アットウィキロゴ

 セーナの神智が発揮されたガルダ聖戦、実はこの聖戦中にグランベル帝国皇后ユリアとそれを守るシレジア水軍の艦隊がガルダ島沖まで到着していた。しかしセーナからの使いでゾーア帝国と交戦中と知ってからはセーナの用意したガルダ列島の最北端の島、サリ島で彼女の戦勝を心待ちにしていた。今回、ユリアがガルダを訪れるのは迫るセーナとライトの結婚式に参列するためであるが、その裏では陰謀渦巻くユグドラルから避難するという意味も持ち合わせている。それだけではない。セーナから頼まれた大量の苗木と、謎の石材の輸送や、シグルド2世からセーナにある物を渡すことなどの使命も持っていた。そしてユリアはサリ島到着の夜、遠くガルダ島に大量に降り注ぐ隕石を見つめていた。そして隣にいる、護衛についてきたシレジアの賢王セティは言う。
「ユリア様、あれは・・・メティオですな。あなたのお父上がシグルド軍を壊滅させる際に用いた忌まわしい魔法。エーデルリッター派兵の際になぜあんな少数のロートリッターを連れて行くのか、という疑問がようやく解けましたよ。」
「セティ、私たちがいない間にセーナが変わってしまったってことはないですよね?」
不安でいっぱいになるユリアをみたセティは
「その心配はありません。おそらく敵の戦意を挫くための作戦でしょう。」
といって落ち着かせるが、言っている本人が最も気が気でなかった。
(そうであってくれ、セーナ皇女。)
そして今、自分達が乗ってきた船に目をやる。一隻の船には何の目的につかうのか、大量の苗木や石材が積まれている。それを見たセティはひらめいた。
「そうか!ユリア様、これはおそらくセリス様が考え出したシューティングスターの戦術ですよ。確か『火城の計』といったものでしたかな。」
セティもシューティングスターの編纂に協力した一人であるため、流星陣を除くすべての戦術は頭に入っていた。
「そしてその計を実行するに当たって、私たちに、その計で犠牲になるものたちの霊を鎮めるための石材を、焼かれた森林たちの後を継ぐための苗木を運ばせていたのですよ。」
「でもセーナは勝利のためとは言え、平気で大量の人々を殺す人になってしまったの?」
生涯、極力人を殺めることを嫌うユリアはこのセーナの行為にまた悲しくなるのであった。
「ユリア様、皇女も今はリーベリアのために戦っているのです。おそらく今回の作戦もその覚悟の上でしょう。今、私たちができるのは彼女を補佐してあげるだけです。」
「そうですね、セティ。」
二日後、ライトから送られた使者でセーナの勝利が伝えられた。その報せに喜ぶユリアはすぐに船に乗り込んで、セーナたちのいるガルダ島を目指した。同じガルダ列島とはいえ、サリ島からガルダ島へはさらに1日かかることになる。そしてライトはこの一日で、戦で沈むセーナにもとの明るさを取り戻すという試練に挑むことになる。

