国境に王子ロナルドの軍が、イストリアとノール公国の国境にはイストリア三姉妹の軍をそれぞれに配置していたのだった。そのためにリチャードは軍勢を二つに分けざるを得ず、ノール公国軍を主力とする軍勢をノールへと向かわせた。しかしイストリア三姉妹の器量を前回の戦いで知ったリチャードはノールではイストリア三姉妹の猛攻を凌げないと感じていために行動を慎んでいた。そんな緊張した日をしばらく送っているうちにウエルトからもう一人の客が訪れてきた。それはウエルトにおいてトーラス山賊、イスラ海賊を壊滅させてウエルト王国の治安を確立させたシーライオンの頭領ホームズであった。ホームズとリチャードはマールとグラナダという海運を生計にしている国出身だけあって幼い頃からよしみを通じており、リュナンもそのことを知るほどの仲だった。もちろんあの普通ではない性格の二人であったためにその間は悪友という表現が正しいだろう。今回の謁見ではリチャードとホームズはお互いに辛い言葉を飛ばしあい、一緒にいたシゲンはあきれ果ててその場から逃げ出すほどだった。しかし今回のホームズとの会見(?)でリチャードは久しぶりに友と楽しみあう時を手に入れることができた。そしてそれに気付いていたのは遠くから眺めていたティーエとロレンスだけだった。ホームズとリチャードの荒々しい会話は延々と1時間半にまで及ぶものとなった。そして城を出ようとするホームズは見送りに来ていたティーエに大賢者モースの唱えた歌を送った。

古の契約により
王国滅するも
50年の後
レダの娘
現れ出
その者
黄金の鎧をまといて
レダの民を
救済するなり


この年はレダ王国が魔竜クラニオンによって滅ぼされてからちょうど49年後のことである。つまりこのモースの予言は来年、黄金の鎧をまとうレダ王家の少女が滅んだレダ王国を再生させることを言っているのである。そして今、このリーベリア大陸にはレダ王家に連なるものはティーエ一人しかいない。しかもそのティーエ自身、トレンテ公爵から旅立ちの日に送られた黄金作りの鎧をよく身に着けている。ホームズがこの歌を送った真意は定かではないが、この歌を直に聞いたティーエはしばらく考え込んでしまった。こうしてホームズはマールに何かを残して去っていった。

ホームズとの再会から5日後、一人の剣士がマール王宮を訪れていた。手首にはシュラムの里の住人であることを示す腕輪を持っていた。王城の警備兵はその腕輪を見せられると恐れを感じたのか、真っ直ぐにリチャードのもとへ彼を送り届けた。
「もう来たのか。約束の日は明日じゃなかったのか?」
その剣士に対面したリチャードはそう言ったが、その剣士は今までの暗殺者のような雰囲気を殺し、今度はすごく明るくなってこう言った。
「まぁ、いいじゃないですか。戦力が一日でも早く届けば、一日早く行動を起こせるんだし。それにせっかく雇ってもらったんだ。でもできれば兄貴と一緒に戦いたかったなぁ。」
これがその剣士の本来の性格なのかもしれない。彼の名はアジャス。さきほど言った兄貴とはシュラムの死神ことヴェガである。兄貴と言うだけあってヴェガの心許せる戦友とも言えよう。アジャス自身はヴェガの強さにひかれた人間である。
「フン、いずれ会えるさ。何しろシュラムの里の剣士は揃ってユトナ同盟のどれかの加盟国に派遣されているのだからな。それよりお前は早速だが、ロレンスと共に一日も早くノールに行ってくれ。そしてノールを守ってやってくれ。俺達はこの三日の内にイストリアへと侵攻する。おそらくノールは危地にさらされることになるだろう。それを助けるのだ。」
リチャードが早速命じたのだったが、アジャスは多少不思議がった顔をして
「そんなにノールって奴は弱いんかい?」
と質問した。これにリチャードは憮然としながら
「ノールは近頃確かに力をつけてきている。しかしイストリアにいるのはイストリア三姉妹なのだ。俺は前の戦で彼女たちの強さを知っている。できれば敵にしたくないのだが、あそこにいる以上、戦うしかないのだ。だがノールでは勝てないだろう。」
「ほぉ、ずいぶんと立派なご意見だね。だったらあんたがノールへ行けばいいんじゃないか?」
「お前は事情と言うものを知らないな。俺はこのマール王家の者だ。その俺がどうしてノールから発ってしまえば、マールの大義名分はなくなる。」
このときのリチャードの大義名分は主にバルト戦役におけるイストリアの寝返りをあげており、西部諸侯連合はイストリアの圧政から地元の市民を救うものである。つまりもとの勢力によって大義名分が異なるのである。
「ふーん。そんなもんかねぇ。まぁいいや。行くんならそのノールって奴を勝たせてきてやるよ。」
「フン、まぁいいだろう。勝ってくれたらそれに越したことはない。勝たせたらお前には約束の二倍の報奨を与えてやろう。」
「本当かい!その言葉、忘れるなよ。」
気がつくとアジャスはすでに王の間を去っていた。呆気にとられながらリチャードはつぶやいた。
「まったく俺のもとには何であんな連中ばっかり集まるのだ。」

とにかくアジャスの加入でノール側の軍勢も全て準備が整った。そしてついにリチャードはバルト戦役の屈辱をぬぐうためにその軍勢を北へ向けて進発させた。マール軍はリチャード隊とティーエ隊だけで構成されているが、精鋭ブラックストライクとサイファードを引き連れており、国境で対するロナルド率いるイストリア軍を圧倒している。一方のノール軍は新参のアジャスとロレンスの移動で陣容は厚くなったものと思われたが、こちらは質より量の軍であった。そんな軍勢が質も量もリーベリアトップクラスのイストリア三姉妹と戦おうとしている。誰から見てもノール軍の負けは濃厚だと思っていた。それはノール公国の領民から見ても同じだった。領民は無謀な策を立てるリチャードを責めようとするものまでおり、この作戦の強引さが伝わってくる。しかしノールⅤには勝算があった。今、リーベリア最大の番狂わせ劇が開演しようとしている。そのキーワードは一騎討ち、そして信じる心。

 

 

 

 

 

 

最終更新:2011年07月07日 02:50