リュナン、リチャード、ティーエ、セネト、ホームズを軸についにリーベリアが動き始めた。そしてリーベリアの極東に位置するガルダでもユグドラルの皇女セーナが動き出そうとしていた。
フォースドラゴンとの戦い時にはセーナと共にした婚約者ライトであったが、それ以降は再びガルダ島の長老の家に篭もる日々を送っていた。だがライトの知らないうちにガルダ島は着々とその様相を変えようとしていた。
「長老、何か御用でも?」
長老の家に篭もっておよそ2週間後、ガルダ島の長老はライトを呼んでいた。
「実は最近、義勇軍の動きがあわただしいので何か心当たりがあるのか聞きたいのですが?」
「何をしているのですか?」
「古城付近の森林を伐採して、北山の裏に一際大きい建物を建てているそうです。そしてグランベル本国から出発した援軍がまもなく到着するらしいのです。」
セーナはお世話になっている代わりに自分達のしようとしていることをあらかじめ通達して、許可を求めてから行動に移っていたのでその行動のほとんどをガルダ島の長老は知っていたのである。島民を不安にさせないための処置とも言える。
「おそらく帝国へのけん制の効果が薄れてきたので一気に決戦に持ち込もうと思っているのでしょう。何しろここに来て以来、戦らしい戦はしていませんから。」
さすがに賢者セティの息子である。わずかの情報にも関わらず、そこまで判断できたのは素質のなすところであろう。セーナの勇躍でかすれがちだったライトもこのガルダの地で着実に成長していた。
「そろそろ私も古城に戻ろうかと思います。セーナも心配しているでしょうから。」
「その方がいいでしょう。ついでにこの魔道書も持っていって下さい。何かの役に立つかもしれません。」
そう言って長老は部屋の戸棚から一つの魔道書を取り出してライトに渡した。
「これは?」
「リーベリアでもめったに見つけられない光魔法ムーンライトです。」
「長老、お世話になったのに、こんな物まで・・・。本当にありがとうございます。」
ライトは長老に深深と頭を下げて、ユグドラル義勇軍の本陣がある北山の古城に戻っていった。
一方、ライトの言う通り、ゾーア帝国との決戦を挑もうとするセーナは自室にレンスターのキュアン2世とトラキアのフ王子ィリップを呼んでいた。
「キュアン王子、フィリップ王子、私たちはこれからゾーア帝国に決戦を挑もうと考えています。しかしそれよりも重大な問題がユグドラルで起ころうとしています。」
そう言われても二人にはユグドラルで何が起きようとしているのか想像できなかった。
「アグストリア解放戦の時、アレス王の軍門に下ったシャガール2世の嫡男シャガール3世がアンフォニーで反乱を起こして、我々の補給基地であるハイラインを狙っているそうです。そこでお二人には10万の軍勢を率いてハイラインに向かって欲しいのです。」
この言葉に即座に反応したのはトラキアの若大将フィリップであった。
「ちょっと待ってください。まだ不確かな情報だというのにユグドラル義勇軍のほぼ全軍を引き揚げさせるのですか?それだけでなく、セーナ皇女はグリューゲルだけでゾーアに挑むつもりですか?」
「いいえ、もうすぐ2万のエーデルリッターがここに到着する予定だわ。それに10万もの兵があれば、ゾーアも私たちと戦おうとしないでしょ?それだけじゃない。シャガールの反乱はすでにエルトも見破っている。不確かな情報ではないのよ。」
実はこの情報もエルトことエルトシャン2世から送られてきたのである。何かとライトとセーナに突っかかってくるエルトは二人との仲も良く、今回のユグドラル義勇軍出発のためにハイラインを提供するようにしたのも実は彼の善意であった。そしてこう言われれば、フィリップもエルトの義兄弟キュアンもセーナの指示には従わざるを得なくなる。
「わかりました。それでは明日までに準備を整えて、ハイラインに向かいます。」
キュアンのその答えを聞いて