そして戦の翌日、戦果に沸く市街とは対照的に、新本拠となった北山の大本営はひっそりとしている。セーナがまだ誰にも顔を見せていないことが原因である。例外的にアレス直属のクロスナイツ、クロスマリーナはドンチャン騒ぎをしているが、アレスは彼らを南山に宴会をやると言って、うまく追い出した。
「王子、皇女の様子はどうですか?」
昨日、セーナの元に寄りたかった№0012リーネが心配してライトに話し掛けた。
「君は確か、リーネだね。セーナはまだ落ち込んでいるよ。誰にも会いたくないといって、部屋を封鎖しているんだ。」
「あの、私に話をさせていただけないでしょうか?」
「同じ女同士なら大丈夫だね。よし、君に任せるよ。ただし入れてくれるかさえわからないけどね。とにかく頼むよ。」
「ハイッ!」
ライトに確認を取ったリーネは早速、セーナの篭もる部屋に入ろうとした。まずリーネはおとなしく、ドアをノックしながら誘うように言った。
「セーナ様、ケーキ作ったんで一緒に食べませんか?」
実はリーネはグリューゲル1の料理好きであり、セーナも彼女の料理をよく喜んで食べている。たまに失敗もするが、それでもセーナはリーネの作る料理を残さずに食べてくれていた。リーネはそこをついたのだった。そしてこれが見事にハマル。
「その声はリーネね。待ってて、今、開けるから。」
と、セーナが言った直後、部屋の中からゴソゴソと何かを動かす音が聞こえた。しかも約2分続いたことからかなりの量の物があったのであろう。そして物音がなくなったあと、すこしほこりのかぶったセーナが出てきた。意外にもその顔に悲しみを表しているようには見えなかったが、その服装は今までのセーナからはありえない、黒い衣装で統一されていた。驚くリーネを見て
「あっ。これは今回の戦いで死んでいった人たちを弔うための服よ。」
ユグドラルでは死者を弔う習慣はあまりなかったが、セリスが初恋のティナをトーヴェの慰霊塔に祭る際に黒い服を着ていたことからセーナはこれを真似ていたのだ。
「それがケーキね。待ってね、今、お皿持ってくるから。」
ライトが言っていたのとはまったく異なるセーナが部屋を動き回っている。多少あぜんとしながら、リーネはついに切り出した。
「あの、なぜライト様のお話を聞かなかったのですか?」
リーネの疑問に何のことかというような顔で彼女を見るセーナがそこにいた。
「ライトが私の部屋にきたの?」
「えっ、知らなかったのですか?」
「ええ、多分、ついさっきまで寝ていたから。」
「それじゃぁ、この荷物は?」
リーネはさっきセーナが動かした荷物を指して聞いた。
「ああ、それはカインとボルスが勝手に置いていった物よ。一応、もう一つの入り口だから、移動しようとしていたら疲れていて寝てしまって・・・。」
「もう一つ、入り口があるんですか?」
驚くリーネの顔にセーナは彼女をつれて、もう一つの部屋に行った。
「ほら、ここよ。ここって港にいける道につながっているから便利で、こっちを利用しているの。」
「・・・・セーナ様、のんきにケーキを食べている場合ではありませんよ。みなさん、セーナ様が部屋に閉じこもっているから本当に心配していますよ。」
「! そうなの?」
「そうですよ。特にライト様なんて・・・。」
『ライト』の言葉が出た瞬間、セーナはさっきリーネと入ってきたところから部屋を出て、ライトの元まで走っていった。もちろんリーネもそれについていく。
その後、リーネから事情を知ったライトは苦笑いをしてからセーナに軽くデコピンしただけで別段、怒る様子はなかった。そのやり取りを見ていたアレスやコープルからももちろん笑顔がもれた。そして今回の騒動の張本人カインとボルスが何か用があったのかようやく街から帰ってきた。それを見たセーナは笑顔を混ぜて、強く注意した。
「カイン!ボルス!あなたたちがあんなところに荷物を置くからいろいろと大変だったのよ。」
『ヘ?』
カインとボルスが何のことだとお互いに顔を合わせた。そんな二人を尻目に、アレスやコープル、ライトは腹を抱えて大笑いしていた。
「まぁ、こんなものかなぁ。さぁ、みんなでリーネが焼いたケーキを食べましょう。」
終わりよければ全て良し、このとき、コープルがつぶやいた言葉である。だが実はライトが来た時はまだセーナは泣き崩れていたのだった。それをリーネが来るまでの数十分でグリューゲルの№0012に気付かれないほどまでに立ち直っているのだから、すごい転換である。
そうこうしているうちにユリアの乗った船がガルダ島に着岸した。アベルとミーシャから連絡を受けたセーナはクリームの付いた口を適当な布で拭きながら、リーネの愛馬に相乗りして北の軍港に駆けつけた。
「母上ぇ!」
手を振りながら、一騎のファルコンが港に降り立つ。リーネに促されてファルコンを降りたセーナは真っ直ぐにユリアの元に向かって走り、飛びついた。もう何年振りであろうか?セーナのヴェスティア派遣以来、二人は会っていなかったのである。ユリアも大きく成長したセーナの姿を見て、目をうるませた。
「セーナ、メティオを見たときは心配したのよ。あなたが残酷な人間になってしまったって。」
「すみません、母上。でもああする以外にゾーアの虜にされている人たちの目を覚ます方法はなかったんです。結局、その淡い希望も打ち破られてしまったけど・・・。」
そしてセティが親子の会話に割り込む。
「だから喪服を着ていられるのですな。しかしセーナ様、喪服にミニスカートはどうかと思いますが。」
まだユグドラルにもリーベリアにも「喪服」という言葉はない。理由は前述の通りだが、おそらくセティが付けたのであろう。そしてセーナの喪服はいつも着る服を黒くしたような物である。あまり死者を弔うイメージは湧かないが、まぁあまり世界的にもメジャーになっていないからか、セティもあまりとがめない。そうこうしているうちに、レイラとペガサスに乗ってライトがようやくやって来た。ライトとセティは半年振りの再会である。
「父上、来ていたんですね。」
だがライトの前になると、セティは急に親の面を持ち出して
「ちゃんと皇女を支えているか?」
と言い始める。
「逆にいろいろとからかわれてますよ。今日なんて・・・」
今日の珍事件を言おうとするとセーナがライトの口を塞いで
「それは言わないでよ!」
その光景を見ていたユリアからようやく笑みがこぼれた。
「あなた達は本当にいい夫婦になれるわね。」
さっきまで親の前でじゃれあっていた二人は目を背けて、顔を赤らめた。
「まぁこの仲なら心配ないでしょう。ユリア様、私はそろそろ戻りますので。」
セティがそう言って、今降りた船に戻ろうとするとセーナが問う。
「セティ様、私たちの結婚式を見てくれないのですか?」
「セーナ様のウェディングドレス姿を見たいのもやまやまですが、私も一国の国王。わかってください。」
「そうでしたね。すみません。」
「ライト、これからはお前がしっかりと皇女を守ってやるのだぞ。」
「わかってますよ。」
「セティ、帰り際も気をつけてね。」
「大丈夫ですよ。それよりもユリア様の方こそお体を大切にしてくださいよ。」
言葉少なげにセティは去った。

