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 ここでセーナの生い立ちを振り返ってみよう。言うまでもなく、セーナは新生(神聖の意味もかかっている)グランベル帝国皇帝セリスとその妻ユリアの元で産まれた。二人にとって初の女児であり、セリスは自分の名前から一文字、初恋のティナから一文字をとって、さらにそれを繋ぐ意味の「-」を付けて「セーナ」と名付けたことから、かなりの期待をしていたことが名前からも伝わる。しかし産まれた間もなく、セーナには兄たちのようにすぐに現れた、聖戦士の末裔を示す、聖痕が現れなかったため、セリスはセーナを失望し、ユリアの反対があったにも関わらず、シレジアのセティに養女として送ろうとした。他人に関してはその才能を見切ることができたセリスでも身内の素質には気付けなかったようだ。しかし対するセティは幼いセーナを見たとたんに、息子ライトを上回る素質を直感的に感じ取り、『養女』としてシレジアに迎えるのではなく、『留学』としてセティのもとに一時、引き取られた。グランベルの騎士たちよりもシレジアの騎士たちの方がセーナに親しいのはここに由来する。セティは彼女の素質を開花させるべく、とにかく多分野に渡った物事を徹底的に教え込んだ。それはシスターとしての心構えから君主として民にやらねばならない『王道学』にまで及び、実の息子ライトへの教育量をはるかに上回っていた。一時はその厳しさに2、3度、失踪したことがあるが、それでも呑み込みの早いセーナはセティの課したノルマをすべて予定通りにこなして着実にグランベルの皇女としての能力を身に付けていくことになる。12歳になって、ついにセーナにとって大きな転換期を迎えることとなる。父セリスがセティやユリアの説得に応じて、セーナをグランベルの皇女として正式に認め、グランベルに帰国させたのである。遅くとも父セリスが愛娘の才能を認めたことになる。しかしセーナはよほどシレジアが気に入ったのか、さらに3年ほど留まりつづけ、ヴェスティア領を与えられるまでシレジアを中心として多くの人々に救いの手を差し伸べていた。そしてその活動の最中、カインとアベルに出会い、じっくりと義勇軍グリューゲルが熟成されていくのである。もちろん兄マリクやシグルド2世とも幾度か会っており、エルトシャン2世とも仲が良かったためか、シグルド2世との間柄は急速に温まっていた。ヴェスティア派遣時にも真っ先にヴェスティアでセーナと会ったのがシグルドであることからシグルド自身、妹の凱旋にも似た帰国をかなり喜んでいたのだろう。シグルドの影響が残りながらも未だに野盗のはびこる地であったヴェスティアは、軍として認められたグリューゲルと、新たに配属されたエーデルリッターによってそのほとんどが降伏か、全滅を余儀なくされ、シグルドⅡでさえなしえなかったヴェスティアの治安確立は誰もが驚く速さでなしえたのだった。これに喜んだのは幼少からの相談役コープルであった。シレジアとエッダの間を行き来する日々を送っていたコープルはいつか彼女が「ティナ」の再来として大陸で輝く日が来るのを待っていたのである。だが勇躍するものがいれば、それをねたむものも現れるのが人間の世界。本来ならば支えなければならない兄マリクがその一人である。セーナとは逆に産まれた直後にナーガの聖痕が出たマリクはセリスに手塩にかけて育てられたが、子育てがセティやオイフェより下手だったのか、プライドが強い人間へと成長してしまう。しかし気付いた時はすでに遅く、マリクは野望の高き男へと変貌していた。これにさらに悪知恵をつけさせてしまうものがいた。図々しくもユグドラルの中心バーハラに忍び込んだ地下組織クロノスが取り込むには十分だと判断したのか、マリクにその触手を伸ばしたのである。いずれ強大な軍事力を持って大陸統一を目論むマリクにとって、クロノスの諜報網は格好の獲物であった。そしてこの二者が結託してしまうこととなった。だがマリクが放つクロノスの忍びもセーナが発掘したセーナ十勇者の前には無力であり、セーナ暗殺を企てた者はすんでのところで捕らえられ、あるいはセーナと間違えて襲い掛かり、影武者リベカに捕らえられるものもいた。それでもクロノスに脅威を覚えていたセーナは大陸諸国の結束を固めるときと感じ、父セリスとその右腕オイフェが「バルド同盟」発足に向けて動いていると聞き、自ら進んでこのプロジェクトに参加し始める。そしてセーナはこの同盟の欠点をついて、父を恫喝して、ついにこの「バルド同盟」締結に向けて指揮を取ることとなる。これにはセーナ十勇者だけでなく、シレジアのセティとライトも彼女の偉業のために東西奔走し、あるいは知恵を集めて、大陸全土に及ぶ同盟締結にむけて献身した。そして彼らの働きでセーナはようやくヴェルトマーで大陸平和会議を開くことまでこぎつけ、そしてそこで「バルド同盟」を大陸の全王国間で締結されることとなった。それからセーナはこのリーベリアに派遣されることとなる。

