ゾーア帝国とユグドラル義勇軍の戦いは数に勝るゾーア帝国軍の優勢でことが進んでいた。初戦では出陣してきたクロスマリーナを巧みな陽動作戦で撤退させ、総勢20万の軍勢はガルダ列島の中心ガルダ島西岸にどっと上陸した。これに対してセーナは市街を守るようにエーデルリッター2万を配備し、グリューゲル6千を南山に、黒騎士アレス率いるベテランのクロスナイツ3千を西の港と市街地を繋ぐ街道に配置して、完全に防戦体制に入ってしまっていた。これにはガルダ島民の間にも不安が広がり、ユグドラルへと逃げようとセーナの造った北の港に殺到していた。しかしこの展開はすでに彼女の読みどおりであった。そして今、セーナの神がかり的な知謀がこの20万の兵を飲み込もうとしている。
南山に潜んでいるグリューゲルを率いるセーナとライトはつぶさに届く戦況を聞き、今後のことを練っていた。そこに新たな情報が届いた。その情報とは
『ロートリッター、布陣完了』
という物だった。セリス解放戦争の最後の聖戦、ヴェルトマー平原の戦いでティナと共に戦い散っていった者たちの後継者で構成されている部隊がロートリッターである。厳密には旧帝国皇帝アルヴィスお抱えの精鋭であり、ティナに譲られていた。今はヴェルトマーの当主アゼルとユリウスの遺子グスタフがまとめているが、エーデルリッター出発時にセーナの要望に応えて、グスタフが10人あまり彼らに付けていたのである。そして彼らがこの聖戦のカギを握っていた。
「これで準備は整ったわ。アレス王に事前に申し合わせたよう行動するように伝えて。」
その言葉を聞いた物見はすぐに南山を降りてゆき、現在ゾーア帝国軍と死闘を演じるクロスナイツに向かった。そしてセーナはカインと№0004ボルスを呼んで
「いい、クロスナイツを無事に撤退させるためにあなたたちは追撃しようとするゾーア軍の側面を襲って。でも決して本気で戦わないこと。あくまで敵の矛先を鈍らせるのが目的だからね。それからはCルートでここに戻ってきなさい。」
『かしこまりました。』
そう言ってカインとボルスは各々の部隊に行った。だがこのやりとりを複雑に見ている人物がいた。ライトである。
「セーナ、このままでは本陣を取られてしまうではないか。いいのか、それで?」
「これも戦術よ。シューティングスター、第六段『火城の計』。」
「! ってことはゾーア軍を焼き尽くすのか?」
「仕方がないわ。ゾーア軍のほとんどは好きでガーゼルに荷担している者ばかり。一部の善良なカナン兵の目を覚まさせるにはこうするしかないの。」
「もしかして古城付近の森林を伐採したのも・・・。」
「そう、無駄な延焼を防ぐため。それに今、あの後に植える苗木がユグドラルから送られているわ。」
そこまで用意周到だったセーナの言葉を聞き、ライトは一応納得したが、まだ『火城の計』を利用することには抵抗があるようであった。
しかしそんなライトの思いをよそに戦闘は次々と展開していく。総撤退するクロスナイツを追撃するゾーア軍に南山からのグリューゲルが奇襲したが、グリューゲルは軽く一当たりしただけで市街方面に逃げてしまった。しかしそれによりクロスナイツは難を逃れ、気がつけば本陣であった古城を捨て、北山をも越えていた。今日の戦闘はこれで終わらせようとしたのか、ゾーア軍は半数の10万を北山の麓にあったクロスナイツの陣を制圧して、そこから動こうとはしなかった。一方の残りの10万はユグドラル義勇軍の本拠地だった古城を制圧して、ここをガルダ列島の攻略拠点にした。ここで興味深いのは北山の麓に陣取った部隊のほとんどがカナン兵であること、古城にいるのがガーゼル教国軍であることである。このことよりゾーア帝国内でもガーゼル>カナンの身分差別ができていることが容易に想像できる。とにかくこれでガルダ島の大半の戦力を討ち果たしたと思ったゾーア帝国軍は各々の陣で食事の時を迎えようとしていた。