そしてついにセーナとライトの結婚式の日が来た。セーナのいる部屋は、外はカインとアベル、そして大陸から帰ってきたフィード、中はミカとリーネ、レイラで守られ、ライト以外の不埒な男性陣を入れないようにすべく、必要以上に厳重に固められている。最もカインたちもこの日はリーネの言うことを聞いて、中をのぞけないでいる。もちろんその手では神技のフィードもである。余談だが、彼女たちの結婚の前にセーナはユリアの運んできた苗木を古城跡付近に植え、古城跡にさきのガルダ聖戦で散っていった者たちを鎮めるために慰霊碑も建てられている。これによってセーナは今、何の気兼ねもなく、この神聖な場に臨んでいる。おごそかな雰囲気の中、結婚式はとりおこなわれた。ウェディングドレスに包まれたセーナは恋に関係のないカインやカイ、すでに結婚しているアレスやコープルも見惚れるほどの魅力が出ていた。そんなセーナを目の前で見たライトは危うく倒れそうになるほど、この時のセーナは輝いていた。ついでに言うと、セーナの魔力を抑えるバンダナはもちろんしていない。今、彼女の魔力を抑えているのは父が解放戦争時代に使っていた鉢巻にユリアの魔力をかけたものをしている。まだバンダナの方がいいかもしれないが、セーナは自らこっちを選んで、不釣合いとはいえ、自分の額に付けている。今二人の親族はいろいろな事情でセーナの母ユリアしか参加していないが、二人は十分満足していた。なぜならば今まで彼女達を温かく見守ってくれた者たちが二人の愛に負けないくらい熱い祝福をしてくれるからだ。この歓喜の場を誰よりも感慨深げに見ているアレスとカインの姿があった。
「アレス様、今のセーナ様がシグルド公子との結婚式の時のナディア王女に似ていませんか?」
「ああ、俺も今、それを感じていたのだ。なぜだろうか、未だに二人がぶれて見える。」
ナディアとはシャナンの長女であるが、母親はパティではない。というよりパティはナディアの兄クリードを産んだ際に他の重い病気にかかって病死していた。今、ユグドラルの皇帝セリスしかシャナンの第二婦人は知らないというほど、その女性は不思議でいっぱいであった。その女性とシャナンの娘がナディアである。彼女は剣聖オードの末裔であるが、なぜか聖戦士バルドの聖痕も持っている。しかしユグドラルに最近、シアルフィ家に女性は産まれていない。そのためユグドラルでは彼女の母親を裏シアルフィ家の末裔と呼んでいる。そしてナディアもまたセーナのように若くして多様な才能を持っており、その才を買われてシグルド2世の妻になっている。それだけでなく、すでに長女レナを授かっている。
「やはりナディア王女は裏シアルフィ家の人間なのだろうか?」
「そうでなければバルドの聖痕を持つ理由がないであろう。」
セーナの結婚式に今、ここにいないナディアの話で盛り上がるアレスとカインであったが、この結婚式の司祭を務めるコープルの言葉で二人の話が急に止まった。
「それでは誓いのキスを。」
その言葉でアレスとカインと同じように多少、ざわざわしていた声が途切れる。この沈黙のもと、愛し合う二人は頬を赤らめながら唇を交わした。