そして舞台は再びガルダ島に戻る。セーナの『火城の計』、『流星陣』に陣をずたずたにされ、退却中にアレスの仕掛けた『クロストラップ』にかかったヴァーサ率いるカナン軍残党はほうほうの態で帰りの軍船に乗って、本国へと撤退していった。しかしまだセーナとアレスの知謀は尽きていなかった。すべてはこの惨状を引き起こしたヴァーサを討ち取るため。セーナは未だに無傷のグリューゲル空軍3千、アレスは初戦でわざと敗れたクロスマリーナを利用して西に逃げるカナン残党軍に南北から襲い掛かった。南部艦隊はグリューゲルの異様な速さと攻撃力で次々と降伏する船が相次ぎ、北部艦隊は今まで爪を隠していたクロスマリーナによって沈没させられており、ヴァーサのいる司令艦に迫るのも時間の問題であった。
「くそっ!何で俺がこんな目に会わねばならないのだ。」
味方の悲鳴が聞こえながらも、自分の命のため進路を未だに西にとっているヴァーサは憤慨していた。しかしその直後、
(あなたもその程度の男だったのね。)
恐ろしく低い女性の声がヴァーサの脳に響く。その言葉に聞き覚えがあるのか、ヴァーサの顔から血の気が引く。
「・・・皇后。申し訳ございません。」
その謎の声の主は、カナンを裏で操るゾーアの魔女カルラであった。
(教王はもうあなたをいらないといってたわ)
「ちょ、ちょっと待ってください。もう一度、もう一度だけ汚名をすすぐ機会を。」
だがもう返事はなかった。周りにいた兵は独り言を叫ぶヴァーサを見て、狂ったかと思い、先を競って海に飛び込んだ。もはやカナン兵で戦うものはおらず、ヴァーサも放心状態に陥っている。そこにグリューゲルの兵がクロスマリーナの兵よりも一足早く、指令艦に迫っていた。
「見つけたぞ、ヴァーサ!その命、グリューゲル№0003サルーンがいただく。」
しかしヴァーサは相変わらず動こうとはしない。そして次の瞬間、ヴァーサの体を黒き翼が切り裂いていった。
「その程度の力で、よく10万もの兵を操れるものだ。よし船を沈めろ。」
サルーンの言葉に響くように働くグリューゲルの兵たちは手際よく、船に穴を開けてゆき、抜け殻となったヴァーサの体ごと、その海の中に沈んでいった。これでガルダ聖戦はようやく終わった。決死の覚悟で西に逃げるカナン兵をおいて、グリューゲル空軍とクロスマリーナは主君のいるガルダ島に引き返した。その途中、
「ねぇ、サルーン。もうすぐセーナ様の結婚式だけど、セーナ様大丈夫かな。」
№0012リーネが戦友であり、今回の戦の功労者サルーンに問い掛けた。
「なぜだ?」
「だって今回の戦いでセーナ様は約15万人も殺してしまったのよ。いままでの戦いは最小限の死者に抑えようとセーナ様は戦っていたのに・・。」
「確かに。でも皇女の周りにはライト王子やコープル卿、それにアレス王もいるから大丈夫だろう。でもさすがにしばらく辛いかもしれないけれどな。」
「私もミカさんみたいにセーナ様の側にいられたらいいのに。」
グリューゲルの中で常にセーナの側にいることを認められているのは同性のミカだけである。リーネはおそらく今ごろはミカがセーナの側にいると思っているのだろう。