このとき、南山から一つの光る球が飛んでいった。ある程度、上がったところでその球は破裂した。まるで何かの合図であるかのように。これに気付いた麓のカナン軍は食事を中断して、敵の奇襲に身構えた。しかし次の瞬間、誰もが目を疑う光景が目の前に広がっていた。
『悪しき者に従う愚かな魂に、今こそ裁きの鉄槌をくだしたまえ』
古城の周りに伏せられていたロートリッターの魔道士たちはその光の球が破裂したのと同時に詠唱を始めた。そして数秒後、悪名高いあの魔法が40年の時を経て、今、牙を剥く。
『メティオ』
天から無数の隕石が古城を捉え、隕石は地表に到達するのと同時に今までの魔法では考えられない大爆発を起こした。瞬く間に古城は灼熱地獄に変わり、カナン兵と異なり敵を侮っていたガーゼル軍は大混乱の中、次々とこの熱波によって灰になっていった。これこそまさしく生き地獄と呼ぶにふさわしい光景であろう。『メティオ』を放ったロートリッターでさえもこの光景を前にして大いに肝を冷やした。
「セーナ!やりすぎではないか!あれでは・・・。」
南山から同じようにこの光景を見ていたライトは激しく怒りセーナに詰め寄った。しかしセーナはうつむいたまま、それに反応しようとしない。すると傍らにいたコープルは
「王子、落ち着いてください。セーナ様とてこんなことはしたくなかったはずです。どうか心中をお察ししてあげてください。」
といい、何とかしてライトをなだめた。するとセーナはこうつぶやいた。
「これでカナン兵が退却してくれればいいけど・・・。もうこれ以上、人を殺したくない。」
その言葉を聞いてはライトももう言葉を継げなかった。赤い光が届く南山の陣を沈黙が過ぎてゆく。
日が変わり、ようやくその惨状が明らかになった。この大火計によってガーゼル軍10万のうち、6万が焼け死に、3万の兵が大火傷を負った。無事だったものは当時門番をしていて容易に逃げられることができた、わずかの兵のみだった。これには麓に陣取るカナン軍も肝を冷やして本国に退却するかに思えたが、このカナンの中にもガーゼルを信奉するものはいた。このカナン軍の総司令官を務めるのは仮にもエルンストとバルバロッサと同じ位にある「カナンの頭脳」ヴァーサである。カナンの頭脳と呼ばれるだけあって兵法や知略に通じているようにみえるが、このヴァーサ、実はただガーゼルを信奉するだけの魔道士であり、大した能力は持っていない。カルラによって任命されなければ、一兵士に過ぎなかったであろう。そのヴァーサはこともあろうにガーゼル軍の仇を討とうとして、市街地の目前に陣取るエーデルリッターに攻撃を仕掛けたのである。これを知った時のセーナの落胆はもはや表現できるものではなかった。しかしいつまでも下を向いていることはできないセーナはついにグリューゲル全軍に出撃命令を下した。
「これよりゾーア軍を討つ。グリューゲルの勇者達よ。私、セーナに力を貸してください。」
この言葉にグリューゲルの将兵たちは奮い立ち、まず空軍3千が勢い良く空に飛び出した。そしてセーナはこれから行われる戦闘の方針を叫んだ。
「私たちグリューゲルはシューティングスター奥義『流星陣』で敵を打ち砕く。全軍、かねての打ち合わせどおり、南山の麓に陣形Dを作って集結しなさい。」
『流星陣』。セリスが作り上げた必勝戦術『シューティングスター』の最終段に記載されている究極奥義である。幾度か触れたかもしれないが、この流星陣のもととなったのはヴェルトマー平原の戦いでティナがセリス隊を突破する時に用いた陣形を更に改良を加えてできた物であり、おそらく奇跡の陣形であろう。ただティナはどのようにしてこの流星陣の元を見つけ出したのかはわかっていない。
そしてガルダ島に流星が降り注ぐ。