「あ、それとシャガールとの戦いが終わってもガルダに戻ってこなくていいわ。久々にみんなを故郷に戻してあげて。リーベリアのことはもう私とライト、アレス王で十分だから。」
「それでは・・・・」
フィリップが反論しようとしたところ
「フィリップ王子、ユグドラルの不安は何もシャガール3世のことだけじゃない。トラキアに接するミレトスでも地下組織クロノスが動き始めていると聞いているし、いつ兄様が私を害そうとするかわからないしね。これらが動き始めれば、ユグドラルはまた戦火にさらされる。そんなときに私のために戦って、疲労したら彼らの思う壺になるわ。」
セーナの言葉にフィリップは半ば理解することはできなかったが、一方の切れ者キュアンは
「そういうことなら仕方ないですね。わかりました。」
「ありがとう、キュアン王子。リーフ様によろしくね。」
その後、何が何だかよくわからないフィリップとセーナの考えを理解したキュアン2世はまったく異なる足取りでセーナの部屋を退室した。それからまもなく、セーナ直属の精鋭グリューゲルの筆頭カインが入ってきた。
「皇女、まもなくエーデルリッターが北の港に到着します。会いにいきませんか?」
こちらもセーナ直属であるエーデルリッターはグリューゲルとは発足の仕方が異なる。というよりはグリューゲルの方が特例なのであろう。エーデルリッターの女隊長ミーシャはリーフの長女であり、キュアン2世の妹であったが、セリスにその才を認められてセーナに近づくこととなった。以降はシレジアのレイラと共にセーナの片腕として働いていた。余談だがグリューゲルの№0002アベルの妻でもある。
「う~ん。行きたいのは行きたいのだけど・・・。いろいろとやらなきゃいけないことがあるからアベルと一緒に迎えにいってくれない?」
「わかりました。しかしあまり無理はしないようにしてくださいよ。」
そういいながらカインはくすくすと笑いながら部屋を後にした。その直後、セーナはそのまま机にうなだれ、ぐっすりと眠ってしまった。おそらくカインもそれに気付いていたのだろう。
「セーナ、セーナ、起きろよ、セーナ。」
気がつくと窓から見える陽は水平線のかなたに沈もうとしていた。そして少し首を傾けるとそこには最愛の男の顔があった。
「ラッ、ライト!」
風のごとく現れたライトを前にしてさすがにセーナも驚きを隠せずに飛び起きた。
「そんなに驚くことはないだろう。」
「だって今日、戻ってくるとは思わなかったから。」
「さすがに僕の行動までは読めないみたいだね。」
それを聞いたセーナは顔を赤らめ、ライトの体を軽く叩いてこう言った。
「からかわないでよ!本当に心配したんだから。」
厳密にはフォースドラゴンとの戦いの時にあっていたが、あの時はフィードがいたから実際に二人きりになれたのは二週間振りである。セーナは夕陽に照らされて赤くなった部屋の中でライトに飛びついた。
翌日、セーナの指示どおりにユグドラル義勇軍の大半は最後の仕事、シャガールの反乱を鎮めるためにハイラインへと戻っていった。セーナを慕ってここまできた義勇兵たちにとって彼女と別れるのには多少抵抗があったらしいが、そのセーナからの命令に逆らうわけにもいかず皆、ハイラインへと向かった。残ったのは昨日到着したエーデルリッター2万に、グリューゲル6千、アグストリアのクロスマリーナとクロスナイツ1万のみで、精鋭のみとはいえどもその数は3分の1に減少した。残った将はセーナ、ライト、コープル、アレス、レイラ、そして後のセーナ十勇者、エーデルリッターのミーシャとなった。一方、怪盗?フィードはセーナの影武者リベカと共にゾーア地方(レダ王国極東地域)からリーヴェ方面に向かい始めていた。
これをゾーア帝国が見逃すはずもなく、名誉挽回とばかりにガルダ島に接するカナン王国の東岸にはガーゼルの暗黒騎士団を始め、親ガーゼルのカナン兵団、半ば強制的に連れてこさせられたカナン軍が集結し、決戦を挑もうとしていた。