「素晴らしい結婚式だったわ。」
珍しく大きい声をあげて二人を祝福する母ユリアがいる。セーナもライトももちろん普段着に戻っている。ただ父の鉢巻はよほど気に入っているのか、まだしている。
「これで私もシレジア王家の一員になったんだ。ねぇ、ライト。」
セーナは聖痕がでてもグランベルにいるつもりはなかった。それはあくまで育った地にまた戻りたいという気持ちがあるのだろう。いや、それだけではない。ライトはセティとティニーの一人息子である。もしここでセーナがグランベル王国の後を継げば、ライトはグランベル王家の一門となって、事実上、伝統あるシレジアはグランベルの名のもとになくなってしまうのである。シレジアで育ったセーナはそれが許せないのである。
「義母上の前で、そんなことを言うなよ。」
ライトが義母ユリアを気遣って注意する。
「いいのよ、ライト王子。もともとセリス様がセーナをシレジアに送ったときに、こうなると覚悟はしてたから。それよりセーナ、あなたに渡すものがあるわ。」
そう言って、再び真面目な顔に戻るユリアは一つの聖書と、聖剣を取り出した。
「それは、ナーガの魔道書に、ティルフィング。」
「そう。私はもう人を殺めることはできない。だからこれをあなたに託すのよ。もちろんこれを継承したからと言って、グランベルの王位を継がなくていいからね。そしてこっちはシグルドにあなたに結婚祝として届けてくれって頼まれたの。」
「ナーガはともかく、どうしてティルフィングまで?」
「あなたが神剣ファルシオンに大きな興味を持っていたからだって。それに聖痕が出てきたことも大きな理由だって言ってたわ。」
「でもそれだけじゃ。」
「私もさすがに渋ったけど、あの子も本気みたいだったから、持ってきちゃった。とにかく受け取って。」
「母上に言われてはそう言われてはしょうがありません。喜んで受け取ります。」
セーナは思いも寄らない時に聖魔法ナーガと聖剣ティルフィングを手に入れた。セーナとセティの研究によって明らかになっている、神剣ファルシオンの素材がついにここに揃ったのである。あとは時がこれらを神剣に導くことになる。

 

 

 

 

 

最終更新:2011年07月11日 01:03