「だったらお前も行ってあげればいいだろ。」
「でもそれは命令違反じゃ。」
「気にするな。命令違反でも、していい違反もある。もしお前がセーナ様にいって、カイン様たちが騒いだら俺が罪をかぶってやるよ。なぁ、カイ、大丈夫だと思うだろ?」
やはり気になるのか空軍の軍師で、№0010のカイに訪ねる。
「カイン様はともかく、セーナ様は喜んでくれるだろう。心配の必要はないと思いますよ。」
カイは不安がるリーネをなだめながら言った。
「そう言ってもらえると安心します。今夜あたりセーナ様のもとに行ってみます。」
そうこうしているうちにグリューゲル空軍はガルダ島のセーナ陣に入った。しかし彼らを出迎えたのはコープルだった。セーナは心労がたまって、今はライトと共にいてミカでさえも一緒にいられないほど、彼女の心は傷ついていた。今回の戦には大勝したものの、島には歓喜の声はあがらなかった。
そしてこのガルダ島をじっと見据える一人の老人がいた。ただ衣服はどこかの王族のように華やかで派手な物をめしているが、それを押し殺すほどの暗いオーラも放っている。
「わずか3万の兵で、20万を手玉に取るとはな。少々、光の巫女を甘く見すぎていたか。」
ここでの光の巫女はセーナを示す。もちろん聖者ヘイムの末裔を意味するものである。
「4人の巫女をそろえるよりも楽だと思ったが、あれでは100万の兵でも勝てないかもな。」
光の巫女は水、風、火、土の巫女をまとめる者とリーベリアではされている。そして光の巫女は4人の魔力を足してもまだ上回るものだとも言われ、かなりの器を持っている。そのために邪神を蘇らせる際は、その4人を集める方法か、光の巫女一人を捕らえる方法があり、この老人はできるだけ楽を得ようと、光の巫女セーナを得ようとしたのだった。もう言うまでもないだろう。この老人はガーゼル教国教皇グエンカオスである。
「やはり4人を揃えるしかなさそうだな。」
その直後、グエンの背後に揺らめく黒い炎がつぶやく。
(だから言ったであろう。ヘイムの末裔を甘く見るなとナ。)
「フン、お前が弱すぎると思っていたが、どうやら本当らしいな、ロプトウス。」
(心配するな。ユグドラルでも俺の分身がすでに動き始めている。そこを手に入れるのも時間の問題さ。)

「バカな。ガラティーンがなくなっている。」
妻を見送り、初恋の人の墓所を訪れた皇帝セリスはその異常に気付いた。魔剣ガラティーン、愛するティナを洗脳した悪名高きこの魔剣はセリスとセティ、コープルの手によって封印されていたはずだった。だが今、セリスの目の前にはその剣がなくなっていた。
「バーグ!バーグはいるか?」
セリスがこの剣を見守っているはずだった一人の剣士の姿を探った。すると背後に血の気の引いた剣士が木にぶら下がっていた。それこそバーグであった。
「クッ!すでに斬られている。一体、誰が・・・。まさかクロノスか?いやシレジアのクロノス対策は万全なはず。では誰が?」
ユリウスの半身とも言われる魔剣ガラティーン、その剣の失踪は大陸に暗い影を落とすことになるのは必至である。

 

 

 

 

 

最終更新:2011年07月11日 01:01